相続は、法と感情が複雑に絡み合う、人生の重大事です。特に、ご自身の財産の行く末を案じ、生前に手を打っておきたいと考えるのは、子を思う親として当然の心情でしょう。
中川総合法務オフィスには、京都や大阪を中心に、「自分の面倒を見てくれる特定の子供に、今のうちに財産である不動産の名義を変えておきたい」というご相談が数多く寄せられます。1000件を超える相続の無料相談で、私たちが目の当たりにしてきたのは、善意から始まったはずの生前対策が、かえって将来の「争続」の火種となってしまう現実でした。
本稿では、こうしたご相談の裏に潜む法的な落とし穴、特に2019年に大きく改正された民法(相続法)の「遺留分」制度に焦点を当て、専門家の視点から深く解説します。
1:その安易な名義変更、本当に大丈夫ですか?
「不動産の名義変更など、登記申請すれば簡単にできる」 「とりあえず『売買』という形にしておけば問題ないだろう」
このような誤解が、後々の大きなトラブルに繋がります。形式的に契約書を整えても、例えば売買代金に見合う現金の移動がなければ、税務署や他の相続人からその実態を問われた際に、法的に正当な取引であったと証明することは極めて困難です。
また、「贈与」とすれば良いと考える方もいらっしゃいますが、高額な贈与税の存在を忘れてはなりません。そして、それ以上に深刻なのが、他の相続人が持つ「遺留分」という権利を侵害してしまうリスクです。
2:【改正民法解説】時価5千万円の土地を5百万円で売却?「負担付贈与」という名の罠
親心から「特定の子供の負担を軽くしてあげたい」と、時価とかけ離れた低い金額で不動産を売却するケース。これは「不相当な対価をもってした有償行為」とされ、改正後の民法は、これを「負担付贈与」とみなすことを明確にしました。
民法 第千四十五条 第二項 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。
これは、先の例で言えば、5千万円の不動産を5百万円で譲渡した場合、差額の4500万円が贈与であったと法的に評価されることを意味します。他の相続人は、この4500万円を遺留分の計算に含めて請求できるのです。
「他の相続人に損害を与えると知っていた(悪意)」ことの立証は、親子間のこのような取引においては、実務上、決して難しくありません。人生経験の浅さからくる安易な判断が、家族の絆を断ち切る法廷闘争へと発展する例を、私たちは嫌というほど見てきました。
3:相続人への生前贈与は「10年間」遡る
さらに、2019年の法改正で最も注意すべき点の一つが、相続人に対する生前贈与が遺留分の計算に含まれる期間です。
民法 第千四十四条 第三項 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
法改正により、相続人への特別な贈与は、相続開始前の10年間に遡って遺留分の計算対象となりました。これは、法律関係の早期安定と、第三者への不測の損害を避けるための改正ですが、裏を返せば、10年以内の安易な財産移転は、将来の紛争の芽を育んでいるのと同じことなのです。
4:【代表 中川の視点】法を超え、人の生き方を問う「相続」
法律の条文を解釈するだけが、我々の仕事ではありません。なぜ、人は財産を遺し、子はそれを求めるのか。そこには、単なる経済合理性では測れない、家族の歴史、愛憎、そして個々の人生哲学が投影されています。
古代ギリシャの哲学者から現代の社会科学に至るまで、人類は「所有」と「継承」の意味を問い続けてきました。相続問題の根源は、財産の多寡にあるのではなく、コミュニケーションの欠如と、将来への想像力の欠如にあります。法は、あくまで社会の秩序を保つための最低限のルールです。その法の精神を深く理解し、家族一人ひとりの人生に寄り添い、俯瞰的な視点から最善の道を探ることこそ、真の専門家の役割であると確信しています。
一見、合法的に見える手続きが、実は倫理的、哲学的な観点から見て、家族の幸福を破壊する行為になりうる。私たちは、そのような事態を避けるための「知恵」を提供します。
相続は、ご家族の未来を左右する極めて重要な問題です。安易な自己判断は避け、ぜひ一度、相続実務の専門家にご相談ください。
中川総合法務オフィスでは、初回30分~50分の無料相談を承っております。ご自宅、病院や施設、ご指定の面談会場、またはオンラインでのご相談が可能です。京都、大阪をはじめ、関西一円の皆様からのお問い合わせをお待ちしております。
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