緊急事態宣言の休業要請に反して営業を続ける事業所等を行政はどうすればいいのか(行政法・地方自治法の重要論点【自力救済】)

1.行政意思の実現における自力救済

これは行政法の現代的問題で、「条例による執行罰、直接強制はどこまで可能か」ということが戦後ずっと問題になっている。

それが、2020年春の新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ緊急事態宣言の休業要請に反して営業を続けるパチンコ屋等を行政はどこまでコンプライアンス実現できるかということが問題になったこととも関連する。

ひろくは、「行政の自力救済」の問題である。

以下の国家試験問題がその限界である。参考にされたい。また、youtubeに無料動画をアップロードした。

なお、最三小判平成14年7月9日の以下の事案も参考になる。司法上の救済と行政との関係だ。

事案:宝塚市は「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」(以下、条例)を制定し、施行していた。Yは宝塚市内でパチンコ屋を営業することを計画し、宝塚市長に建築の同意を申請した。市長は同意を拒否したが、Yは同市建築主事に建築確認の申請を行ったが、市長の同意書がないことを理由に申請を受理しなかった。そこでYは、不受理処分の取消しを求めて同市の建築審査会に審査請求を行い、請求を認容する裁決を受けて工事を開始した。市長は条例第8条に基づき、建築中止命令を発したが、Yが建設を続行しようとしたため、同市は建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起した。第一審判決は、条例が風俗適正化法や建築基準法に違反するとして同市の請求を棄却し、第二審も控訴を棄却した。

判旨:最高裁判所第三小法廷は、破棄自判の上、宝塚市の訴えを却下した。まず、民事事件で裁判所が対象としうるのは裁判所法第3条第1項にいう「法律上の争訟」に限られるとして「板まんだら」事件最高裁判決 (最三小判昭和56年4月7日)を引用した。その上で「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を求めるものということはできないから、法律上の争訟として当然似裁判所の審判の対象となるものではな」いと述べた。そして、行政代執行法が認めるのは基本的に代執行のみであること、行政事件訴訟法などの法律にも「一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟を提起する特別の規定は存在しない

2.条例による自力救済

■A市は、風俗営業のための建築物について、条例で独自の規制基準を設けることとし、当該基準に違反する建築物の建築工事については市長が中止命令を発しうることとした。この命令の実効性を担保するための手段を条例で定める場合、法令に照らし、疑義の余地なく設けることのできるものは、次の記述のうちどれか。

1 当該建築物の除却について、法律よりも簡易な手続で代執行を実施する旨の定め。
2 中止命令の対象となった建築物が条例違反の建築物であることを公表する旨の定め。
3 中止命令を受けたにもかかわらず建築工事を続行する事業者に対して、工事を中止するまでの間、1日について5万円の過料を科す旨の定め。
4 市の職員が当該建築物の敷地を封鎖して、建築資材の搬入を中止させる旨の定め。
5 当該建築物により営業を行う事業者に対して1千万円以下の罰金を科す旨の定め。

■正解 2

⇒本問は、条例による執行罰、直接強制はどこまで可能かという論点である。また、より広くは、行政上の自力救済の実現の問題といってもいいであろう。
この点に関しては、全く利用されていない執行罰を再活性化させようとする論点が背景にあっての出題かと思われる。
現行法上は、行政代執行法の第1条が「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。」とあり、同法2条以下においてのみ法律に条例等を含むとしているので、第1条の「法律」には、条例は含まれないものと解される。

1.× できない。行政代執行法第1条の「法律」に条例は含まれていない。同法2条参照

2.○ できる。 公表は可能であると解される。

3.× できない。執行罰はできないと解される。

4.× できない。このような直接強制はできないと解される。

5.× できない。地方自治法違反になる(同法14条3項)。100万円以下の罰金は可能である。

★参照条文
行政代執行法
1条〔本法の適用範囲〕
行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。
第2条〔代執行の要件〕
法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
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地方自治法
第14条〔条例〕
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
2普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
3普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

行政機関の自力救済

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