はじめに

相続が開始された瞬間から、相続財産の管理は重要な課題となります。特に現代では、マイナンバー制度の導入により、預貯金のマイナンバー登録も任意で実施されており、これが近い将来、国民に義務化される動きがあります。このような状況下で、タンス預金が増加傾向にあることは見逃せない現実です。

「相続財産の確保」とは、講学上の相続財産の管理のことを指します。マイナンバー時代において、タンス預金は現金そのものであるが故に、事実上の早い者勝ちになる危険性が高まっているのです。よって、時間との勝負であり、いち早く専門家に依頼したほうが勝ち組になるでしょう。

相続登記義務化と相続財産管理の重要性

2024年4月1日から相続登記が義務化されており、相続による不動産取得後3年以内に登記を行わなければ、10万円以下の過料が科されるようになりました。この法改正により、相続財産の管理はより一層重要になっています。

1. 相続財産の管理と取戻し

(1) 相続財産の管理

① 共同相続人による共同管理

(相続財産の管理)民法第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

「単純承認してから遺産分割までの相続財産の管理の仕方」 ⇒物権法の規定に従います

(共有物の使用)民法第249条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

(共有物の変更)民法第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

(共有物の管理)民法第252条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

(相続財産に関する費用)民法第885条 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。

共同相続における重要な判例

共同相続の場合、相続人の一人が単独所有権取得の登記をなし、これを第三者に譲渡し、所有権移転の登記をしても、他の相続人は自己の持分を登記なくして、これに対抗できます(最判昭38・2・22)。

時効の完成により利益を受ける者は自己が直接に受けるべき利益の存する限度で時効を援用することができると解すべきであるから、被相続人の占有により取得時効が完成した場合において、その共同相続人の一人は、自己の相続分の限度においてのみ取得時効を援用することができるにすぎません(最判平13・7・10)。

② 相続財産管理人による管理

委任により、共同相続人が財産管理人を依頼し、その者が財産管理することも可能です。遺言があれば、遺言執行者が決まっていればその者がその役をします(民法第1012条)。遺産分割の申し立てがあれば、遺産管理を家庭裁判所が選出する場合もあります(家事事件手続法第200条)。

③ 相続財産の占有

取得時効について 共同相続人の一人が、単独に相続したものと信じて疑わず、相続開始とともに相続財産を現実に占有し、その管理、使用を専行してその収益を独占し、公租・公課も自己の名でその負担において納付してきており、これについて他の相続人が何ら関心をもたず、異議も述べなかった等の事情の下においては、前記相続人はその相続の時から相続財産につき単独所有者としての自主占有を取得したものというべきです(最判昭47・9・8)。

明渡請求について 自己の持分を超えて単独で共有不動産を占有する共有者に対し、他の共有者は当然には共有不動産の明渡しを請求することはできませんが、その持分割合に応じて、占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払いを請求することができます(最判平12・4・7判時1713-50)。

使用収益による利得の返還 共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認され、相続開始後の建物使用により当該相続人が得る利益に法律上の原因がないということはできないから、他の共同相続人による当該相続人に対する不当利得の返還請求には理由がありません(最判平8・12・17)。

果実について 相続開始から遺産分割までの間に遺産である不動産から生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得し、その帰属は後にされた遺産分割の影響を受けません(最判平17・9・8民集59-7-1931)。

タンス預金の現代的課題

タンス預金が税務署に発覚する仕組み

「税務署にはバレないだろう」とタンス預金を隠して相続税申告をしても、税務調査によってその存在が発覚し、二重のペナルティが課せられるリスクがあります。

税務署がタンス預金を発見する手法は多岐にわたります:

  1. 被相続人の生活状況との照合:収入と支出のバランスから推測
  2. 相続人への聞き取り調査:税務調査時の詳細なヒアリング
  3. 金融機関の取引履歴調査:大きな引き出しの痕跡
  4. 不動産や高額商品の購入履歴:現金での取引記録

相続財産散逸防止のための実務的対策

速やかな財産目録の作成

相続開始後は、以下の手順で財産の確保を行うべきです:

  1. 現金・貴重品の確認:金庫、タンス、引き出し等の総点検
  2. 銀行口座の凍結確認:各金融機関への連絡と残高証明書の取得
  3. 不動産の現況調査:登記簿謄本の取得と現地確認
  4. 有価証券の確認:証券会社への残高照会
  5. 負債の確認:借入金、未払金等の調査

共同相続人間での合意形成

相続財産の管理については、以下の点で合意を図ることが重要です:

  • 財産管理の責任者の選定
  • 管理費用の負担方法
  • 重要事項の決定方法
  • 定期的な報告体制

京都・大阪における相続実務の特色

京都・大阪地区においては、歴史的な経緯から複雑な不動産権利関係や、家業承継に関わる特殊な相続案件が多く見られます。特に以下の点に注意が必要です:

京都特有の相続問題

  • 町家相続:建物の文化財的価値と経済的価値の乖離
  • 伝統工芸関連資産:技術承継と財産承継の複合問題
  • 観光業関連資産:営業権と不動産の一体的承継

大阪特有の相続問題

  • 商業不動産:テナント権利関係の複雑性
  • 製造業資産:工場用地と設備の承継問題
  • 金融資産:多様な投資商品の評価

最新の相続制度改正への対応

2023年4月からは遺産相続に関するルールが一部変更され、相続財産管理人が選任されてから最低6か月の期間で権利関係を確定できるように変わりました。

この改正により、相続財産の管理はより迅速性が求められるようになっています。特に以下の点で注意が必要です:

  1. 遺産分割協議の期間制限:相続開始から10年経過後の制限
  2. 相続登記の義務化:3年以内の登記義務
  3. 相続財産管理の効率化:手続きの簡素化と迅速化

(相続財産の清算人の選任)
第九百五十二条 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。

(相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第九百五十七条 第九百五十二条第二項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、二箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。

結論

相続財産の確保は、相続開始と同時に始まる重要な手続きです。特に現代においては、マイナンバー制度の拡充や相続登記の義務化等により、より一層の注意深い対応が求められています。

タンス預金を含む現金資産の管理については、税務署は、申告期限の翌日から最長7年間は税を徴収する権利を持っているため、正しく納税を済ませ、すっきりした気分で毎日を送ることをお勧めします。

相続財産の適切な管理により、相続人間の紛争を防止し、円滑な相続手続きを実現することが可能となります。そのためには、相続開始後の早期段階での専門家への相談が極めて重要です。


相続に関するご相談は中川総合法務オフィスへ

初回の30分~50分は無料で相続の相談をどなたでも自宅、病院とホームなどの施設や面談会場又はオンラインで受けることができます。

ご予約・お問い合わせ

相続問題でお悩みの方は、お気軽にお声かけください。豊富な実績と深い専門知識で、皆様の相続手続きを全面的にサポートいたします。

Follow me!