建設業を営む上で、その入り口となるのが「建設業許可」である。そして、その許可審査において最も重要な関門の一つが、建設業法第8条に定められた「欠格要件」だ。
この条文は、建設業者としてふさわしくないとされる者をあらかじめ排除し、建設工事の適正な施工を確保するとともに、発注者を保護することを目的としている。一つでも該当すれば、新規の許可はもちろん、場合によっては更新の許可も受けることができなくなる、非常に厳しい規定である。
今回は、この建設業法第8条を一つずつ丁寧に読み解き、どのような場合に許可が受けられなくなるのかを分かりやすく解説する。
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第八条 国土交通大臣又は都道府県知事は、許可を受けようとする者が次の各号のいずれか(許可の更新を受けようとする者にあつては、第一号又は第七号から第十四号までのいずれか)に該当するとき、又は許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならない。
一 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
二 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当することにより一般建設業の許可又は特定建設業の許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者
三 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当するとして一般建設業の許可又は特定建設業の許可の取消しの処分に係る行政手続法(平成五年法律第八十八号)第十五条の規定による通知があつた日から当該処分があつた日又は処分をしないことの決定があつた日までの間に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出をした者で当該届出の日から五年を経過しないもの
四 前号に規定する期間内に第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出があつた場合において、前号の通知の日前六十日以内に当該届出に係る法人の役員等若しくは政令で定める使用人であつた者又は当該届出に係る個人の政令で定める使用人であつた者で、当該届出の日から五年を経過しないもの
五 第二十八条第三項又は第五項の規定により営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者
六 許可を受けようとする建設業について第二十九条の四の規定により営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者
七 拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
八 この法律、建設工事の施工若しくは建設工事に従事する労働者の使用に関する法令の規定で政令で定めるもの若しくは暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)の規定(同法第三十二条の三第七項及び第三十二条の十一第一項の規定を除く。)に違反したことにより、又は刑法(明治四十年法律第四十五号)第二百四条、第二百六条、第二百八条、第二百八条の二、第二百二十二条若しくは第二百四十七条の罪若しくは暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
九 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者(第十四号において「暴力団員等」という。)
十 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの
十一 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は次号(法人でその役員等のうちに第一号から第四号まで又は第六号から前号までのいずれかに該当する者のあるものに係る部分に限る。)のいずれかに該当するもの
十二 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該法人の役員等又は政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの
十三 個人で政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者(第二号に該当する者についてはその者が第二十九条の規定により許可を取り消される以前から、第三号又は第四号に該当する者についてはその者が第十二条第五号に該当する旨の同条の規定による届出がされる以前から、第六号に該当する者についてはその者が第二十九条の四の規定により営業を禁止される以前から、建設業者である当該個人の政令で定める使用人であつた者を除く。)のあるもの
十四 暴力団員等がその事業活動を支配する者
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建設業許可の絶対的NG条件「欠格要件」とは?
建設業法第8条は、国土交通大臣や都道府県知事が許可を与える際に、申請者が特定の条件に当てはまる場合、「許可をしてはならない」と定めている。これは裁量の余地がない絶対的な不許可事由である。
条文は大きく分けて、申請者自身やその役員等が該当してはならない要件(第1号~第14号)と、申請書類の不備(虚偽記載等)に関する要件の二つで構成されている。
特に注意すべきは、新規許可申請時と更新許可申請時で、適用される欠格要件の範囲が異なる点である。更新時は、第1号および第7号から第14号までが審査対象となる。
それでは、具体的な欠格要件を類型別に見ていこう。
【類型別】建設業法第8条の欠格要件を一つずつ解説
1. 経済的信用に関する要件
第一号 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
これは、経済的な信用状態が著しく低い者は、建設業という多額の資金を扱う事業を適切に運営できない、という判断に基づくものである。法人の役員等や個人事業主本人がこれに該当する場合、許可は受けられない。「復権を得ない者」とは、破産手続きが終了していない状態を指す。
2. 不正行為等による行政処分歴に関する要件
第二号 第二十九条第一項第七号又は第八号に該当することにより一般建設業の許可又は特定建設業の許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者
建設業法違反など重大な理由で許可を取り消された場合、ペナルティとして5年間は再取得ができない。
第三号 (許可取消しの聴聞通知後に廃業届を出した者で)当該届出の日から五年を経過しないもの
これは、許可取消しという重い処分を免れるために、先回りして廃業届を出す「逃げ得」を防ぐための規定である。行政手続法に基づく聴聞の通知を受けた後、処分が決定する前に廃業した者も、廃業日から5年間は許可を受けられない。
第四号 (第三号の法人の役員等であった者で)当該届出の日から五年を経過しないもの
上記第三号の「逃げ得」を図った法人の役員等も、同様に5年間の欠格期間が設けられる。
第五号 第二十八条第三項又は第五項の規定により営業の停止を命ぜられ、その停止の期間が経過しない者
営業停止命令を受けている期間中は、当然ながら新たな許可を受けることはできない。
第六号 許可を受けようとする建設業について第二十九条の四の規定により営業を禁止され、その禁止の期間が経過しない者
無許可営業などにより営業禁止処分を受けた場合、その禁止期間が満了するまでは許可を受けられない。
3. 反社会性・法令遵守に関する要件
第七号 拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
2022年の刑法改正により、「懲役」と「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されたことに伴う条文である。いかなる罪であれ、拘禁刑以上の刑罰を受けた者は、刑の執行終了等から5年間、建設業の世界から排除される。
第八号 (建設業法、労働関係法令、暴力団対策法、刑法等の一定の罪により)罰金の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又はその刑の執行を受けることがなくなつた日から五年を経過しない者
特定の法律違反による罰金刑も、5年間の欠格事由となる。対象となるのは、建設業法はもちろん、建築基準法、労働基準法といった労働関係法令、暴力団対策法、そして刑法の傷害罪、暴行罪、脅迫罪、背任罪など、建設業の適正な運営に関連性の高い法律違反である。
第九号 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第二条第六号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなつた日から五年を経過しない者(...「暴力団員等」という。)
暴力団員であること、または暴力団員でなくなってから5年を経過しないことは、それ自体が欠格要件となる。暴力団排除の徹底を示す厳しい規定である。
第十四号 暴力団員等がその事業活動を支配する者
たとえ役員等に暴力団員がいなくても、実質的に暴力団員等が事業を支配していると認められる場合は許可が受けられない。
4. 心身の能力に関する要件
第十号 心身の故障により建設業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの
精神の機能の障害により、建設業を適正に営むにあたって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者が該当する。
5. 役員・使用人・法定代理人に関する要件
第十一号 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者でその法定代理人が前各号又は次号...のいずれかに該当するもの
許可申請者が未成年者である場合、その法定代理人(親権者など)が欠格要件に該当していれば、許可は受けられない。
第十二号 法人でその役員等又は政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者...のあるもの
法人の場合、代表者だけでなく、役員(取締役、執行役等)、相談役、顧問、株主等で実質的に経営を支配する者、または支店長・営業所長などの「政令で定める使用人」のうち一人でも欠格要件に該当する者がいれば、法人全体として許可が受けられなくなる。役員等の就任時には、経歴等を慎重に確認する必要がある。
第十三号 個人で政令で定める使用人のうちに、第一号から第四号まで又は第六号から第十号までのいずれかに該当する者...のあるもの
個人事業主の場合でも、支配人や支店長・営業所長などの「政令で定める使用人」が欠格要件に該当する場合は許可が受けられない。
虚偽記載・重要事実の記載欠如も一発アウト
条文の冒頭部分も忘れてはならない。
...許可申請書若しくはその添付書類中に重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、許可をしてはならない。
たとえ欠格要件に該当していなくても、申請書類に嘘を書いたり、書くべき重要な事実(例えば過去の処分歴など)を隠したりした場合は、それだけで不許可となる。申請は誠実に行わなければならない。
まとめ
建設業法第8条は、建設業界の健全性を保つための「防波堤」である。これらの要件は、許可申請時だけでなく、許可を受けた後も遵守し続けなければならない。自社の役員や主要な従業員がこれらの要件に抵触していないか、日常的なコンプライアンスチェックが極めて重要となる。知らなかったでは済まされない、それが欠格要件の厳しさである。
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