はじめに

建設業法第12条は、建設業の許可を受けた者が事業を継続できなくなった場合の届出義務について定めた規定である。建設業許可制度の実効性を確保するため、許可行政庁が常に最新の許可業者の状況を把握できるようにすることを目的としている。

本条は、許可業者の廃業、死亡、法人の解散など、許可の効力が失われる事由が発生した場合に、誰が、いつまでに、どのような届出をしなければならないかを明確に規定している。

第12条の条文構造

本条は、5つの号によって構成されており、それぞれ異なる事由と届出義務者を定めている。共通するのは「30日以内」という届出期限と、届出先が「国土交通大臣又は都道府県知事」である点だ。

届出義務を怠った場合には、建設業法第52条により、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があるため、実務上の注意が必要である。

第1号:個人事業者の死亡

条文の内容

第1号は、許可を受けた個人事業者が死亡した場合について規定している。ただし、相続人が建設業法第17条の3第1項に基づく相続認可の申請をしなかった場合に限られる点が重要である。

届出義務者

届出義務を負うのは「相続人」である。相続人が複数いる場合は、そのうちの一人が代表して届け出ることができる。

実務上の留意点

個人事業者が死亡した場合、相続人は二つの選択肢がある。一つは、建設業を承継するために相続認可申請を行うこと、もう一つは、事業を承継せずに廃業届を提出することである。

相続認可申請を行う場合は、死亡後30日以内に申請を行い、認可を受ければ建設業許可を承継できる。この申請をしなかった場合に初めて、本号の廃業届出義務が発生する仕組みである。

国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、相続認可制度と廃業届出の関係について詳細な説明がなされており、実務の参考となる。

第2号:合併による法人の消滅

条文の内容

第2号は、法人が合併により消滅した場合について規定している。ただし、合併後存続する法人又は合併により設立される法人について、第17条の2第2項の認可がされなかった場合に限られる。

届出義務者

届出義務を負うのは「役員であった者」である。条文の括弧書きにより、役員とは「業務を執行する社員、取締役、執行役又はこれらに準ずる者」と定義されている。

実務上の留意点

合併の場合も、個人事業者の死亡の場合と同様、二つの選択肢がある。合併後の法人が建設業を承継するために認可申請を行うか、承継せずに廃業届を提出するかである。

吸収合併の場合は存続会社が、新設合併の場合は新設会社が認可申請を行うことになる。認可を受ければ、消滅会社の許可が承継される。この認可申請をしなかった場合、又は認可が得られなかった場合に、本号の届出義務が発生する。

合併による許可の承継については、平成26年の建設業法改正で大幅に簡素化され、実務上利用しやすくなっている。

第3号:破産手続開始決定による解散

条文の内容

第3号は、法人が破産手続開始の決定により解散した場合について規定している。

届出義務者

届出義務を負うのは「破産管財人」である。破産管財人は、裁判所によって選任される弁護士等の専門家であり、破産財団の管理処分権を有する。

実務上の留意点

破産手続開始決定により法人が解散すると、建設業許可は当然に失効する。破産管財人は、破産手続を進めるにあたり、30日以内に廃業届を提出しなければならない。

破産管財人が選任されている場合、建設業の工事請負契約の処理についても、破産管財人の判断に委ねられることになる。既存の工事契約については、破産法の規定に従って処理される。

第4号:その他の事由による解散

条文の内容

第4号は、法人が合併又は破産手続開始の決定以外の事由により解散した場合について規定している。具体的には、株主総会の決議による解散、定款で定めた存続期間の満了、解散命令などが該当する。

届出義務者

届出義務を負うのは「清算人」である。清算人は、会社法等の規定により選任され、清算事務を行う者である。

実務上の留意点

任意解散の場合、解散の登記と同時に清算人の選任登記も行われるのが通常である。清算人は、解散後30日以内に廃業届を提出する必要がある。

清算中の法人は、清算の目的の範囲内でのみ権利能力を有するため、新たな建設工事を請け負うことはできない。ただし、解散前に締結した工事請負契約については、清算の一環として完成させることは可能である。

第5号:建設業の廃止

条文の内容

第5号は、許可を受けた建設業を廃止した場合について規定している。ただし、第17条の2第1項又は第3項の認可を受けたとき(事業譲渡等による承継の場合)は除かれる。

届出義務者

届出義務を負うのは、個人の場合は「当該許可に係る建設業者であった個人」、法人の場合は「当該許可に係る建設業者であった法人の役員」である。

実務上の留意点

建設業の廃止には、様々な態様がある。事業全体を廃止する場合のほか、複数の許可業種のうち一部を廃止する場合、特定建設業許可のみを廃止して一般建設業許可は継続する場合なども含まれる。

実務上最も多いのは、経営状況の悪化や後継者不在などの理由により、自主的に建設業を廃止するケースである。この場合、廃業届の提出により、許可は失効する。

事業譲渡により建設業を第三者に譲渡する場合は、譲受人が認可申請を行うことで許可を承継できる。この認可を受けた場合は、譲渡人による廃業届は不要となる。

30日以内の届出期限

起算点

「30日以内」の起算点は、各号に掲げる事由が発生した日である。個人事業者の死亡であれば死亡日、法人の解散であれば解散の効力発生日が起算点となる。

期限の計算

期限の計算は、民法第140条以下の期間計算の規定に従う。初日は算入せず、翌日から起算して30日目が期限となる。期限の末日が行政機関の休日である場合は、その翌日が期限となる。

期限に遅れた場合

届出期限を過ぎても届出は受理されるが、前述のとおり罰則の適用対象となる可能性がある。また、許可行政庁の把握が遅れることで、不正な許可の利用などの弊害が生じる恐れもある。

届出先

届出先は「国土交通大臣又は都道府県知事」である。具体的には、当該許可を与えた行政庁に届け出る。国土交通大臣許可であれば国土交通大臣に、都道府県知事許可であれば当該都道府県知事に届け出ることになる。

実務上は、国土交通大臣許可の場合は各地方整備局等の窓口に、都道府県知事許可の場合は都道府県の建設業許可担当部署に届出書を提出する。

届出の法的性質と効果

法的性質

本条の届出は、報告的届出である。届出により許可が失効するのではなく、許可失効事由の発生により許可は既に効力を失っており、その事実を行政庁に報告するものである。

届出の効果

届出により、行政庁は許可業者名簿を更新し、許可の失効を公示する。これにより、第三者が許可の状況を正確に把握できるようになる。

届出を怠った場合でも、許可の効力には影響しない。ただし、前述のとおり罰則の対象となり得る。

実務上の手続

届出書の様式

廃業等の届出書の様式は、国土交通省令により定められている。各都道府県においても、国の様式に準じた様式が定められていることが多い。

国土交通省のウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/)の建設業許可関連ページでは、届出書の様式がダウンロードできるようになっており、記載例も提供されている。

添付書類

届出書には、事由を証する書類の添付が求められる。例えば、個人事業者の死亡であれば死亡診断書又は除籍謄本、法人の解散であれば解散の登記事項証明書などである。

許可通知書等の返納

一部の都道府県では、廃業届の提出とともに、許可通知書や許可証明書の返納を求めているところもある。各都道府県の取扱いを確認する必要がある。

他条文との関係

第17条の2(事業譲渡等による承継)

本条第5号の括弧書きにより、事業譲渡等の認可を受けた場合は廃業届が不要となる。これは、認可により許可が承継され、許可が消滅しないためである。

第17条の3(相続による承継)

本条第1号の括弧書きにより、相続認可申請をした場合は廃業届が不要となる。相続認可により、相続人が被相続人の地位を承継するためである。

第52条(罰則)

廃業等の届出を怠った場合、第52条第1項第6号により、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる。

判例・行政実例

廃業等の届出に関する判例は多くないが、届出義務違反に対する罰則適用の事例は存在する。

行政実例としては、届出義務者が複数いる場合(相続人が複数の場合など)の取扱いや、届出期限の計算方法などについて、国土交通省から通知が発出されている。

令和元年改正との関係

令和元年の建設業法改正により、承継制度が拡充された。これに伴い、本条第2号及び第5号の括弧書きも整備され、認可を受けた場合の廃業届の除外が明確化された。

改正前は、事業譲渡による承継制度が存在しなかったため、事業譲渡の場合も必ず廃業届が必要であった。改正により、認可を受ければ許可を承継できるようになり、建設業の円滑な事業承継が促進されている。

実務上の留意事項

タイミングの重要性

廃業等の事由が発生したら、速やかに届出の準備を始めることが重要である。30日という期限は意外と短く、必要書類の収集に時間がかかる場合もある。

工事中の取扱い

廃業届を提出すると許可は失効するが、既に締結した工事請負契約については、完成させる義務がある。ただし、許可が必要な新たな工事を請け負うことはできなくなる。

許可の取り直し

一度廃業届を提出すると、再び建設業を営む場合は、新規に許可申請を行う必要がある。廃業前と同じ許可を受けられるわけではなく、改めて許可要件を満たす必要がある。

複数業種・複数許可の場合

一般建設業許可と特定建設業許可の両方を受けている場合や、複数の業種について許可を受けている場合、一部のみを廃止することも可能である。この場合、廃止する部分についてのみ届け出ることになる。

コンプライアンス上の重要性

廃業等の届出は、建設業許可制度の根幹に関わる重要な手続である。届出を怠ると、以下のようなリスクが生じる。

  1. 刑事罰のリスク:前述のとおり、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金という刑事罰の対象となる。
  2. 信用リスク:届出義務違反が明らかになると、企業や個人の信用が大きく損なわれる。
  3. 行政指導のリスク:許可行政庁から是正指導を受ける可能性がある。
  4. 不正利用のリスク:失効した許可が放置されると、第三者による不正利用の温床となる恐れがある。

建設業に携わる企業は、適切なコンプライアンス体制を構築し、このような届出義務を確実に履行する必要がある。

まとめ

建設業法第12条は、許可業者の廃業等の事由が発生した場合の届出義務を定めた規定である。個人事業者の死亡、法人の合併・解散、建設業の廃止など、様々な事由と、それぞれの届出義務者が明確に規定されている。

届出期限は30日以内であり、違反すると刑事罰の対象となる。また、承継制度を利用する場合は、廃業届が不要となる点も重要である。

建設業許可制度の実効性を確保するため、届出義務を確実に履行することが、すべての許可業者に求められている。


専門家によるコンプライアンス支援のご案内

建設業法をはじめとする建設業関連法令の遵守は、企業の持続的発展に不可欠である。しかし、法令は複雑であり、実務への適用には専門的な知識と経験が必要となる。

中川総合法務オフィスhttps://compliance21.com/)の代表、中川恒信は、建設業のコンプライアンスに関する豊富な実績を有している。

実績

  • 850回を超えるコンプライアンス研修の実施:様々な業種の企業に対し、実践的な研修を提供してきた。
  • 不祥事組織の態勢再構築支援:実際に不祥事が発生した組織のコンプライアンス態勢を根本から立て直した経験を持つ。
  • 内部通報外部窓口の運営:現在も複数の企業の内部通報外部窓口を担当し、実務的な知見を蓄積している。
  • マスコミからの意見聴取:不祥事企業の再発防止策について、マスコミから頻繁に意見を求められる専門家である。

サービス内容

  • 建設業法を含む建設業関連法令のコンプライアンス研修
  • リスクマネジメント研修
  • コンプライアンス態勢構築のコンサルティング
  • 内部通報制度の設計・運用支援

費用

研修・コンサルティング費用は、1回30万円(+消費税)が原則となっている。

お問い合わせ

建設業のコンプライアンス体制強化にご関心がある企業様は、ぜひお気軽にお問い合わせいただきたい。

確実な法令遵守体制の構築により、企業の信頼性向上と持続的成長を実現することが可能となる。

Follow me!