1. 条文の全文

(許可換えの場合における従前の許可の効力) 第九条 許可に係る建設業者が許可を受けた後次の各号のいずれかに該当して引き続き許可を受けた建設業を営もうとする場合(第十七条の二第一項から第三項まで又は第十七条の三第四項の規定により他の建設業者の地位を承継したことにより第三号に該当して引き続き許可を受けた建設業を営もうとする場合を除く。)において、第三条第一項の規定により国土交通大臣又は都道府県知事の許可を受けたときは、その者に係る従前の国土交通大臣又は都道府県知事の許可は、その効力を失う。
一 国土交通大臣の許可を受けた者が一の都道府県の区域内にのみ営業所を有することとなつたとき。
二 都道府県知事の許可を受けた者が当該都道府県の区域内における営業所を廃止して、他の一の都道府県の区域内に営業所を設置することとなつたとき。
三 都道府県知事の許可を受けた者が二以上の都道府県の区域内に営業所を有することとなつたとき。

2 第三条第四項の規定は建設業者が前項各号の一に該当して引き続き許可を受けた建設業を営もうとする場合において第五条の規定による申請があつたときについて、第六条第二項の規定はその申請をする者について準用する。

2. 条文の概要と立法趣旨

建設業法第9条は、建設業者の営業体制の変化により許可行政庁が変更となる場合の手続きと従前許可の取り扱いを定めている。本条は「許可換え」と呼ばれる制度の根拠条文である。

建設業許可は、営業所の設置状況により許可行政庁が決まるため、事業展開に伴い営業所の配置が変わると許可行政庁も変更となる場合がある。この際、従前の許可を有効なまま維持しつつ、新たな許可行政庁からも許可を取得することは二重許可となり、制度上の混乱を招く。そこで本条は、新許可の取得と同時に従前許可の効力を失効させることで、制度の整合性を保っている。

3. 第1項各号の詳細解説

第1号:大臣許可から知事許可への変更

「国土交通大臣の許可を受けた者が一の都道府県の区域内にのみ営業所を有することとなつたとき」

国土交通大臣許可(いわゆる大臣許可)を受けていた建設業者が、事業縮小等により営業所を一つの都道府県内に集約した場合を指す。この場合、都道府県知事許可への許可換えが必要となる。

具体例:

  • 東京都と大阪府に営業所を構えていた会社が大阪府の営業所を閉鎖し、東京都内の営業所のみで事業を継続する場合
  • 複数県にまたがって展開していた営業所を本社所在地の一県に統合する場合

第2号:知事許可から他の知事許可への変更

「都道府県知事の許可を受けた者が当該都道府県の区域内における営業所を廃止して、他の一の都道府県の区域内に営業所を設置することとなつたとき」

一つの都道府県知事の許可を受けていた建設業者が、当該都道府県から完全に撤退し、他の都道府県に営業拠点を移転する場合である。

具体例:

  • 神奈川県知事許可を受けていた会社が神奈川県内の全営業所を廃止し、千葉県内に新たに営業所を設置する場合
  • 事業承継に伴い本社機能を他県に移転し、従前の都道府県では事業を行わなくなる場合

第3号:知事許可から大臣許可への変更

「都道府県知事の許可を受けた者が二以上の都道府県の区域内に営業所を有することとなつたとき」

都道府県知事許可を受けていた建設業者が事業拡大により複数の都道府県に営業所を設置することになった場合を指す。この場合、国土交通大臣許可への許可換えが必要となる。

具体例:

  • 東京都知事許可を受けていた会社が事業拡大により埼玉県に支店を新設する場合
  • 地場建設業者が広域展開を図り、隣接県に営業所を開設する場合

4. 除外規定の解説

第1項括弧書きでは、「第十七条の二第一項から第三項まで又は第十七条の三第四項の規定により他の建設業者の地位を承継したことにより第三号に該当して引き続き許可を受けた建設業を営もうとする場合を除く」と定められている。

これは、合併・分割・事業譲渡等による建設業者の地位承継に伴い営業所配置が変更となった場合には、本条の適用を除外することを意味する。地位承継の場合には別途第17条の2及び第17条の3の特別な手続きが適用されるためである。

5. 第2項の準用規定

第2項は、許可換えの申請に際して第3条第4項及び第6条第2項の規定を準用することを定めている。

第3条第4項の準用: 同一人が同一の建設業について重複して許可申請をすることを禁止する規定の適用。ただし、許可換えの場合は適法な重複申請として扱われる。

第6条第2項の準用: 許可申請書の記載内容や添付書類の審査に関する規定の適用。新規許可と同様の審査基準が適用される。

6. 実務上の重要なポイント

許可換えの手続きタイミング

許可換えが必要となる営業体制の変更を行う前に、新たな許可行政庁への許可申請を行う必要がある。営業所の設置・廃止を先行させてしまうと、無許可営業期間が発生するリスクがある。

継続性の確保

許可換えにより許可行政庁は変わるが、建設業者としての地位は継続する。従って、経営事項審査の結果や過去の工事実績等は引き継がれる。

申請書類の準備

許可換えの申請は実質的に新規許可申請と同様の書類が必要となる。特に、新たな営業所に配置する技術者の確保や財産的基礎の証明等、許可要件を満たす準備が重要である。

7. 法改正の影響

令和6年の建設業法改正により、建設業許可制度にも変更が生じているが、第9条の許可換え制度の基本的な枠組みに変更はない。ただし、電子申請システム(JCIP)の導入により、手続きの効率化が図られている。

8. まとめ

建設業法第9条は、建設業者の事業展開に伴う許可行政庁の変更を適切に処理するための重要な規定である。営業所の設置状況の変化により許可行政庁が変わる場合には、速やかに許可換えの手続きを行い、制度の整合性を保つことが求められる。実務においては、事前の計画的な手続きと要件確認が成功の鍵となる。


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