はじめに――建設業で粉飾が起きやすい構造的な理由

粉飾決算は建設業界にとって決して対岸の火事ではない。2023年度において、コンプライアンス違反に伴う倒産は業種別では建設業が61件で全体の17.4%を占め、違反類型別では売り上げの架空計上などの「粉飾」が81件(同23.1%)でアフターコロナで資金調達環境などが変わるなか増加傾向にある。粉飾決算を伴う倒産には負債額が50億円を超えるものもみられ、金融機関をはじめ多くの取引先を巻き込むケースが相次いでいる。

なぜ建設業で粉飾が起きやすいのか。他業種にはない建設業固有の構造的な理由として、経営事項審査制度の存在がある。公共工事を受注するためには、毎年、経営事項審査(経審)を受けて総合評点(P点)を取得しなければならない。このP点の高低が公共工事の入札資格ランクと直結するため、建設業の場合は、銀行等だけではなく、公共工事の入札ランクと関連する経営事項審査をとても気にする。経営事項審査は「経営状況」「経営規模」「技術力」「その他の審査項目(社会性等)」を考慮し数値化されるため、「経営状況」を少しでも良くしようとする動機が生まれる。

これが建設業における粉飾の最大の動機源となる。「完成工事高を少し多く見せれば入札ランクが上がる」「赤字決算を出すとP点が落ちて仕事が減る」という意識が、経審に向けた数値操作を引き起こす。


建設業における粉飾の典型手口

粉飾決算とは、不正な会計処理によって企業の財務状況を実際よりも良く見せることを指す。粉飾決算を行うためにやることは、「売上を増やす」か「経費を減らす」かの2つしかなく、売上を増やすためには、翌期の売上を前倒しで計上するか、架空の売上を計上するかであり、他に在庫を多くするという方法もある。本来経費として計上すべき仕入や未払計上を先送りにしたり、すでに支払ってしまった経費を仮払金や貸付金などに振り替えたりする。

建設業では業界固有の会計科目を利用した粉飾が発生しやすい。「完成工事未収入金」(建設業における売掛金)への架空計上、「未成工事支出金」(工事仕掛品)を利用した原価の繰り延べがその典型である。建設業の事業再生の現場では、ほぼすべての企業で、売上の先行計上や架空計上、工事原価の繰り延べは見かけるものである。

逆に、脱税目的で利益を過少に申告する「逆粉飾」も建設業では頻出する。架空外注費の計上がその代表例で、架空の外注加工費などを計上し、事業年度における法人税や地方法人税を免れたことで営業停止処分を受けた事例が実際に発生している。


経営事項審査の虚偽申請――建設業固有の処分リスク

粉飾決算が建設業において特に深刻なのは、不正な財務諸表を経営事項審査に使用した場合、建設業法上の重い処分が別途課されるからである。

国土交通省の監督処分基準(令和5年3月最終改正)は、この点について明確に規定している。完成工事高の水増し等の虚偽の申請を行うことにより得た経営事項審査結果を公共工事の発注者に提出し、公共発注者がその結果を資格審査に用いたときは、30日以上の営業停止処分を行うこととする。この場合において、監査の受審状況において加点され、かつ、監査の受審の対象となった計算書類、財務諸表等の内容に虚偽があったときには、45日以上の営業停止処分を行うこととする。

監査加点を受けていた企業が虚偽財務諸表を使用していたことが発覚した場合、基本の30日よりもさらに重い45日以上という処分が下される。これは「内部牽制が機能していたと評価されていた企業が実は不正をしていた」という悪質性を反映したものだ。

実際の処分事例として、令和3年5月31日および令和4年5月31日を審査基準日とする経営事項審査において、完成工事高を水増しした虚偽の申請を行うことにより得た経営事項審査結果を公共工事の発注者に提出し、公共発注者がその結果を資格審査に用いたとして、建設業法第28条第1項第2号に該当すると認められ、営業停止処分を受けた事案がある。

さらに、現在、経営事項審査を行っている企業を対象に完成工事高や技術者員の分析から虚偽申請や疑義のある業者の監督体制が強化されている。行政の審査体制が高度化しており、数値の異常値分析によって虚偽申請が検出されるリスクが高まっている。

建設業法上の罰則として、経営規模等評価申請に虚偽の記載をして提出した場合は6月以下の拘禁刑=懲役または100万円以下の罰金の対象となる。行政処分と刑事罰の双方が問われる点で、経審への虚偽申請は特に重大な違反である。


事例:大成建設の申告漏れ・所得隠し事案

大手ゼネコンにおいても財務上の不正が発覚した事例がある。平成26年6月、大成建設が平成22年から平成25年3月期の3年間で、約2億円の申告漏れを東京国税局から指摘されていたことが判明した。指摘額のうち約6000万円については、同社の幹部社員が、下請会社に対し虚偽の発注を繰り返して裏金を捻出し、マンションを建設するための費用として私的に使っていたとして、所得隠しと認定された。

この事案が示す構造は建設業に広く共通するものだ。架空の外注費を下請会社に経由させて裏金を捻出するという手法は、重層的な外注構造が定着した建設業において実行しやすく、かつ発覚しにくいとされてきた。しかし税務調査の精度が向上した現在、数年分をさかのぼって調査される重加算税・追徴課税のリスクは現実のものとなっている。


粉飾決算に問われる法的責任の全体像

粉飾決算が発覚した場合、行政処分・刑事責任・民事責任の三方向から責任が問われる。

行政処分

建設業者に対しては、虚偽の経営事項審査申請として前述の通り30日以上・45日以上の営業停止処分が課される。公共工事の指名停止も連動し、実質的な売上の消滅につながる。

刑事責任

粉飾決算を行い、その決算書を用いて本来の財務内容であれば受けることのできないような融資を受けたような場合には、「人を欺いて財物を交付させた」として詐欺罪が成立する可能性があり、詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑である。会社法においては、取締役等が粉飾決算によって自己または第三者の利益を図りその任務に違背して会社に損害を与えた場合には特別背任罪として10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金またはこれらの併科が課される。

また、粉飾決算を行って、本来は配当をすることができないにもかかわらず配当を行った場合には、違法配当罪が成立する可能性があり、違法配当罪の法定刑は5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金またはこれらを併科である。

民事責任

粉飾決算により違法に利益配当を行ったときは、取締役は連帯してこの違法に配当した利益を会社に賠償することになる(会社法462条)。また、決算書に虚偽の記載のために第三者に損害を生じたときは、取締役はこの第三者に対して連帯してその損害を賠償すべき責任を負うことになる(同法429条)。


粉飾が倒産に直結するメカニズム

建設業で粉飾が特に危険なのは、「隠している間」だけでなく「発覚した瞬間」に崩壊が一気に進むメカニズムがあるからだ。

銀行が融資の審査に使ってきた財務諸表が偽りであったと判明すれば、期限の利益を喪失し借入金の一括返済を求められる。公共工事の入札資格が剥奪され、売上の大部分が消える。取引先の信用は失墜し、下請業者への支払いが滞る。これらが同時進行することで、多年にわたって積み上げてきた事業が短期間で崩壊する。

コロナ融資で過剰な債務を抱えた企業が、金融機関に返済猶予や追加支援を申し入れたタイミングで粉飾決算が発覚し、行き詰まるケースなどがみられる。 問題の先送りが粉飾という形をとり、資金繰りが限界に達したときにすべてが露呈するという構造は、コロナ融資の返済が本格化した2023年度以降に顕著になっている。


粉飾を防ぐための体制整備

コンプライアンス研修で粉飾決算を取り上げると、「自社とは無関係だ」という空気が漂うことがある。しかし、特に中小企業が粉飾決算を行う大きな理由は、銀行等の金融機関に経営状況を良く見せることにあり、会社の経営状態が悪い状態が続いていると銀行等も借入条件を厳しくしたり、または新規の借入停止したりすることがあるため、このような事態を避けるため、中小企業は、たとえ税金を多く払ってでも粉飾決算に手を染めるようになる。

建設業でこれに加えて経審の数値圧力が重なることで、「仕方がない」という自己正当化が生まれやすい。

粉飾を防ぐための組織的な体制として、まず経理担当者への権限集中を避け、複数部署をまたいだ牽制体制を構築することが求められる。経審申請前に会計士・税理士・行政書士による第三者確認を実施することも有効だ。また、内部通報制度を整備し、「おかしいと感じたら報告できる」組織風土を醸成することが、早期発見につながる最も効果的な対策となる。


まとめ

建設業における粉飾決算は、経営事項審査の点数競争と融資維持という二重の動機から発生しやすい構造的な問題である。発覚した場合には、行政処分(30日以上・45日以上の営業停止)、刑事責任(詐欺罪・特別背任罪・違法配当罪)、民事責任(会社法462条・429条)という三層の制裁が同時に問われる。

「少しくらい良く見せても大丈夫」という意識の積み重ねが、発覚時に取り返しのつかない崩壊を招く。会計の透明性を確保する体制整備は、コンプライアンス上の義務であると同時に、経営の持続可能性を守るための最も基本的な経営課題である。

中川総合法務オフィスでは、建設会社向けのコンプライアンス研修・体制構築支援を行っております。経営事項審査の適正申請に関するご相談も承ります。初回相談は無料です。お問い合わせはこちら

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