第15条の位置づけと制度趣旨

建設業法第15条は、特定建設業の許可を受けるための基準を定めた条文である。第3条で建設業の許可制度の基本が定められ、第7条で一般建設業の許可基準が規定されているのに対し、本条は特定建設業に特有の、より厳格な要件を課している。

特定建設業とは、発注者から直接請け負った建設工事について、下請代金の額が政令で定める金額以上となる下請契約を締結して施工する建設業者をいう。現行の政令基準では、建築一式工事の場合は7,000万円以上、その他の工事では4,500万円以上の下請発注を行う場合が該当する。

本条が一般建設業よりも厳しい基準を設ける理由は、特定建設業者が多額の下請契約を締結することから、下請業者の保護及び建設工事の適正な施工を確保する必要性が高いためである。特に、大規模工事における元請業者の技術力と資力は、工事全体の品質と下請業者への支払能力に直結する。

第1号要件:一般建設業の基準の準用

第1号は「第七条第一号及び第三号に該当する者であること」と定める。これは特定建設業の許可を受けようとする者も、一般建設業と同様の要件を満たす必要があることを意味する。

具体的には、第7条第1号の「請負契約に関して誠実性を有すること」、そして第3号の「請負契約を履行するに足りる財産的基礎又は金銭的信用を有すること」の要件である。ただし、第3号については本条第3号で特定建設業に特有の、より厳格な財産的基礎の要件が別途定められているため、実質的には誠実性要件の準用が主たる意味を持つ。

誠実性要件については第7条の解説で詳述されるべき内容であるが、建設業法、独占禁止法、労働基準法等の法令違反による処分歴がないこと、不正又は不誠実な行為をするおそれが明らかでないことなどが審査される。国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、法人の役員や個人事業主本人について、過去の法令違反歴を詳細に確認することとされている。

第2号要件:特定営業所技術者の専任配置

特定営業所技術者の役割

第2号は特定建設業の許可における最も重要な要件の一つである。営業所ごとに「特定営業所技術者」を専任で配置することを求めている。

特定営業所技術者とは、建設工事の請負契約の締結及び履行の業務に関する技術上の管理をつかさどる者である。一般建設業における専任技術者(第7条第2号)よりも高度な技術力が要求される。これは特定建設業者が大規模工事を元請として総合的に管理する立場にあることから、より高い技術管理能力が必要とされるためである。

特定営業所技術者の資格要件

特定営業所技術者となるためには、次のいずれかに該当する必要がある。

イ 国家資格者

第27条第1項に基づく技術検定(1級施工管理技士等)その他の法令による試験に合格した者、又は他の法令による免許を受けた者である。具体的には以下のような資格が該当する。

  • 1級土木施工管理技士
  • 1級建築施工管理技士
  • 1級電気工事施工管理技士
  • 1級管工事施工管理技士
  • 1級造園施工管理技士
  • 1級建設機械施工管理技士
  • 一級建築士
  • 技術士(建設部門等の該当分野)

国土交通省告示により、業種ごとに必要な資格が詳細に定められている。たとえば土木工事業であれば1級土木施工管理技士や技術士(建設部門)が、建築工事業であれば1級建築施工管理技士や一級建築士がそれぞれ該当する。

ロ 実務経験者

第7条第2号イ、ロ又はハに該当する者(大学・高校等の指定学科卒業者、実務経験者、大臣特認者)のうち、発注者から直接請け負った請負代金が政令で定める金額以上の工事について、2年以上指導監督的な実務経験を有する者である。

政令で定める金額は、建設業法施行令第5条の2により、建築一式工事については7,000万円、その他の工事については4,500万円とされている。

「指導監督的な実務経験」とは、国土交通省のガイドラインによれば、現場代理人、主任技術者、工事主任、設計監理者などの立場で、工事の技術面を総合的に指導監督した経験を指す。単なる作業従事者としての経験では不十分であり、一定規模以上の工事を統括管理した経験が必要となる。

ハ 大臣認定者

国土交通大臣がイ又はロに掲げる者と同等以上の能力を有すると認定した者である。実務上は稀なケースであるが、外国の資格保有者や特殊な経歴を持つ者について、個別に審査の上で認定される場合がある。

指定建設業の特例

本条第2号ただし書は、「指定建設業」について特別な規制を設けている。指定建設業とは、「施工技術の総合性、施工技術の普及状況その他の事情を考慮して政令で定める建設業」である。

建設業法施行令第5条の3により、以下の7業種が指定建設業とされている。

  1. 土木工事業
  2. 建築工事業
  3. 電気工事業
  4. 管工事業
  5. 鋼構造物工事業
  6. 舗装工事業
  7. 造園工事業

これらの業種は、施工技術が高度であり総合的な管理能力が特に求められること、また業界における技術者の育成体制が確立していることから、指定建設業として特別の規制対象とされている。

指定建設業の許可を受けようとする場合、営業所に配置する専任の技術者は、前述の「イ 国家資格者」に該当する者、又は「ハ 大臣認定者」(イに掲げる者と同等以上と認定された者)でなければならない。つまり、「ロ 実務経験者」では資格を満たさないのである。

この規制の趣旨は、指定建設業が特に高度な技術を要する業種であることから、国家資格等により客観的に能力が担保された者に限定することで、工事の品質確保と下請業者の保護をより確実にする点にある。

専任性の要件

「専任の者」とは、営業所に常勤して専らその職務に従事する者を意味する。国土交通省のガイドラインでは、他の営業所や現場との兼務、他社との兼職は原則として認められない。ただし、同一営業所内での他の職務(経営業務の管理責任者等)との兼務は可能である。

専任性の確認のため、許可申請時には健康保険証や住民票、営業所の配置図などの提出が求められる。また、許可後も立入検査等により専任性が継続して確認される。専任技術者が欠けた状態が継続すると、許可の取消事由となりうる(第29条)。

第3号要件:財産的基礎

第3号は「発注者との間の請負契約で、その請負代金の額が政令で定める金額以上であるものを履行するに足りる財産的基礎を有すること」と定める。これは特定建設業者の財産的要件である。

一般建設業の場合(第7条第3号)、請負契約を履行するに足りる財産的基礎「又は」金銭的信用を有することが求められるが、特定建設業ではより厳格に「財産的基礎」が要求される。これは下請業者への支払能力を確実に担保するためである。

政令で定める金額

建設業法施行令第3条により、以下の基準が定められている。

  1. 欠損の額が資本金の20%を超えていないこと
  2. 流動比率が75%以上であること
  3. 資本金が2,000万円以上であること
  4. 自己資本が4,000万円以上であること

これらの要件はすべて満たす必要がある(AND条件)。一般建設業の財産的要件(自己資本500万円以上又は金融機関の融資証明等)と比較して、大幅に厳しい基準となっている。

各要件の意味

欠損比率

欠損の額とは、法人の場合は貸借対照表の繰越利益剰余金(マイナスの場合)が資本剰余金等を上回る部分をいう。資本金の20%を超える欠損があると、財務体質が悪化しているとみなされ、許可要件を満たさない。

流動比率

流動比率とは、流動資産を流動負債で除した値である。75%以上であることが求められる。これは短期的な支払能力の指標であり、下請業者への支払能力を確保するための重要な基準である。

資本金・自己資本

資本金2,000万円以上、かつ自己資本4,000万円以上という基準は、一定規模以上の財産を有することを求めるものである。自己資本とは、法人の場合は貸借対照表の純資産合計額を指す。

財務諸表の提出

財産的基礎の確認のため、新規許可申請時には直前の財務諸表(貸借対照表、損益計算書)の提出が必要である。また、許可後も毎事業年度終了後4か月以内に決算変更届(財務諸表を含む)を提出しなければならない(第11条)。

国土交通省の「建設業法施行規則」第17条の3以下では、財務諸表の様式が詳細に定められており、建設業者は建設業法に定める様式に従った財務諸表を作成する義務がある。

特定建設業許可の審査プロセス

国土交通大臣又は都道府県知事は、以上の要件をすべて満たしていると認めるときでなければ、許可をしてはならない。「認めるときでなければ」という要件裁量の形式をとっているが、要件を満たす場合には許可すべき義務があり(羈束裁量)、恣意的な不許可は認められない。

許可申請から許可までの標準処理期間は、国土交通省の基準では30日から90日程度とされている。審査では提出書類の形式的確認にとどまらず、実質的な要件充足の確認が行われる。必要に応じて追加資料の提出や、営業所への立入調査が実施されることもある。

不許可となった場合、申請者には通知がなされ、行政不服審査法に基づく不服申立てや、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟の提起が可能である。ただし、実務上は事前相談制度が整備されており、要件を満たさない場合は申請前の段階で指導されることが多い。

実務上の留意点

一般と特定の同時申請

同一業種について一般建設業と特定建設業の両方の許可を同時に受けることはできない(第3条第1項ただし書)。ただし、異なる業種であれば、一方を一般、他方を特定として許可を受けることは可能である。

たとえば、土木工事業を特定建設業として、塗装工事業を一般建設業として許可を受けることは可能である。この場合、各業種ごとに要件を満たす専任技術者の配置が必要となる。

業種追加と般・特新規

既に一般建設業の許可を受けている業者が、同一業種について特定建設業の許可を取得する場合、「般・特新規」申請となる。この場合、一般建設業の許可は失効し、特定建設業の許可のみが有効となる。

業種追加(新たな業種の許可を追加取得)と般・特新規を混同しないよう注意が必要である。実務上、この区別を誤ると申請手続自体が無効となる可能性がある。

技術者の要件確認

特に指定建設業の場合、実務経験による資格認定が認められないため、必ず1級の国家資格保有者を確保する必要がある。中小企業では有資格者の確保が困難な場合もあり、計画的な人材育成や採用が重要となる。

また、専任技術者が退職等により不在となった場合、速やかに後任者を配置しなければならない。2週間以内に変更届を提出する義務があり(第11条)、長期間にわたり専任技術者不在の状態が続くと、監督処分の対象となる。

財産的基礎の継続的確保

許可取得時に財産的基礎を満たしていても、その後の経営悪化により基準を下回る場合がある。許可の更新時(5年ごと)には再度審査されるため、継続的な財務体質の維持が必要である。

特に流動比率については、建設業の特性上(工事代金の回収サイトが長い、前払金が少ない等)、悪化しやすい傾向がある。日常的な財務管理と、必要に応じた増資や借入金の長期化などの対策が求められる。

コンプライアンス体制の整備

誠実性要件(第1号で準用される第7条第1号)は、法令遵守体制の整備と密接に関連する。近年、建設業界では労働基準法違反(長時間労働、賃金未払)、独占禁止法違反(談合)、建設業法違反(一括下請負等)などが社会問題化しており、行政処分も厳格化している。

特定建設業者は元請として下請業者を指導する立場にあることから、自社のみならず下請業者を含めた現場全体のコンプライアンス確保が求められる。内部通報制度の整備、定期的な法令研修の実施、監査体制の構築などが重要である。

関連条文との関係

本条は第3条の許可制度、第7条の一般建設業許可基準と密接に関連する。また、第15条の2では特定建設業者に課される特別の義務(下請代金の支払期日、不当に低い請負代金の禁止等)が定められており、本条の厳格な許可要件はこれらの義務を適切に履行できる能力を確保するためのものである。

さらに、第26条では専任技術者の職務が、第26条の3では主任技術者及び監理技術者の設置義務が定められており、本条で求められる営業所の専任技術者と、現場に配置される主任技術者・監理技術者との関係を正確に理解する必要がある。

営業所の専任技術者は営業所に常駐して請負契約の締結等の技術的管理を行う者であり、現場の主任技術者・監理技術者は工事現場に専任で配置され施工の技術上の管理を行う者である。両者は別の者でなければならないのが原則だが、一定の小規模工事等では兼務が認められる場合もある。

本条の今後の課題

建設業界では技術者の高齢化と若手入職者の減少が深刻化している。特に1級施工管理技士等の有資格者の確保が困難になりつつあり、特定建設業の許可要件を満たすことが中小企業にとって大きな負担となっている。

一方で、下請業者保護と工事の品質確保という本条の趣旨は今後も重要性を増すと考えられる。技術者の育成支援、資格取得の促進、働き方改革による業界の魅力向上など、多角的な施策が求められる。

また、デジタル化の進展に伴い、技術者の資格要件のあり方も検討課題となる可能性がある。BIM/CIM、AIを活用した施工管理など、新たな技術に対応した能力評価の方法について、今後の制度改正の動向を注視する必要がある。


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