なぜ固定資産税の徴収誤りは後を絶たないのか?全国で続発する課税ミスの実態
地方税は地方自治法第223条に規定される地方公共団体の財政を支える重要な収入源であり、なかでも固定資産税は市町村税収の約4割を占める基幹税目です。しかし近年、この固定資産税の徴収誤りが全国の自治体で相次いで発覚し、住民の行政への信頼を揺るがす深刻な問題となっています。
2025年度も続く固定資産税課税ミスの最新事例
2025年に入ってからも、固定資産税の徴収誤りは依然として多発しています。代表的な事例を見てみましょう。
■ 奥州市の事例(2025年9月発覚) 岩手県奥州市では、事務処理の誤りにより固定資産税を過大に徴収していたことが判明しました。事業者側に還付加算金を含めて2,452万円を還付する事態となりました。
■ 須坂市の事例(2025年8月発覚) 長野県須坂市では、役所内の連絡ミスにより農地の所有者6人に対し、固定資産税を過大徴収。県の注意文書を受けた調査で発覚し、約1万8,000円を返還することになりました。
■ 士幌町の事例(2025年6月発覚) 北海道士幌町では、2024年度の固定資産税について、納税者155人に対し土地の評価額を誤って算出し、課税していたことが明らかになりました。
■ 郡山市の事例(2025年6月発覚) 福島県郡山市では、令和6年度分の固定資産税に算定の誤りがあり、74件、約254万円を過大に徴収していたことが判明しました。
これらは氷山の一角に過ぎません。2021年には小松市で19年間にわたる過大徴収(還付総額2,156万円)、2022年には沖縄市で複合構造家屋の経年減点補正率の誤適用による課税ミス(還付総額4,020万円)が発覚するなど、長期間にわたる誤りが全国各地で続いています。
課税ミスの典型的なパターンとは?専門家が分析する主な原因
固定資産税の徴収誤りには、いくつかの典型的なパターンが存在します。
1. 住宅用地特例の適用漏れ・誤適用
- 有料老人ホームや高齢者グループホームなど、住宅用地特例が適用されるべき施設で特例を適用せず過大徴収
- アパート入居者専用の駐車場について住宅用地の減免を適用していない
- 施設の設立時の判断ミスにより、長期間誤った課税を継続
2. 経年減点補正率の適用誤り
- 複合構造家屋において、面積の大きい部分の構造ではなく、誤って面積が小さい部分の構造の経年減点補正率を適用
- 初年度の経年減点補正率の適用漏れ
- 構造を誤って適用した場合、年数が経過するほど経年減点補正率の差が開き、税額への影響が累積的に拡大
3. 路線価・評価額変更の反映漏れ
- 市営駐輪場として賃借している土地について、路線価の基準となる道路の変更があったにもかかわらず評価額への反映を怠る
- 土地の価格入力ミス、補正率の適用ミス
4. 課税客体の調査不足
- 台帳と航空写真を照合したところ、地番と実際の家屋の立地状況に誤りがあり、約1,700件の土地について固定資産税の課税標準の軽減措置の適用に過誤が発生
- 実地調査の不徹底による課税客体の現況把握の誤り
総務省が指摘する地方公共団体の内部統制の課題とリスク管理の不備
「賦課事務」における想定されるリスクと顕在化事例
総務省の「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」では、固定資産税の賦課事務について、以下のようなリスクが想定されています。
■ 事務フロー「賦課事務」で想定されるリスク
- 事前調査の未実施
- 過大入力・過少入力
- 過大徴収・過少徴収
- システム間のデータ移行の不具合
- 再建築費評点補正率の更新漏れ
これらのリスクが顕在化すると、数百万円から数億円規模の還付が必要となり、自治体財政への影響だけでなく、住民からの信頼失墜という重大な結果を招きます。
内部統制未整備団体と整備団体の決定的な違い
地方自治法の改正により、都道府県および政令指定都市には内部統制の整備が義務付けられましたが、一般市町村では努力義務にとどまっています。しかし、固定資産税の徴収誤りが多発している現状を見ると、内部統制の整備運用が不十分な団体において課税ミスが発生しやすいという傾向が明確に見られます。
収入のリスク管理において、内部統制が整備されている団体とそうでない団体では、チェック体制、職員研修、監査手続きの質に大きな差があります。
実効性のある内部統制とは?総務省ガイドラインに基づく具体的対応策
各課が実施すべき内部統制の具体的手法
総務省のガイドラインでは、固定資産税賦課事務における内部統制として、以下の対応策が推奨されています。
【適時の課税客体状況・評価額変更状況の確認】
- 計画的な実地調査の実施
- 固定資産の賦課期日における課税客体の状況を、地区ごとに計画的に実地調査
- 航空写真やドローン映像の活用による効率的な現況確認
- GIS(地理情報システム)と課税台帳の照合による精度向上
 
- 評価額変更の適切な反映
- 固定資産の評価額に変更を生じる事情(路線価変更、用途変更、建物増改築等)が生じた場合、評価額が正しく変更されていることを確認
- 変更内容についてダブルチェックの徹底
- チェックリストによる点検の実施
 
- 職員研修の徹底
- 人事異動時には、後任者への引継ぎと並行して固定資産税賦課事務の研修を必須化
- 税制改正時には、改正内容の理解と実務への反映を確実にするための研修を実施
- 過去の課税ミス事例を教材とした実践的研修の実施
 
- 全国的に指摘された不備事項の確認
- 他の自治体で発覚した固定資産税の評価の不備について、自団体での適用状況を速やかに確認
- 横展開による未然防止の徹底
 
監査委員が実施すべき監査手続きの実務ポイント
内部統制の実効性を担保するためには、監査委員による適切な監査が不可欠です。
【監査を受ける部局に提出を求めるべき資料と監査手続き】
- 課税客体の状況確認方法のサンプル調査
- 実地調査の実施計画と実績の確認
- 航空写真との照合結果の検証
- 無作為抽出によるサンプル調査の実施
 
- 評価額変更のサンプル調査
- 主な変更事由(路線価の変更、用途変更等)の有無の確認
- 変更処理の正確性の検証
- 変更漏れがないかの確認
 
- 全国的に指摘された不備への対応状況確認
- 他自治体で発覚した課税ミスと同様の事例がないかの点検
- 是正措置の実施状況の確認
 
- チェック体制の実効性確認
- ダブルチェックの実施記録の確認
- チェックリストの活用状況の検証
- 職員研修の受講状況と理解度の確認
 
地方公共団体が今すぐ取り組むべき固定資産税課税適正化の実践ステップ
ステップ1:過去の課税データの全数点検
まず、過去の課税データについて、以下の観点から全数点検を実施することが必要です。
- 住宅用地特例の適用状況(特に福祉施設関係)
- 複合構造家屋の経年減点補正率の適用状況
- 路線価変更が反映されているかの確認
- 課税台帳と現況の整合性確認
ステップ2:リスクマネジメント体制の構築
組織としてのリスクマネジメント体制を構築し、以下を明確化します。
- リスクの識別と評価
- リスクへの対応策の策定
- 責任者の明確化
- モニタリング体制の確立
ステップ3:職員の専門性向上とコンプライアンス意識の醸成
固定資産税賦課事務は高度な専門知識を要します。以下の取り組みが有効です。
- 外部専門家による実践的研修の定期実施
- 事例研究による課税ミスの未然防止
- コンプライアンス意識の徹底
- 質問しやすい職場環境の整備
ステップ4:デジタル技術の活用による業務効率化とミス防止
- AI・RPA技術の活用による入力ミスの防止
- GISと課税システムの連携
- 自動チェック機能の実装
- データ分析による異常値の早期発見
地方公共団体におけるコンプライアンス態勢の再構築が急務
固定資産税の徴収誤りが多発している背景には、単なる事務ミスではなく、組織としてのコンプライアンス態勢の不備、内部統制の未整備、リスク管理意識の欠如という構造的な問題があります。
総務省のガイドラインでは、地方公共団体における内部統制の目的として、以下の4点が掲げられています。
- 業務の効率的かつ効果的な遂行
- 財務報告の信頼性の確保
- 業務に関わる法令等の遵守
- 資産の保全
固定資産税の適正な賦課徴収は、まさにこれら全ての要素に関わる重要な業務です。一度失われた住民からの信頼を回復するには、長い時間と多大な努力が必要となります。
まとめ:固定資産税の適正課税と内部統制強化に向けて
固定資産税の徴収誤りを防ぐためには、以下のポイントが重要です。
✓ 計画的な実地調査と課税客体の現況確認の徹底
✓ 評価額変更時のダブルチェック体制の確立
✓ 人事異動時・税制改正時の職員研修の必須化
✓ 全国的に指摘された不備の自団体での確認
✓ 監査委員による実効性のある監査手続きの実施
✓ 内部統制の整備と継続的な改善
✓ リスクマネジメント体制の構築と運用
地方公共団体の幹部職員、税務担当職員の皆様には、今一度、固定資産税賦課事務における内部統制の整備状況を点検し、必要な改善措置を講じることを強くお勧めいたします。
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【参考資料】
- 総務省「地方公共団体における内部統制制度の導入・実施ガイドライン」
- 総務省「固定資産税の課税事務に対する納税者の信頼確保について」
- 各地方公共団体の課税誤り公表資料


