はじめに

建設業法第3条の2は、建設業許可に条件を付与する権限と、その条件に関する制限を定めた重要な条文である。本条は、建設業の適正な運営と発注者の保護という建設業法の根本目的を実現するための行政庁の権限行使について規定している。

条文全文

(許可の条件)

第三条の二 国土交通大臣又は都道府県知事は、前条第一項の許可に条件を付し、及びこれを変更することができる。

 前項の条件は、建設工事の適正な施工の確保及び発注者の保護を図るため必要な最小限度のものに限り、かつ、当該許可を受ける者に不当な義務を課することとならないものでなければならない。

第1項の解説:条件付与権限

条件付与権の主体

第1項では、国土交通大臣又は都道府県知事が許可権者として、建設業許可に条件を付与する権限を持つことが明記されている。この権限の主体は、建設業法第3条第1項に基づく許可の区分と対応している。

具体的には、二以上の都道府県の区域内に営業所を設けて営業しようとする場合には国土交通大臣、一の都道府県の区域内のみに営業所を設けて営業しようとする場合には当該営業所の所在地を管轄する都道府県知事が、それぞれ許可に条件を付与することができる。

条件の性質と効力

本項で規定される「条件」は、行政法上の負担付行政行為における附款としての条件である。これは、許可という有利な行政処分に対して、一定の義務や制限を課するものである。

条件の変更権についても同時に規定されており、許可後の事情変化に応じて、行政庁が条件を変更することも可能である。この変更権は、建設業を取り巻く環境の変化や、許可業者の実態に応じた適切な規制を可能にする重要な権限である。

第2項の解説:条件の制限原理

目的の限定性

第2項は、条件付与権の濫用を防止し、許可業者の権利を保護するため、条件に関する重要な制限を設けている。

条件の目的は以下の2点に限定されている:

  1. 建設工事の適正な施工の確保
  2. 発注者の保護を図るため

これらの目的は、建設業法第1条に規定された法の目的と直結している。建設工事の適正な施工の確保は、建設工事の質の確保と安全性の確保を意味し、発注者の保護は、建設工事の発注者の利益の保護を目的とするものである。

必要最小限の原則

条件は「必要な最小限度のものに限り」とされており、これは行政法の比例原則の具体化である。許可に付される条件は、上記の目的を達成するために真に必要な範囲内でなければならず、過度に広範囲な条件や、目的との関連性が薄い条件は許されない。

不当義務の禁止

「当該許可を受ける者に不当な義務を課することとならないもの」という規定は、許可業者の営業の自由や財産権を不当に制約する条件の付与を禁止している。

この「不当な義務」の判断基準は、以下の要素を総合的に考慮して決定される:

  • 義務の内容の合理性
  • 許可業者の負担の程度
  • 目的達成に対する手段の適切性
  • 他の代替手段の有無

実務上の適用例

典型的な条件の例

実務において付与される条件の典型例として、以下のようなものがある:

  1. 技術者の配置に関する条件
    • 特定の資格を有する技術者の専任配置
    • 技術者の増員や研修受講の義務付け
  2. 財務・経営に関する条件
    • 定期的な財務状況の報告義務
    • 保証金の追加納付
  3. 工事施工に関する条件
    • 特定の工法や資材の使用義務
    • 安全管理体制の強化
  4. 下請関係に関する条件
    • 下請代金の支払い条件の改善
    • 下請業者の選定基準の明確化

条件違反の効果

許可に付された条件に違反した場合、建設業法第29条に基づく監督処分(指示、営業停止、許可取消し)の対象となる可能性がある。特に、条件違反が重大で、建設工事の適正な施工や発注者の保護に著しい支障を生じる場合には、厳格な処分が科される可能性が高い。

他条文との関連性

第3条第1項との関係

本条は「前条第一項の許可に」と規定しており、建設業法第3条第1項に基づく建設業許可に条件を付与する権限を定めている。これは、許可制度と条件付与制度が一体的に運用されることを示している。

第29条(監督処分)との関係

許可に付された条件の遵守は、建設業法第29条の監督処分制度と密接に関連している。条件違反は監督処分の対象事由となり、業者指導・監督の重要な手段となっている。

第3条の3以下との関係

建設業の許可の承継(第3条の3)、事業の譲渡等(第3条の4)の際にも、本条に基づく条件の取扱いが問題となる。これらの場合、条件の承継や変更について別途規定が設けられている。

法改正の経緯と背景

建設業法第3条の2は、建設業の健全な発展と建設工事の適正化を図るため、行政庁に適切な指導監督権限を付与する目的で設けられた。

近年の建設業界を取り巻く環境変化(技術革新、働き方改革、デジタル化等)に対応するため、条件付与の活用場面も多様化している。特に、新技術の導入や環境配慮、労働安全衛生の確保等に関する条件が重視される傾向にある。

まとめ

建設業法第3条の2は、建設業許可制度における行政庁の条件付与権限を定めた基本的な条文である。この条文により、行政庁は建設工事の適正な施工の確保と発注者の保護という目的の範囲内で、必要最小限度の条件を許可に付すことができる。

ただし、条件の付与は許可業者の権利制約を伴うため、その行使には慎重さが求められ、比例原則や不当義務の禁止といった制限原理により適切にコントロールされている。

建設業者としては、許可申請時から条件が付与される可能性を認識し、条件の内容を正確に理解し、確実に遵守することが重要である。また、条件の変更可能性も考慮し、継続的なコンプライアンス体制の構築が求められる。



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