◆参考:旭川地裁平成23年10月4日判決
●事案
ある町職員がスーパーマーケットで商品(6800円相当)を万引きしたが警備員にも警官にも、住所、氏名を言わず暴れ出したため、現行犯逮捕され、翌日の全国紙の地方版で、逮捕の事実、実名、勤務先の町役場が新聞報道された。
逮捕後には窃盗容疑を認めたため釈放され、陳述書を町に提出し町長に謝罪した。町は事情聴取に対して、新聞記事は事実であるが、病気もあって診断書を持ってきたことを述べた。
賞罰及び賠償審査委員会は直接の告知・聴聞の機会を与えないまま、懲戒免職が相当と判断して答申し、町長は地方公務員法第33条第1項に規定する公務員としての信用を失墜させ、本町にとって著しく不名誉な事態をおこしたので、地公法29条1項3号に基づき、懲戒免職処分とした。これに対して処分を不服として、公平委員会に対して審査請求したが、処分を承認する旨の裁決をし、さらに再審請求もしたが覆らなかった。
●論点と判決
(1)処分が厳しすぎないか
・本件行為は公務外の行為であって職務との関連性は皆無であって職務の公正さを疑わせる要素はないこと、本件行為以前にXには公私ともに非違行為を行ったことはなく、28年間真面目に勤務していた
・裁判所は、懲戒処分の選択は懲戒権者の裁量に委ねられていること、本件処分は、人事院が作成した懲戒処分の指針に則って行われているが、本件指針では「公務外非行関係として他人の財物を窃取した場合は免職又は停職とすること及び具体的量定の決定に当たっては、非違行為の動機、態様、他の職員や社会に与える影響等を総合考慮する」旨示されているが、本件行為の動機、態様及び結果が悪質であること、本件行為後の警察官に対する対応も芳しくなく、他の職員及び社会に与えた影響は大きく、Xに有利な事情を考慮しても、停職処分ではなく免職処分を選択することが明らかに過重であるとまではいえない。
(2)賞罰及び賠償委員会で弁明の機会を与えなかったことが適正手続の欠缺となるか
・行政処分であっても、行政処分により制限を受ける権利利益の内容・性質・制限の程度
によっては憲法31条所定の法定手続の保障が及ぶのであり、特に懲戒免職処分は、身分を失い退職金の支給も受けられないという甚大な不利益を被るものであって、憲法上の人権を著しく侵害するものであるから、告知・聴聞の機会を設けるべきであったのでないか。
・裁判所は、「Y町には、懲戒処分するに当たって、事前に、被処分者に対して、告知・聴聞の手続をとるべきことを定めた規定は存在しない。しかしながら、地方公務員法27条1項が、地方公務員に対する懲戒処分の公正を定めていることに照らすと、懲戒処分の中でも、被処分者の地方公務員としての身分そのものに重大な不利益を及ぼす懲戒免職処分については、とりわけ処分の基礎となる事実の認定等について被処分者の実体上の権利の保護に欠けることのないよう、適正、公正な手続き履践することが要求されているというべきである。かかる観点からすると、懲戒免職処分の基礎となる事実の認定に影響を及ぼし、ひいては処分の内容に影響を及ぼす相当程度の可能性があるにもかかわらず、弁明の機会を与えなかった場合には、裁量権の逸脱があるものとして当該懲戒免職処分が違法となるというべきである。」と判示した。
しかし、本件の事情の下では助役が面談・事情聴取を行っている事等から懲戒処分に当たっての手続保障に関する裁量権の逸脱があるとはいえない。