はじめに――「少し盛っただけ」が経営の息の根を止める
建設業法に基づく許可申請・変更届・経営事項審査は、膨大な書類を用意し、行政との折衝を経る手続きである。その過程で「経験年数を少し多めに書いた」「退職した担当者の名前を当面使い続けた」「完成工事高を実態より上乗せした」という判断が生まれることがある。
しかし、こうした「小さな偽り」が発覚した場合に待ち受けているのは、許可取消・5年間の欠格・刑事罰という、経営の存続を根本から揺るがす制裁である。
行政書士として建設業許可の申請実務に携わってきた経験から言えることがある。虚偽申請が発覚するタイミングは予測できない。立入検査、社会保険の調査、内部通報、担当者の退職後の告発――いずれも「当面は大丈夫」という見通しを裏切る形で問題が表面化する。
本稿では、建設業の虚偽申請の実例を類型別に整理し、それぞれの法的根拠と実際の制裁内容を解説する。
虚偽申請の法的位置づけと罰則体系
建設業法における虚偽申請には、申請行為の内容によって異なる罰則が設けられている。
最も重い罰則が適用されるのは、「虚偽又は不正の事実に基づいて建設業の許可を受けた」場合である。建設業法の中で最も重たい罰則として、無許可で建設業を営んだ場合や虚偽申請をして建設業許可を受けた場合などは、3年以下の拘禁刑=懲役または300万円以下の罰金となる。法人などで代表者や従業員等が違反行為をした場合は違反行為をした者が罰せられるほか、法人に対しては1億円以下の罰金刑が科される。
一方、許可申請書・変更届・経営事項審査の申請書への虚偽記載については、建設業許可の申請書等に虚偽の内容があった、変更届の提出が必要だったのに提出しなかった、経営状況分析や経営規模等評価の際に虚偽が記載された申請書を提出した場合は、6カ月以下の懲役または100万円以下の罰金の対象となる。
さらに深刻なのは行政処分との連動である。虚偽申請になると、6か月以上の懲役または100万円の罰金が科されるうえ、罰則が科されてから5年間は建設業許可の再取得ができなくなる。 また、虚偽申請をしたということによる取消処分を受けてしまうと、5年間その会社も、そのとき取締役だった人も全員欠格要件に該当してしまう。原因となった人を外したところで他の人もダメということになり、建設業許可が5年間取得できないという最悪のケースになる。
類型① 許可申請時の経営業務管理責任者の偽装
建設業許可を取得するには、経営業務の管理責任者(経管)が常勤役員として在籍し、一定の経験要件を満たしていることが必要である。
この要件に関して発生する典型的な虚偽申請のパターンが、「経験年数の水増し」と「常勤実態のない人物の役員就任」である。
建設業許可を申請する際に、「建設業許可要件を満たしていない」または「欠格要件に該当している」にもかかわらず、虚偽や不正の報告をして許可申請を行った場合に不利益処分による取消が適用される。例えば、経営業務管理責任者や専任技術者の経験年数を水増ししたり、専任技術者が営業所に常駐していないのに常駐していると記載したりといった行為が挙げられる。
実際の処分事例として、許可更新の際、実際は他会社に在籍しているにもかかわらず常勤役員として勤務していると虚偽の内容を記載し、建設業許可を取得していたことによる許可取消となった事例が確認されている。
許可取得後に経管の要件を維持できなくなったにもかかわらず、退職した担当者の名前を書類上に残し続けるケースも多い。社会保険の加入状況、給与台帳の記録、社員証・名刺の有無などから実態が調査され、「常勤している」という記載の虚偽性が立証される。
類型② 専任技術者の名義貸し・二重在籍
専任技術者は建設業許可の維持に不可欠の要件であり、許可業種ごとに一定の資格または実務経験を持つ者が営業所に「専任・常勤」していなければならない。
この要件を満たすために行われる虚偽が「名義貸し」と「二重在籍」である。
虚偽申請による取消に該当するケースとして、専任技術者の常勤実態がなく他社と二重在籍していた、経営業務管理責任者の経験年数を偽装した、提出書類に虚偽の工事実績を混ぜた、などが挙げられ、虚偽は悪質と判断されやすく、一度発覚すると回復が難しい。
実際の処分事例として、営業所の専任技術者である者が当該建設業者を退職し、当該建設業者の営業所に常勤して専ら職務に従事しておらず、許可の基準を満たさなくなったとして処分を受けた事案がある。
名義貸しは双方に問題が生じる。名義を借りた会社は虚偽申請として建設業法違反に問われ、名義を貸した技術者は宅建取引士や施工管理技士などの資格に基づく別の専任義務を同時に果たしていた場合、その資格にも影響が及びうる。「少し協力してあげただけ」という意識が、経営と個人の双方に深刻な結果をもたらす。
類型③ 経営事項審査(経審)の完成工事高水増し
公共工事を受注するための経営事項審査において、評点を上げるために完成工事高等の数値を実態より高く申告する行為は、建設業における虚偽申請の中でも特に摘発事例が多い類型である。
処分基準と具体例については既述の「建設業の粉飾決算事例」で詳述したが、この記事では処分事例の実態を改めて確認しておく。
経営事項審査において不正な会計処理により得た経営事項審査結果通知書で公共工事の発注者に対して入札申請を行ったとして、22日間の営業停止処分となった具体的な事例がある。
また、現在、経営事項審査を行っている企業を対象に完成工事高や技術者員の分析から虚偽申請や疑義のある業者の監督体制が強化されており、経営事項審査を受けたすべての建設業者が監視対象となっていると考えるべきだ。
数値の異常値を自動検出する仕組みが整備されつつあり、前年比で急増した完成工事高、技術者数と工事規模の不整合、財務諸表との矛盾などが分析対象となる。「申告して通過したから問題ない」という意識は根拠のない安心感である。
類型④ 決算変更届・変更届の不提出と虚偽記載
建設業法は、決算報告として毎事業年度終了後4か月以内に「決算変更届」の提出を義務付けている。役員・技術者の変更、営業所の移転などについても変更届の提出が必要である。これらを怠ることや、届出に虚偽を記載することも建設業法違反となる。
決算書偽造による許可取消しの具体例として、建設業許可更新の際の添付書類で借入金を記入せず虚偽の申請をしたとして罰金50万円の略式命令を受け、許可の取消となった事例がある。
また、営業所の所在地が確認できず、県公報で公告したが30日を過ぎても申し出がないことにより許可取消となった事例も報告されている。これは変更届の不提出から始まった問題が、最終的に許可取消に至ったケースである。
変更届については、提出期限が業務の繁忙時期と重なることが多く、「後でまとめて出せばいい」という意識から期限を超過するケースが後を絶たない。建設業法は単純な遅延にも罰則を設けており、悪質性が認められれば行政処分に直結する。
虚偽申請が発覚するプロセス
「申請を通過した以上、バレることはない」という認識は誤りである。虚偽申請の発覚経路は多様であり、しかも申請後相当な時間が経過してから発覚することも珍しくない。
まず立入検査がある。大臣許可業者を対象とした立入検査の実施件数は2023年度で806件、2022年度で884件、2021年度で858件であり、立ち入り検査では発注者や下請会社、その他取引先との契約関係の書類を中心にチェックされる。 検査官は社会保険加入記録、給与台帳、出勤記録などを照合し、申請書類に記載された常勤実態を確認する。
次に、社会保険・労働保険の調査との連動がある。社会保険庁・日本年金機構が保有する被保険者データと、建設業許可申請に記載された常勤者の情報が照合されることで、二重在籍や名義貸しが検出される。
また、内部告発・通報制度の活用も増加している。退職した役員・技術者、不満を持った従業員、競合他社からの「駆け込みホットライン」への通報が調査の端緒となる事案が実際に存在する。
行政庁の調査手法は、書面照会から現地確認、社会保険加入状況の突合、技術者の勤務実態のヒアリングまで多岐にわたり、特に名義貸しの疑惑がある場合は人事・給与資料まで詳細に検討する傾向が強い。
許可取消後の「5年間の欠格」が持つ意味
建設業の虚偽申請による許可取消が特に深刻なのは、取消後の再取得に5年間を要するという点である。
5年間は建設業許可の再取得ができなくなり、毎年のように100〜200事業者が営業できなくなっている事態がある。
5年間の欠格は、会社だけでなくその時点での取締役全員に及ぶ。会社を解散して別会社を設立し、虚偽申請に関与した役員が新会社の取締役に就任しても、その取締役個人が欠格要件に該当している限り許可を取得できない。
加えて、建設業の許可がなければ軽微な工事(請負代金500万円未満の工事等)しか施工できない。事実上、建設業者としての事業を5年間行えなくなることを意味する。
コンプライアンス体制としての虚偽申請防止
行政書士として建設会社のコンプライアンス研修に携わる立場から言えば、虚偽申請を防ぐための実務的な体制として最も重要なのは次の3点である。
第一に、経管・専任技術者の常勤性を定期的に確認し変化があれば即座に対応することだ。退職・異動の際に代替要員の手配が完了するまでの期間管理を組織の仕組みとして整備する。
第二に、経営事項審査の数値は財務諸表・工事台帳との整合性を内部で確認したうえで申請することだ。「申請担当者が独自に判断した数値」ではなく、経営幹部が内容を把握・承認するプロセスを設ける。
第三に、変更が生じた場合の届出を「業務の中に組み込む」ことだ。変更事項が発生したときに自動的に担当者に通知が届き、期限内の届出を忘れない仕組みを構築する。
まとめ
建設業の虚偽申請は、許可申請時の経管・専任技術者の偽装、経審の完成工事高水増し、変更届の不提出・虚偽記載という複数の類型で発生する。いずれも発覚した場合の制裁は、3年以下の拘禁刑=懲役(法人1億円以下の罰金)、許可取消、5年間の欠格という経営の根幹を揺るがす内容である。
「通過してしまえば大丈夫」という意識が破滅の入口となる。建設業許可は許可取得時だけでなく維持・更新の過程において継続的なコンプライアンス管理が求められる許認可である。
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