第13条の位置づけと重要性

取適法第13条は、法律の実効性を確保するための行政機関間の連携体制を定めた規定である。中小受託事業者の保護という法目的を達成するためには、単独の行政機関による監督では限界がある。委託取引は多様な業種・業態にわたり、それぞれの業界特性を踏まえた監督が必要となる。

本条は、公正取引委員会が独占禁止法の執行機関として有する競争政策の専門性、中小企業庁が中小企業政策の所管機関として有する中小企業の実態把握、各業所管大臣が業界の特性に関して有する知見を有機的に結合させることで、法執行の実効性を高める仕組みである。

近年、下請取引における優越的地位の濫用事案や支払遅延事案が増加傾向にあり、行政機関間の情報共有の重要性は一層高まっている。企業のコンプライアンス担当者は、複数の行政機関が連携して取引実態を監視している事実を認識する必要がある。

委託事業者又は中小受託事業者に関する情報の提供等
第十三条 公正取引委員会、中小企業庁長官及び製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣は、この法律の施行に必要な限度で、委託事業者又は中小受託事業者に関する情報であつて、委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引を公正にし、又は中小受託事業者の利益を保護するため特に必要であると認められるものを相互に提供することができる。
2 公正取引委員会は、この法律の施行に必要な限度で、関係行政機関の長に対し、委託事業者又は中小受託事業者に関する情報の提供その他必要な協力を求めることができる。

第1項の解説:三機関による相互情報提供体制

情報提供の主体

第1項は、公正取引委員会、中小企業庁長官及び製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣の三者を情報提供の主体として規定している。所管大臣には、経済産業大臣、国土交通大臣、厚生労働大臣など、業種に応じた各省庁の大臣が含まれる。

これらの機関は、それぞれ異なる権限と専門性を有している。公正取引委員会は独占禁止法及び取適法の執行機関として、競争政策の観点から委託取引を監視する。中小企業庁は中小企業政策の観点から、中小受託事業者の経営実態や取引慣行に関する情報を収集している。所管大臣は、業界団体との関係や業法に基づく監督権限を通じて、業界特有の取引実態を把握している。

情報提供の要件

情報提供が認められるためには、以下の三つの要件を満たす必要がある。

第一に、「この法律の施行に必要な限度」であることである。これは情報提供の目的が取適法の執行に関連するものでなければならないことを意味する。単なる統計資料の収集や一般的な業界動向の把握を目的とする情報提供は、この要件を満たさない。

第二に、「委託事業者又は中小受託事業者に関する情報」であることである。具体的には、企業名、取引内容、支払条件、契約書の内容、違反行為の有無などが該当する。ただし、個人情報保護法その他の法令により保護される情報については、当該法令の規定に従った取扱いが必要である。

第三に、「委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引を公正にし、又は中小受託事業者の利益を保護するため特に必要であると認められる」ことである。この要件は、情報提供の必要性を厳格に判断することを求めている。

提供される情報の具体例

実務上、以下のような情報が機関間で共有される可能性がある。

公正取引委員会が実施した下請法違反事件の調査過程で得られた情報のうち、特定業界における取引慣行の問題点に関する情報を所管大臣に提供することがある。これにより、所管大臣は業界団体に対する指導を効果的に実施できる。

中小企業庁が中小企業からの相談や調査を通じて把握した支払遅延の実態に関する情報を公正取引委員会に提供することで、公正取引委員会による監視・指導の端緒となる。

所管大臣が業法に基づく監督や業界団体との対話を通じて把握した特定企業の取引実態に関する情報を公正取引委員会や中小企業庁に提供することで、多角的な実態把握が可能となる。

相互提供の意義

「相互に提供することができる」との規定は、情報の流れが一方向ではなく、双方向であることを示している。これにより、各機関が保有する情報を効果的に活用し、法執行の実効性を高めることができる。

例えば、公正取引委員会が下請法違反で勧告した企業について、中小企業庁が当該企業に対する補助金交付の審査において参考情報として活用することが考えられる。逆に、中小企業庁が把握した業界全体の支払条件の傾向に関する情報を公正取引委員会が違反事件の優先順位付けに活用することもある。

第2項の解説:公正取引委員会の調整機能

公正取引委員会の特別な地位

第2項は、公正取引委員会に対して特別な権限を付与している。公正取引委員会は、第1項で規定された三機関以外の関係行政機関の長に対しても情報提供やその他必要な協力を求めることができる。

この規定は、公正取引委員会が取適法及び独占禁止法の執行機関として、委託取引の公正化における中心的役割を担うことを前提としている。公正取引委員会は、競争政策の専門機関として、様々な業種における取引実態を横断的に把握し、違反行為の端緒を発見する立場にある。

関係行政機関の範囲

「関係行政機関の長」には、第1項で列挙された三機関以外の全ての行政機関が含まれる。具体的には、財務省、総務省、農林水産省、環境省などの各省庁、さらには都道府県知事や市町村長も含まれる可能性がある。

例えば、建設業における下請取引の実態把握のため、国土交通大臣に加えて都道府県知事に対して建設業法に基づく監督情報の提供を求めることが考えられる。また、食品製造業における委託取引の実態把握のため、農林水産大臣や食品衛生法を所管する厚生労働大臣に対して情報提供を求めることもある。

協力の内容

「情報の提供その他必要な協力」には、情報提供以外の様々な協力形態が含まれる。

第一に、共同調査の実施がある。公正取引委員会が特定業界における取引実態を調査する際、業所管大臣が共同で調査を実施することで、より詳細な実態把握が可能となる。

第二に、違反行為の端緒情報の共有がある。関係行政機関が業務を通じて把握した違反の疑いがある事案について、速やかに公正取引委員会に情報提供することが期待される。

第三に、是正指導の連携がある。公正取引委員会が勧告や指導を行った企業について、関係行政機関が所管する業法等に基づく監督において考慮することで、是正の実効性が高まる。

第四に、普及啓発活動の連携がある。各機関が実施する講習会やセミナーにおいて相互に講師を派遣したり、資料を共有したりすることで、効果的な普及啓発が可能となる。

要件の相違

第2項における情報提供等の要件は、第1項と若干異なる。第2項では「この法律の施行に必要な限度で」との要件のみが規定されており、第1項のような「特に必要であると認められる」との厳格な要件は課されていない。

これは、公正取引委員会が法執行の中心的役割を担う機関として、より広範な情報収集権限を有することを意味している。ただし、情報の取扱いについては、個人情報保護法その他の法令の規定を遵守する必要がある。

実務上の留意点

企業側の対応

企業のコンプライアンス担当者は、複数の行政機関が情報を共有していることを前提とした対応が必要である。

第一に、一つの行政機関に提出した資料や回答内容が他の機関にも共有される可能性があることを認識すべきである。したがって、提出資料の内容に矛盾や不整合がないよう、社内で情報を一元管理する体制が重要である。

第二に、業所管大臣による業法上の監督と公正取引委員会による取適法の執行が連動する可能性がある。業法違反と取適法違反が同時に認定されるケースもあり得るため、コンプライアンス体制は包括的なものとする必要がある。

第三に、中小企業庁が実施する取引条件改善の要請や、公正取引委員会が実施する書面調査に対して、誠実に対応することが重要である。これらの調査結果が機関間で共有され、将来的な監督の基礎資料となる。

行政機関間の連携事例

実際に、以下のような連携事例が報告されている。

公正取引委員会と中小企業庁は、毎年「パートナーシップ構築宣言」の普及や「価格交渉促進月間」の実施など、共同で取引適正化の取組を推進している。これらの取組において、両機関は相互に情報を共有し、効果的な施策の立案・実施を行っている。

また、特定業界において下請取引上の問題が顕在化した場合、公正取引委員会、中小企業庁及び所管大臣が連名で業界団体に対して要請文書を発出するケースがある。これは三機関が情報を共有し、問題認識を統一した上で実施される。

さらに、公正取引委員会が下請法違反で勧告した企業について、所管大臣が当該企業を業界における好事例として紹介することを控えるなど、間接的な連携も行われている。

情報管理の重要性

行政機関が共有する情報には、企業の営業秘密や競争上の機密情報が含まれる可能性がある。各行政機関は、情報の取扱いについて厳格な管理を行う義務を負っている。

公務員には守秘義務が課されており、職務上知り得た秘密を漏らすことは刑事罰の対象となる。また、行政機関の保有する情報の公開に関する法律により、企業の権利利益を害するおそれのある情報は不開示とされる。

企業側としては、行政機関に提出する資料のうち、特に秘密性の高い情報については、その旨を明示し、慎重な取扱いを求めることが考えられる。ただし、法執行に必要な情報については、秘密指定の有無にかかわらず提供を求められることがある。

今後の展望と課題

デジタル化への対応

今後、行政機関間の情報共有はデジタル化により一層効率的になると予想される。各機関が保有する情報をデータベース化し、必要に応じて相互に参照できるシステムの構築が進む可能性がある。

これにより、違反行為の早期発見や、業界横断的な取引実態の分析が容易になる。一方で、個人情報保護やサイバーセキュリティの観点から、情報管理体制の強化が不可欠である。

国際的な連携

グローバルサプライチェーンが進展する中、委託取引の問題も国際化している。海外の競争当局や中小企業支援機関との情報共有や協力体制の構築も今後の課題となる。

特に、アジア地域においては、日本企業が海外企業に製造委託を行うケースが増加している。これらの取引における公正性を確保するため、各国の行政機関間での情報交換や共同調査の実施が検討される可能性がある。

企業のコンプライアンス体制への影響

行政機関間の連携強化は、企業に対して一層高度なコンプライアンス体制の構築を求めることになる。単に取適法に形式的に対応するだけでなく、実質的に公正な取引慣行を確立することが求められる。

企業は、内部監査体制の充実、従業員教育の徹底、取引先との対話促進など、多面的な取組を通じて、持続可能なサプライチェーンを構築する必要がある。

まとめ

取適法第13条は、行政機関間の情報共有体制を規定することで、法執行の実効性を高める重要な規定である。公正取引委員会、中小企業庁、所管大臣が相互に連携し、各機関の専門性と権限を活用することで、委託取引の公正化と中小受託事業者の保護が推進される。

企業のコンプライアンス担当者は、複数の行政機関が連携して取引実態を監視している事実を認識し、包括的なコンプライアンス体制を構築する必要がある。形式的な法令遵守にとどまらず、実質的に公正な取引慣行を確立することが、持続可能な企業経営の基盤となる。


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取適法第13条が示すように、行政機関は綿密な情報共有体制を構築し、委託取引の適正化を多角的に監視しています。複数の機関が連携して企業の取引実態を把握する現代において、形式的な法令対応では不十分です。実効性のあるコンプライアンス体制の構築が不可欠となっています。

中川総合法務オフィスhttps://compliance21.com/)代表の中川恒信は、取適法・下請法を含む企業コンプライアンスの専門家として、850回を超える研修実績を有しています。不祥事を起こした組織のコンプライアンス態勢再構築にも数多く携わり、実践的なノウハウを蓄積してきました。

現在も複数企業の内部通報外部窓口を担当し、企業内部の生の声を把握する立場にあります。また、マスコミからも不祥事企業の再発防止策について意見を求められる信頼される専門家です。

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