はじめに

取適法(中小受託取引適正化法)の中核をなすのが第5条である。本条は、委託事業者が中小受託事業者に対して製造委託等を行った場合に、してはならない行為を具体的に列挙している。

第1項では7つの「禁止行為」を、第2項では4つの「利益を不当に害する行為」を定めており、合計11の規制類型が設けられている。これらは下請法における禁止行為とも共通する部分が多いが、取適法独自の規制も含まれている。

本記事では、第5条の各号について、公正取引委員会の解釈指針を参照しながら、実務上の留意点を詳しく解説する。

第5条第1項の構造:禁止行為の全体像

第5条第1項は、「次に掲げる行為をしてはならない」と規定し、絶対的に禁止される7つの行為類型を列挙している。

ただし、括弧書きで「役務提供委託又は特定運送委託をした場合にあっては、第一号及び第四号に掲げる行為を除く」とされており、委託の種類によって適用される禁止行為が異なる点に注意が必要である。

つまり、製造委託と情報成果物作成委託については全7号が適用されるが、役務提供委託と特定運送委託については第1号(受領拒否)と第4号(返品)が除外され、実質的には5つの禁止行為のみが適用される。

この理由は、役務提供委託等には「物」の受領や返品という概念が適合しないためである。

第1号:受領拒否の禁止

条文の内容

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付の受領を拒むこと」

規制の趣旨

委託事業者が一方的な都合で受領を拒否すれば、中小受託事業者は製造した物品や作成した成果物の代金を受け取れず、経営に深刻な打撃を受ける。このような不公正な取引慣行を防止するのが本号の目的である。

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」とは

受領拒否が許されるのは、中小受託事業者側に帰責事由がある場合のみである。具体的には以下のようなケースが該当する。

  • 発注仕様と異なる物品を納入した場合
  • 約定の品質基準を満たしていない場合
  • 納期に遅れた場合(ただし、委託事業者の都合による納期変更等がある場合を除く)

逆に、以下のような理由による受領拒否は違法となる。

  • 委託事業者の販売計画の変更
  • 委託事業者の在庫過多
  • 委託事業者の資金繰りの悪化
  • 発注時には予見できなかった市場環境の変化

実務上の留意点

公正取引委員会の運用基準によれば、「発注後に仕様変更があった場合でも、中小受託事業者がその変更に対応できる合理的な期間と費用負担が提供されていない限り、受領拒否は違法」とされている。

また、「一部不良品がある」という理由で全数の受領を拒否する場合も、不良率が極めて高い等の特段の事情がない限り、違法な受領拒否と判断される可能性が高い。

第2号:支払遅延の禁止

条文の内容

「製造委託等代金をその支払期日の経過後なお支払わないこと(当該製造委託等代金の支払について、手形を交付すること並びに金銭及び手形以外の支払手段であって当該製造委託等代金の支払期日までに当該製造委託等代金の額に相当する額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することを含む。)」

規制の趣旨

中小企業にとって、代金の支払遅延は資金繰りに直結する死活問題である。本号は、支払期日を守ることを絶対的義務として明確化している。

括弧書きの意味:「擬制支払遅延」の概念

本号の特徴は、括弧書きで2つのケースを「支払遅延」とみなしている点である。

1. 手形による支払

支払期日に手形を交付することは、現金で支払っていないため、実質的には支払遅延である。手形の割引には費用がかかり、また不渡りのリスクもあるため、中小企業にとっては現金払いと同等とは言えない。

2. 困難支払手段の使用

「金銭及び手形以外の支払手段であって、支払期日までに代金相当額の金銭と引き換えることが困難であるもの」とは、例えば以下のようなケースを指す。

  • 換金性の低い商品券
  • 特定の条件下でしか使用できない電子マネー
  • 現金化に長期間を要する債権

公正取引委員会の解釈では、「ファクタリングサービスを利用しなければ現金化できない債権の譲渡」なども、この困難支払手段に該当する可能性があるとされている。

実務上の留意点

第4条で定められた支払期日(受領後60日以内かつできる限り短い期間内)を1日でも過ぎれば、本号違反となる。

「資金繰りが苦しい」「支払担当者が不在」といった委託事業者側の事情は、一切考慮されない。

第3号:代金減額の禁止

条文の内容

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、製造委託等代金の額を減ずること」

規制の趣旨

いったん合意した代金を後から一方的に減額することは、中小企業の事業計画を根底から覆す行為である。本号は、このような不当な代金減額を全面的に禁止している。

「代金の額を減ずる」の具体例

代金減額には、直接的な減額のほか、実質的な減額効果をもたらす行為も含まれる。

直接的な減額

  • 発注後に単価を引き下げる
  • 「協力金」「リベート」等の名目で代金から一定額を控除する
  • 「歩引き(ぶびき)」として代金の一定率を差し引く

実質的な減額

  • 本来委託事業者が負担すべき費用を中小受託事業者に転嫁する
  • 金型費用等を分割で回収する約定だったのに、一括控除する
  • 発注数量を減らしながら、単価を据え置く(規模の経済が働かなくなる)

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の判断

代金減額が許されるのは、以下のような明確な帰責事由がある場合のみである。

  • 品質不良による値引き(ただし、不良の程度と減額幅が合理的である必要がある)
  • 納期遅延による損害賠償(ただし、遅延による実損害の範囲内)

逆に、以下の理由による減額は違法である。

  • 委託事業者の販売不振
  • 委託事業者の収益悪化
  • 「業界慣行」という理由のみでの一律減額
  • 「競合他社が値下げしたから」という理由

実務上の留意点

公正取引委員会の事例集では、「決算期末に利益を確保するため、複数の中小受託事業者に対して一律2%の協力金を求めた」ケースが違法な代金減額として認定されている。

また、「品質不良を理由とした減額であっても、不良率の算定根拠が不明確な場合や、中小受託事業者に説明・協議の機会を与えていない場合」には、違法と判断される可能性が高い。

第4号:返品の禁止

条文の内容

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付を受領した後、中小受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること」

規制の趣旨

いったん受領した物品を後から返品することは、中小企業に二重の負担を強いる行為である。製造コストだけでなく、返品された物品の処分費用や機会損失も生じる。本号は、このような不当な返品を禁止している。

「受領した後」の意味

本号の適用には、委託事業者が「受領した」という事実が必要である。検収前や仮受領の段階での返却は、厳密には本号の「返品」には該当しない可能性がある。

ただし、「形式的には検収前だが、実質的には受領と同視できる状況」であれば、返品として規制される。

公正取引委員会の解釈では、以下の場合は「受領後」と判断される。

  • 委託事業者の倉庫に搬入され、管理下に置かれた場合
  • 委託事業者が転売や加工に使用した場合
  • 委託事業者が代金の一部を支払った場合

返品が許される場合

以下のような中小受託事業者の帰責事由がある場合のみ、返品が認められる。

  • 発注仕様と明らかに異なる物品が納入された場合
  • 重大な品質不良がある場合(軽微な不良の場合は減額で対応すべき)
  • 納期に著しく遅れた場合

実務上の留意点

「売れ残ったから」「在庫が過剰になったから」という委託事業者の都合による返品は、明確に違法である。

また、公正取引委員会の事例では、「季節商品について、シーズン終了後に売れ残りを返品した」ケースが違法な返品として認定されている。

第5号:買いたたきの禁止

条文の内容

「中小受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い製造委託等代金の額を不当に定めること」

規制の趣旨

委託事業者の優越的地位を利用して、市場価格よりも著しく低い代金を設定する「買いたたき」は、中小企業の正当な利益を侵害する典型的な不公正取引行為である。

「通常支払われる対価」の判断基準

本号の適用において最も重要なのが、「通常支払われる対価」の認定である。公正取引委員会の解釈では、以下の要素を総合的に考慮するとされている。

1. 同一中小受託事業者との過去の取引価格

当該中小受託事業者に対して過去に支払っていた代金水準が、重要な比較対象となる。

2. 他の中小受託事業者への支払価格

同種の給付について他の中小受託事業者に支払っている価格も参考となる。

3. 市場価格

同種の物品・役務の市場における取引価格も考慮される。業界団体の調査データや公的統計資料が参照される場合もある。

4. 原材料費等のコスト変動

原材料価格の高騰や人件費の上昇等、コスト構造の変化も考慮される。

「著しく低い」の判断

どの程度低ければ「著しく低い」と言えるかについて、明確な数値基準はない。個別の事案ごとに判断される。

ただし、公正取引委員会の過去の事例では、「通常価格の8割以下」といった水準で買いたたきと認定されたケースが多い。

「不当に」の意味

「不当に」とは、正当な理由なく、という意味である。以下のような場合は「不当」と判断される。

  • 委託事業者の一方的な都合による低価格設定
  • 中小受託事業者との十分な協議を経ない価格決定
  • 優越的地位を利用した押し付け的な価格設定

逆に、以下のような場合は「不当」とは言えない可能性がある。

  • 発注数量の大幅増加に伴う合理的な単価引き下げ
  • 技術革新による製造コストの低減を反映した価格改定
  • 中小受託事業者との十分な協議を経た合意

実務上の留意点

買いたたきの認定では、「価格決定プロセスの適正性」が重視される。価格水準そのものだけでなく、中小受託事業者と十分な協議を行ったか、コスト構造を考慮したか、といった手続的要素も判断材料となる。

公正取引委員会の事例集では、「原材料費が20%上昇したにもかかわらず、単価を据え置いた」ケースが買いたたきと認定されている。

第6号:購入・利用強制の禁止

条文の内容

「中小受託事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること」

規制の趣旨

委託事業者が自社の指定する原材料、設備、サービス等を強制的に購入・利用させることは、中小企業の自由な経営判断を阻害し、不当な経済的負担を強いる行為である。

「強制して」の意味

「強制」とは、法的強制力を持つ場合に限らず、事実上断れない状況を作り出すことも含まれる。

具体的には、以下のようなケースが「強制」と判断される。

  • 「購入しなければ取引を停止する」と明言する
  • 購入を拒否した中小受託事業者への発注を減らす
  • 「他の取引先はみな購入している」と圧力をかける
  • 購入を前提とした発注書を送付する

正当な理由がある場合

本号には例外規定があり、以下のような「正当な理由」がある場合は、購入・利用の要請が認められる。

1. 給付内容の均質化・改善のため必要な場合

  • 品質基準を満たすために特定の原材料使用が不可欠な場合
  • 安全性確保のために特定の検査サービス利用が必要な場合
  • 技術的要請から特定の部品使用が必須となる場合

2. その他正当な理由がある場合

  • 法令上の要請により特定の資材使用が義務付けられている場合
  • 知的財産権保護のため特定の部材使用が必要な場合

正当な理由の立証責任

正当な理由があるか否かの立証責任は、委託事業者側にある。単に「品質のため」と主張するだけでは不十分であり、具体的な技術的必要性を説明する必要がある。

実務上の留意点

公正取引委員会の事例では、以下のようなケースが違法な購入強制として認定されている。

  • 託事業者が運営する購買サイトからの資材購入を義務付けた(市場価格より高額)
  • 委託事業者の関連会社が提供する物流サービスの利用を強制した
  • 委託事業者の指定する損害保険への加入を求めた

「給付の均質化のため」という理由であっても、実際には中小受託事業者が使用している代替品でも同等の品質が確保できる場合には、購入強制は違法となる。

第7号:通報報復の禁止

条文の内容

「委託事業者についてこの条の規定に違反する事実があると認められる場合に中小受託事業者が公正取引委員会、中小企業庁長官又はその製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること」

規制の趣旨

本号は、内部通報制度と同様の「通報者保護」の規定である。中小受託事業者が違法行為を当局に通報したことを理由に報復措置を受けることを防止し、法執行の実効性を確保することが目的である。

通報先

本号で保護される通報先は、以下の3つである。

  1. 公正取引委員会
  2. 中小企業庁長官
  3. 当該製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣

例えば、建設業であれば国土交通大臣、製造業であれば経済産業大臣などが該当する。

「その事実を知らせた」の範囲

本号の保護対象となる「知らせた」行為には、以下が含まれる。

  • 正式な申告・通報
  • 当局の調査への協力
  • 情報提供や相談
  • アンケート調査への回答

匿名での通報であっても、後に通報者が判明した場合には、本号の保護対象となる。

禁止される報復措置

本号が禁止する報復措置は、以下のようなものである。

1. 取引の数量を減じること

  • 発注量を削減する
  • 発注頻度を下げる
  • 新規案件から外す

2. 取引を停止すること

  • 取引関係を解消する
  • 契約を更新しない
  • 新規発注を行わない

3. その他不利益な取扱い

  • 単価を引き下げる
  • 支払条件を悪化させる
  • 要求水準を厳格化する
  • 他の中小受託事業者よりも不利な条件を設定する

因果関係の立証

通報と不利益取扱いの間に因果関係があることの立証は、実務上は困難な場合が多い。

しかし、公正取引委員会の運用では、「通報後、短期間のうちに不利益取扱いが行われた場合」には、因果関係が推定される傾向にある。

委託事業者側で「通報とは無関係な合理的理由」を立証できない限り、報復措置と判断される。

実務上の留意点

本号は、取適法の実効性確保のための「最後の砦」とも言える重要な規定である。

違反した場合、公正取引委員会による厳しい対応が予想される。また、社会的評価の低下も甚大となる。

委託事業者としては、中小受託事業者からの通報や情報提供があった場合でも、通常どおりの取引関係を維持することが強く求められる。

第5条第2項の構造:利益侵害行為の全体像

第5条第2項は、第1項とは異なる規制構造を採用している。

第1項が「してはならない」と絶対的禁止を定めているのに対し、第2項は「中小受託事業者の利益を不当に害してはならない」という形で、行為態様と違法性判断を組み合わせた規定となっている。

つまり、第2項各号に掲げる行為を行うこと自体は直ちに違法ではなく、それによって「中小受託事業者の利益を不当に害する」場合に違法となる。

第2項でも、役務提供委託又は特定運送委託の場合には第1号が除外される。

第2項第1号:原材料等の早期決済・相殺の禁止

条文の内容

「自己に対する給付に必要な半製品、部品、附属品又は原材料(以下この号において「原材料等」という。)を自己から購入させた場合に、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、当該原材料等を用いる給付に対する製造委託等代金の支払期日より早い時期に、支払うべき製造委託等代金の額から当該原材料等の対価の全部若しくは一部を控除し、又は当該原材料等の対価の全部若しくは一部を支払わせること」

規制の趣旨

委託事業者が中小受託事業者に原材料等を有償支給し、その代金を製造委託等代金から相殺する場合、本来の代金支払期日よりも早期に相殺すれば、中小受託事業者の資金繰りを圧迫する。このような不当な早期決済を規制するのが本号の目的である。

「原材料等」の範囲

本号が対象とする「原材料等」は、以下の4つである。

  1. 半製品
  2. 部品
  3. 附属品
  4. 原材料

いずれも、「自己に対する給付に必要な」ものでなければならない。つまり、委託事業者が発注した物品や成果物の製造・作成に使用される資材等に限定される。

「自己から購入させた場合」の意味

本号が適用されるのは、委託事業者自身が原材料等を中小受託事業者に販売した場合である。

第三者から購入させた場合や、中小受託事業者が自主的に調達した場合には、本号は適用されない(ただし、第1項第6号の購入強制の問題は生じうる)。

禁止される行為の具体例

本号が禁止するのは、以下の2つの行為である。

1. 製造委託等代金からの早期控除

製造委託等代金の支払期日より前に、原材料等の代金を控除することである。

例:

  • 製造委託等代金の支払期日:製品納入後60日
  • 原材料等の購入時期:製品製造開始時
  • 違法な相殺:製品納入後30日で原材料等代金を控除

2. 原材料等代金の早期支払請求

製造委託等代金の支払期日より前に、原材料等の代金を別途支払わせることである。

例:

  • 製造委託等代金の支払期日:製品納入後60日
  • 原材料等代金の請求:原材料等納入後30日
  • この場合、中小受託事業者は製品代金を受け取る前に、原材料等代金を支払わなければならない

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」とは

以下のような場合には、早期決済が認められる可能性がある。

  • 中小受託事業者が原材料等を紛失・毀損した場合
  • 中小受託事業者が製造委託等に応じられなくなった場合(倒産等)

実務上の留意点

本号違反を避けるためには、原材料等の有償支給を行う場合、支払スケジュールを慎重に設計する必要がある。

原則として、原材料等代金の決済時期は、当該原材料等を使用した製品等の代金支払期日と同時又はそれ以降とすべきである。

公正取引委員会の事例では、「原材料等の支給から最終製品の納入まで3ヶ月を要するにもかかわらず、原材料等納入後30日での相殺を求めた」ケースが違法と認定されている。

第2項第2号:経済的利益提供要請の禁止

条文の内容

「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」

規制の趣旨

委託事業者が中小受託事業者に対して、本来の給付以外の経済的利益の提供を求めることは、実質的に代金の減額や追加負担の押し付けとなる。このような不当な利益提供要請を規制するのが本号の目的である。

「経済上の利益」の範囲

本号の「経済上の利益」は極めて広範であり、以下のようなものが含まれる。

1. 金銭の提供

  • 協賛金、協力金の名目での金銭徴収
  • 従業員派遣に対する人件費負担
  • 設備投資への資金提供

2. 役務の提供

  • 無償での労働力提供(応援要員の派遣等)
  • 無償での設備・場所の提供
  • 無償での技術指導・コンサルティング

3. その他の経済的利益

  • 商品・製品の無償提供(見本品、試作品等)
  • 債権放棄
  • 委託事業者の行事への参加費用負担

「不当に害する」の判断

本号は第2項に属するため、経済的利益の提供を求めること自体が直ちに違法となるわけではない。「中小受託事業者の利益を不当に害する」場合に違法となる。

以下のような場合は「不当」と判断される可能性が高い。

  • 中小受託事業者にとって一方的に不利益な要請
  • 合理的な対価なく利益提供を求める
  • 中小受託事業者の自由な判断を阻害する形での要請
  • 取引上の地位を利用した押し付け

逆に、以下のような場合は「不当」とは言えない可能性がある。

  • 中小受託事業者の自発的な提案に基づく協力
  • 双方にメリットがある合理的な取り決め
  • 適正な対価を支払った上での役務利用

実務上の留意点

公正取引委員会の事例集では、以下のようなケースが違法な利益提供要請として認定されている。

  • 委託事業者の創立記念行事への協賛金を要請し、事実上断れない状況を作った
  • 委託事業者の新規工場建設に際し、周辺整備費用の一部負担を求めた
  • 委託事業者の品質管理部門への人員派遣を無償で求めた

本号違反を避けるためには、中小受託事業者に何らかの協力を求める場合、以下の点に留意すべきである。

  1. 協力が任意であることを明確にする
  2. 協力に対する適正な対価を支払う
  3. 協力を拒否しても取引上の不利益が生じないことを保証する
  4. 文書で合意内容を明確にする

第2項第3号:内容変更・やり直しの禁止

条文の内容

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、中小受託事業者の給付の内容を変更させ、又は中小受託事業者の給付を受領した後(役務提供委託又は特定運送委託の場合にあっては、中小受託事業者からその委託に係る役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること」

規制の趣旨

発注後の一方的な内容変更や、受領後のやり直し要求は、中小受託事業者に追加コストと時間的損失を強いる行為である。このような不当な変更・やり直し要求を規制するのが本号の目的である。

禁止される行為の2類型

本号は、2つの異なる行為類型を規制している。

1. 給付内容の変更

発注後に、給付の内容を変更させる行為である。変更のタイミングは問わず、製造・作成中の変更も含まれる。

具体例:

  • 仕様変更を指示する
  • 使用する原材料の変更を求める
  • デザインの修正を要求する
  • 納期の前倒しを求める

2. 給付のやり直し

受領後(役務の場合は提供を受けた後)に、給付を再度行わせる行為である。

具体例:

  • 納品された製品の作り直しを求める
  • 作成された成果物の全面的修正を要求する
  • 提供された役務を再度実施させる

「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の判断

以下のような場合には、内容変更・やり直しが認められる。

  • 発注仕様を満たしていない場合
  • 品質基準に達していない場合
  • 中小受託事業者の過失により不具合が生じた場合

逆に、以下の理由による変更・やり直しは違法となる。

  • 委託事業者の都合による仕様変更
  • 委託事業者の顧客からのクレームに対応するための変更
  • 委託事業者の曖昧な発注内容に起因する食い違い
  • 市場環境の変化に対応するための変更

「不当に害する」の判断

本号では、内容変更・やり直しが「中小受託事業者の利益を不当に害する」場合に違法となる。

以下のような場合は「不当」と判断される。

  • 追加費用を一切負担せず変更を要求する
  • 納期を考慮せず変更を指示する
  • 変更により中小受託事業者が受ける損失を補償しない
  • 頻繁に変更を繰り返し、安定した製造が困難になる

実務上の留意点

発注後の内容変更が必要になる場合は、以下の対応が求められる。

  1. 変更の必要性と内容を明確に説明する
  2. 変更により生じる追加コストを算定し、適正に負担する
  3. 納期への影響を考慮し、必要に応じて納期を延長する
  4. 中小受託事業者と十分に協議し、合意を得る
  5. 変更内容を文書で確認する

公正取引委員会の事例では、「最終顧客の要望という理由で、納品直前に大幅な仕様変更を求め、追加費用の負担を拒否した」ケースが違法と認定されている。

第2項第4号:協議義務違反の禁止

条文の内容

「中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合において、中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じず、又は当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をせず、一方的に製造委託等代金の額を決定すること」

規制の趣旨

原材料費の高騰や人件費の上昇等、コスト構造に変化が生じた場合、代金の見直しが必要となる。しかし、委託事業者が協議を拒否し、一方的に代金を決定すれば、中小受託事業者は不当な不利益を被る。本号は、このような協議拒否・一方的決定を規制している。

本号の適用要件

本号が適用されるには、以下の要件を満たす必要がある。

1. 「費用の変動その他の事情」が生じたこと

具体例:

  • 原材料価格の高騰
  • 人件費の上昇
  • エネルギーコストの増大
  • 為替レートの変動
  • 法令改正に伴う追加コスト

2. 中小受託事業者が協議を求めたこと

中小受託事業者側から、代金見直しの協議を明示的に要請する必要がある。委託事業者が自発的に協議を行わない場合、本号の問題は生じない(ただし、第1項第5号の買いたたきの問題は生じうる)。

3. 以下のいずれかの行為があること

a) 協議に応じないこと b) 協議において必要な説明・情報提供をせず、一方的に決定すること

「協議に応じない」の意味

単に協議の場を設けないという消極的対応だけでなく、以下のような場合も「協議に応じない」と判断される。

  • 形式的に協議の場は設けるが、実質的な議論を拒否する
  • 協議の申し入れを無視し、回答しない
  • 「協議の必要はない」と一方的に拒絶する
  • 協議を不合理に先延ばしにする

「必要な説明若しくは情報の提供」の内容

協議において中小受託事業者が求めた事項について、委託事業者が説明・情報提供すべき内容は、以下のようなものである。

  • 代金決定の根拠となる考え方
  • 市場価格や他社との比較データ
  • 委託事業者側のコスト構造の変化
  • 代金変更を拒否する理由

「一方的に決定する」の意味

中小受託事業者の意見を聞かず、委託事業者の判断のみで代金を決めることである。

形式的に協議を行っても、中小受託事業者の主張を一切考慮せず、委託事業者の当初の提示額を押し付ける場合も、一方的決定に該当する。

「不当に害する」の判断

協議拒否・一方的決定が「中小受託事業者の利益を不当に害する」場合に違法となる。

以下のような場合は「不当」と判断される。

  • コスト上昇が明白であるにもかかわらず、代金を据え置く
  • 協議において合理的な説明を行わない
  • 中小受託事業者の経営を圧迫する水準で代金を設定する

実務上の留意点

本号は、取適法の中でも特に重要な規定である。近年の原材料価格高騰等を背景に、本号違反のリスクが高まっている。

委託事業者としては、以下の対応が求められる。

  1. 中小受託事業者から協議の申し入れがあった場合、速やかに協議の場を設ける
  2. 協議において、代金決定の考え方を丁寧に説明する
  3. 中小受託事業者のコスト構造を理解し、合理的な範囲での代金見直しを検討する
  4. 協議内容を記録し、合意事項を文書化する
  5. 協議が整わない場合でも、一方的な押し付けは避け、継続協議を提案する

公正取引委員会の事例では、「原材料費が30%上昇したため代金見直しの協議を求めたが、『契約で単価は固定されている』として協議を拒否し、従来どおりの単価を維持した」ケースが違法と認定されている。

第5条の実効性確保の仕組み

第5条違反に対しては、公正取引委員会が以下の措置を講じることができる(第6条~第8条)。

  1. 勧告(第6条)
  2. 勧告に従わない場合の公表(第7条)
  3. 指導・助言(第8条)

また、違反行為が独占禁止法上の優越的地位の濫用(第2条第9項第5号)にも該当する場合は、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令の対象となりうる。

委託事業者に求められる対応

第5条の遵守を確保するため、委託事業者には以下の対応が求められる。

1. 社内規程の整備

取適法の要請を反映した発注・支払規程を整備する。特に以下の点を明確化すべきである。

  • 支払期日の設定ルール
  • 代金減額の手続と承認権限
  • 返品の要件と手続
  • 原材料等有償支給の決済ルール
  • 協議要請への対応手続

2. 従業員教育

発注・購買部門の従業員に対して、取適法の内容を周知徹底する。特に、以下の点を理解させる必要がある。

  • 禁止される行為の具体例
  • 「中小受託事業者の責めに帰すべき理由」の判断基準
  • 協議義務の重要性

3. 取引実態の定期的点検

自社の取引慣行が第5条に抵触していないか、定期的に点検する。特に、以下の点をチェックすべきである。

  • 支払遅延の有無
  • 不当な代金減額の有無
  • 協賛金等の名目での経済的利益提供要請の有無
  • 協議要請への対応状況

4. 相談窓口の設置

中小受託事業者からの相談や苦情を受け付ける窓口を設置する。問題が表面化する前に、自主的に是正することが重要である。

5. コンプライアンス体制の構築

取適法遵守を経営レベルで推進する体制を構築する。コンプライアンス委員会等で取適法違反リスクを定期的に評価し、必要な対策を講じる。

まとめ

第5条は、取適法の中核をなす規定であり、委託事業者が絶対に遵守すべき行動規範を示している。

第1項で7つの禁止行為、第2項で4つの利益侵害行為を定め、中小受託事業者の取引上の地位を多角的に保護している。

委託事業者としては、本条の趣旨を深く理解し、日々の取引実務において法令遵守を徹底する必要がある。

特に近年、公正取引委員会は中小企業保護の観点から、取適法違反行為に対して厳格な姿勢で臨んでいる。本条違反が認定されれば、勧告・公表という行政措置のみならず、社会的評価の低下や取引先からの信頼喪失といった重大な結果を招く。

本条の遵守は、単なる法的義務ではなく、持続可能なサプライチェーンを構築し、公正な取引秩序を維持するための経営課題である。


取適法コンプライアンス体制構築は、中川総合法務オフィスにお任せください

取適法第5条で示された11の禁止・規制行為は、委託事業者にとって「知らなかった」では済まされない重要なコンプライアンス事項です。しかし、条文を読むだけでは、自社の取引実務のどこに違反リスクが潜んでいるのか、具体的にどのような対策を講じればよいのか、判断が難しいのが実情ではないでしょうか。

中川総合法務オフィスhttps://compliance21.com/)の代表・中川恒信は、850回を超えるコンプライアンス研修を担当してきた豊富な実績を持ち、不祥事を起こした組織のコンプライアンス態勢再構築にも携わってきました。また、内部通報の外部窓口を現に担当しており、企業の内側から見た実態的なリスクを熟知しています。さらに、マスコミからも不祥事企業の再発防止策について意見を求められるなど、コンプライアンス分野における高い専門性が認められています。

中川総合法務オフィスができること

  1. 取適法の実務的解説研修
    条文の字面だけでなく、公正取引委員会の解釈指針や過去の違反事例を踏まえた、実践的な研修を提供します。発注・購買部門の担当者が「明日から使える知識」を習得できます。
  2. 自社取引実態の診断とリスク評価
    貴社の契約書、発注書、支払規程等を精査し、取適法違反リスクがどこに潜んでいるかを具体的に指摘します。
  3. 社内規程の整備支援
    取適法に準拠した発注・支払規程、協議対応マニュアル等の策定を支援します。
  4. 内部通報窓口としての機能
    中小受託事業者からの苦情や相談を受け付ける外部窓口として機能し、問題の早期発見・早期対応を実現します。
  5. 継続的なコンサルティング
    法改正や公正取引委員会の運用変更に応じて、継続的にアドバイスを提供します。

研修・コンサルティング費用

1回30万円(税別)を原則としています。貴社の規模や課題に応じて、柔軟に対応いたしますので、まずはご相談ください。

お問い合わせ方法

取適法違反は、一度認定されれば企業の信頼を大きく損ないます。事後的な対応ではなく、予防的なコンプライアンス体制の構築こそが重要です。中川総合法務オフィスが、貴社の持続可能な取引関係構築をサポートします。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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