第4条 条文

特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

3 前二項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

4 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して三十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

5 特定業務委託事業者は、第一項若しくは第三項の規定により定められた支払期日又は第二項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。

6 第三項の場合において、特定業務委託事業者は、元委託者から前払金の支払を受けたときは、元委託業務の全部又は一部について再委託をした特定受託事業者に対して、資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。


1 第4条の位置づけと対象者

第4条は「特定業務委託事業者」に適用される規定であり、従業員を使用しない個人事業者が発注する場合(業務委託事業者のみに該当する場合)には適用されない。すなわち、給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならない義務は特定業務委託事業者に課されるものであり、再委託の場合には発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされている。

第3条の取引条件明示義務がすべての業務委託事業者に課されるのと異なり、第4条はより重い義務として「組織性を有する発注者」のみを名宛人とする点が重要である。従業員を雇用しているIT企業や建設会社は、いずれも第4条の義務主体となる。


2 第1項・第2項 基本ルール―「60日以内・できる限り短く」

(1)60日ルールの骨格

第1項が定める「60日ルール」の骨格は、受領日から60日以内という上限の設定と、「できる限り短い期間内」という積極的な短縮義務の組み合わせにある。

受領日の起算については、物品・情報成果物の委託の場合は「給付を受領した日」、役務の提供委託の場合は「役務の提供を受けた日」がそれぞれ起算日となる。

重要な点として、給付の内容の検査の有無にかかわらず、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から60日以内で、できる限り短い期間内に報酬の支払期日を定め、その報酬を支払わなければならない。

検査・検収を完了していなくても60日の起算は止まらない。「先に検収をしてから支払期日を決める」という慣行は本法のもとでは許されない。

(2)「できる限り短い期間内」の意味

60日はあくまで上限であって目標値ではない。報酬の支払期日について本法第4条第1項が給付の受領日から「60日以内」と規定していることを理由として、従来納品後直ちに報酬が支払われていたにもかかわらず、納品後60日後に設定しようとすることは本法上問題となる。

「60日以内ならいつでもよい」という解釈は誤りである。従来の支払慣行より著しく長い期間を設定することは、「できる限り短い期間内」という要件に抵触しうる。

(3)月締め支払いと60日の関係

建設業・IT業界ともに「月末締め翌月末払い」や「月末締め翌々月末払い」という締め払い制度が広く普及している。この慣行と60日ルールの関係については公式Q&Aが明確に回答している。

毎月末日納品締切・翌月末日支払いのような月単位の締切制度を採用しており、月によって31日ある月もあるため、給付を受領した日から60日を超えて報酬を支払うことがあるという場合、本法上問題となる。

すなわち、「月末締め翌月末払い」でも月によっては受領日から62日目・63日目に支払期日が到来することがあり、その場合は60日ルール違反となりうる。締め払い制度を採用する企業は各取引ごとに60日の起算を管理し、超過する場合は支払期日を前倒しする運用が必要となる。なお、「月末締め翌々月末払い(最大約62日)」は明らかに60日ルール違反である。

(4)支払期日を定めなかった場合・違反して定めた場合の法定擬制

第2項は、期日を定めなかった場合や違反して定めた場合の処理を「みなし規定」で明確化している。支払期日を定めなかったときは受領日が、60日を超えて支払期日を設定したときは受領日から60日目が、それぞれ支払期日とみなされる。当事者間の合意がなくても法律上の支払期日が自動的に発生する点は実務上重要である。


3 第3項・第4項 再委託の場合の「30日ルール」

(1)再委託30日ルールの趣旨

元請会社が下請企業に発注し、下請企業がさらに一人親方へ再委託するという多層構造は建設業で典型的に見られる。IT業界でもSIerが受注した案件をフリーランスエンジニアに再委託するケースは多い。このような再委託の連鎖において、フリーランスへの支払いが末端まで遅延するという問題に対応したのが第3項の30日ルールである。

元委託者から受けた業務の全部又は一部を、特定業務委託事業者が特定受託事業者に再委託した場合であって、①再委託である旨、②元委託者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの、③元委託業務の対価の支払期日を明示した場合には、再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができる。

(2)30日ルールの適用要件

30日ルールは自動的に適用されるわけではなく、3条通知における追加明示を条件とする。再委託の場合における支払期日の例外を適用する場合には、取引条件を明示する際に、通常明示すべき事項に加えて、①再委託である旨、②元委託者の名称等、③元委託業務の対価の支払期日の3つの事項を明示する必要がある。 jftc

この追加明示を行わない場合は、通常の60日ルールが適用される。30日ルールを使いたい場合は、発注書等にこれら3事項を必ず記載しなければならない。

(3)「元委託支払期日」の解釈

30日の起算点となる「元委託支払期日」は、元委託者から実際に支払を受けた日ではなく、元委託者との契約上定められた支払期日である。元委託者が遅延して支払った場合でも、元委託支払期日から30日以内に一人親方等への支払義務が生じる点に留意が必要である。

(4)30日ルールを選択しない場合

30日ルールを使わず通常の60日ルールを適用することも選択可能である。この場合、前述の3事項の追加明示は不要となる。


4 第5項 支払期日までの支払義務と免責事由

第5項は報酬の支払義務を確認的に定めるとともに、フリーランス側に帰責事由がある場合の特則を設ける。

フリーランスが請求書を提出しないことを理由に支払いを遅らせることは許されない。特定受託事業者からの給付を受領した後に給付の内容が業務委託時に明示した内容と異なるためやり直しをさせる場合であっても、給付を受領した日から起算して60日以内に報酬を支払わなければならないかという問いに対して、この場合にも原則として60日以内の支払義務は継続する。

ただし、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」によって支払えなかった場合は例外的に免責され、その事由が消滅した日から起算して60日(再委託の場合は30日)以内の支払いで足りる。この例外は厳格に解釈される。


5 第6項 前払金の配慮義務

再委託の場合に元委託者から前払金を受け取った特定業務委託事業者は、フリーランスに対して業務着手に必要な費用を前払金として支払うよう「適切な配慮」をしなければならない(第6項)。

適切な配慮としては、例えば、業務委託の着手に当たりフリーランスのみが費用を要する場合には、フリーランスに元委託者から支払を受けた前払金の全部を支払うことも含まれる。

建設業では元請から前払金(着手金)が支払われる慣行がある。この前払金を受け取った下請会社が一人親方に再委託している場合、一人親方への前払金の手当てを怠ることは本項違反となりうる。


6 違反の効果

第4条第5項違反(支払期日までの報酬不払い)は、公正取引委員会による勧告(第8条第2項)の対象となる。勧告に従わない場合は命令(第9条)、命令違反は50万円以下の罰金(第24条)に処せられる。法人両罰規定(第25条)もあり、法人にも同額の罰金が科せられうる。

公正取引委員会によれば、今後もフリーランス・事業者間取引適正化等法に違反する疑いのある行為を行っている事業者やその業種について積極的に情報収集を行い、違反があった場合には迅速かつ適切に対処するとしている。

すでに公正取引委員会は令和7(2025)年3月にゲームソフトウェア業・アニメーション制作業・リラクゼーション業・フィットネスクラブの事業者を対象に集中調査を実施し45名の事業者に指導を行った実績がある。施行から間もない現時点でも行政の執行は着実に動いており、「様子を見る」という対応はリスクが高い。


7 取適法(中小受託取引適正化法)との比較

建設業・IT業界の発注者は、フリーランス法と取適法の双方が同一取引に適用される場合がある。支払期日のルールを比較すると以下の通りである。

両法共通:受領日から60日以内に支払期日を定め、かつ期日までに支払う義務を負う。

フリーランス法独自の点:再委託の場合の30日ルールという例外規定が存在する。取適法には同種の例外規定はない。

取適法独自の点:支払遅延に対する年率14.6%の遅延利息の支払義務が定められている。フリーランス法にはこの遅延利息規定はない。また取適法では手形払いが禁止されているが、フリーランス法では手形払いは「望ましくない」にとどまり禁止ではない。


8 建設業・IT業界への実務的インパクト

建設業

元請会社が一人親方に工事を再委託する場合、60日ルールの管理が必要となる。一人親方が施工を完了した日(役務を提供した日)から60日以内に報酬を支払わなければならず、従来行われてきた「翌々月末払い」「月末締め60日超サイト」は本法違反となりうる。

再委託の場合に30日ルールを適用したい場合は、3条通知に元委託者名・元委託支払期日を追記する必要があり、既存の発注書様式の見直しが求められる。また、元請から前払金を受け取っている場合は一人親方への前払金手当ての配慮義務が発生することも見落とせない。

IT業界

SIerが一人法人エンジニアや個人のフリーランスエンジニアに案件を再委託するケースでは、60日ルールが直接適用される。SES型の役務提供委託では役務提供日(稼働日)から60日以内の支払期日設定が必要となり、月次請求書を受け取ってから翌々月末払いというサイクルは見直しが必要となる場合がある。

また、「請求書が届いてから支払う」というルールを設けている発注社は注意が必要である。請求書の有無は60日の起算に影響せず、給付受領日・役務提供日から起算が始まる。


まとめ

第4条は、「60日以内・できる限り短く・受領日起算・検査の有無を問わず」という明確な数値ルールで報酬支払いの遅延を規制する。再委託の場合には30日ルールという例外が用意されているが、その適用には3条通知への追加記載が条件である。月締め払い制度との整合性確認、再委託チェーンにおける支払期日管理、前払金配慮義務の運用整備が、建設業・IT業界双方に求められる実務対応の核心である。

次回は第5条(特定業務委託事業者の遵守事項)を解説する。禁止される7つの行為を一つひとつ丁寧に読み解く予定である。


参考リンク

公正取引委員会 フリーランス法特設サイト https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/index.html
公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」 
https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf
公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」 https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html
取引フローでみる義務と禁止行為(PDF) https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/assets/pdf/flow2506.pdf


フリーランス法対応のコンプライアンス研修・コンサルティングのご相談は

「月末締め翌月末払いで60日を超えてしまうが、どう対応すればよいか」「一人親方への再委託で30日ルールを使いたいが発注書の記載方法がわからない」「元請から前払金を受け取っているが一人親方への配慮はどうすればよいか」――第4条への対応は数値ルールが明確なだけに、社内の支払管理システムや発注書様式の改訂が必要となる場面が多い。

中川総合法務オフィスは、全国850回以上のコンプライアンス研修を実施した実績を持ち、建設業のコンプライアンス体制整備を長年にわたって支援してきた。上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有し、内部通報の外部窓口を現に担当するほか、企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められる立場で実践的な支援を行っている。

フリーランス法の第4条対応を含めた包括的な業務委託取引コンプライアンス研修、支払管理フローの整備支援、発注書式の適法性チェックなど、貴社の実態に即した対応をご提案する。

ご相談・お問い合わせは、電話(075-955-0307)または下記相談フォームからお気軽にどうぞ。

Follow me!