1.事実の概要
原告は、AIが自律的に発明したとする発明について、特許協力条約に基づき特許出願(本件出願)を行った 。原告は、特許庁長官に対し、本件出願に係る国内手続において、発明者の氏名として「ダバス、本発明を自律的に発明した人工知能」と記載した国内書面を提出した 。特許庁長官は、原告に対し、国内書面に自然人の氏名を発明者として記載するよう補正を命じたが、原告がこれに応じなかったため、本件出願を却下する処分(本件処分)を行った 。処分は違法である旨主張して、その取消しを求めた。 1審の東京地裁は 令和6年5月16日に棄却したので控訴した。
争点
本件の争点は、以下の2点である 。
- 特許権により保護される「発明」は自然人によってなされたものに限られるか
- 国際特許出願に係る国内手続において、国内書面の「発明者の氏名」は必要的記載事項であるか
裁判所の判断
裁判所は、本件処分は適法であると判断し、原告の請求を棄却した 。
- 争点1について
- 特許法は、発明の保護及び利用を図り、発明を奨励することを目的とし、特許権は、特許法所定の手続を経て、設定の登録により発生すると規定している 。
- 特許法29条1項は、「産業上利用することができる発明をした者は、その発明について特許を受けることができる」と規定しており、「発明をした者」は、特許を受ける権利の主体となり得る者、すなわち権利能力のある者と解される 。
- 特許法は、特許を受ける権利について、自然人が発明をしたとき、原則として、当該自然人に原始的に特許を受ける権利が帰属するものとして発生するとし、例外的に、職務発明について、一定の要件の下に使用者等に原始的に帰属することを認めているが、これら以外の者に特許を受ける権利が発生することを定めた規定はない 。
- したがって、特許法に基づき特許を受けることができる「発明」は、自然人が発明者となるものに限られると解するのが相当である 。
- 争点2について
- 特許法は、国際特許出願の国内手続において、発明者の氏名を記載した国内書面を提出しなければならないと規定しており、特許庁長官は、国内書面の提出に係る手続が経済産業省令で定める方式に違反しているときは、相当の期間を指定して手続の補正を命ずることができ、指定した期間内に手続の補正がなされないときは、当該国際特許出願を却下することができると規定している 。
- したがって、国内書面において「発明者の氏名」が必要的記載事項として規定されていることは明らかである 。
コメント:要するに判決は、現行特許法は、自然人が発明者である発明について特許を受ける権利を認め、特許を付与するための手続を定めているにすぎないから、AI発明については、同法に基づき特許を付与することはできない。そうすると、AI発明が特許法上の「発明」の概念に含まれるか否かについて判断するまでもなく、特許法に基づきAI発明について特許付与が可能である旨の原告の主張は、理由がないということである。
また、僭称問題が今後は議論もされるであろう。つまり、AIによりされた発明についてそれを自分の発明として、発明者として出願をするようなことは無効としていいのかという点である。