はじめに

近年、SNSの普及により、誰もが容易に情報を発信できる時代となりました。その一方で、組織における情報発信のリスク管理、特にコンプライアンスの観点からの重要性が高まっています。

記憶に新しいところでは、千葉大学医学部附属病院(以下、千葉大学病院)において、病院の運営体制や医療行為に関すると思われる「不適切な投稿」がSNS上で行われ、現在大学側が調査を進めているという報道がありました。

本稿では、この事案を題材に、大学病院をはじめとする組織におけるコンプライアンス体制の構築と、リスク管理の重要性について、コンプライアンス専門家の視点から解説いたします。

事案の概要と千葉大学病院の対応

報道によれば、この問題は、千葉大学病院に勤務すると思われる人物が、SNSに病院内のインシデント(重大な事故)の隠蔽や、本来患者に投与すべき薬剤を投与したように装って廃棄したといった内容を投稿したとされています。

これに対し、千葉大学病院は公式ホームページにて、2025年1月8日と1月10日の二度にわたり、調査中である旨を公表しています。1月10日の発表では、9日に投稿者と見られる人物に対し自宅待機を命じたことが明らかにされています。しかし、その後、2025年3月現在に至るまで、新たな公式発表は確認されていません。

コンプライアンス体制とリスク管理の重要性

今回の事案は、組織におけるコンプライアンス体制とリスク管理のあり方について、改めて私たちに重要な問いを投げかけています。

コンプライアンスとは、単に法令を遵守することにとどまらず、社会規範や倫理観、組織内部の規則などを広く遵守し、組織のステークホルダー(患者、地域住民、従業員など)からの信頼を得ることを目指す考え方です。

特に、大学病院のような公共性の高い組織においては、患者の安全・安心を守ることはもちろん、地域社会からの信頼を得ることが不可欠です。そのためには、医療ミスや災害といったリスクに加え、コンプライアンス違反によるリスク(以下、コンプライアンスリスク)を組織運営の重要な要素として捉え、適切な管理体制を構築する必要があります。

コンプライアンスリスクの種類と影響

コンプライアンスリスクは多岐にわたりますが、今回の事案に関連する可能性のあるリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • レピュテーションリスク: 不適切な情報発信により、病院の信頼や評判が損なわれるリスク。SNSは拡散力が強く、一度ネガティブな情報が広まると、その影響は甚大です。
  • 業務運営リスク: 不適切な医療行為や隠蔽工作が行われることで、患者の安全が脅かされたり、適切な医療サービスの提供が妨げられたりするリスク。
  • 法的リスク: 関係法令や内部規則に違反する行為が行われた場合、法的責任を問われるリスク。
  • 内部統制リスク: 組織内部の管理体制が不十分であるために、不正行為や不適切な行為が発生しやすくなるリスク。

SNS時代のレピュテーションリスク管理

SNSが普及した現代においては、組織内外からの情報発信が、組織のレピュテーションに大きな影響を与える可能性があります。かつては、掲示板などを通じて噂が広まることがありましたが、SNSの登場により、そのスピードと影響力は格段に増しています。

組織は、自組織に関する外部からの情報(SNS、掲示板、ニュースサイトなど)を定期的に監視し、レピュテーションリスクを把握する体制を構築することが重要です。また、内部の人間による不適切な情報発信についても、組織全体で認識を共有し、適切な対策を講じる必要があります。

表現の自由と組織の規律

憲法21条で保障されている表現の自由は尊重されるべきですが、組織に所属する個人が、その立場を利用して不適切な情報発信を行うことは、組織全体の信頼を損なう行為につながりかねません。

勤務時間中のSNS利用に関するルールや、組織の情報発信に関するガイドラインなどを明確化し、従業員への周知徹底を図ることが重要です。今回の千葉大学病院のケースのように、勤務時間外の投稿であっても、その内容が組織の信頼を著しく損なうと判断される場合には、適切な対応が必要となるでしょう。

内部統制と情報管理の重要性

組織のコンプライアンス体制を強化するためには、内部統制の構築が不可欠です。内部統制の基本的な枠組みにおいては、コンプライアンス目的の達成のために、リスク管理と並んで情報管理と情報伝達が重要な要素として位置づけられています。

組織内外の自組織に関する情報を適切に管理し、問題が発生した場合やその兆候が見られた場合に、速やかに病院長や事務局長などの責任者に報告・連絡される体制を構築することが重要です。今回の事案においても、もし初期段階で不適切な投稿に関する情報が適切に上層部に伝わっていれば、より迅速な対応が取れた可能性があります。

中川総合法務オフィスからのご提案

中川総合法務オフィスでは、病院をはじめとする各種組織に対し、コンプライアンス体制の構築、リスク管理、内部統制に関するコンサルティングサービスを提供しております。今回の千葉大学病院の事案を教訓として、貴院・貴社のコンプライアンス体制の見直しや強化をご検討の際は、ぜひお気軽にご相談ください。

まとめ

今回の千葉大学病院における不適切な投稿問題は、SNS時代の組織におけるコンプライアンスとリスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。組織は、法令遵守はもとより、社会からの信頼を得るために、常にコンプライアンス意識を持ち、適切な体制を構築・運用していく必要があります。

中川総合法務オフィスは、コンプライアンス専門家として、皆様の組織運営をサポートさせていただきます。

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