◆著作権侵害の主張のコツは、著作物、著作者、著作権の3つの分析概念を論理的な整合性をもって主張することである。特に、民法の原則を修正する点は重要である。

【事例問題】

出版社Aは,その発行する美術雑誌に新作美術作品の紹介記事を連載しているところ,職業写真家である甲に対し,同美術雑誌の次号の記事で紹介する作品の写真を撮影することを依頼した。その際,甲はAから,撮影する作品は日本の伝統芸能の一つである浄瑠璃芝居に用いられる文楽人形αであり,文楽人形細工師乙が創作した新作品であること,乙は文楽人形αが写真撮影されることを承諾して撮影への協力を引き受けたこと,写真の掲載に当たっては写真撮影者の表示はしないこと,写真原版は雑誌発行後に甲に返還することについて説明を受け,甲は写真撮影を承諾した。そして,甲は,写真βを撮影し,その写真原版をAに引き渡した。写真βは,文楽舞台において,衣装等を着けて鼓を持たせた文楽人形αを斜めから撮影したカラー写真であり,乙は,衣装等をつけた文楽人形αと鼓を撮影現場に持参し,自ら人形を操作してそのポーズを決め,甲は,写真構図,採光,露光,シャッタースピード等を決めてシャッターを切ったものである。出版社Aは 写真βを文楽人形α及び乙の紹介記事とともに掲載 (写真撮影者の表示はない 。)した美術雑誌を発行した。
 その後,Aは,経営不振のため美術雑誌の発行を継続することができなくなり,写真βの写真原版は甲に返還されないままとなっていた。商業用カレンダーの製作を業とする会社丙は,出版社Aからその保有するすべての写真原版を買い受けたところ,その中に写真βの写真原版があったことから,これを顧客に配布する自社のカレンダー用の写真として利用することとした。その際,丙は,自社のカレンダー仕様に合わせるために写真βの左右の2辺を一部削除したので,その背景の一部がカットされた。丙はこの写真を自社の来年度のカレンダーに掲載した。甲及び乙は,それぞれ丙に対して,著作権法上いかなる法的主張が可能か。

【解答の方向性】

主張者法的根拠主張内容
甲(写真家)著作権法21条・27条・20条等・写真βの著作権侵害(無断使用・改変)
・同一性保持権の侵害(トリミング)
・氏名表示権の侵害
・原版の返還請求(所有権に基づく)
乙(人形作家)著作権法21条・28条・20条等・人形αの二次的著作物の無断利用(著作権侵害)
・許諾の範囲を超えた利用で侵害成立
・同一性保持権の侵害の可能性

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