ブラック企業で新入社員の過労死:大衆割烹店大庄株式会社事件

1.新入社員の過労死:大衆割烹店大庄事件の結論

36協定においては1か月100時間の時間外労働を許容するなど,生命,健康を損なうことがないよう配慮すべき義務を怠った。労働者の生命・健康を損なうことがないような体制の構築と長時間労働の是正方策の実行に関して任務懈怠があり,会社法429条1項に基づき損害賠償責任を負う(大阪高裁 平23.5.25判決)

2.大庄事件の事案

大衆割烹店を全国展開する大庄(株)に入社したばかりの新入社員であるKが,大衆割烹店で調理関係の業務に従事していたところ,急性左心機能不全により死亡した。

Kの死亡原因は,YI社での長時間労働にあると主張して,Kの相続人・父である原告X1および母である原告X2が,YI社に対しては不法行為または債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき(甲事件),また,Y1社の取締役など役員である被告Y2ら4名に対しては,不法行為または会社法429条1項に基づき(乙事件),逸失利益などの損害賠償を請求した。第1審は一部認容した(平22.5.25)。

3.大阪高裁の判決の主要部分(小見出しは筆者)

(1)恒常的な長時間労働の事実認定

「…一郎の労働時間は,死亡前の1か月間では総労働時間数237時間34分,時間外労働時間数95時間58分,2か月目では総労働時間数273時間41分,時間外労働時間数105時間41分,3か月目では総労働時間数302時間11分,時間外労働時間数129時間06分,4か月目では総労働時間数251時間06分,時間外労働時間数78時間12分となっており,恒常的な長時間労働となっていた。

(2)安全配慮義務による賠償責任論理

…取締役は,会社に対する善管注意義務として,会社が使用者としての安全配慮義務に反して,労働者の生命,健康を損なう事態を招くことのないよう注意する義務を負い,これを懈怠して労働者に損害を与えた場合には会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当である。

(3)新入社員への配慮

…勤労意欲の強い社員に対して,その社員の個人的利害を説く方法が相当であるとは考えられない。会社として勤務を禁じるのであれば,その旨直截に伝える方法を採るべきであったのに.これを採らなかったのは,後記のとおり,控訴人会社において各現場店舗の責任者である店長や調理長に過重労働の問題性を認識させる措置がとられておらず,A店長やB調理長にも,その認識が乏しかったためであると考えられる。

…少なくとも一般職に関する限り,このような給与体系は,単に社員の募集に当たり給与条件を実際以上によく見せるためだけに作用するにすぎず,長時間労働の抑制に働くとはいえないものであって,80時間の時間外労働を組み込んだ給与体系であると評価されてもやむを得ないものである。

(4)会社取締役・管理職の注意義務の内容

…本件三六協定の存在のみが問題となるのではなく,むしろ,控訴人会社が,社員の恒常的な過大時間外労働の実情について認識しつつ,あるいは極めて容易に認識できたにもかかわらず,これを放置し,何ら実効性のある改善方策をとってこなかったことこそが安全配慮義務違反の主たる内容であると考えられる。

…しかしながら,使用者の労働者に対する雇用契約上の安全配慮義務という法的局面においては,単に使用者が行政法令を守っていさえすれば,安全配慮義務違反にならないというものではない。

…会社としては,現行認定基準をも考慮にいれて,社員の長時間労働を抑制する措置をとることが要請されており,その際,現実に社員が長時間労働を行っていることを認識し,あるいは容易に認識可能であったにもかかわらず,長時間労働による災害から労働者を守るための適切な措置をとらないことによって災害が発生すれば,安全配慮義務に違反したと評価されることは当然のことである。

…会社が社員の長時間労働の抑制のために,社員の労働時間を把握し,長時間労働の是正のための適切な措置をとっていたとは認められない。

(5)健康診断の未実施

…当裁判所は,控訴人会社が入社直後の健康診断を実施していなかったことが安全配慮義務違反であると判断するものではない。しかしながら,健康診断により,外見のみからではわからない社員の健康に関する何らかの問題徴候が発見されることもあり,それが疾病の発生にまで至ることを避けるために業務上の配慮を行う必要がある場合もあるのである。新入社員の健康診断は,必ずしも一斉に行わねばならないものではなく,適宜の方法で行うことが可能なのであるから,会社が入社時の健康診断を自ら就業規則に定めながらこれを行わなかったことを,控訴人会社の社員の健康に関する安全配慮義務への視点の弱さを表す事実の一つとして指摘することは不当ではない。

(6)予見可能性

…専門検討会報告は,本件と同様の心疾患発生の医学的機序が不明とされる事案においても長時間労働と災害との因果関係の蓋然性を認めるものであるところ,多数の社員に長時間労働をさせておれば,そのような疾患が誰かには発生しうる蓋然性は予見できるのであるから,現実に疾患がどの個人に発生するかまで予見しなくとも,災害発生の予見可能性はあったと考えるべきである。

(7)労働者の生命・身体の価値の至高性

…当裁判所は,控訴人会社の安全配慮義務違反の内容として給与体系や三六協定の状況のみを取り上げているものではなく,控訴人会社の労働者の至高の法益である生命・健康の重大さに鑑みて,これにより高い価値を置くべきであると考慮するものであって,会社において現実に全社的かつ恒常的に存在していた社員の長時間労働について,これを抑制する措置がとられていなかったことをもって安全配慮義務違反と判断しており,控訴人取締役らの責任についても,現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず,会社にこれを放置させ是正させるための措置を取らせていなかったことをもって善管注意義務違反があると判断する。

(8)現場管理職の責任

…控訴人戊田は管理本部長,控訴人丙川は店舗本部長,控訴人丁原は支社長であって,業務執行全般を行う代表取締役ではないものの,一郎の勤務実態を容易に認識しうる立場にあるのであるから,会社の労働者の極めて重大な法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは明らかであり,この点の義務塀怠において悪意又は重過失が認められる。そして,控訴人乙山は代表取締役であり,自ら業務執行全般を担当する権限がある上,仮に過重労働の抑制等の事項については他の控訴人らに任せていたとしても,それによって自らの注意義務を免れることができないことは明らかである(最高裁昭和39年(オ)第1175号同44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁参照)。

(9)経営陣の責任

また,人件費が営業費用の大きな部分を占める外食産業においては,会社で稼働する労働者をいかに有効に活用し,その持てる力を最大限に引き出していくかという点が経営における最大の関心事の一つになっていると考えられるところ、自社の労働者の勤務実態について控訴人取締役らが極めて深い関心を寄せるであろうことは当然のことであって,責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し,長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明であり,この点の義務解怠によって不幸にも労働者が死に至った場合においては悪意又は重過失が認められるのはやむを得ないところである。なお,不法行為責任についても同断である。」

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