はじめに

企業の組織図やニュースリリースで当たり前のように目にする「執行役員」という肩書き。しかし、この「執行役員」が、実は会社法には一切規定のない役職であることはご存知でしょうか。

多くの企業で重要な役割を担っているにもかかわらず、その法的な位置づけは曖昧な部分もあります。一方で、会社法には非常によく似た「執行役」という役職が存在し、混乱に拍車をかけています。

この記事では、850回以上のコンプライアンス研修実績を誇る中川総合法務オフィスが、執行役員の概念、導入の背景、そして取締役や「執行役」、CEOなどとの具体的な違いについて、実務的な観点から深く解説していきます。

【基本】執行役員は会社法に規定がない、しかし重要な存在

まず押さえておくべき最も重要な点は、「執行役員」という役職は、会社法上の機関ではないということです。取締役や監査役のように、法律でその設置や権限、責任が定められているわけではありません。

法的には、執行役員は企業が任意で設置する役職であり、その位置づけは「取締役会などの経営陣から委嘱を受け、特定の事業部門における業務執行の責任を担う、重要な従業員」となります。多くの場合、従業員のトップ層として、経営と現場の橋渡しの役割を期待されています。

なぜ導入された?背景にある米国オフィサー制度

では、なぜ法的な裏付けのない執行役員制度が、これほどまでに日本の企業社会に浸透したのでしょうか。その起源は、米国企業の「オフィサー(Officer)」制度にあります。

米国のオフィサー制度は、取締役会(Board of Directors)が決定した経営方針に基づき、CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)といったオフィサーたちが、各々の専門分野で具体的な業務執行に責任を持つというものです。

この仕組みは、以下の二つの大きなメリットをもたらします。

  1. 取締役会の意思決定の迅速化・集中化: 取締役会のメンバーを少人数に絞ることで、経営の根幹に関わる重要なテーマについて、より集中的かつ深い議論が可能になります。
  2. 業務執行の効率化: 取締役会で決定された事項を、各部門の専門家であるオフィサー(執行役員)に委ねることで、スピーディーで効率的な業務執行が実現します。

この米国式の効率的な経営スタイルを参考に、日本の企業でも執行役員制度が導入されるようになりました。

CEO、CFOとは違う?多様化する執行役員の名称

執行役員制度の導入に伴い、米国企業に倣って特定の責任範囲を示すアルファベット3文字の役職名が使われることも増えました。これらは、執行役員の役割をより明確にするためのものです。

  • CEO (Chief Executive Officer): 最高経営責任者 企業の経営全般に対して最高の責任を負う。会長や社長が兼任することが多い。
  • COO (Chief Operating Officer): 最高執行責任者 CEOの決定のもと、日々の業務執行の責任を負う。ナンバー2のポジション。
  • CFO (Chief Financial Officer): 最高財務責任者 企業の財務戦略や資金調達、経理全般を統括する。
  • CTO (Chief Technology Officer): 最高技術責任者 企業の研究開発や技術面を統括する。
  • CIO (Chief Information Officer): 最高情報責任者 企業のIT戦略や情報システムを統括する。

これらの役職は、それぞれが特定の分野における業務執行のトップであることを示しており、経営トップへの報告を通じて、集中的かつ効率的な経営を実現します。

【混同注意!】会社法の「執行役」との決定的な違い

執行役員と最も混同されやすいのが、会社法に定めのある「執行役」です。両者は名称こそ似ていますが、法的な位置づけは全く異なります。

比較項目執行役員執行役(会社法第402条)
法的根拠会社法に規定なし(企業が任意で設置)会社法に規定あり
設置できる会社どの会社でも設置可能「指名委員会等設置会社」のみ
選任方法企業の内部規定による(取締役会決議など)取締役会の決議により選任
法的関係企業との「雇用契約」または「委任契約」会社との「委任契約」
責任従業員としての責任が基本取締役と同等の善管注意義務や損害賠償責任を負う
取締役との兼任可能だが、兼任しないケースが多い可能

重要なのは、「執行役」は会社法に基づき、取締役に近い重い責任を負う機関であるのに対し、「執行役員」はあくまで従業員としての立場が基本であるという点です。執行役員は、取締役としての責任規定の適用を受けません。この違いを明確に理解しておく必要があります。

まとめ:執行役員制度を正しく理解し、企業統治に活かす

執行役員制度は、取締役会による経営の監督機能と、現場の業務執行機能を分離し、それぞれを強化・効率化するための有効な仕組みです。しかし、その運用を誤れば、責任の所在が曖昧になり、ガバナンス不全を招くリスクもはらんでいます。

制度を導入・運用する際には、その役割と責任範囲を社内規程で明確に定め、取締役会が執行役員の業務執行を適切に監督する体制を構築することが不可欠です。


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