【2025年最新版】妊娠・出産等ハラスメント(マタハラ・パタハラ)の実態と法的対応
地方公共団体のハラスメント対策は十分か?総務省の最新調査が明かす実態
令和7年(2025年)4月、総務省は地方公共団体の職員を対象とした初の大規模ハラスメント実態調査結果を公表しました。この調査は、全国388の都道府県・市区町村から20,000人を対象に実施され、11,507人から回答を得た画期的なものです。
調査結果は、地方公共団体におけるハラスメント対策、特に「妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント」(以下、マタニティハラスメント・マタハラ)への対応が、依然として課題を抱えていることを浮き彫りにしました。
パワーハラスメント(パワハラ)やセクシュアルハラスメント(セクハラ)ばかりがマスコミで注目される中、少子化問題という国家的課題に直結する「妊娠・出産・育児・介護ハラスメント」への関心の低さは、憂慮すべき状況にあります。テスラCEOのイーロン・マスク氏も指摘する少子化問題は、この国の未来を左右する重大な課題です。
本記事では、コンプライアンス専門家の視点から、地方公共団体における妊娠・出産・育児・介護ハラスメントの現状と、実効的な対策について詳しく解説します。
総務省調査が明らかにした地方公共団体のハラスメント対策の実態
令和4年(2022年)1月の通知から令和7年(2025年)4月の実態調査まで
令和4年1月31日、総務省自治行政局公務員部公務員課女性活躍・人材活用推進室長から、全地方公共団体に対して「地方公共団体における各種ハラスメント対策の取組状況について」の通知文書が公表されました。
この調査(基準日:令和3年6月1日)では、3つのハラスメント——パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント——についての取り組み状況が調査されました。
特に課題が大きい「指定都市を除く市町村」の対策状況
調査データを詳細に分析すると、指定都市を除く市町村では、法的措置義務の履行率がかなり低い状況にあることが判明しました。以下、11項目の措置義務について、具体的な課題を見ていきます。
妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策における11の措置義務とその実態
【措置義務①】方針の明確化と周知・啓発
義務内容: 妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントの内容、発生原因、「ハラスメントがあってはならない」という方針、制度等の利用ができることを明確化し、管理・監督者を含む職員に周知・啓発する。
現状の課題: 多くの地方公共団体では、パワハラやセクハラに比べて、妊娠・出産等ハラスメントの方針明示が不十分です。特に小規模市町村では、具体的な方針が定められていないケースが散見されます。
【措置義務②】対処方針の規則化と周知
義務内容: 妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を規則等の文書に規定し、管理・監督者を含む職員に周知・啓発する。
現状の課題: 対処方針が明文化されていない、または周知が不十分な団体が依然として多く存在します。
【措置義務③】相談窓口の設置
義務内容: 相談窓口をあらかじめ定めている。
現状の課題: 相談窓口の設置率は比較的高いものの、約13%の団体では相談窓口すら設置されていないという深刻な状況が明らかになりました。
【措置義務④】相談への適切な対応体制
義務内容: 相談窓口担当者が、内容や状況に応じ適切に対応できるようにし、妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応している。
現状の課題: 相談窓口は設置されていても、担当者の専門性や対応能力が不十分なケースが多く見られます。
【措置義務⑤】事実関係の迅速かつ正確な確認(調査の実施)
義務内容: 事実関係を迅速かつ正確に確認している。
現状の課題: これは特に重要な課題です。従来から、公益通報者保護法の運用において消費者庁のガイドラインが地方公共団体の調査能力の弱さを指摘してきた点が、ここでも顕著に現れています。適切な調査手法が確立されていない団体が多数存在します。
【措置義務⑥】被害者への配慮措置
義務内容: 事実確認ができた場合には、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行っている。
現状の課題: 被害者保護の視点が不十分な対応が散見されます。なお、コンプライアンス内部通報において、事実がなかった場合の通知について「しなくてもいい」と主張するコンプライアンスを売りにする弁護士がいたことには驚かされました。これは明らかに不適切な認識です。
【措置義務⑦】行為者への適正な措置
義務内容: 事実確認ができた場合には、行為者に対する措置を適正に行っている。
現状の課題: 行為者への懲戒処分や指導が不十分、または基準が不明確な団体が存在します。
【措置義務⑧】再発防止措置
義務内容: 再発防止に向けた措置を講じている。
現状の課題: 個別事案への対応にとどまり、組織全体の再発防止策が不十分なケースが多く見られます。
【措置義務⑨】業務体制の整備
義務内容: 業務体制の整備など、事業主や妊娠等した職員その他の職員の実情に応じ、必要な措置を講じている。
現状の課題: 妊娠・出産・育児・介護と仕事の両立を支援する具体的な業務体制整備が遅れています。
【措置義務⑩】プライバシー保護
義務内容: 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、周知している。
現状の課題: プライバシー保護の具体的な方策が明確でない団体が存在します。
【措置義務⑪】不利益取扱いの禁止
義務内容: 相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取り扱いを行ってはならない旨を定め、職員に周知・啓発している。
現状の課題: この原則が明文化されていない、または周知が不十分な団体が多く存在します。
妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策の法的根拠を再確認
地方公共団体におけるハラスメント対策の法的根拠を改めて確認しましょう。これらの法令は、すべての組織が遵守すべき基本です。
【基本法令①】男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法第11条の3は、事業主に対し、職場における妊娠・出産等に関する言動に起因する問題について、雇用管理上の措置を講じることを義務付けています。
【基本法令②】育児・介護休業法
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)第25条は、育児休業等の申出・取得を理由とする不利益取扱いの禁止とハラスメント防止措置を定めています。
2025年4月と10月には育児・介護休業法の重要な改正が施行され、男性の育児休業取得促進(パタニティ休暇)やハラスメント対策の強化が図られています。
【基本指針①】妊娠・出産等に関する指針
「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(厚生労働省告示)
【基本指針②】両立支援指針
「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(妊娠、出産、育児又は介護に関するハラスメント対策指針)
これらの法令・指針は、地方公共団体のみならず、民間企業を含むすべての事業主に適用されます。組織のトップから一般職員まで、すべての関係者が熟知し、実践すべき基本事項です。
2025年最新情報:総務省の新たな取り組みと調査結果
令和7年(2025年)4月25日、総務省は「地方公共団体における各種ハラスメントに関する職員アンケート調査結果」および「各種ハラスメント対策に関する取組事例集」を公表しました。
この調査では、35.0%の地方公共団体職員が過去3年間にカスタマーハラスメント(カスハラ)を受けた経験があることが判明し、民間企業(10.8%)の約3倍という深刻な状況が明らかになりました。
また、10の地方公共団体を対象に、効果的なハラスメント対策の取組事例についてヒアリングが実施され、先進的な取り組みが紹介されています。
なぜ妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策が重要なのか
少子化対策との密接な関連性
日本の少子化問題は深刻さを増しています。令和5年(2023年)の出生数は過去最少を更新し、少子化は加速度的に進行しています。
妊娠・出産・育児・介護ハラスメントの防止は、単なる人権問題にとどまらず、働き方改革と少子化対策の両面から極めて重要な課題です。
組織のリスクマネジメントとしての重要性
ハラスメント問題は、組織の信用失墜、訴訟リスク、職員のモチベーション低下、優秀な人材の流出など、多大なリスクをもたらします。
近年、マスコミは不祥事企業に対して厳しい目を向けており、ハラスメント問題が発覚した場合、組織の存続すら危うくなる事態も起こり得ます。
実効的なハラスメント対策のための具体的アプローチ
コンプライアンス体制の実質化が不可欠
多くの組織では、ハラスメント防止規程を定め、相談窓口を設置することで「形だけのコンプライアンス体制」を整えています。しかし、それだけでは不十分です。
真に実効的なハラスメント対策には、以下の要素が不可欠です:
- トップのコミットメント:首長・社長等組織トップの明確な意思表明
- 管理職の意識改革:管理・監督者への実践的な研修
- 相談窓口の専門性強化:適切な調査手法と対応能力の向上
- 外部専門家の活用:内部通報の外部窓口設置とコンサルティング
- 継続的な教育・啓発:全職員への定期的な研修実施
- 実態把握と改善:アンケート調査等による実態把握と継続的改善
内部通報制度の適切な運用
公益通報者保護法に基づく内部通報制度の適切な運用は、ハラスメント問題の早期発見・早期対応に極めて重要です。
特に、内部通報の外部窓口を設置することで、組織内での相談がしにくい事案についても適切に対応することが可能になります。
不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の重要性
大きな不祥事が発生した組織では、コンプライアンス態勢の抜本的な再構築が必要です。
形式的な対応ではなく、組織文化の変革を伴う実質的な改革が求められます。これには、外部の専門家による客観的な視点と豊富な経験が不可欠です。
中川総合法務オフィスの専門的サポート|850回超の研修実績と実践的コンサルティング
妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策の専門家として
中川総合法務オフィスは、地方公共団体および民間企業におけるコンプライアンス体制構築とハラスメント対策の専門家として、豊富な実績を有しています。
代表の中川恒信は、コンプライアンス・リスクマネジメント・内部統制・公務員倫理等に関する研修および講演を850回以上担当し、北海道から沖縄まで全国の組織で実践的な指導を行ってきました。
豊富な実務経験に基づく実効的な支援
- 不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の実績:大きな不祥事が発生した組織において、コンプライアンス委員会の指定図書・推薦図書となっている拙著『公務員の教科書「道徳編」』(ぎょうせい)に基づく実践的な指導
- 内部通報外部窓口の現役担当者:公益通報者保護法に基づく内部通報の外部窓口を現に担当し、適切な調査手法と対応ノウハウを熟知
- マスコミからの信頼:不祥事企業の再発防止策についてマスコミからしばしば意見を求められる専門家
- 首長・社長等トップ対象研修の実績:組織トップへの研修も多数実施
妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策の具体的支援内容
中川総合法務オフィスでは、以下のような包括的な支援を提供しています:
1. ハラスメント防止研修(妊娠・出産・育児・介護ハラスメント特化型)
- 管理職向け実践研修
- 全職員向け啓発研修
- 相談窓口担当者向け専門研修
- 首長・社長等トップ向け研修
2. コンプライアンス体制構築コンサルティング
- ハラスメント防止規程の策定・見直し
- 相談窓口の設置・運用支援
- 内部通報制度の構築・運用支援
- 調査手法の指導
3. 不祥事発生時の緊急対応支援
- 事実調査の実施支援
- 再発防止策の策定
- コンプライアンス態勢の再構築
4. 継続的な顧問契約
- いつでも相談できる体制の構築
- Zoom等によるオンラインコンサルティング対応
- 全国の組織に対応可能
研修費用について
研修費用:1回30万円(交通費別途)
※継続的な支援が必要な場合は、顧問契約(別途お見積り)もご用意しております。
お問い合わせ方法
妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策、コンプライアンス研修、内部通報制度の構築など、組織のコンプライアンス体制強化に関するご相談は、以下の方法でお気軽にお問い合わせください。
電話でのお問い合わせ:
📞 075-955-0307
ウェブサイトからのお問い合わせ:
🌐 相談フォーム
中川総合法務オフィスは、850回を超える研修実績と不祥事組織の態勢再構築経験、内部通報外部窓口の実務経験を活かし、貴組織のコンプライアンス体制の実質化を強力にサポートいたします。
形だけでない、真に実効的なハラスメント対策の構築をお考えの組織は、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ:妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策の実質化に向けて
地方公共団体における妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策は、総務省の調査でも明らかなように、依然として多くの課題を抱えています。
特に指定都市を除く市町村では、法的措置義務の履行が不十分な状況にあり、早急な改善が求められています。
ハラスメント対策は、形式的な規程整備や相談窓口の設置だけでは不十分です。組織全体の意識改革、管理職の実践的な対応能力向上、適切な調査手法の確立、そして継続的な教育・啓発が不可欠です。
2025年の育児・介護休業法改正により、パタニティハラスメント(パタハラ)対策も強化されています。男性の育児休業取得を阻害するような言動も、法的に明確に禁止されているのです。
少子化問題という国家的課題に真摯に向き合い、働き方改革を実質化するためにも、妊娠・出産・育児・介護ハラスメント対策の強化は喫緊の課題です。
中川総合法務オフィスは、豊富な実績と専門知識を活かし、貴組織のコンプライアンス体制の実質化を全力でサポートいたします。

