はじめに ~40年ぶりの大改正がもたらした実務革新~
相続法は、1980年(昭和55年)に改正されて以来、大きな見直しがされてきませんでしたが、平成30年7月6日、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立しました。この相続法改正は、まさに時代の要請に応える革命的な変化であり、遺言実務の現場に根本的な変化をもたらしております。
当事務所では、京都・大阪を中心に1000件超の相続無料相談を実施し、多くの遺言作成、遺産分割協議書作成を手がけてまいりました。この豊富な実務経験を踏まえ、法改正が遺言実務に与える実際の影響について、実践的な視点から詳しく解説いたします。
1. 相続法改正の全体像 ~社会変化への的確な対応~
1-1. 改正の背景と社会的意義
この改正により、例えば、残された配偶者が安心して安定した生活を過ごせるようにするための方策などが導入されることになりました。超高齢社会の進展、家族形態の多様化、社会経済情勢の変化など、現代社会が直面する課題に対し、法律が現実に追いつく形で行われたのが今回の改正です。
1-2. 施行スケジュールの複雑性と実務への影響
改正相続法の施行は段階的に行われました:
- 2019年1月13日施行:自筆証書遺言の方式緩和
- 2019年7月1日施行:遺留分侵害額請求権、特別受益の持戻し免除の意思表示推定等
- 2020年4月1日施行:配偶者居住権
- 2020年7月10日施行:自筆証書遺言書保管制度
この段階的施行により、実務家としては各段階での適切な対応が求められ、相談者への丁寧な説明と最新制度の活用提案が重要となっております。
2. 遺産争いの現実と遺言制度活用の緊急性
2-1. 財産規模を問わない紛争の実態
最高裁の司法統計によれば、相続紛争の実態は一般の想像を遥かに超えるものです。財産が1000万円以下でも全体の約3割が紛争となり、5000万円以下であれば実に4分の3が紛争となっているのです。これは「お金持ちだけの問題」ではなく、ごく普通の家庭にとって切実な問題であることを示しています。
当事務所への相談で最も多いのが「遺産がマイホームだけ、若しくは不動産とわずかな預貯金だけ」というケースです。このような案件では、着手金をいただくことが困難な場合が多く、全て解決後の後払いとなることがほとんどです。
2-2. 実務で提示する三つの解決策とその限界
長年の実務経験から、私は相談者に以下の3つの解決法を提示しております:
① 不動産売却による金銭分割 地方の売却困難物件、居住希望者の存在、土地家屋への思い入れ、現在の居住者の存在など、売却合意の形成は極めて困難な場合が大多数です。
② 代償分割による解決 理論的には最も合理的な解決法ですが、代償金相当額をまとめて支払える相続人は圧倒的に少ないのが現実です。
③ 共有名義での保有 これは一時的な問題先送りに過ぎません。共有者の一人が亡くなれば権利関係はさらに複雑化し、将来的な売却や賃貸時の意思決定は困難を極めます。
2-3. 遺言の予防的効果と専門家関与の重要性
専門家が適切に関与して作成された遺言があれば、完全とは言えないまでも、こうした深刻な紛争はほぼ回避できます。特に1000万円以下の財産であっても、調停や訴訟に発展すれば弁護士費用の負担が遺族にのしかかることになります。
財産の多い方は生前贈与なども含めた総合的な対策を講じている場合が多いのですが、むしろ財産の少ない方こそ油断しがちで、結果的にトラブルが発生しやすいという皮肉な現実があります。
3. 相続手続きの複雑性と遺言執行の効率性
3-1. 遺言がない場合の手続き負担
権利関係者が増加すればするほど、調整は幾何級数的に困難になります。預貯金の相続割合決定、株式等有価証券の処分方法、不動産相続人の決定、自動車の帰属など、何も決めておかなければ原則として全相続人の戸籍謄本、実印、署名が必要となります。
金融機関によって手続き方法は様々で、複数の原本取り寄せが必要となることも珍しくありません。当職の経験では、相続人が高齢、認知症状の出現、入院中、海外居住、幼児を抱える状況、平日に役所に行く時間がとれないサラリーマンや公務員など、相続手続きの負担は想像以上に大きいものです。
3-2. 途中断念案件の現実
当職によく依頼があるのが、「途中までやってみたが大変だったので残りの手続きをやってほしい」というケースです。新規に登場した専門家に戸惑う当事者が出てくることも少なくありません。
3-3. 遺言執行による効率化の威力
適切な遺言と執行者の指定があれば、預貯金や不動産など遺産の種類が多様で、相続人が多数存在する場合でも、原則として遺言で指定された人だけの手続きで完結します。これにより必要書類収集の手間や他の相続人の同意取得時間が大幅に短縮されます。
3-4. 付言事項の実践的活用法
当職がよく活用する手法として、「付言事項」があります。なぜこのような財産分けになるのかを明記しておけば、当事者間の話し合いにおいて不当な主張を抑制する効果があります。
特に現在居住している者に引き続き住み続けてほしい意向がある場合、遺言による明確な指定がなければ法定相続分による共有となり、安心して住めない状況が発生してしまいます。(配偶者居住権制度は、まさにこの問題解決のために創設されましたが、選択は任意です)
4. 自筆証書遺言制度の改正と実務への影響
4-1. 方式緩和の具体的内容
これにより現在では、配偶者居住権、特別受益の優遇措置、預貯金の払戻し、遺留分侵害額請求権などを利用することができます。
従来は遺言者本人が全文を自筆で書き、署名・押印することが必要でしたが、法改正により、財産目録についてはパソコンなど自書以外の方法で作成することも可能になりました(民法968条2項)。
しかしながら、本文の自筆記載要件は維持されており、病気や加齢により手や目が不自由になり文字が書けなくなった方は、依然としてこの方式を利用できません。
4-2. 自筆証書遺言の利点と根本的問題点
自筆証書遺言は手軽に誰にも知られずに作成できる利点がありますが、以下の深刻な問題を抱えています:
形式的問題:
- 民法の定める方式を少しでも間違えると無効
- 遺言書作成の秘密性により死後発見されないリスク
- 紛失や第三者による改ざん、破棄等の危険
手続き的問題:
- 死後の家庭裁判所検認手続きが必要
- 戸籍謄本等必要書類の収集
- 相続人全員への呼出状送付
- 検認手続きに数ヶ月を要し、その間相続手続き不可
検認制度の誤解: 検認は相続人に遺言の存在と内容を知らせ、検認日現在の遺言書内容を明確化し、偽造・変造を防止する手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではない点で誤解が多く見られます。
4-3. 遺言の新旧比較と実務上の注意点
遺言は新しいものほど有効であるため、亡くなる直前に重要な遺言を撤回したり書き換えたりして相続人が困惑するケースがあります。また、法律用語や内容の誤りにより遺言執行不能となる場合や、いわゆる「京都のかばん屋さん事件」のように死後に遺言書の有効性をめぐって争いになることも少なくありません。
4-4. 筆跡鑑定と有効性判断の実務
自筆という性質上、その遺言書が真に本人によって作成されたものかが問題となりやすく、筆跡鑑定人の意見も分かれることがしばしばあります。
自筆と認められた場合でも、強制による作成の疑い、作成時点での認知症等による判断能力低下の疑いなど、裁判で有効性が争われることは決して珍しくありません。
4-5. 判例実務による救済的解釈
判例実務では、遺言をなるべく有効にしようとする解釈が採用されており、遺言者の意思の合理的推定が重視されています。
著名な最判昭62・10・8では、「運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、⑴遺言者が証書作成時に自書能力を有し、⑵他人の添え手が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は支えを貸したにすぎないものであり、かつ、⑶添え手をした者の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できる場合には、『自書』の要件を満たし有効である」との判断が示されています。
5. 自筆証書遺言書保管制度の創設と実務的課題
5-1. 制度創設の背景と目的
自筆証書遺言書保管制度は、自身で作成した遺言書を法務局が保管します。紛失や消失、改ざんや隠匿のおそれがなく、遺言者の死後に法務局が相続人に通知する制度です。
従来、自筆証書遺言は公正証書遺言と違って一つしか存在せず、遺言書の改ざんや紛失を防ぐ方策がありませんでした。この問題を解決するため、2020年7月10日から法務局での保管制度が開始されました。
5-2. 制度利用の実際と普及状況
当職も積極的にこの制度をお話しし推奨しておりますが、実際のところ10人に1人程度の方しか乗り気になられないのが現状です。これは制度の認知度不足、手続きの煩雑さ、従来からの習慣への固執など、複合的な要因が考えられます。
5-3. 制度利用促進のための実践的アプローチ
より多くの方にこの有用な制度を活用していただくために、当職では以下の点を重視した説明を行っております:
- 制度の具体的メリットの分かりやすい説明
- 手続きの流れと必要書類の詳細な案内
- 費用対効果の明確な提示
- 他の遺言方式との比較検討
6. 実践的遺言戦略と総合的相続対策
6-1. 個別事情に応じた最適解の提案
相続は千差万別であり、画一的な対応では真の解決に至りません。当職は豊富な実務経験を基に、各ご家庭の事情、財産構成、家族関係、将来的展望を総合的に勘案した最適な遺言戦略を提案いたします。
6-2. 法改正を踏まえた最新対策の実践
配偶者居住権の活用、遺留分侵害額請求権への対応、新しい遺言書保管制度の戦略的利用など、改正法を最大限に活用した実践的対策を講じております。
6-3. 継続的フォローアップの重要性
遺言は一度作成すれば終わりではありません。家族構成の変化、財産状況の変動、法制度の改正などに応じた継続的な見直しが必要です。当職では、定期的なフォローアップによる最適化を重視しております。
おわりに ~真の相続対策とは~
相続法改正は、単なる法技術的な変更にとどまらず、家族のあり方、財産承継の理念、社会保障のあり方にまで影響を与える根本的な変革です。
真の相続対策とは、法制度を熟知し、実務経験に裏打ちされた実践的知識を駆使し、何より相談者お一人お一人の人生観、価値観、家族への思いを深く理解した上で、最適解を見つけ出すことにあります。
当職は、法律の専門家としての知識はもとより、人生経験豊富な啓蒙家として、法律や経営などの社会科学のみならず、哲学思想などの人文科学、自然科学にも深い知見を有しております。この総合的な視点から、皆様の大切な財産と家族の絆を守るお手伝いをさせていただいております。
無料相続相談のご案内
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