はじめに:建設業許可の承継制度とは
建設業法第17条の2は、平成26年の法改正により新設された条文である。それ以前は、建設業者が事業譲渡や合併、会社分割を行った場合、承継する側は新たに建設業許可を取得し直す必要があった。この手続きには相当な時間と労力を要し、事業承継の障害となっていた。
本条は、一定の要件を満たす場合に国土交通大臣または都道府県知事の認可を受けることで、建設業者としての地位を承継できる制度を設けたものである。これにより、事業再編や世代交代がスムーズに進むことが期待されている。
本条は全7項から構成され、第1項が事業譲渡、第2項が合併、第3項が会社分割について規定している。第4項以降は、認可基準、条件付与、許可の統合、有効期間など、承継に関する技術的事項を定めている。
第1項:事業譲渡による承継
事業譲渡の基本要件
第1項は、建設業者が「建設業の全部」を譲渡する場合の承継制度を定めている。ここで重要なのは「全部」の譲渡であり、一部の業種だけを譲渡する場合はこの制度の対象外となる。
譲渡人(譲り渡す側)と譲受人(譲り受ける側)が、あらかじめ国土交通省令で定める手続きにより認可を受けることで、譲受人は譲渡及び譲受けの日に、譲渡人の建設業者としての地位を承継する。
一般・特定建設業の組み合わせによる例外
本項には重要な例外規定がある。以下の場合は承継制度を利用できない。
例外ケース1:一般→特定の逆転 譲渡人が一般建設業の許可を受けている場合に、譲受人が同一種類の建設業について特定建設業の許可を既に受けているときは、承継制度を利用できない。
例外ケース2:特定→一般の逆転 譲渡人が特定建設業の許可を受けている場合に、譲受人が同一種類の建設業について一般建設業の許可を既に受けているときも、承継制度を利用できない。
この例外の趣旨は、既により上位または異なる区分の許可を持っている者が、わざわざ下位または異なる区分の許可を承継する必要性がないためである。
認可権者の判定
認可権者は以下のように定められている。
第1号:譲渡人が国土交通大臣許可の場合 認可権者は国土交通大臣である。これは明確である。
第2号:譲渡人が都道府県知事許可の場合 原則として、当該都道府県知事が認可権者となる。ただし、以下のいずれかに該当する場合は国土交通大臣が認可権者となる。
- イ:譲受人が既に国土交通大臣の許可を受けているとき
- ロ:譲受人が当該都道府県知事以外の都道府県知事の許可を受けているとき
これらの例外は、承継後の許可が大臣許可となる場合や、複数の都道府県にまたがる場合に、国土交通大臣が一元的に管理する必要があるためである。
第2項:合併による承継
合併の類型と承継の仕組み
第2項は、建設業者である法人が合併により消滅する場合の承継制度を定めている。合併には「吸収合併」(既存法人が存続)と「新設合併」(新法人を設立)の2類型があり、いずれも対象となる。
合併の場合、複数の建設業者が関与する可能性があるため、規定は複雑になっている。「合併消滅法人」(消滅する建設業者)の地位を、「合併存続法人」または「合併により設立される法人」が承継する。
一般・特定建設業の組み合わせによる例外
合併についても、事業譲渡と同様の例外規定がある。
例外ケース1:一般→特定の逆転 合併消滅法人(複数ある場合はそのいずれか)が一般建設業の許可を受けている場合に、他の合併消滅法人または合併存続法人が同一種類の建設業について特定建設業の許可を受けているときは、承継制度を利用できない。
例外ケース2:特定→一般の逆転 合併消滅法人(複数ある場合はそのいずれか)が特定建設業の許可を受けている場合に、合併存続法人が同一種類の建設業について一般建設業の許可を受けているときも、承継制度を利用できない。
合併における認可権者の判定
合併の場合、複数の建設業者が関与するため、認可権者の判定は複雑である。
第1号:いずれかが国土交通大臣許可の場合 合併消滅法人が二以上ある場合に、そのいずれかが国土交通大臣の許可を受けているときは、認可権者は国土交通大臣である。
第2号:複数の異なる都道府県知事許可の場合 合併消滅法人が二以上あり、すべてが都道府県知事の許可を受けているが、許可をした都道府県知事が同一でない場合は、認可権者は国土交通大臣である。
第3号:同一都道府県知事許可または単独の場合 合併消滅法人が二以上ある場合にすべてが同一の都道府県知事の許可を受けているとき、または合併消滅法人が一である場合に都道府県知事の許可を受けているときは、原則として当該都道府県知事が認可権者となる。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は国土交通大臣が認可権者となる。
- イ:合併存続法人が国土交通大臣の許可を受けているとき
- ロ:合併存続法人が当該都道府県知事以外の都道府県知事の許可を受けているとき
第3項:会社分割による承継
会社分割の特性と承継
第3項は、建設業者である法人が会社分割により「建設業の全部」を承継させる場合の制度を定めている。会社分割には「吸収分割」(既存法人が承継)と「新設分割」(新法人を設立)の2類型がある。
分割の場合も、事業譲渡と同様に「全部」の承継が要件となる。一部の業種だけを分割する場合は、この制度の対象外である。
一般・特定建設業の組み合わせによる例外
会社分割についても、同様の例外規定がある。
例外ケース1:一般→特定の逆転 分割被承継法人(複数ある場合はそのいずれか)が一般建設業の許可を受けている場合に、他の分割被承継法人または分割承継法人が同一種類の建設業について特定建設業の許可を受けているときは、承継制度を利用できない。
例外ケース2:特定→一般の逆転 分割被承継法人(複数ある場合はそのいずれか)が特定建設業の許可を受けている場合に、分割承継法人が同一種類の建設業について一般建設業の許可を受けているときも、承継制度を利用できない。
会社分割における認可権者の判定
会社分割の認可権者の判定は、合併の場合とほぼ同様の構造である。
第1号:いずれかが国土交通大臣許可の場合 分割被承継法人が二以上ある場合に、そのいずれかが国土交通大臣の許可を受けているときは、認可権者は国土交通大臣である。
第2号:複数の異なる都道府県知事許可の場合 分割被承継法人が二以上あり、すべてが都道府県知事の許可を受けているが、許可をした都道府県知事が同一でない場合は、認可権者は国土交通大臣である。
第3号:同一都道府県知事許可または単独の場合 分割被承継法人が二以上ある場合にすべてが同一の都道府県知事の許可を受けているとき、または分割被承継法人が一である場合に都道府県知事の許可を受けているときは、原則として当該都道府県知事が認可権者となる。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は国土交通大臣が認可権者となる。
- イ:分割承継法人が国土交通大臣の許可を受けているとき
- ロ:分割承継法人が当該都道府県知事以外の都道府県知事の許可を受けているとき
第4項:認可基準の準用
一般建設業の場合の準用規定
第4項は、承継の認可に際して適用される基準を定めている。一般建設業の許可を受けている譲渡人等(譲渡人、合併消滅法人、分割被承継法人)に係る認可については、第7条(許可の基準)及び第8条(許可の申請)の規定が準用される。
これは、承継する側(譲受人、合併存続法人等)が、通常の新規許可と同等の要件を満たしているかを審査するためである。具体的には、経営業務の管理責任者の設置、専任技術者の配置、財産的基礎などの要件が審査される。
特定建設業の場合の準用規定
特定建設業の許可を受けている譲渡人等に係る認可については、第8条(許可の申請)及び第15条(特定建設業の許可の基準)の規定が準用される。
特定建設業の場合、一般建設業よりも厳格な要件が課されているため、より高度な技術者の配置や財産的基礎が求められる。
読み替え規定の意義
第4項後段は、準用に際しての読み替え規定を定めている。「許可を受けようとする者」「特定建設業の許可を受けようとする者」という文言を、「譲受人、合併存続法人若しくは合併により設立される法人又は分割承継法人」と読み替える。
これにより、承継する側が許可基準を満たしているかを審査する仕組みが整備されている。
##第5項:条件の付与・変更・取消し
条件の柔軟な変更権限
第5項は、国土交通大臣または都道府県知事が認可をする際に、既に付されている条件を取り消し、変更し、または新たに条件を付することができる旨を定めている。
第3条の2第1項により、建設業許可には条件を付すことができるが、承継の認可の際にこれらの条件を見直す機会を与えるものである。
条件付与の手続的保障
第5項後段は、第3条の2第2項を準用し、条件を付する場合には聴聞の機会を与えることを求めている。これは、行政手続法の趣旨にも合致し、適正手続を保障するものである。
条件の変更や新設は、承継後の事業運営に重大な影響を与える可能性があるため、当事者の意見を聴取する機会を確保することが重要である。
第6項:許可の統合(みなし規定)
複数許可の統合の必要性
第6項は、承継により複数の建設業許可を持つことになった場合に、これらを統合する規定である。建設業法では、国土交通大臣許可と都道府県知事許可、または複数の都道府県知事許可を同時に保有することは想定されていない。
したがって、承継により複数の許可を持つことになった場合、これらを国土交通大臣許可に一本化する必要がある。
第1号:大臣許可者が知事許可を承継
国土交通大臣の許可を受けている譲受人等が、都道府県知事の許可を受けている譲渡人等の地位を承継した場合、承継の日に、当該都道府県知事の許可に係る建設業(大臣許可に係る建設業と同一種類のものを除く)について国土交通大臣の許可を受けたものとみなす。
既に持っている大臣許可の許可業種と重複しない業種について、大臣許可に統合される。
第2号:知事許可者が大臣許可を承継
都道府県知事の許可を受けている譲受人等が、国土交通大臣の許可を受けている譲渡人等の地位を承継した場合、承継の日に、当該都道府県知事の許可に係る建設業(大臣許可に係る建設業と同一種類のものを除く)について国土交通大臣の許可を受けたものとみなす。
この場合も、重複しない業種について大臣許可に統合される。
第3号:異なる知事許可の承継
都道府県知事の許可を受けている譲受人等が、他の都道府県知事の許可を受けている譲渡人等の地位を承継した場合、両方の都道府県知事の許可に係る建設業について、国土交通大臣の許可を受けたものとみなす。
異なる都道府県の知事許可を同時に保有することはできないため、大臣許可に統合される。
第4号・第5号:無許可者による複数承継
建設業許可を受けていない譲受人等が、同時に複数の譲渡人等の地位を承継する場合も、大臣許可に統合される規定がある。
第4号は、大臣許可と知事許可を同時に承継する場合を、第5号は、異なる都道府県の知事許可を同時に承継する場合を規定している。
第7項:許可の有効期間の更新
有効期間の起算日の変更
第7項は、承継が行われた場合の許可の有効期間について定めている。通常、建設業許可の有効期間は5年間であり(第3条第3項)、更新を受けなければ失効する。
承継が行われた場合、従来は承継前の許可の残存期間がそのまま引き継がれると解釈される余地があったが、本項はこれを明確に否定している。
新たな起算日の設定
本項により、承継の日の翌日から新たに許可の有効期間が起算される。これは、承継により実質的に新たな事業体制が構築されることを踏まえ、許可の有効期間も新たにスタートさせる趣旨である。
「承継許可等」とは、承継に係る建設業の許可及び譲受人等が承継前に自ら受けていた建設業の許可をいう。これらすべての許可について、有効期間が承継の日の翌日から起算されることになる。
実務上の意義
この規定により、承継後は統一的な更新時期が設定されることになり、事業者にとっても行政庁にとっても管理がしやすくなる。承継の際に残存期間が短い場合でも、新たに5年間の有効期間が与えられるため、承継のタイミングによる不利益が解消される。
実務上のポイント
事前準備の重要性
承継の認可を受けるためには、「あらかじめ」認可を受ける必要がある。したがって、事業譲渡契約や合併契約、分割計画を締結・決議する前に、認可の見込みを確認しておくことが重要である。
認可が得られない場合、承継制度を利用できず、新規許可の取得が必要になるため、スケジュールに大きな影響が出る。
一般・特定の組み合わせの確認
承継制度を利用できない例外ケース(一般・特定の逆転)に該当しないか、事前に確認することが必須である。該当する場合、承継制度は利用できないが、既に持っている許可で営業を継続できるため、実質的な問題は少ない。
認可権者の正確な判断
認可権者が国土交通大臣か都道府県知事かを正確に判断することが重要である。誤った機関に申請すると、手続きのやり直しが必要になり、時間とコストが無駄になる。
複数の建設業者が関与する合併や会社分割の場合、認可権者の判定は複雑になるため、専門家に相談することが望ましい。
許可基準の事前確認
認可に際しては、通常の許可基準が準用されるため、承継する側が要件を満たしているか事前に確認する必要がある。特に、経営業務の管理責任者や専任技術者の配置、財産的基礎については、承継のスケジュールに合わせて準備を進めることが重要である。
条件付与の可能性
認可の際に新たな条件が付される可能性があることを認識しておく必要がある。特に、営業範囲の制限や技術者の配置に関する条件が付される場合、事業計画に影響が出る可能性がある。
許可の統合への対応
複数の許可を承継する場合、自動的に大臣許可に統合されることを理解しておく必要がある。大臣許可になることで、本店所在地の変更や役員の変更などの手続きが、すべて国土交通大臣に対して行うことになる。
有効期間の管理
承継により許可の有効期間が新たにスタートするため、更新時期の管理方法を見直す必要がある。複数の許可を持っていた場合でも、承継後はすべて統一された更新時期となる。
国土交通省の運用指針
国土交通省は、建設業法の運用に関する各種通達やガイドラインを公表している。承継制度についても、以下のような運用指針が示されている。
認可申請の標準処理期間
認可申請から認可までの標準処理期間は、通常の許可申請と同様に設定されている。余裕を持ったスケジュールを組むことが重要である。
添付書類の範囲
認可申請に際しては、国土交通省令で定める書類の添付が必要である。承継の内容を証する契約書や議事録、承継する側の許可要件を証する書類などが含まれる。
事前相談の活用
複雑な承継案件については、事前に国土交通大臣(地方整備局)または都道府県知事(建設業担当部局)に相談することが推奨されている。認可権者の判定や許可基準の適用について、事前に確認できる。
まとめ
建設業法第17条の2は、事業承継を円滑化するための重要な制度である。事業譲渡、合併、会社分割のいずれの場合も、認可を受けることで建設業者としての地位を承継できる。
ただし、一般・特定建設業の組み合わせによる例外、認可権者の判定、許可基準の準用、許可の統合など、複雑な規定が多い。実務においては、専門家のアドバイスを受けながら、慎重に手続きを進めることが重要である。
本条の適切な活用により、建設業界における事業再編やM&A、世代交代がスムーズに進むことが期待される。許可の承継制度を理解し、戦略的に活用することで、企業の持続的成長と業界全体の活性化につながる。
建設業のコンプライアンス体制構築は専門家にご相談を
建設業法第17条の2に基づく事業承継の認可手続きは、法的要件の確認から申請書類の作成まで、高度な専門知識が必要となります。認可権者の判断を誤ると手続きのやり直しが必要になるほか、許可基準を満たしていない場合は承継自体が不可能になるリスクもあります。
中川総合法務オフィス(https://compliance21.com/)
850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当
当事務所の強み
- 不祥事組織の再構築経験:コンプライアンス態勢が崩壊した組織の立て直しに携わり、実効性のある内部統制システムの構築を支援してきました
- 現役の内部通報外部窓口:複数の企業の内部通報窓口を担当しており、現場で起こりうるコンプライアンスリスクを熟知しています
- マスコミからの信頼:企業不祥事が発生した際には、報道機関から再発防止策についての意見を求められるなど、高い専門性が認められています
- 建設業特有のリスクへの対応:建設業法違反、下請法違反、安全管理体制の不備など、建設業界特有のコンプライアンスリスクに精通しています
ご提供するサービス
- 建設業法に基づく事業承継手続きのコンサルティング
- 経営陣・管理職向けコンプライアンス研修
- リスクマネジメント体制の構築支援
- 内部通報制度の設計・運用支援
- 不祥事発生時の危機管理対応
研修費用:1回30万円(+消費税)を原則としておりますが、貴社の課題や規模に応じて柔軟に対応いたします。
事業承継をはじめとする建設業法の実務対応、コンプライアンス体制の強化、従業員への法令遵守意識の浸透など、建設業経営に関するあらゆるご相談に対応いたします。
お問い合わせ
電話:075-955-0307(平日9:00-17:00)
Webフォーム:https://compliance21.com/contact/
まずはお気軽にご相談ください。貴社の持続的成長と健全な事業運営を、法務・コンプライアンスの両面からしっかりとサポートいたします。
【次回予告】
次回は、建設業法第17条の3「相続」について解説します。個人事業主である建設業者が死亡した場合の許可承継制度について、詳しく見ていきます。


