企業の「クレーム対応」は、組織のコンプライアンス態勢を映す鏡であり、顧客からの信頼を築くための出発点です。本記事では、クレーム対応をコンプライアンスの一環として捉え、初期対応の重要性から具体的な体制整備、そして組織全体の意識改革に至るまで、中川総合法務オフィスの知見に基づき詳細に解説します。

クレーム対応とコンプライアンス:不可分の関係性

顧客や取引先、地域住民といったステークホルダーからの苦情・クレームは、その組織の社会における評価に直結します。これらの声に真摯に向き合い、適切に対応することは、信頼を得るための不可欠な要素であり、組織マネジメントの根幹を成すものです。

したがって、クレーム対応は単なる顧客サービスの問題ではなく、コンプライアンスそのものと捉えるべきです。特に、顧客との継続的な関係性の中で発生するクレームは、マネジメントの質を測る重要な指標となります。クレーム対応をコンプライアンスの一環と明確に位置づけることで、職員の対応に一貫性が生まれ、組織としてブレのない、毅然とした対応が可能となるのです。

初期対応の成否が分かれ道:迅速かつ的確な行動を

クレーム対応において、初期対応の巧拙がその後の展開を大きく左右します。

(1)コンプライアンス違反の可能性を念頭に置いた初期対応

苦情やクレームが発生した場合、その背景には何らかのコンプライアンス違反が存在する可能性が高いと認識すべきです。コンプライアンスの目的がステークホルダーからの信頼獲得であるならば、クレームの発生は、その信頼を揺るがす事態が生じたことの表れと考えられます。

もちろん、中には悪質なクレーマーも存在しますが、初期段階ではその判別は困難です。そのため、まずは「謝罪と事実確認」を基本姿勢とし、迅速かつ正確な初期対応を徹底することが肝要です。これにより、問題の拡大や深刻なトラブルへの発展を防ぐことができます。

初期対応においては、クレームを申し立てた相手に対し、「クレームを受けたことの認識を伝える」とともに、「迅速に対応する意思を明確に伝える」という基本原則を遵守しましょう。

(2)初期対応の失敗が招く、より大きなクレーム

クレームが発生した際に、その場しのぎの対応をしたり、問題を軽視したりするような初期対応のミスは、かえって事態を悪化させ、より大きなクレームへと発展させる危険性をはらんでいます。受付でたらい回しにする、上司への報告・連絡・相談を怠る、些細な問題と決めつけて適切な対応をしないといった組織の姿勢は、顧客の信頼を著しく損ない、結果として顧客離れを引き起こすでしょう。

製品やサービスに関するクレームは、製造元だけでなく、卸売業者、流通業者、小売店など、サプライチェーンのあらゆる段階で発生し得ます。例えば、ソニーのカメラをアマゾン経由で上新電機から購入した場合、これら三者すべてがクレーム受付の窓口となり得ます。

私自身、過去に製品の不具合でこれら三者に連絡を取った経験がありますが、特にソニーの対応は秀逸でした。現場の一次対応者、そして問題解決のために引き継いだ上司、そのいずれもが、顧客視点に立った模範的な対応を実践しており、深く感銘を受けました。これは、企業としてクレーム対応の重要性を深く認識し、全従業員にその意識が浸透している証左と言えるでしょう。

現代のコンプライアンス経営においては、このような初期対応の重要性を、非常勤やパート、アルバイトを含む全ての従業員が理解し、実践できるよう、研修などを通じた教育が不可欠です。

(3)専門部署への丸投げが生む、新たな火種

クレーム対応を専門とする部署を設置している企業もあるでしょう。しかし、クレームを申し立てる側にとって、企業内部の組織体制は関係ありません。

したがって、クレームを受けた者は、所属部署に関わらず、組織全体の問題として受け止め、「自分の担当ではない」といった態度は決して取るべきではありません。

初期対応においては、「たらい回しにされている」という印象を相手に与えないよう細心の注意を払い、「謝罪と事実確認」こそが最重要であると認識することが求められます。相手の不快な感情に寄り添い、強い怒りを示している場合には、まずその感情を鎮めることに注力しましょう。

この際、聞き役に徹することが最も重要であり、初期対応の段階で自らの正当性を主張したり、反論したりすることは避けるべきです 。この場面では、アンガーマネジメントがとても役に立つでしょう。

(4)心からの謝罪は、対面での「お辞儀」から

倫理的な観点から言えば、相手に謝罪すべき状況においては、直接会って頭を下げることが基本です。

メールやファックス、電話といった遠隔からのクレームであっても、情報技術が高度に進化した現代だからこそ、直接対面し、誠心誠意謝罪する姿勢が、相手に真摯な対応であるという強い印象を与えます。

特に、年齢を重ね、役職が上がるにつれて、素直に頭を下げることが難しくなる傾向があることを自覚し、謙虚な姿勢を忘れないようにしたいものです。

クレーム対応体制の構築と全社的な教育の徹底

実効性のあるクレーム対応を実現するためには、場当たり的な対応ではなく、組織としての体制整備と全従業員への教育が不可欠です。

(1)「方針」「規程」「報告経路」「マニュアル」の整備と周知徹底

まず、組織のコンプライアンスの観点から、全職員に対して明確なクレーム対応方針を明示します。この方針に基づき、具体的なクレーム対応規程を策定し、緊急時における報告経路と実践的な対応マニュアルを整備します。これらは一度作成したら終わりではなく、定期的な見直しと改善を重ねることが重要です。

(2)難クレーム・悪質クレームへの対策チームの設置

長期化・深刻化したクレーム、悪質なクレーム、あるいは反社会的勢力からの不当な要求など、対応が困難なケースも想定されます。このような事態に備え、専門的な知識や交渉力を持つメンバーで構成される対策チームをあらかじめ組織しておくことが望ましいでしょう。

(3)実践的なクレーム対応研修の実施

策定したクレーム対応方針や規程、マニュアルを全従業員に周知徹底するため、定期的な説明会や研修を実施します。研修においては、ロールプレイングなどを取り入れ、実践的な対応スキルを養うことが効果的です。クレームをたらい回しにすることなく、誰もが適切に初期対応できるよう、全従業員を対象とした教育が不可欠です。

(4)組織固有のクレーム事例集の作成と継続的な見直し

企業や官公庁では、その組織特有のクレームが発生しやすい傾向があります。従業員のミスによるもの、いわゆるモンスタークレーマーからの不当な要求など、様々なケースが考えられます。これらのクレーム事例ごとに、具体的な対応策をまとめたケーススタディ集(事例集)を作成し、組織内で共有することが有効です。

万が一、想定外の事態が発生した場合でも、初期対応の基本原則を遵守し、軽率な判断や対応を避けなければなりません。重大な問題に発展する可能性を秘めたケースでは、速やかに関係者による対策会議を招集し、組織として慎重かつ適切な対応策を検討することが重要です。

そして、これらの事例集は、新たな事例の追加や対応策の修正など、年に数回の見直しを行い、常に最新かつ最適な状態を維持するよう努めましょう。



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