改正建設業法の下での請負契約について、包括的にご説明いたします。2024年から2025年にかけて段階的に施行された改正建設業法により、請負契約に関する重要な変更が行われています。
建設業法における請負契約の基本原則
建設業法第19条は、建設工事の請負契約において、契約内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することを義務付けています。これは建設業における契約の適正化と紛争予防のための基本的なルールとなっています。平成13年の改正以降は、相手方の承諾を得た場合に限り、電磁的方法(電子契約)による契約締結も認められています。
契約書面に記載すべき必須事項(建設業法第19条)
建設工事の請負契約書には、以下の事項を必ず記載する必要があります。これらの事項が欠けると、建設業法違反となり、監督処分の対象となる可能性があります。
- 工事内容 - 具体的な工事の内容や範囲を明確に記載します
- 請負代金の額 - 工事の対価となる金額を明示します
- 工事の着手時期及び完成時期 - 工事開始日と完成予定日を記載します
- 工事を施工しない日または時間帯の定めをするときは、その内容 - 必要な場合に限り記載します
- 前金払または出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法 - 分割払いや前払金がある場合に記載します
- 当事者の一方から設計変更または工事着手の延期もしくは工事の全部もしくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更または損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め - 工事内容の変更時の取り決めを明確にします
- 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担及びその額の算定方法に関する定め - 自然災害などの場合の取り決めです
- 価格等の変動もしくは変更に基づく請負代金の額または工事内容の変更 - 物価変動等への対応方法を定めます
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め - 第三者への損害賠償責任について明確にします
- 注文者が工事に使用する資材を提供し、または建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め - 発注者が材料等を提供する場合に記載します
- 注文者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期 - 検査と引き渡しの手順を定めます
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法 - 最終支払いの条件を明示します
- 工事の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定め - 契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)について定めます
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金 - 履行遅滞時のペナルティを定めます
- 契約に関する紛争の解決方法 - 紛争が生じた場合の解決手段を定めます
- その他国土交通省令で定める事項 - 上記以外の必要事項を記載します
| 項目番号 | 記載事項 | 内容説明 | 記載条件 |
| 1 | 工事内容 | 具体的な工事の内容や範囲を明確に記載します | 必須 |
| 2 | 請負代金の額 | 工事の対価となる金額を明示します | 必須 |
| 3 | 工事の着手時期及び完成時期 | 工事開始日と完成予定日を記載します | 必須 |
| 4 | 工事を施工しない日または時間帯 | 工事を行わない日時を定める場合に記載します | 条件付 |
| 5 | 前金払または出来形部分に対する支払 | 分割払いや前払金がある場合、その支払の時期及び方法を記載します | 条件付 |
| 6 | 設計変更・工事中止等の場合の取り決め | 当事者の一方から設計変更または工事着手の延期もしくは工事の全部もしくは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額の変更または損害の負担及びそれらの額の算定方法を定めます | 必須 |
| 7 | 不可抗力による変更等の取り決め | 天災その他不可抗力による工期の変更または損害の負担及びその額の算定方法を定めます | 必須 |
| 8 | 価格変動等による変更 | 価格等の変動もしくは変更に基づく請負代金の額または工事内容の変更について定めます | 必須 |
| 9 | 第三者への損害賠償 | 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担について明確にします | 必須 |
| 10 | 注文者による資材提供・機械貸与 | 注文者が工事に使用する資材を提供し、または建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法を定めます | 条件付 |
| 11 | 検査・引渡しの時期及び方法 | 注文者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期を定めます | 必須 |
| 12 | 請負代金の支払時期及び方法 | 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法を明示します | 必須 |
| 13 | 契約不適合責任 | 工事の目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置について定めます(旧瑕疵担保責任) | 必須 |
| 14 | 遅延利息・違約金等 | 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金を定めます | 必須 |
| 15 | 紛争の解決方法 | 契約に関する紛争が生じた場合の解決手段を定めます | 必須 |
| 16 | その他国土交通省令で定める事項 | 上記以外で国土交通省令により定められた必要事項を記載します | 必須 |
2024年12月13日施行の改正点:請負代金等の変更協議
令和6年(2024年)12月13日から施行された改正により、契約後の請負代金等の変更に関する新たな規定が追加されました。これは、工事の実施中に発生する様々な変更に適切に対応するための重要な改正です。具体的には、契約締結後に工期や請負代金の変更が必要となった場合における協議や変更手続きに関する事項が、契約書の法定記載事項として追加されています。
2025年12月12日全面施行の主要な改正点
令和6年6月14日に公布された建設業法の改正が、2025年12月12日に全面施行されました。この改正は建設業界の適正化と働き方改革を推進するための重要な内容を含んでいます。
工期ダンピング対策の強化
受注者(請負人)が著しく短い工期での請負契約を締結することが禁止されました。これは、無理な工期設定が労働者の長時間労働や安全性の低下につながることを防止するためです。適正な工期を確保することで、建設労働者の働き方改革を実現することが目的となっています。
著しく低い労務費での契約の禁止
発注者が受注者に対して、通常必要と認められる労務費と比較して著しく低い金額で契約を締結することが禁止されました。これにより、建設労働者の適正な賃金水準を確保することが目指されています。
受注者による原価割れ契約の禁止
受注者が自ら不当に低い請負代金で契約を締結することも禁止されました。下請業者の利益を確保し、健全な建設業の経営環境を維持するための規定です。
電子契約の活用
現在の建設業法では、相手方の承諾を得た場合に限り、電子契約による請負契約の締結が認められています。これにより、業務効率化、ペーパーレス化、印紙税の削減などのメリットを享受することができます。
電子契約を利用する際には、以下の要件を満たす必要があります。
- 相手方の事前承諾を得ること - 書面による契約から電子契約に代える際には、必ず相手方の承諾が必要です
- 電磁的措置に関する要件の遵守 - 国土交通省が定める「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」に従う必要があります
- 契約内容の保存と閲覧可能性 - 契約後も電磁的記録を適切に保存し、必要時に閲覧・印刷できる状態を維持する必要があります
電子契約では、PDF形式での保存やダウンロード、印刷が可能であり、公開鍵暗号方式による電子署名などのセキュリティ対策が重要となります。
契約締結時の注意点
請負契約を適正に締結するためには、以下の点に注意が必要です。
書面の相互交付が原則 - 契約当事者双方が同じ内容の契約書に署名または記名押印し、互いに交付することが必要です。一方的な交付では建設業法の要件を満たしません。
注文書・請書による契約 - 簡易な工事の場合、発注者からの注文書と受注者からの請書の組み合わせでも契約締結と認められますが、この場合も建設業法第19条に定める事項がすべて記載されている必要があります。
口約束は厳禁 - 建設業法では書面(または電子契約)による契約締結が義務付けられているため、口頭での約束だけでは法令違反となります。
変更契約の書面化 - 工事内容や請負代金、工期などに変更が生じた場合は、その都度変更契約を書面で締結する必要があります。
違反した場合の罰則
建設業法第19条に違反して書面を交付しなかった場合、または記載事項に不備があった場合は、監督処分(指示処分、営業停止処分など)の対象となる可能性があります。さらに悪質な場合は、建設業許可の取り消しに至ることもあります。適正な契約締結は建設業を営む上での基本的な義務として厳格に守る必要があります。
まとめ(図表化)
改正建設業法の下では、従来の契約書面の記載事項に加えて、工期や請負代金の適正化、労務費の確保、原価割れ契約の禁止など、より公正で健全な建設業界を実現するための規定が強化されています。電子契約の活用も進んでおり、適切な手続きを踏むことで業務効率化を図ることができます。建設工事の請負契約を締結する際は、これらの法令要件を十分に理解し、適正な契約実務を行うことが重要です。
※改正建設業法の施行スケジュールと主要改正点
施行時期別の改正内容一覧表
| 施行日 | 改正項目 | 改正内容 | 目的・効果 | 対象者 |
|---|---|---|---|---|
| 2024年9月1日 | 建設業法・入契法改正公布後施行 | 公布から3ヶ月以内に施行される事項 | 段階的施行の第一段階 | 発注者・受注者 |
| 2024年12月13日 | 請負代金等の変更協議 | 契約締結後に工期や請負代金の変更が必要となった場合における協議や変更手続きに関する事項が契約書の法定記載事項として追加 | 工事実施中に発生する様々な変更に適切に対応し、紛争を予防する | 発注者・受注者 |
| 2025年12月12日 | 工期ダンピング対策の強化 | 受注者(請負人)が著しく短い工期での請負契約を締結することを禁止 | 無理な工期設定による労働者の長時間労働や安全性の低下を防止し、建設労働者の働き方改革を実現 | 受注者(請負人) |
| 2025年12月12日 | 著しく低い労務費での契約の禁止 | 発注者が受注者に対して、通常必要と認められる労務費と比較して著しく低い金額で契約を締結することを禁止 | 建設労働者の適正な賃金水準を確保 | 発注者 |
| 2025年12月12日 | 受注者による原価割れ契約の禁止 | 受注者が自ら不当に低い請負代金で契約を締結することを禁止 | 下請業者の利益を確保し、健全な建設業の経営環境を維持 | 受注者 |
※電子契約の活用に関する要件
| 項目 | 要件内容 | 詳細説明 | 根拠・参照 |
|---|---|---|---|
| 相手方の事前承諾 | 書面による契約から電子契約に代える際には、必ず相手方の承諾が必要 | 一方的に電子契約に変更することはできず、相手方が同意した場合のみ利用可能 | 建設業法第19条第3項 |
| 電磁的措置に関する要件の遵守 | 国土交通省が定める「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」に従う | 技術的基準や運用方法について定められたガイドラインを遵守する必要がある | 国土交通省ガイドライン |
| 契約内容の保存と閲覧可能性 | 契約後も電磁的記録を適切に保存し、必要時に閲覧・印刷できる状態を維持 | PDF形式での保存やダウンロード、印刷が可能であることが求められる | 建設業法施行規則 |
| セキュリティ対策 | 公開鍵暗号方式による電子署名などのセキュリティ対策を実施 | 改ざん防止や本人確認のための技術的措置が必要 | 電子署名法・ガイドライン |
電子契約のメリット: 業務効率化、ペーパーレス化、印紙税の削減、保存スペースの削減、検索性の向上
※契約締結時の注意点
| 注意項目 | 具体的要件 | 違反した場合のリスク |
|---|---|---|
| 書面の相互交付が原則 | 契約当事者双方が同じ内容の契約書に署名または記名押印し、互いに交付することが必要(一方的な交付では要件を満たさない) | 建設業法違反、監督処分の対象 |
| 注文書・請書による契約 | 簡易な工事の場合、発注者からの注文書と受注者からの請書の組み合わせでも可能だが、建設業法第19条に定める事項がすべて記載されている必要がある | 記載事項の不備により建設業法違反 |
| 口約束は厳禁 | 建設業法では書面(または電子契約)による契約締結が義務付けられているため、口頭での約束だけでは法令違反となる | 建設業法違反、契約の証拠がなく紛争リスク増大 |
| 変更契約の書面化 | 工事内容や請負代金、工期などに変更が生じた場合は、その都度変更契約を書面で締結する必要がある | 変更内容が法的に無効となるリスク、紛争の原因 |
※違反した場合の罰則
| 違反内容 | 処分・罰則 | 重大性 |
|---|---|---|
| 建設業法第19条に違反して書面を交付しなかった場合 | 監督処分(指示処分、営業停止処分など)の対象 | 中 |
| 契約書の記載事項に不備があった場合 | 監督処分(指示処分、営業停止処分など)の対象 | 中 |
| 悪質な違反を繰り返した場合 | 建設業許可の取り消し | 重大 |
重要事項: 適正な契約締結は建設業を営む上での基本的な義務として厳格に守る必要があります。

