~実務に直結する税務・法務の融合アプローチ~
対象者:相続実務に携わる士業(税理士・行政書士・司法書士・弁護士)、
相続コンサルタント、ファイナンシャルプランナー
はじめに
本講座の目的と特徴
本講座は、相続税の節税効果を最大化する遺言書作成の実務スキルを習得することを目的としています。単なる法的要件を満たすだけでなく、税務上のメリットを十分に活用した遺言書の設計手法を学びます。
本講座の3つの特徴:
- 税務と法務の両面からのアプローチ
- 実際のケーススタディによる実践的学習
- 即日業務に活用できるツールとテンプレートの提供
FPと行政書士の視点を融合する意義
ファイナンシャルプランナーの財産設計ノウハウと行政書士の法的文書作成技術を組み合わせることで、クライアントにとって最適な相続対策を実現できます。
| 視点 | FPのアプローチ | 行政書士のアプローチ | 融合効果 |
|---|---|---|---|
| 財産分析 | キャッシュフロー重視 | 法的有効性重視 | 実効性のある財産配分 |
| 税務対策 | 節税効果の定量化 | 法的リスクの回避 | 安全で効果的な節税 |
| 文書作成 | 数値根拠の明確化 | 法的文言の正確性 | 説得力ある遺言書 |
第1章 相続税の基礎知識と最新税制
相続税の課税対象と計算構造
課税財産の範囲
相続税の課税対象となる財産は、相続開始時に被相続人が所有していた一切の財産です。
| 財産区分 | 具体例 | 評価方法 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 本来の相続財産 | 現金、預金、不動産、株式 | 時価または評価通達 | 名義預金の判定 |
| みなし相続財産 | 生命保険金、死亡退職金 | 受取金額 | 非課税枠の活用 |
| 生前贈与加算 | 3年以内の贈与財産 | 贈与時の価額 | 7年延長(2024年~) |
相続税の計算プロセス
基本計算式:
① 課税価格の合計額 - 基礎控除額 = 課税遺産総額
② 課税遺産総額 × 法定相続分 × 税率 = 相続税の総額
③ 相続税の総額 × 各人の課税価格/課税価格の合計額 = 各人の税額
基礎控除と税率
基礎控除額(2024年現在)
基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
| 法定相続人数 | 基礎控除額 | 実際の課税割合 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 約12% |
| 2人 | 4,200万円 | 約10% |
| 3人 | 4,800万円 | 約8% |
| 4人 | 5,400万円 | 約7% |
相続税の税率構造
| 法定相続分に応じる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | - |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
配偶者控除・小規模宅地等の特例
配偶者の税額軽減
適用要件:
- 法律上の配偶者であること
- 相続税の申告期限内に遺産分割が確定していること
- 相続税の申告書を提出すること
軽減額:次のうちいずれか多い金額
① 1億6,000万円
② 配偶者の法定相続分相当額
実務上の注意点:
配偶者控除の過度な活用は二次相続で大きな税負担を生む可能性があります。一次相続と二次相続の総合的な税額シミュレーションが必要です。
小規模宅地等の特例
| 宅地区分 | 減額割合 | 限度面積 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 80% | 330㎡ | 配偶者または同居親族が取得 |
| 特定事業用宅地等 | 80% | 400㎡ | 事業承継者が取得・継続 |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 80% | 400㎡ | 役員である親族が取得・継続 |
| 貸付事業用宅地等 | 50% | 200㎡ | 貸付事業の継続 |
2024年度の税制改正ポイント
生前贈与加算期間の延長
改正内容:
相続開始前の贈与財産の加算対象期間を3年から7年に延長
適用開始:2024年1月1日以後の贈与
経過措置:延長された4年間は総額100万円まで加算対象外
相続時精算課税制度の見直し
- 基礎控除110万円を新設
- 災害等による価額減少の救済措置
- 相続財産への加算方法の見直し
第2章 遺言書の種類と法的要件
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言
| 遺言の種類 | 作成方法 | メリット | デメリット | 費用 |
|---|---|---|---|---|
| 自筆証書遺言 | 本人が手書きで作成 | ・費用が安い ・秘密が保てる | ・無効リスク ・発見されないリスク | 数百円~数千円 |
| 公正証書遺言 | 公証人が作成 | ・確実性が高い ・検認不要 | ・費用が高い ・証人が必要 | 数万円~十数万円 |
| 秘密証書遺言 | 本人作成+公証人認証 | ・内容を秘密にできる ・存在を証明 | ・手続きが複雑 ・無効リスク | 数万円 |
法的有効要件
自筆証書遺言の要件
必須要件(民法968条):
- 遺言者が自書すること(財産目録はパソコン可)
- 日付を自書すること
- 氏名を自書すること
- 押印すること
2019年改正による変更点:
財産目録について、自書要件を緩和(パソコン作成・通帳コピー等も可能)
公正証書遺言の要件
- 証人2人以上の立会い
- 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授
- 公証人が筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ
- 遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認し署名・押印
- 公証人が法定の方式に従って作成した旨を付記して署名・押印
保管制度の活用
自筆証書遺言書保管制度
制度概要(2020年7月開始):
- 法務局での遺言書保管
- 家庭裁判所での検認手続き不要
- 相続人等への通知サービス
- 全国の法務局で閲覧・交付可能
手数料:保管申請 3,900円、閲覧 1,400円(モニター)・1,700円(原本)
保管制度利用時の注意点
- 法務局では内容の法的チェックは行わない
- 遺言書の撤回・変更は別途手続きが必要
- 保管申請は遺言者本人のみ可能
- 代理人による申請は不可
第3章 節税を考慮した遺産分割の設計
配偶者への相続と二次相続対策
一次相続・二次相続の税額比較
ケーススタディ:夫死亡、相続財産2億円、妻・子2人
| 分割パターン | 妻の取得割合 | 一次相続税額 | 二次相続税額 | 総税額 |
|---|---|---|---|---|
| パターンA | 100% | 0円 | 4,860万円 | 4,860万円 |
| パターンB | 50% | 1,680万円 | 1,890万円 | 3,570万円 |
| パターンC | 法定相続分 | 1,350万円 | 2,025万円 | 3,375万円 |
最適分割の判断要素
- 配偶者の年齢と健康状態
- 配偶者固有の財産額
- 子の数と年齢
- 将来の財産増減要因
- 相続税以外の税金(所得税・住民税)
子への分割パターン別税額シミュレーション
均等分割 vs 不均等分割
税額計算における累進性の影響:
不均等分割により、高税率区分への集中を回避可能
| 相続財産 | 均等分割(2人) | 不均等分割例 | 税額差 |
|---|---|---|---|
| 1億円 | 5,000万円×2 | 6,000万円・4,000万円 | ▲160万円 |
| 2億円 | 1億円×2 | 1.2億円・8,000万円 | ▲390万円 |
| 5億円 | 2.5億円×2 | 3億円・2億円 | ▲650万円 |
代襲相続・遺留分への配慮
代襲相続が発生する場合の遺言書記載
記載例:
「長男○○○○が相続開始以前に死亡している場合は、その子(被相続人の孫)である△△△△に当該財産を相続させる。」
遺留分対策
| 対策手法 | 効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 生命保険の活用 | 代償資金の確保 | みなし相続財産として課税 |
| 遺留分放棄 | 確実な排除 | 家庭裁判所の許可要 |
| 生前贈与 | 計算対象からの除外 | 特別受益の問題 |
不動産の分割方法
分割方法と税務上の取扱い
| 分割方法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 不動産をそのまま取得 | ・追加負担なし ・小規模宅地特例適用 | ・公平性の問題 ・共有状態の発生 |
| 代償分割 | 取得者が他相続人に代償金 | ・公平な分割 ・単独所有 | ・資金調達の問題 ・譲渡所得税 |
| 換価分割 | 売却して代金を分割 | ・公平で現金化 ・管理不要 | ・売却コスト ・特例適用不可 |
| 共有 | 複数人で共同所有 | ・特例適用可能 ・現状維持 | ・将来のトラブル ・処分制限 |
第4章 遺言書作成の実務プロセス
ヒアリングシート活用法
効果的なヒアリングの進め方
初回面談チェックリスト:
- 家族構成・相続関係の確認
- 財産の概要把握
- 遺言作成の動機・目的
- 特別な配慮事項の有無
- 税務申告の要否判定
- 概算相続税額の試算
- 遺言書の種類選択
- スケジュールの確認
財産調査で注目すべきポイント
| 財産種別 | 調査項目 | 確認書類 | 評価上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 預貯金 | 名義・残高・定期預金 | 通帳・残高証明書 | 名義預金の判定 |
| 不動産 | 所在・面積・用途 | 登記事項証明書・固定資産税評価証明書 | 小規模宅地特例の要件 |
| 有価証券 | 銘柄・株数・評価額 | 残高報告書・株券 | 上場・非上場の区分 |
| 生命保険 | 契約者・被保険者・受取人 | 保険証券・契約内容確認書 | 課税関係の判定 |
財産目録の作成
財産目録の記載例
不動産の記載例:
| 種別 | 所在・地番 | 地目・構造 | 面積 | 評価額 |
|---|---|---|---|---|
| 土地 | ○○市○○町1丁目2番3 | 宅地 | 120.50㎡ | 3,000万円 |
| 建物 | ○○市○○町1丁目2番地3 | 木造瓦葺2階建 | 115.50㎡ | 800万円 |
財産評価の実務ポイント
- 土地:路線価方式または倍率方式で評価
- 建物:固定資産税評価額で評価
- 上場株式:相続開始日など4つの価額のうち最低額
- 非上場株式:類似業種比準方式・純資産価額方式等で評価
相続税試算の実施
試算書の作成手順
Step 1: 課税価格の計算
各相続人の課税価格 = 相続財産 + みなし相続財産 - 債務・葬式費用
Step 2: 相続税の総額計算
① 課税遺産総額 = 課税価格の合計額 - 基礎控除額
② 各法定相続人の取得金額 = 課税遺産総額 × 法定相続分
③ 各人の税額 = 取得金額 × 税率 - 控除額
④ 相続税の総額 = ③の合計
Step 3: 各人の納付税額計算
各人の税額 = 相続税の総額 × 各人の課税価格 ÷ 課税価格の合計額
各人の納付税額 = 各人の税額 - 税額控除
最適な分割案の提案
分割案検討のフローチャート
分割案決定プロセス:
- 法定相続分による分割案作成
- 配偶者控除最大活用案作成
- 二次相続を考慮した最適化案作成
- 各案の税額比較・シミュレーション
- 非税務要因(感情面等)の考慮
- 最終提案案の決定
第5章 節税効果を最大化する遺言条項
具体的な記載例
基本的な相続条項
記載例1:不動産の相続
「遺言者は、遺言者の有する下記不動産を長男○○○○(昭和○年○月○日生)に相続させる。
所在:東京都○○区○○町○丁目
地番:○番○
地目:宅地
地積:120.50平方メートル
所在:東京都○○区○○町○丁目○番地○
家屋番号:○番○
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 60.50平方メートル
2階 55.00平方メートル」
代償分割を前提とした条項
記載例2:代償分割条項
「遺言者は、別紙財産目録記載の不動産をすべて長男○○○○に相続させる。
長男○○○○は、上記不動産を相続する代償として、二男△△△△に対して金2,000万円を支払うものとする。
代償金の支払いは、相続開始から1年以内に行うものとし、分割払いを希望する場合は相続人間で協議のうえ決定する。」
配偶者居住権の活用
配偶者居住権とは
制度概要:
2020年4月施行の改正民法により創設された権利。配偶者が相続開始時に居住していた建物を、一定期間または終身にわたって無償で使用できる権利。
税務上のメリット
| 項目 | 従来の所有権相続 | 配偶者居住権設定 |
|---|---|---|
| 配偶者の相続財産 | 不動産全体 | 居住権のみ(評価額低い) |
| 子の相続財産 | なし | 負担付所有権(評価額低い) |
| 二次相続への影響 | 不動産が課税対象 | 居住権消滅(課税なし) |
配偶者居住権の遺言書記載例
記載例3:配偶者居住権設定
「遺言者は、下記建物について、妻○○○○(昭和○年○月○日生)に配偶者居住権を取得させ、長男△△△△(昭和○年○月○日生)に負担付きで所有権を相続させる。
配偶者居住権の存続期間は、妻○○○○の終身とする。
所在:東京都○○区○○町○丁目○番地○
家屋番号:○番○
種類:居宅
構造:木造瓦葺2階建
床面積:1階 85.50平方メートル
2階 70.25平方メートル」
生命保険金の指定
生命保険を活用した節税効果
非課税限度額:
500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額
| 法定相続人数 | 非課税限度額 | 節税効果(最高税率55%時) |
|---|---|---|
| 2人 | 1,000万円 | 550万円 |
| 3人 | 1,500万円 | 825万円 |
| 4人 | 2,000万円 | 1,100万円 |
生命保険受取人指定の遺言条項
記載例4:保険受取人変更
「遺言者は、○○生命保険株式会社の保険証券番号第○○○○号の生命保険契約について、死亡保険金受取人を長男○○○○に変更する。」
代償分割の条項設計
代償金額の算定方法
算定基準の明確化:
代償金額について「相続税評価額」「時価」「固定資産税評価額」など、明確な算定基準を記載することが重要です。
代償分割条項の詳細記載例
記載例5:詳細な代償分割条項
「第3条 長男○○○○は、第1条及び第2条により不動産を相続する代償として、二男△△△△に対し、金3,000万円を代償金として支払う。
第4条 前条の代償金は、相続開始の日から1年以内に一括して支払うものとする。ただし、長男○○○○の資金調達の都合により分割払いを希望する場合は、二男△△△△と協議して支払方法を決定することができる。
第5条 分割払いとする場合の利息は年1.0%とし、毎年○月○日に元利均等払いにより支払う。
第6条 代償金の支払いが滞った場合は、不動産の共有持分を代償金額相当分、二男△△△△に移転するものとする。」
第6章 ケーススタディ
ケース1:不動産中心の相続
【事例概要】
- 被相続人:夫(75歳)
- 相続人:妻(70歳)、長男(45歳・同居)、長女(42歳・別居)
- 相続財産:自宅土地建物8,000万円、預貯金2,000万円
- 課題:現金が少なく、分割方法に悩む
分割案の比較検討
| 分割案 | 妻の取得 | 長男の取得 | 長女の取得 | 相続税額 |
|---|---|---|---|---|
| 案1:法定相続 | 自宅1/2・預金1,000万 | 自宅1/4・預金500万 | 自宅1/4・預金500万 | 560万円 |
| 案2:代償分割 | 預金2,000万 | 自宅8,000万 | 代償金2,500万 | 560万円 |
| 案3:配偶者居住権 | 居住権3,000万・預金 | 負担付所有権5,000万 | 代償金2,000万 | 420万円 |
推奨案の遺言書(抜粋)
「第1条 遺言者は、下記建物について、妻○○○○に配偶者居住権を取得させる。 第2条 遺言者は、第1条記載の建物の敷地である下記土地について、妻○○○○に配偶者居住権を、長男△△△△に負担付所有権をそれぞれ取得させる。 第3条 長男△△△△は、第1条及び第2条により取得する負担付所有権の代償として、長女□□□□に対し金2,000万円を支払う。」
ケース2:事業承継を伴う相続
【事例概要】
- 被相続人:夫(65歳・会社経営)
- 相続人:妻(60歳)、長男(35歳・後継者)、二男(32歳・会社員)
- 相続財産:自社株式2億円、不動産5,000万円、預貯金3,000万円
- 課題:事業承継と相続税負担の両立
事業承継税制の活用可能性
| 制度 | 適用要件 | 効果 | リスク |
|---|---|---|---|
| 特例事業承継税制 | ・後継者1名 ・雇用維持5年 | 株式評価額の100%納税猶予 | 要件未達時の利子税 |
| 一般事業承継税制 | ・後継者1名 ・雇用維持5年 | 株式評価額の80%納税猶予 | 対象株式の制限あり |
事業承継を考慮した遺言書(抜粋)
「第1条 遺言者は、株式会社○○○○の株式のうち、発行済株式総数の85%に相当する株式を長男△△△△に相続させる。 第2条 長男△△△△は、第1条により株式を相続する代償として、妻○○○○に金5,000万円を、二男□□□□に金7,000万円をそれぞれ支払う。 第3条 前条の代償金支払いについて、長男△△△△は会社からの借入れまたは役員退職金等により資金調達することを認める。」
ケース3:配偶者なし・子複数のケース
【事例概要】
- 被相続人:男性(80歳・配偶者先死亡)
- 相続人:長男(55歳)、二男(52歳)、三男(48歳)
- 相続財産:不動産1億5,000万円、有価証券5,000万円、預貯金5,000万円
- 課題:長男が家業継承、平等性との両立
分割シミュレーション
| 財産 | 長男 | 二男 | 三男 | 相続税額 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産 | 1億5,000万円 | 0円 | 0円 | 3,460万円 |
| 有価証券 | 0円 | 2,500万円 | 2,500万円 | |
| 預貯金 | 0円 | 2,500万円 | 2,500万円 | |
| 代償金 | ▲5,000万円 | 2,500万円 | 2,500万円 |
遺留分対策を含む遺言書(抜粋)
「第1条 遺言者は、別紙財産目録記載の不動産をすべて長男○○○○に相続させる。 第2条 遺言者は、別紙財産目録記載の有価証券及び預貯金について、二男△△△△及び三男□□□□がそれぞれ2分の1ずつ相続するものとする。 第3条 長男○○○○は、第1条により不動産を相続する代償として、二男△△△△及び三男□□□□に対し、それぞれ金2,500万円を支払う。 第4条 万一、本遺言により遺留分侵害額請求がなされた場合、長男○○○○が誠意をもって対応し、必要に応じて追加の代償金を支払うものとする。」
第7章 トラブル予防と実務上の注意点
遺留分侵害への対応
遺留分の計算方法
遺留分の基礎となる財産:
相続開始時の積極財産 + 贈与財産 - 債務
遺留分率:
・直系尊属のみが相続人の場合:1/3
・その他の場合:1/2
個別的遺留分:
遺留分の基礎財産 × 遺留分率 × 法定相続分
遺留分対策の実務手法
| 対策手法 | 具体的方法 | 効果 | 限界・リスク |
|---|---|---|---|
| 生前対策 | ・遺留分放棄 ・生前贈与の活用 | 確実な排除・軽減 | ・家裁許可要 ・特別受益の問題 |
| 代償手段の準備 | ・生命保険加入 ・預金の確保 | 金銭による解決 | ・保険料負担 ・インフレリスク |
| 付言事項 | 想いや理由の記載 | 心情的な説得効果 | 法的拘束力なし |
遺留分侵害額請求への対応条項
記載例:遺留分対応条項
「第○条 本遺言の内容について相続人から遺留分侵害額請求がなされた場合は、まず相続人間での協議により解決を図るものとする。
協議が調わない場合は、○○○○が遺留分侵害額に相当する金銭を支払うことにより解決するものとし、必要な資金については別途加入予定の生命保険金を充当する。
なお、遺留分侵害額の算定にあたっては、不動産については相続税評価額を基準とするものとする。」
遺言執行者の指定
遺言執行者の役割と権限
- 遺言内容の実現
- 相続財産の管理
- 不動産の移転登記手続き
- 預貯金の解約・名義変更
- 有価証券の名義変更
- 相続人への財産引渡し
遺言執行者指定の記載例
記載例1:相続人を執行者に指定
「遺言者は、本遺言の遺言執行者として長男○○○○を指定する。
遺言執行者は、本遺言の執行に必要な一切の権限を有し、相続財産の管理処分、各種名義変更手続き、その他遺言執行に必要な行為を行うことができる。」
記載例2:専門家を執行者に指定
「遺言者は、本遺言の遺言執行者として行政書士○○○○(事務所所在地:○○県○○市○○町○-○-○)を指定する。
遺言執行者が死亡その他の事由により執行できない場合は、長男△△△△が新たな遺言執行者となるものとする。」
遺言執行者の報酬に関する定め
報酬の定め方:
遺言執行者の報酬は、遺言で定めることも、相続人と執行者の協議で定めることも可能です。トラブル防止のため、遺言で明確に定めることを推奨します。
付言事項の活用
付言事項の効果と限界
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法的効力 | 法的拘束力はないが、遺言者の意思として尊重される |
| 記載内容 | ・遺言作成の動機 ・各相続人への思い ・財産分割の理由 ・今後への希望 |
| 効果 | ・相続人の理解促進 ・紛争予防 ・遺言の心証形成 |
効果的な付言事項の記載例
付言事項の記載例:
「最後に、この遺言書を作成するにあたり、私の気持ちを記させていただきます。
長男○○には、長年にわたり同居し、私たち夫婦の世話をしてくれました。また、家業の後継者として会社を支えてくれており、今後も事業の発展のため自宅と会社を任せたいと思います。
二男△△と長女□□には、それぞれ独立して立派に家庭を築いており、現金・預貯金を相続してもらうことで、今後の生活に役立ててほしいと願っています。
財産の分け方に差がありますが、これは私なりに皆の将来を考えた結果です。兄弟仲良く、互いに助け合いながら過ごしてください。
皆さんの健康と幸せを心から願っています。
令和○年○月○日
○○○○」
まとめと今後の展望
実務チェックリスト
遺言書作成前のチェックポイント:
- 相続人・相続関係の正確な把握
- 財産の詳細調査と評価
- 相続税の概算計算
- 複数パターンの分割案検討
- 遺留分への配慮
- 二次相続への影響検討
- 特例適用要件の確認
- 遺言書の種類選択
遺言書作成時のチェックポイント:
- 法的要件の充足
- 財産の特定方法
- 相続人の正確な表示
- 予備的条項の検討
- 代償分割条項の詳細
- 遺言執行者の指定
- 付言事項の記載
- 全体の整合性確認
遺言書完成後のチェックポイント:
- 保管方法の決定
- 相続人への周知
- 定期的な見直し体制
- 税制改正への対応
- 家族状況変化への対応
- 財産状況変化への対応
- 関連書類の整理
- 専門家との連携体制
継続学習のポイント
重要な情報源
| 分野 | 主な情報源 | 更新頻度 |
|---|---|---|
| 税制改正 | ・国税庁HP ・税制改正大綱 ・専門誌 |

