中川総合法務オフィス 代表 中川 [氏名](相続・著作権・コンプライアンス専門家)
皆さん、こんにちは。京都を拠点に、相続、著作権、コンプライアンス分野で企業の法務・経営課題解決をサポートしております、中川総合法務オフィスの代表、中川です。単に法律の条文を解説するだけでなく、その背景にある社会経済の動きや、時には哲学的な視点も交えながら、経営に真に役立つ情報提供を心がけております。豊富な人生経験と、社会科学・人文科学・自然科学にわたる知見を活かし、皆様の事業展開の一助となれば幸いです。
さて、本日は建設業界の皆様にとって極めて重要な2024年(令和6年)改正建設業法について、そのポイントと実務への影響を解説いたします。2020年の改正も記憶に新しいところですが、今回の改正は特に「担い手確保」と「労働環境改善」、そして近年の「資材価格高騰等への対応」に重点が置かれており、実務への影響は非常に大きいと言えます。
改正建設業法の公布と施行スケジュール
まず、今回の改正法の公布日と施行日を確認しましょう。
- 公布日: 2024年(令和6年)6月14日
- 施行日: 改正内容により、以下の3段階で施行されます。
- 公布日から3ヶ月以内(2024年9月13日まで、一部規定は9月1日施行)
- 公布日から6ヶ月以内(2024年12月13日まで)
- 公布日から1年6ヶ月以内(今後政令で期日を定める予定)
詳細については、国土交通省のウェブサイトをご参照ください。 参照:建設業法の改正について(国土交通省)
建設業の皆様におかれましては、どの改正項目がいつから施行されるのかを正確に把握し、準備を進めることが肝要です。
【重要改正ポイント1】発注者の義務追加:標準労務費を尊重した見積もり依頼
今回の改正で特に注目すべき点の一つが、発注者に対する新たな責務です。従来から、不当に低い請負代金での契約締結は禁止されていましたが、より実効性を高める措置が講じられました。
具体的には、発注者が建設業者に対して見積もりを依頼する際、国が公表する「標準労務費」を考慮・尊重することが求められるようになります。(※努力義務ではなく、より強い「配慮義務」としての側面が強まっています)
背景: 建設業界では、依然として労務費にしわ寄せがいく形で、下請け業者などが著しく低い金額での受注を強いられるケースがありました。これは、担い手不足が深刻化する中で、労働者の賃金水準の向上や処遇改善を阻害する大きな要因と指摘されていました。人件費は単なるコストではなく、専門的な技能や経験を持つ人材への対価であり、社会全体の持続可能性にも関わる重要な要素です。このような背景から、適正な労務費が確保されるよう、発注者側にも配慮を求める規定が盛り込まれました。
実務上の対応:
- 発注者側: 見積もり依頼時には、標準労務費の存在を認識し、それを著しく下回るような見積もりを一方的に要求しないよう注意が必要です。
- 受注者側: 標準労務費を根拠の一つとして、適正な見積もりを作成し、不当な値引き要求に対しては、改正法の趣旨を説明して交渉することが考えられます。
この改正は、単なる価格競争から脱却し、質の高い労働に対する正当な評価、ひいては建設業界全体の魅力向上につながる可能性を秘めています。
【重要改正ポイント2】契約内容の明確化:事情変更に伴う契約変更協議の義務化
二つ目の重要なポイントは、契約締結後の「事情変更」に対応するためのルール明確化です。
近年のウクライナ情勢や円安などを背景とした、急激な資材価格の高騰やエネルギーコストの上昇は、建設プロジェクトの採算性を大きく揺るがす要因となっています。このような予測困難な事態に対応するため、以下の点が契約において重要視されることになります。
- 契約書への明記: 工期や請負代金の変更に繋がりうる「事情変更」のリスク(例:予期せぬインフレ、資材供給の途絶等)が存在することを、契約締結前に書面で相互に確認し、その内容を契約書に明記することが推奨されます。(※努力義務)
- 変更協議の実施: 契約締結後、実際にそのような「事情変更」が発生した場合、契約当事者(発注者・受注者双方)は、変更内容について誠実に協議を行うことが求められます。(※努力義務ですが、協議に応じない場合は指導等の対象となる可能性も)
背景: 従来の画一的な契約では、予期せぬコスト増のリスクが一方的に受注者側に偏るケースが多く見られました。これは、受注者側の経営を圧迫するだけでなく、リスク回避のために受注をためらう要因にもなりかねません。経済のグローバル化や地政学的リスクの高まりは、もはや無視できない経営環境の一部です。こうした不確実性の高い時代において、契約当事者がリスクを適切に分担し、対等な立場で協議できるルールを設けることは、公正な取引関係の構築とプロジェクトの円滑な遂行に不可欠です。
実務上の対応:
- 契約書作成・レビュー時には、「事情変更」に関する条項(いわゆる「インフレ条項」等)の有無、内容の妥当性を十分に確認する必要があります。
- 変更協議が必要となった場合に備え、資材価格の変動や工期への影響などを客観的に示す資料を準備しておくことが重要です。
- 安易に協議を拒否せず、双方にとって公平な解決策を見出す姿勢が求められます。
その他の改正点と建設業界の未来
今回の改正では、上記以外にも、
- 働き方改革の推進: 工期短縮圧力の抑制、週休二日制確保に向けた取り組み強化など。
- 建設副産物(残土)対策: 不適切な処理を防止するための規制強化。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進: 書類の電子化促進など。
といった点が盛り込まれています。これらは、建設業界が抱える構造的な課題に対応し、持続可能な産業へと変革していくための重要なステップと言えるでしょう。
まとめ:変化への適応が未来を拓く
今回の建設業法改正は、発注者・受注者双方にとって、従来の慣行を見直し、新たなルールに適応していくことを求めるものです。特に「標準労務費の尊重」と「事情変更への対応」は、今後の契約実務に大きな影響を与えるでしょう。
法律の改正は、社会や経済の変化を反映する鏡であり、時には我々の価値観や行動様式に変革を迫る契機ともなります。中川総合法務オフィスでは、単に法改正の内容をお伝えするだけでなく、その背景にある思想や社会的な意義、そして皆様の経営に与える具体的な影響まで踏み込んで、最適な対応策をご提案いたします。
相続問題から著作権管理、そして企業のコンプライアンス体制構築まで、幅広い分野で培ってきた知見と経験を活かし、皆様の事業が時代の変化にしなやかに対応し、更なる発展を遂げるためのお手伝いができれば、これ以上の喜びはありません。
法改正に関するご不明点や、具体的な対応についてのご相談は、どうぞお気軽に中川総合法務オフィスまでお問い合わせください。
【執筆者】 中川総合法務オフィス 代表 中川 恒信 [立命館大学法学部卒業後、大阪の企業にて実務経験を積み、独立。複雑な相続問題の解決や、クリエイター・企業の著作権保護、大手企業のコンプライアンス研修講師など、多岐にわたる実績を持つ。法律・経営分野に留まらず、哲学・歴史・科学にも造詣が深く、多角的な視点からのアドバイスに定定評がある。すでに企業勤務経験に法律知識を生かして、全国で850以上の研修講師を依頼を受けて担当した。]