1.地方公共団体に内部統制を導入する目的はコンプライアンス
(1)自治体不祥事の多さ
自治体の内部統制の現状では不祥事が減らない。
近畿の政令指定都市のコンプライアンスを担当するときに事前にちょっと調べただけでその都市の不祥事があまりに多いのに愕然とした。
殊に、顔をしかめざるをえないのは、猥褻犯の多さよ。どうなっているのか。
静岡県の教育委員会の教育長の話でもないが、万策尽きたのか。
公務員がこれでは何を信じろというのか。
抜本的なことを考えざるを得ない段階であろう。
(2)現行制度廃止を含め、ゼロベースで
平成23年度の総務省の地方公共団体の内部統制に関する案を以下に見てみよう。
(基本的な考え方)
○ 適法性、効率性、有効性等をこれまで以上に確保する内部統制体制の整備
○監査委員制度や外部監査制度について見直し 廃止を含め、ゼロベースで制度を見直す
※監査の主体、方法等、住民の信頼の確保と地方公共団体の行政運営の効率性の両立が図られるような制度
監査機能を適切に発揮する観点から、地方公共団体の内部の主体が担う監査と、地方公共団体の外部の主体が担う監査を設ける
〇地方公共団体の適正な行政運営の確保は、まずは、執行機関が自らの判断と責任において行うこととし、議会が執行機関に対して監視機能を適切に行使する
(3)モデルは民間企業の規制の会社法等の内部統制か
株式会社においては、会社法及び金融商品取引法に基づき、法令等の遵守、財務報告の信頼性等を目的として内部統制の仕組みが存在しており、金融商品取引法はこの仕組みそのものを会計監査人(同法上は「監査人」)の監査の対象としている。
このような内部統制体制の整備は、監査役・会計監査人による監査とは別に構築されるものであり、監査を有効に機能させる前提でもある。
つまり、取締役の職務の執行の法令適合性、会社の業務の適正、財務計算に関する書類の適正等の確保は、監査役・会計監査人による監査と、内部統制体制の整備が相まって達成されると考えられる。
地方公共団体においても同様に、事務の処理の適正の確保は、監査のみではなく、執行機関の内部に執行機関の事務の処理の適正の確保のための体制を構築し、これと相まって達成するべきである。
この場合、長の支出命令の適法性等を確認する権限を有する会計管理者、予算調製を担当する部局、行政評価を担当する部局等との関係も整理が必要。
(4)内部統制の独立性と責任
○ 現行の監査委員制度のように、地方公共団体の内部であっても監査対象からの一定の独立性が確保されてこそ実効ある監査が確保できるという立場から、長から独立した執行機関の責任において監査を行う手法が望ましいという考え方
逆に、株式会社の監査役に取締役会への出席義務や必要な場合に意見を陳述する義務があるように、むしろ地方公共団体の内部にあってこそ実効ある監査が確保できるという立場から、長の補助機関が監査主体となり監査を行う手法を採用すべきであるという考え方。
○ 議員のうちから監査委員の一部を選任する現行制度は、議会による執行機関に対する監視機能の一部という側面
(5)外部の監査の必要性と再検討
内部の監査には独立性の限界があり、これに期待できない機能については、地方公共団体の外部の主体による監査が不可欠である。
例えば、住民に対する財政状況等の説明責任は、議会による統制が機能するための最低限の前提であり、決算やその前提となる財務に関する事務処理については、地方公共団体の外部の主体が担う監査によってその正確性・合規性を担保すべきという考え方がある。
また、不適正な経理処理は地方公共団体の内部統制体制の整備や内部の監査によって是正されるべきであるが、個人的・偶発的な不正行為にとどまらない組織的・慣習的な不正行為の指摘、また、内部統制体制そのものの適切な構築の担保については、外部の主体による監査が担うべきであるという考え方がある。
地方公共団体の外部の主体が担う監査には、監査対象からの独立性が求められることから、外部の監査主体には地方公共団体の補助機関に依存しないような体制、すなわち、組織的な外部監査体制の構築が求められる。
(6)監査を担う人材の確保
地方公共団体の監査機能を適切に発揮するためには、監査主体のあり方ととともに、監査を担う人材の確保が重要な課題である。
地方公共団体の外部の監査を担う主体は、監査証拠を収集し、監査調書を体系的に作成した上で、意見を表明するための合理的な基礎を形成するという組織的な監査手法等に関する専門的な知識と、行財政制度、特に財務会計制度について必要な知識の両者を備えた人材から構成される組織が前提となる。
そのような人材を確保するために地方公共団体の監査に必要な専門的な知識に着目して全国的に通用する資格制度を設けることのほか、複数の地方公共団体が共同して設立した機関に人材を集約する制度についても検討する必要がある。
また、専門性の要請は、地方公共団体の内部の監査を担う主体、また、これを補助する職員に対しても同様であり、併せて検討することが必要である。
(7)監査の基準
地方公共団体の外部の主体が担う監査のみならず、内部の主体が担う監査についても、監査には一定の客観性が求められるべきであり、監査に係る公正で合理的な基準を全国的に統一した形で設定し、公表すべきとの指摘があり、この点についても検討を進めることが必要である。
2.内部統制に関する地方自治法の改正必要性
(1)地方公共団体の内部統制体制の整備
地方公共団体の長は、条例の定めるところにより法令等の遵守等の目的を達成するための体制の整備等必要な措置を講ずる義務と、内部統制の実施状況を議会及び住民に報告・公表する義務があるものとし、その旨を地方自治法に規定する。
(2)内部統制の重要項目
地方公共団体の長は、次の事項に関する体制を構築するものとする。
・ 長及び職員の職務の執行が法令等に適合することを確保すること。
・ 長及び職員の職務の執行の業務の有効性・効率性を確保すること。
・ 職務の執行に関わる情報の保存・管理
・ リスクの管理等に関する規程の整備
・ 資産の保全と負債の管理の徹底
・ 内部統制の整備・運用の状況に関する報告・公表
・ その他内部統制の整備・運用に関すること。
また、地方公共団体の長は、その上で、
定期的な管理職・職員に対する周知徹底、
必要なモニタリング活動の実施、
ルール・体制についての適宜見直し等を行い、PDCAサイクルとして機能させる。
(3)地方公共団体の内部の主体が担うべき監査と外部の主体が担うべき監査
・ 決算審査、例月出納検査、基金の運用状況の審査、健全化判断比率の審査については、主として正確性の観点から行われるものであることから、財政状況を対外的に正確に公表するため、外部のチェックを強化する観点から、外部主体が担う。
・ 財務監査については、主として合規性の観点から行われるべきものであることから、内部主体が担うことが適当であり、長の内部統制体制の整備による自己チェック体制の強化や一定の独立性をもった内部機関のチェック体制の確立によることが考えられる。
・ 行政監査については、議会の監視機能や長の行政評価等の類似の機能との役割分担を図る。
・ 要求監査のうち、事務監査請求による監査、住民監査請求による監査、職員による現金等の損害事実の有無の監査については、住民自治の保障の観点から存置することが適当であり、一定の独立性をもった機関がチェックするという観点から、内部又は外部いずれもあり得る。
・ 長又は議会の請求による監査については、長や議会それぞれの本来の機能として実施する。
・ 財政援助団体等の監査や指定金融機関等の監査については、財政援助団体等は長が、指定金融機関等は会計管理者が自らチェックする。
3.地方公共団体のコンプライアンスは自己責任でないか
(1)内部統制案のインパクト
★この総務省の平成23年案は当時はかなりのインパクトがあって、大阪市や姫路等の一部の地方公共団体では早速これを参考に内部統制態勢に着手した。
しかし、それ全体の地方公共団体のうちのほんの一部である。
(2)コンプライアンスはマネジメントの基本で不祥事は自己責任
特に、政治家である地方公共団体首長は関心がない方が多かった。COSOと言っても分からなかったのである。
確かにこの案はこれまでの地方自治体の内部統制に会社法などの考え方を大胆に入れるものであり、加えて、会計面では外部への依存を大きくするもので俄かに採用することは困難であったであろう。
しかし、コンプライアンスは自己責任である。
内部通報システムなどの手法も加えてより洗練されたコンプライアンス態勢にする必要があろう。