はじめに

デジタル社会の進展に対応するため、近年の著作権法改正は重要な変更点を多数含んでいます。令和5年改正は2023年5月17日に成立、同年5月26日に公布され、令和3年改正は2021年5月26日に成立、同年6月2日に公布されました。本記事では、文化庁の公式資料に基づき、両改正の要点を実務的観点から詳しく解説します。

令和5年改正のポイント

1. 著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設

集中管理がされておらず、その利用可否に係る著作権者等の意思が明確でない著作物等(未管理公表著作物等)について、文化庁長官の裁定を受け、補償金を支払うことで、3年を上限とする時限的な利用を可能とする制度が創設されました。

主な特徴:

  • 利用期間の上限は3年(更新可能)
  • 著作権者等による取消請求が可能
  • 通常の使用料相当額の補償金支払いが必要
  • 民間機関(指定補償金管理機関・登録確認機関)による手続き簡素化

想定される利用場面:

  • 過去の作品のデジタルアーカイブ化
  • ウェブサイト掲載のアマチュア作家のコンテンツ利用
  • 複数権利者の一部と連絡がつかない場合

2. 立法・行政における権利制限規定の見直し

立法・行政のデジタル化への対応を進めるべく、著作物等について、著作権者等の許諾なく立法・行政のための内部資料として必要な公衆送信等をすることができるようにする改正が行われました。

主な内容:

  • クラウド保存・メール送信等の公衆送信が可能に
  • 特許審査等の行政手続での公衆送信も許可
  • 「著作権者の利益を不当に害する場合」は除外
  • 令和6年1月1日から施行

3. 損害賠償額の算定方法の見直し

海賊版被害対策として、著作権者等の販売等の能力を超える部分に係るライセンス料相当額を損害の算定基礎に追加する等の改正が実施されました。

改正のポイント:

  • 権利者の販売能力を超える部分もライセンス料相当額として算定
  • 著作権侵害を前提とした交渉額の考慮を明記
  • 「侵害し得」状況の解消を目指す

令和3年改正のポイント

1. 図書館関係の権利制限規定の見直し

(1)国立国会図書館による絶版等資料の個人向けインターネット送信

従来は国立国会図書館から他の図書館等に送信され、物理的に当該図書館等に来館した利用者のみが閲覧し、コピーを得ることが可能とされていた絶版等資料を、国立国会図書館が、一定の要件の下で直接利用者に対しても権利者の許諾なくインターネット送信することを可能とする改正が行われました。

主な要件:

  • 対象は「特定絶版等資料」に限定
  • 利用者の事前登録が必要
  • ダウンロード防止・抑止措置を実施
  • 必要な限度でのプリントアウトは可能

(2)図書館等による図書館資料の公衆送信

従来紙媒体での提供が可能とされていた図書館資料のコピーを権利者の許諾なく公衆送信することを可能とする改正が実施されました。

主な制限事項:

  • 送信主体を「特定図書館等」に限定
  • 不正拡散防止・抑止措置の実施
  • 「著作権者の利益を不当に害する場合」の制限
  • 補償金の支払い義務

2. 放送番組のインターネット同時配信等の権利処理円滑化

放送番組のインターネット同時配信等においては、放送では権利者から許諾が得られたものの、同時配信等に関して権利者からの許諾が得られないことを理由に放送番組に用いている音楽・画像・映像等を差し替えるといった「フタかぶせ」が行われ、著作権制度に起因する課題があると指摘されていました。

主な対策:

  1. 権利制限規定の拡充 - 学校教育番組、国会演説等の利用範囲拡大
  2. 許諾推定規定の創設 - 放送許諾時に同時配信等も許諾したものと推定
  3. レコード・レコード実演の利用円滑化 - 補償金支払いによる利用許可
  4. 映像実演の利用円滑化 - 再放送時の報酬支払いによる利用許可
  5. 協議不調時の裁定制度拡充 - 同時配信等も裁定制度の対象に

実務への影響と対応のポイント

企業・団体への影響

  1. コンテンツ利用の円滑化
    • 過去のコンテンツ活用がしやすくなる
    • デジタルアーカイブ事業の推進が可能
  2. 権利処理の簡素化
    • 新たな裁定制度による手続き迅速化
    • 放送同時配信の「フタかぶせ」問題解決
  3. 損害賠償リスクの増大
    • 海賊版・無断利用への賠償額増額
    • より適切な権利処理が必要

注意すべき事項

  1. 新裁定制度の要件確認
    • 著作権者の意思表示の有無を慎重に確認
    • 補償金算定の適正性
  2. 図書館送信サービスとの競合
    • 電子出版市場への影響考慮
    • ガイドライン遵守の重要性
  3. 放送同時配信の契約実務
    • 許諾推定規定の適用条件理解
    • 「別段の意思表示」への対応

まとめ

令和5年・令和3年の著作権法改正は、デジタル社会に対応した重要な制度変更を含んでいます。特に新たな裁定制度の創設や図書館のデジタル送信サービス拡充、放送同時配信の権利処理円滑化は、コンテンツ業界に大きな影響を与えると予想されます。

企業や団体においては、これらの改正内容を正確に理解し、適切な権利処理体制を構築することが重要です。複雑な権利関係や新制度の適用については、専門家による助言を受けることをお勧めします。


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