金融機関におけるコンプライアンス体制の構築は、経済の血流とも言える金融システムの健全な運営と、ひいては日本経済の発展に不可欠です。顧客である一般国民から企業に至るまで、幅広いステークホルダーからの信頼こそが、金融機関の存続を左右すると言っても過言ではありません。

本記事では、金融コンプライアンスを徹底するために遵守すべき国の指導や重要な法律について、中川総合法務オフィスの視点から解説します。常に最新の情報に基づき、より洗練されたコンプライアンス体制を構築するための一助となれば幸いです。

金融機関におけるコンプライアンスの重要性:歴史的背景と現代的意義

かつて大蔵省、そして現在の金融庁は、1992年に公表されたCOSOフレームワークなどにいち早く着目し、金融機関に対する監督を強化してきました。この動きは、多くの金融機関にとってコンプライアンス体制を見直し、強化する契機となったことでしょう。

近年、金融庁の姿勢は、従来の「検査」中心から、金融機関との対話を通じた「指導」や「経営への共同関係」へと変化の兆しを見せています。しかし、この変化は金融機関に求められるコンプライアンス水準の緩和を意味するものではなく、むしろ自主的かつ実効性のあるコンプライアンス体制の構築が一層重要になっていると捉えるべきです。

経済活動の根幹を支える金融機関が、ひとたび信頼を失墜すれば、その影響は計り知れません。ステークホルダーからの揺るぎない信頼を得て維持し続けるために、以下に示す金融コンプライアンスに関するルールを深く理解し、遵守することが不可欠です。

金融コンプライアンス徹底のための国の指導:変遷と現状

かつて金融機関の検査・監督の指針として重要な役割を果たしてきた「金融検査マニュアル」は、2019年12月に廃止されました。これは、金融機関の自主的な経営判断を促し、形式主義・画一主義的な検査から脱却するための大きな転換点と言えます。

マニュアル廃止後、金融庁は「金融行政方針」や各種「監督指針・事務ガイドライン」を通じて、金融機関に求めるコンプライアンスのあり方を示しています。これらは、金融機関が直面するリスクを的確に把握し、実効性のある内部管理体制を構築するための重要な道標となります。

主な監督指針・事務ガイドライン等(2024年5月時点の参考情報であり、常に最新情報をご確認ください)

  • 預金等受入金融機関向け
    • 主要行等向けの総合的な監督指針
    • 中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針
  • 保険会社向け
    • 保険会社向けの総合的な監督指針
    • 少額短期保険業者向けの監督指針
    • 認可特定保険業者向けの総合的な監督指針
  • 金融商品取引業者等向け
    • 金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(証券取引等監視委員会(SESC)所管)
    • 証券会社向けの総合的な監督指針
    • 信用格付業者向けの監督指針
    • 高速取引行為者向けの監督指針
  • その他
    • 金融持株会社に係る検査マニュアル(※金融検査マニュアルは廃止されましたが、考え方は参照されることがあります)
    • 信託会社等に関する総合的な監督指針
    • 金融先物取引業者向けの総合的な監督指針
    • 金融コングロマリット監督指針(持ち株会社など対象)
    • 貸金業者向けの総合的な監督指針
    • 信用保証協会向けの総合的な監督指針
    • 清算・振替機関等向けの総合的な監督指針
    • 指定紛争解決機関向けの総合的な監督指針
    • 金融商品取引法等ガイドライン、金融機能強化法ガイドライン等

(注)「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律に基づく金融監督に関する指針」は平成25年に失効しています。

金融庁のウェブサイト等で最新の情報を確認し、自社の業態や規模に応じた適切な対応を継続することが肝要です。

金融コンプライアンスで重要な法律一覧:広範な知識と理解を

金融機関が遵守すべき法律は多岐にわたります。これらを網羅的に理解し、日々の業務に落とし込むことが、コンプライアンス違反を未然に防ぐための第一歩です。

1.「金融機関」に関する主な法規制

  • (1)法律
    1. 銀行法
    2. 長期信用銀行法
    3. 金融機関の信託業務の兼営等に関する法律
    4. 信用金庫法
    5. 中小企業等協同組合法
    6. 協同組合による金融事業に関する法律
    7. 農林中央金庫法
    8. 農業協同組合法
    9. 水産業協同組合法
    10. 森林組合法
    11. 労働金庫法
    12. 信用保証協会法
    13. 農林漁業信用基金法
    14. 金融商品取引法
    15. 投資信託及び投資法人に関する法律(投資信託法)
    16. 保険業法
    17. 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)
    18. 貸金業法
    19. 商品投資に係る事業の規制に関する法律(商品ファンド法)
    20. 不動産特定共同事業法
    21. 特定債権等に係る事業の規制に関する法律
    22. 前払式証票の規制等に関する法律
    23. 無尽業法
    24. 信託業法
    25. 農業信用保証保険法
    26. 中小漁業融資保証法
    27. 中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(※失効)
    28. 犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)
  • (2)関連する政令・内閣府令・財務省令・告示等 各法律には、その細則を定める多数の政省令や告示が存在します。これらも一体として理解・遵守する必要があります。

2.「株式会社」に対する法規制

金融機関の多くは株式会社形態をとっており、当然ながら会社法や商法の規律を受けます。

  • (1)会社法
  • (2)商法

3.「経済秩序及び市場秩序」に関する法規制

公正な競争と市場の透明性を確保するための法律も、金融コンプライアンスの重要な柱です。

  • (1)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)
  • (2)不正競争防止法
  • (3)金融商品取引法(市場秩序の観点からも重要)
  • (4)商品先物取引法(旧:商品取引所法)
  • (5) 消費者保護法制
    1. 消費者基本法(旧:消費者保護基本法)
    2. 利息制限法
    3. 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)
    4. 貸金業法
    5. 割賦販売法
    6. 特定商取引に関する法律
    7. 無限連鎖講の防止に関する法律
    8. 消費者契約法
    9. 金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(旧:金融商品の販売等に関する法律(金融商品販売法))
    10. 個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)

4.「金融取引」に関する法規制

個別の金融取引におけるルールや、不正行為を抑止するための刑法上の規定も理解しておく必要があります。

  • (1) 民法・商法・手形法・小切手法
  • (2) 電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律
  • (3) 特別背任罪(会社法960条)・背任罪(刑法247条)・詐欺罪(刑法246条)・業務上横領罪(刑法253条)等
  • (4) 利息制限法
  • (5) 出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)
  • (6) 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織的犯罪処罰法)
  • (7) 預金等に係る不当契約の取締に関する法律
  • (8) 預金保険法
  • (9) 犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)

(※上記リストは、旧「金融検査マニュアル」の「金融機関とその経営者等が遵守すべき具体的な法令等」を参考にしつつ、現行法制に合わせて調整・追記していますが、全てを網羅するものではありません。常に最新の法令・ガイドライン等をご確認ください。)

まとめ:信頼を未来へ繋ぐコンプライアンス体制の構築

金融機関におけるコンプライアンスは、単に法令を遵守するという受動的なものではなく、社会からの信頼を能動的に獲得し、維持していくための経営戦略そのものです。金融庁の指導や関連法規は常に変化し、社会の要請も高度化・複雑化しています。

このような環境下で、形骸化したルールではなく、組織の隅々にまで浸透し、役職員一人ひとりが当事者意識を持って実践できる実効性のあるコンプライアンス体制を構築・運用し続けることが、金融機関の持続的な成長と発展の鍵となります。



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中川総合法務オフィス代表の中川恒信は、企業コンプライアンスの専門家として、これまで850回を超える研修・講演を担当し、数多くの企業のコンプライアンス体制構築・再構築に携わってまいりました。特に、不祥事発生組織におけるコンプライアンス態勢の立て直しや、心理的安全性と相談型リーダーシップを組織風土に浸透させることで、ハラスメント防止やクレーム対応力の強化を実現するアンガーマネジメント導入支援を得意としております。

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