急速に進化する「生成AI(Generative AI)」が、私たちの働き方や社会にどのような変革をもたらすのか、特に「大転職時代」そして「一部廃業時代」の到来という観点から考察を深めていきたいと思います。
当オフィスは、コンプライアンス、内部統制、リスクマネジメント、職業倫理等の企業研修で多数の実績があり、著作権法、地方自治法・地方公務員法、相続といった分野にも精通しておりますが、特に、日々の無料法律相談の現場でも、この1年ほどで相談の質が大きく変化していることを実感しています。
相談者の方々が、インターネット検索はもちろん、生成AIを活用して事前に疑問点を整理し、より核心的な部分、あるいは人間的な対応や複雑な調整が必要な「厄介な仕事」を依頼されるケースが増加しているのです。
本稿では、法律や経営といった社会科学のみならず、哲学や思想といった人文科学、さらには自然科学の動向にも目を配りながら、生成AIが各産業、各職種に与える影響、そして私たちが取るべき進路について、多角的に解説していきます。
生成AIが変える仕事の風景:ホワイトカラー・ブルーカラーへの影響
生成AIの登場は、従来のAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)とは異なり、単なる定型業務の自動化にとどまらず、知的・創造的な領域にまで大きな影響を及ぼし始めています。
ホワイトカラーへの影響:知識集約型業務の変容
まず、ホワイトカラーと呼ばれる知的労働・事務系の職種について見ていきましょう。
- カスタマーサポート・コールセンター: 従来のAIでも自動応答などが進んでいましたが、生成AIはより複雑な問い合わせに対応し、FAQ生成や応答文案作成などを高度化します。オペレーターの役割は、より高度な問題解決や共感を伴う対応へとシフトするでしょう。
- 教育(教師・講師): 知識伝達の部分は、生成AIによる個別最適化された学習支援が可能になり、教育効果の向上が期待されます。教師の役割は、知識伝達者から、学習のファシリテーター、社会性や人間性を育むメンターへと、より重要性を増すと考えられます。もちろん、集団生活や社会性を涵養する場としての学校の意義は揺るぎませんので、義務教育や大学等の高等教育の「場」というものは、人間的接触や教師との直接的な人格的接触で人間が成長する触媒ですから、その存在価値は極めて高いものがあり、なくなることは有りません。。
- 企業経営(取締役・管理職): マーケティング分析、データに基づいた経営判断、会計処理など、多くの部門で生成AIの活用が進むでしょう。経営層には、AIが提示する情報を鵜呑みにせず、倫理観や大局観に基づいた意思決定、そして何より幅広い視点からのマネジメントの「創造性」が求められます。
- 士業(弁護士・会計士など): 税理士や会計士、若手弁護士が行っていたような定型的な申請書・起案書などの書類作成やリサーチ業務は、AIに代替される可能性が高いです。法律相談も、簡単な内容であればAIで解決できるようになり、専門家にはより高度な判断、交渉力、倫理観が求められます。リーガルテック(LegalTech)のように、AIを活用する新たな専門分野も生まれています。
- 医療(医師): 画像診断(放射線科医など)や研究開発においてはAIの貢献が期待されますが、患者とのコミュニケーションや複雑な臨床判断、外科的な手技などは、依然として人間の医師が中心となります。
これらの職種では、知識は必要ですが、創造性や高度なコミュニケーション能力、倫理観、複雑な問題解決能力がそれほど重要ではないと見なされる業務から、AIによる代替が進む可能性があります。これは決して職業を軽視するものではなく、業務内容の「性質」による影響度の違いを示しています。
ブルーカラーへの影響:RPAとロボティクスの進化
一方、ブルーカラーと呼ばれる生産・現場系の職種はどうでしょうか。
- 単純作業: RPA"Robotic Process Automation"や産業用ロボットの進化により、工場での組み立て、倉庫でのピッキングといった定型的な肉体労働は自動化が進んでいます。
- 建設・土木: 単純な作業は自動化の可能性がありますが、高度な技術や判断、危険を伴う作業(例:鳶職)は、すぐには代替されにくいでしょう。しかし、AIを搭載した建設機械の登場も考えられます。大成建設などの大手建設会社では、無人トラックの利用が進んでいます。
- 運転手: フォークリフトの運転など、限定された空間での単純作業は自動化が進む一方、複雑な交通状況を認識し、予測不能な事態に対応する必要があるUberタクシーのような運転は、完全自動化にはまだ時間がかかると考えられます。
- 介護・看護: 高齢者介護や看護のように、深い共感、個別対応、身体的なケアが求められる仕事は、AIやロボットが補助することはあっても、完全に代替することは困難です。むしろ、人手不足が深刻化する中で、その重要性は増していくでしょう。
- 接客: チェックイン・アウトのような定型業務は自動化が進みますが、高度なホスピタリティや個別対応が求められる接客は、人間の価値が残ると考えられます。
- 警備: 定点監視や単純な巡回はAIやドローンで代替可能ですが、緊急時の判断や不測の事態への対応は、依然として人間が必要です。
ブルーカラーの仕事においても、肉体的な単純作業や、特定の条件下での作業はロボットやAIに置き換わる可能性があります。海外の事例では、ホワイトカラーから建設作業員へ転職した人もいるように、「AIに代替されにくい仕事」への移行も一つの流れとなりつつあります。しかし、ロボティクス技術の進化により、将来的にはより多くの肉体労働が自動化される可能性も否定できません。
大転職時代と一部廃業時代の到来:取るべき2つの道
このような状況下で、私たちは自身のキャリアをどう考えればよいのでしょうか。大きく分けて2つの方向性が考えられます。
- 転職・リスキリング(再学習):
- 自身の仕事がAIに代替される可能性が高いと判断した場合、AIに代替されにくい分野(高度なコミュニケーション、創造性、専門技術、対人ケアなど)への転職を考える必要があります。
- AIを活用するスキル(AIエンジニア、データサイエンティスト、AIプランナーなど)を身につけ、新たな需要に応える道もあります。
- 法律相談や簡単なコンサルティングのように、これまでノウハウ提供で成り立っていたビジネスモデルは、生成AIによって大きく揺らぐ可能性があります。常に最新情報を学び、さらに唯一無二と言われる位の提供価値を目指して事故や組織を進化させ続けることが不可欠です。コンサルティング会社のアクセンチュアの成功などが参考になります。
- AIとの共存・活用:
- 自身の仕事の一部はAIに任せつつ、AIをツールとして活用し、より高度で付加価値の高い業務に集中する道です。
- 例えば、弁護士がリーガルテックを活用して業務効率を上げ、より戦略的な訴訟活動や複雑な案件、グローバルな案件、語学力や関連知識の習得も含めて能力アップに注力して高単価業務を受注するような形です。
- 全ての人おススメなのはもう後戻りできな程に時代が変わってしまったのだから、AIをどのように利用して使いこなしていくか真剣に考えることで、事故や組織の商品価値を大競争時代に生産性を飛躍的に向上させ、仕事の質を高め、競合・ライバルに負けない能力を磨くことです。
どちらの道を選ぶにせよ、現状維持は負け組への道であり、現生活の維持はもう困難、どんどん坂道から転げ落ちていくだけであり、変化への適応が必須となります。
社会的課題:BI:ベーシックインカムと「人間性」の危機
AIによる仕事の代替が進むと、失業者の増加や経済格差の拡大が懸念されます。その対策として「ベーシックインカム(最低限所得保障)」の導入が現実的な議論となるでしょう。
しかし、ベーシックインカムが導入された社会で、人々は生きがいや労働意欲を維持できるのでしょうか。歴史を紐解けば、古代ローマ帝国では、市民への食料や金銭の配給、娯楽場としての円形闘技場コロッセウム(「パンとサーカス」)が、社会の活力を削ぎ、衰退の一因になったとも言われています。
もし多くの人々が労働から解放されたとき、単なる怠惰や無気力、虚無感に陥るのではなく、人間としての根源的な問い、すなわち「人間とは何か」「何を望み、何を為すべきか」に向き合う必要が生じます。
新たなルネサンスの可能性:人間性の探求へ
経済的な基盤がある程度保障されるようになれば、大衆の肉体的精神的な堕落は避けられないでしょうが、人々は物質的な豊かさだけでなく、精神的な充足を求めるようになるかもしれません。これは、新たな「ルネサンス」の到来を予感させます。
- 哲学・思想・文芸・芸術: 人間の内面や社会のあり方を深く探求する分野が再び脚光を浴びるでしょう。
- エンターテインメント・芸能: 人々を楽しませ、感動させ、人生に彩りを与える仕事の価値が高まります。
- スポーツ: アスリートはより尊敬を集め、人々はスポーツ観戦により熱狂するようになるかもしれません。オリンピックのような祭典も、より頻繁に開催される可能性があります。
AI時代において、人間にしかできないこと、人間だからこそ価値があること、すなわち「人間性」そのものが、社会の中心的な価値となる時代が来るのかもしれません。
法と倫理の重要性:AI開発と利用のガイドライン
最後に、法律家としての視点から強調したいのは、AIの開発と利用における「社会規範」、特に法と倫理の重要性です。生成AIは、著作権侵害、個人情報保護、プライバシー侵害、差別助長といったリスクを内包しています。
開発者(ベンダー)は、技術開発を優先するだけでなく、これらの法的・倫理的課題に真摯に向き合い、社会的に許容される形でのサービス提供を目指すべきです。利用者(ユーザー)も、AIの特性とリスクを理解し、責任ある利用を心がける必要があります。
私自身も、著作権法、個人情報保護法、知的財産法全般の専門家として、またコンプライアンスの観点から、生成AIを巡る法的・倫理的な課題について研究を深め、問題提起を続けてまいります。著作権学会などでの議論も活発化しており、今後も最新の動向を踏まえた情報を発信していく所存です。
まとめ:変化を恐れず、未来を創造する
生成AIの登場は、間違いなく私たちの社会と働き方に大きな変革をもたらします。それは一部の職業にとっては「廃業」のリスクを伴う厳しい現実かもしれませんが、同時に新たな可能性を切り拓く「チャンス」でもあります。
重要なのは、この変化を冷静に受け止め、自身の仕事や生き方を主体的に見つめ直し、学び続け、行動することです。「神か悪魔か」といった扇情的な言葉に踊らされるのではなく、AIという強力なツールとどう向き合い、より良い未来を築いていくか、社会全体で真剣に考えるべき時が来ています。
中川総合法務オフィスは、法律・経営・コンプライアンスの専門家として、そして社会の変革を見据える啓蒙家として、皆様がこの変化の時代を乗り越え、より豊かな人生を歩むための一助となるべく、今後も尽力してまいります。
関連情報:生成AIについての論考が多数あります。
- コンプライアンス・著作権・相続に関する専門コラム: https://compliance21.com/