はじめに
建設業法第11条は、建設業許可を受けた業者が許可後に生じる各種変更事項について、行政庁に届け出る義務を定めた条文である。建設業許可制度は許可時点での要件充足を確認するだけでなく、許可後も継続的に許可要件を満たしているかを行政庁が把握する必要がある。そのため、本条は業者に対して変更事項の届出を義務付け、行政庁による継続的な監督を可能にしている。
本条は5項から構成され、それぞれ届出の対象事項と期限が異なる点に特徴がある。実務上、これらの届出期限を遵守できず、届出懈怠による監督処分や過料処分を受ける事例が少なくない。本稿では、各項の内容を詳細に解説し、実務上の注意点を明らかにする。
第1項:許可申請事項の変更届出(30日以内)
条文の趣旨
第1項は、建設業許可申請時に記載した基本的事項(第5条第1号から第5号)に変更が生じた場合、30日以内に変更届出書を提出することを義務付けている。この届出は、行政庁が許可業者の基本情報を最新の状態に保つために不可欠である。
届出対象事項
第5条第1号から第5号に掲げる事項とは、具体的には以下のとおりである。
第5条第1号:商号又は名称 法人の商号、個人事業主の氏名・屋号の変更が該当する。合併による商号変更、個人事業主の氏名変更(婚姻等)などが典型例である。
第5条第2号:営業所の名称及び所在地 営業所の新設、廃止、移転、名称変更が該当する。営業所とは、本店、支店その他常時建設工事の請負契約を締結する事務所をいう(建設業法第3条)。単なる作業所や連絡事務所は営業所に該当しない。
第5条第3号:役員等の氏名 法人の取締役、執行役、業務を執行する社員等、個人事業主の支配人の氏名変更、就任・退任が該当する。監査役は原則として役員等に含まれないが、経営業務管理責任者となっている場合は届出対象となる。
第5条第4号:経営業務管理責任者の氏名・常勤役員等証明 経営業務管理責任者の変更、常勤役員等及び当該常勤役員等を直接に補佐する者の変更が該当する。令和2年改正により、経営業務管理責任者の要件が多様化したため、証明方法も複雑化している。
第5条第5号:営業所専任技術者の氏名 各営業所に置かれる専任技術者の変更が該当する。ただし、第4項で別途規定があるため、実務上は第4項の適用場面が多い。
届出期限と様式
変更があった日から30日以内に届出を行う必要がある。国土交通省令(建設業法施行規則第7条)により、「変更届出書(様式第20号の2)」を提出する。届出先は、国土交通大臣許可業者は地方整備局等、都道府県知事許可業者は許可を受けた都道府県の建設業許可担当部局である。
実務上の注意点
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」(令和2年10月1日最終改正)では、変更届出の具体的な手続きが詳細に示されている。特に、役員変更の際には商業登記簿謄本の添付が求められ、営業所変更の際には使用権原を証する書面(賃貸借契約書等)の提出が必要となる場合がある。
届出を怠った場合、建設業法第50条第1項により50万円以下の過料に処せられる可能性がある。また、虚偽の届出を行った場合は、第47条第2号により6か月以下の懲役又は100万円以下の罰金が科される。
第2項:決算変更届出(毎事業年度経過後4か月以内)
条文の趣旨
第2項は、いわゆる「決算変更届」と呼ばれる届出義務を定めている。建設業許可業者は、毎事業年度終了後、財務状況等を記載した書類を4か月以内に提出しなければならない。この届出により、行政庁は許可業者の財産的基礎要件(第7条第3号)の継続的な充足状況を把握できる。
届出対象書類
第6条第1項第1号及び第2号に掲げる書類とは、以下のとおりである。
第6条第1項第1号:財産的基礎を有すること等を明らかにする書面 建設業法施行規則第18条により、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記表、附属明細表等が該当する。一般建設業と特定建設業で要求される書類の詳細度が異なる。
第6条第1項第2号:営業の沿革を記載した書面 営業所の新設・廃止、建設業種の追加、組織変更等、当該事業年度における主要な変更事項を記載する。
その他国土交通省令で定める書類 建設業法施行規則第23条により、工事経歴書、直前3年の各事業年度における工事施工金額等を記載した書類が該当する。
届出期限と実務
届出期限は、事業年度終了後4か月以内である。例えば、3月決算法人の場合、7月末日までに提出する必要がある。国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、この期限は法定期限であり、延長は認められないことが明示されている。
実務上、決算変更届は建設業許可の更新申請や業種追加申請の前提となる重要書類である。決算変更届を提出していない期間がある場合、更新申請等が受理されないため、継続的な届出管理が不可欠である。
財務諸表の公開
建設業法第27条の26により、決算変更届の財務諸表は、国土交通大臣又は都道府県知事が閲覧に供することとされている。近年、多くの都道府県でインターネット公開も進んでおり、取引先や金融機関が建設業者の財務状況を確認できる環境が整いつつある。
第3項:使用人の変更届出(毎事業年度経過後4か月以内)
条文の趣旨
第3項は、営業所に置かれる「使用人」に関する変更を届け出る義務を定めている。使用人とは、建設業法第26条の4第1項に規定する「営業所の代表者」を指し、契約締結権限を有する支配人等が該当する。
届出対象事項
第6条第1項第3号に掲げる書面とは、「使用人の一覧表」である。建設業法施行規則第24条により、氏名、生年月日、常勤・非常勤の別等を記載する。
「その他国土交通省令で定める書類」として、建設業法施行規則第7条の3により、健康保険等の加入状況を記載した書類の提出も求められる。
届出期限の特徴
本項の届出期限は「毎事業年度経過後4か月以内」であり、変更が生じた都度の届出ではなく、年1回、決算変更届と同時に提出する形態である。ただし、営業所の代表者が欠けた場合には、後任者の選任まで営業所としての機能が維持できないため、速やかな対応が求められる。
第4項:営業所専任技術者の変更届出(2週間以内)
条文の趣旨
第4項は、営業所専任技術者が欠けた場合の届出義務を定めている。営業所専任技術者は建設業許可の要件であり(第7条第2号)、専任技術者が不在の営業所では建設工事の請負契約を締結できない。そのため、他の変更届出よりも短い2週間以内の届出期限が設定されている。
届出が必要な場合
営業所に置かれなくなった場合 退職、異動、死亡等により、専任技術者が当該営業所に常勤しなくなった場合が該当する。
第7条第2号ハに該当しなくなった場合 専任技術者の資格要件(一定の国家資格、実務経験等)を失った場合が該当する。実務上は稀であるが、虚偽申請が発覚した場合等が考えられる。
後任者の選任義務
本項は「これに代わるべき者があるとき」と規定しており、後任の専任技術者を選任できた場合に届出を行う。逆に言えば、後任者を選任できない場合、当該営業所での建設業許可は実質的に機能しなくなる。
届出書類は、第6条第1項第5号に掲げる書面、すなわち専任技術者の資格を証する書面(国家資格証明書、実務経験証明書等)である。
実務上の重要性
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、専任技術者が不在のまま営業を継続することは許可要件違反であり、監督処分の対象となることが明示されている。実務上、専任技術者の退職が予想される場合、事前に後任者の選定を進めることが重要である。
第5項:許可要件欠如・欠格要件該当の届出(2週間以内)
条文の趣旨
第5項は、許可業者が許可要件を満たさなくなった場合、又は欠格要件に該当した場合の届出義務を定めている。これらは建設業許可の取消事由となる重大な事態であり、行政庁が速やかに把握し、必要な監督処分を行うために、2週間以内という短い届出期限が設定されている。
第7条第1号・第2号に掲げる基準を満たさなくなったとき
第7条第1号:経営業務管理責任者の欠如 経営業務管理責任者(又は常勤役員等及び当該常勤役員等を直接に補佐する者)が不在となった場合が該当する。退職、死亡、欠格要件該当等により、この要件を満たさなくなった場合、速やかな届出が必要である。
令和2年改正により、経営業務管理責任者の要件が「常勤役員等及び当該常勤役員等を直接に補佐する者」による代替も可能となったが、いずれかの形で要件を満たす必要がある。
第7条第2号:営業所ごとの専任技術者の欠如 全ての営業所について専任技術者を置く必要があるため、いずれかの営業所で専任技術者が欠けた場合が該当する。ただし、第4項で後任者を選任した場合は第4項の届出で足り、本項の届出は不要である。
第8条各号の欠格要件に該当するに至ったとき
第8条は、建設業許可を受けられない者(欠格要件)を列挙している。本項では「第1号及び第7号から第14号まで」が対象とされており、具体的には以下のとおりである。
第8条第1号:成年被後見人等 成年被後見人、被保佐人、破産者で復権を得ない者が該当する。役員等がこれらに該当した場合、届出が必要である。
第8条第7号:不正の手段により許可を受けたことによる許可取消後5年を経過しない者 虚偽申請等により許可を取り消された者が該当する。
第8条第8号:許可取消処分の聴聞通知後の廃業届出から5年を経過しない者 いわゆる「逃げ廃業」を防止するための規定である。
第8条第9号:建設工事を適切に施工しなかったことによる営業停止期間中の者 営業停止処分を受けている期間中の者が該当する。
第8条第10号:営業を禁止された暴力団員等 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第32条の3第7項の規定により営業を禁止された者が該当する。
第8条第11号:禁錮以上の刑に処せられた者(執行猶予中を含む) 禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者が該当する。
第8条第12号:建設業法、建築基準法等の違反による罰金刑を受けた者 建設業法、建築基準法、宅地造成等規制法、景観法、都市計画法、労働基準法等の違反により罰金刑に処せられた者が該当する。
第8条第13号:暴力的犯罪等による罰金刑を受けた者 暴行、傷害、脅迫、背任等の罪により罰金刑に処せられた者が該当する。
第8条第14号:暴力団員等 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者が該当する。令和2年改正により、暴力団排除の要件が強化された。
届出の実務
これらの事由に該当した場合、2週間以内に書面で届け出る必要がある。届出様式は建設業法施行規則に定められており、該当事由の具体的内容を記載する。
実務上、本項の届出は許可取消処分の前提となる場合が多い。国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、欠格要件に該当した場合、速やかに届け出るとともに、許可取消処分を受ける前に自主的に廃業届を提出することも可能であることが示されている。ただし、第8条第8号により、聴聞通知後の廃業届は一定期間の欠格要件となる点に注意が必要である。
届出義務違反の法的効果
過料
建設業法第50条第1項は、第11条各項の届出を怠った者に対し、50万円以下の過料を科すことを定めている。過料は刑罰ではなく、行政上の秩序罰であるが、非訟事件手続法により裁判所が決定する。
虚偽届出の罰則
建設業法第47条第2号は、虚偽の届出を行った者に対し、6か月以下の懲役又は100万円以下の罰金を科すことを定めている。これは刑事罰であり、虚偽届出の悪質性に応じて起訴される可能性がある。
監督処分
届出義務違反は、建設業法第28条に基づく監督処分の対象となる。指示処分、営業停止処分、許可取消処分のいずれかが科される可能性があり、特に長期間にわたる届出懈怠や悪質な虚偽届出の場合、重い処分が科される。
国土交通省の「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」(平成13年7月27日最終改正)では、届出義務違反の処分基準が示されており、違反態様に応じた処分が行われる。
電子申請の推進
近年、国土交通省は建設業許可・変更届出手続きの電子化を推進している。「建設業許可等電子申請システム(JCIP:Japan Construction Industry Portal)」が整備され、令和5年1月から本格運用が開始された。
電子申請により、書面の郵送や窓口持参が不要となり、申請手続きの効率化が図られている。ただし、電子申請を利用するには、gBizIDプライムアカウントの取得等の事前準備が必要である。
国土交通省の「建設業許可等電子申請システムの利用手引き」では、電子申請の具体的な手順が詳細に説明されており、建設業者は積極的に活用することが推奨される。
実務上の留意点
届出期限の管理
本条の最大の実務課題は、届出期限の管理である。30日以内、4か月以内、2週間以内と異なる期限が混在しており、社内での管理体制構築が不可欠である。
実務上、経営管理部門や総務部門に届出管理の責任者を置き、変更事由が生じた際の報告フローを明確化することが重要である。特に、役員変更や専任技術者の異動等、人事異動に伴う届出が漏れやすいため、人事部門と連携した管理体制が求められる。
決算変更届の重要性
決算変更届は毎年必ず提出する書類であり、これを怠ると許可更新時に問題となる。国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」では、決算変更届の未提出期間がある場合、更新申請を受理しないことが明示されている。
また、決算変更届は金融機関や取引先が建設業者の信用力を判断する材料としても活用されるため、適切な財務書類の作成と期限内提出が重要である。
専任技術者の後任確保
専任技術者が退職等により欠けた場合、2週間以内に後任者を選任し届け出る必要がある。実務上、専任技術者の確保は容易ではなく、特に中小建設業者では後任者の選任が間に合わないケースがある。
このような事態を防ぐため、複数の有資格者を確保しておくこと、専任技術者の退職が予想される場合は早期に後任者の選定を進めることが重要である。
暴力団排除条項への対応
令和2年改正により、暴力団排除要件が強化された。役員等が暴力団員であることが判明した場合、速やかに届け出るとともに、当該役員の退任手続きを進める必要がある。
実務上、反社会的勢力との関係遮断は建設業のみならず全ての業種で求められており、定期的な反社チェックの実施が推奨される。
参考情報
本条の解釈及び実務については、以下の国土交通省資料が参考となる。
- 建設業許可事務ガイドライン(令和2年10月1日最終改正)
国土交通省のウェブサイト(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000080.html)で公開されており、変更届出の具体的手続きが詳細に示されている。 - 建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準(平成13年7月27日最終改正)
届出義務違反に対する監督処分の基準が示されている。 - 建設業許可等電子申請システム(JCIP)利用手引き
電子申請の手順が詳細に説明されている。 - 各都道府県の建設業許可の手引き
都道府県知事許可の場合、各都道府県が独自の手引きを公開しており、具体的な届出様式や添付書類が示されている。
まとめ
建設業法第11条は、建設業許可業者が遵守すべき5つの届出義務を定めており、それぞれ届出期限が異なる。変更届出は30日以内、決算変更届及び使用人の変更届は4か月以内、専任技術者の変更届及び許可要件欠如・欠格要件該当の届出は2週間以内である。
これらの届出義務を怠った場合、過料、刑事罰、監督処分の対象となる可能性があり、建設業者のコンプライアンス上、極めて重要な義務である。適切な社内管理体制を構築し、期限内に確実な届出を行うことが求められる。
国土交通省の「建設業許可事務ガイドライン」等の参考資料を活用し、電子申請システムの利用も検討しながら、効率的かつ確実な届出管理を実現することが、建設業者の健全な事業運営の基盤となる。
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