はじめに:変わりゆく相続の常識、あなた自身の権利を守るために
悠久の歴史が息づく京都、そして活気あふれる商都・大阪。この地で私たちは、これまで1000件を超える相続に関する無料相談をお受けし、一つひとつのご家族の想いに寄り添いながら、複雑な問題を解決へと導いてまいりました。中川総合法務オフィスが運営する「相続おもいやり相談室」は、この度ウェブサイトを統合し、さらに充実した情報発信を行ってまいります。
さて、法は社会を映す鏡であり、時に大きな変革を遂げます。2020年に全面施行された改正相続法、特に「遺留分」に関する変更は、遺言や遺産相続の実務に革命的な変化をもたらしました。これは単なる条文の変更に留まらず、遺言者の意思をいかに尊重し、相続人間の無用な争いをいかに防ぐかという、法の根底に流れる思想そのものの進化と言えるでしょう。
本稿では、この「遺留分制度」の改正が具体的に何を意味し、私たちの相続実務にどのような影響を与えるのか、その本質を深く、そして分かりやすく解説していきます。法律という社会科学の枠組みを超え、時に哲学的な問いをも内包する相続の世界へ、皆様をご案内いたします。
遺留分制度の核心的変更:モノ(現物)からカネ(金銭)へ
今回の相続法改正における最大の変更点、それは「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」へと生まれ変わったことに集約されます。
かつての制度では、遺留分を侵害された相続人は、不動産や株式といった「モノ(現物)」そのものの返還を請求できました。これにより、遺言で特定の相続人に譲るとされた不動産が、遺留分減殺請求によって突然共有状態に陥るといった事態が頻発し、遺言者の意思が十分に反映されないという根源的な問題を抱えていました。
しかし、新制度では、遺留分を侵害された相続人が請求できるのは、原則として「侵害額に相当する金銭」のみとなったのです。
(遺留分侵害額の請求) 第一〇四六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(…)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。 (後略)
この改正は、まさに叡智の結晶です。遺言者の「この不動産は長男に」という想いを最大限尊重しつつ、他の相続人の権利も金銭によって保障する。これにより、相続後の不動産共有化や、事業承継の足かせとなり得た株式の準共有といった複雑な権利関係を未然に防ぎ、相続手続きを明快かつ円滑に進める道が拓かれました。これは、個人の意思と社会の調和をいかに図るかという、法哲学的な命題に対する一つの優れた解答と言えるでしょう。
複数の相続人が関わる場合の新たなルール
では、遺贈や贈与を受けた者が複数いる場合、遺留分侵害額の負担はどのようになるのでしょうか。この点も、新法(民法第一〇四七条)によって明確に整理されました。
基本原則は、まず遺贈を受けた者(受遺者)が先に負担し、次に贈与を受けた者(受贈者)が負担します。そして、受遺者や受贈者がそれぞれ複数いる場合は、受けた利益の価額の割合に応じて公平に負担することになります。
一点、実務上の注意点として、当事者が合意すれば金銭の代わりに不動産などで支払う「代物弁済」も可能ですが、この場合、支払い側に譲渡所得税が課税される可能性があることを心に留めておく必要があります。新制度は金銭での解決を原則とすることで、こうした税務上の複雑さからも解放される側面があるのです。
遺留分算定の基礎となる「贈与」の扱いもアップデート
遺留分の計算基礎に含める贈与の期間についても、重要な見直しが行われました。
- 相続人以外への贈与: 相続開始前1年間のもの
- 相続人への贈与(特別受益): 相続開始前10年間のもの
特に、相続人への生前贈与が「10年間」と明確に規定されたことは、実務上の大きな変化です。かつては判例によって「相当以前」の贈与も対象となり得ましたが、期間が明文化されたことで予測可能性が格段に高まりました。
しかし、ここで人間の営みの複雑さが顔をのぞかせます。被相続人が特定の相続人に多くの財産を遺したいと願うのは自然な感情です。その想いを法的に実現するためには、遺言書で「持戻し免除の意思表示」を明確に行うことが、これまで以上に重要になります。
また、新法(民法1044条1項)には「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」は10年以上前の贈与も対象になる、という規定も存在します。この「害意」の立証は極めて困難ですが、逆に言えば、安易な主張によって相続が紛糾する火種ともなり得ます。
こうした未来の争いを避けるため、私たちは遺言書の「付言事項」の活用を強く推奨しています。なぜその生前贈与が必要だったのか、その背景にある想いや事情を自らの言葉で綴る。それは単なる事実の記録ではなく、家族への最後のメッセージとなり、法的な規定だけでは汲み取りきれない人間的な配慮となって、円満な相続を実現する大きな力となるのです。
支払いが困難な場合の救済措置:裁判所による支払猶予
遺留分を金銭で支払うのが原則となったことで、特に不動産など換金が容易でない財産を相続した者にとって、即座の現金支払いが困難なケースも想定されます。
この点についても、新法は配慮を怠りません。民法1047条5項では、裁判所が受遺者(財産を受け取った側)の請求により、支払いに相当の期限を許与(猶予)できる制度を設けました。これにより、分割払いや支払期限の延長が可能となり、相続人が自らの生活を犠牲にすることなく、義務を履行する道が確保されています。
結論として:専門家と共に、最善の道筋を描く
相続法の改正は、遺言者の意思尊重と相続人間の公平という、二つの大きな価値の調和を目指したものです。特に遺留分制度の変更は、相続を「争続」にしないための画期的な一歩と言えるでしょう。
しかし、制度がどれだけ洗練されても、人の想いや家族の関係性は千差万別です。法律、経営、さらには哲学や自然科学に至るまで、幅広い知見と豊かな人生経験を持つ専門家だからこそ、その機微を読み解き、あなたとご家族にとって最善の道筋を描くことができます。
相続に関するお悩みは、一人で抱え込まず、私たち専門家にご相談ください。
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