はじめに
人生の終焉は、誰にでも訪れる厳粛な現実です。そして、大切な方を亡くされたご遺族にとって、悲しみに暮れる間もなく、複雑で多岐にわたる相続手続きが始まります。それは、故人の遺志を尊重し、残された財産を円滑に承継するための、法と心と思いが交差する手続きです。
私たち中川総合法務オフィスが運営する「相続おもいやり相談室」は、これまで京都・大阪を中心に1000件を超える無料相談をお受けし、多くのご家族の相続問題を解決へと導いてまいりました。その豊富な実務経験と、法律や経営といった社会科学のみならず、哲学や思想といった人文科学、さらには自然科学にも及ぶ深い知見を持つ代表の人生経験を礎に、この記事では相続の実際の流れと、その中で本当に大切になる実務ポイントを、分かりやすく、そして多角的な視点から解説いたします。
単なる手続きの羅列ではない、故人への想いと、残されたご家族の未来を繋ぐための、血の通った相続実務の羅針盤として、本稿がお役に立てれば幸いです。
1.相続の開始:まず確認すべきこと
被相続人の死亡により、相続は法的に開始されます。この最初の段階で、ご遺族が確認すべき重要な点がいくつかあります。
(1)遺言書の有無の確認
まず、何よりも先に確認すべきは「遺言書」の存在です。遺言書は、故人の最終的な意思表示であり、相続において最優先されます。もし遺言書が存在する場合、相続人はその内容に従う必要があり、勝手に遺産を分割したり、処分したりすることはできません。
(2)遺留分侵害額請求の可能性
特定の相続人に全財産を譲る、といった内容の遺言書の場合、他の相続人の「遺留分」を侵害している可能性があります。遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に保証された最低限の遺産の取り分です。
2018年の相続法改正により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」となり、金銭での支払いを請求する権利へと変わりました。この権利は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与等があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません。
(3)遺言執行者の指定
遺言書の中で「遺言執行者」が指定されている場合は、その方に連絡を取り、就任の意思を確認する必要があります。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、財産目録の作成や名義変更など、広範な権限を有します。
(4)自筆証書遺言・秘密証書遺言の検認手続き
自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した場合、家庭裁判所での「検認」手続きが必要です。封印のある遺言書は、決して開封せずにそのままの状態で家庭裁判所に提出してください。検認は、遺言書の偽造・変造を防ぎ、その状態を保全するための手続きです。(※法務局における自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は検認不要です。)
2.遺言書がない場合:相続人と遺産の調査
遺言書がない場合は、法律の定める「法定相続」のルールに基づき手続きを進めます。そのためには、まず「誰が相続人か」そして「何が遺産か」を正確に確定させる必要があります。
(1)相続人の確定
被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本などを収集し、法的な相続人を一人残らず確定させます。これは、後の遺産分割協議や、不動産・預貯金等の名義変更手続きで必須となる非常に重要な作業です。
(2)遺産の調査と確定
不動産、預貯金、有価証券といったプラスの財産だけでなく、借金やローン、保証債務といったマイナスの財産もすべてリストアップし、「財産目録」を作成します。
(3)相続放棄の検討
調査の結果、明らかにプラスの財産よりマイナスの財産が多い場合は、「相続放棄」を検討します。この手続きは、原則として自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行う必要があります。
3.遺産の分け方:遺産分割協議
相続人が複数いる場合、遺産の分け方を決めるための話し合い「遺産分割協議」を行います。
(1)協議の時期と期限
遺産分割協議は、相続開始後であればいつでも可能で、法律上の期限はありません。しかし、相続税の申告が必要な場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に申告・納税を済ませる必要があるため、それまでに協議を終えるのが一般的です。
(2)全員参加が原則
協議には、法定相続人全員が参加しなければなりません。一人でも欠いた協議は無効となります。未成年者や行方不明者がいる場合は、家庭裁判所での特別な手続きが必要になることもあります。
(3)寄与分・特別受益の考慮
被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人がいる場合の「寄与分」や、特定の相続人が生前に特別な利益(生計の資本としての贈与など)を受けていた場合の「特別受益」も、公平な分割のために考慮されるべき重要な要素です。
4.遺産分割協議書の作成と各種手続き
(1)遺産分割協議書の作成
全員の合意がまとまったら、その内容を「遺産分割協議書」として書面にします。相続人全員が署名し、実印を押印、そして印鑑証明書を添付することで、法的に有効な書類となります。
(2)各種相続手続き
作成した遺産分割協議書に基づき、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金の解約・名義変更、株式の名義書換など、具体的な相続手続きを進めます。
おわりに:専門家と共に歩む相続
ここまで相続の流れを概観してきましたが、これらの手続きを、法律知識が十分でないご遺族のみで、しかも悲しみの中で進めることは、精神的にも時間的にも大変なご負担となります。
相続は、単なる財産の移動ではありません。そこには、故人の人生の物語があり、家族の歴史が刻まれています。私たちは、その一つ一つを丁寧に紐解き、法律という客観的な物差しと、ご家族のお気持ちという主観的な想いを調和させながら、最善の解決策を導き出すお手伝いをいたします。その過程には、時に哲学的な問いや、社会の成り立ちへの深い洞察が求められることもあり、それこそが私たちの真骨頂であると自負しております。
初回のご相談(30分~50分)は無料です。ご自宅や病院、介護施設への訪問、あるいはオンラインでのご相談も承っておりますので、京都、大阪、またその近郊で相続、遺言、遺産相続に関してお悩みの方は、どうぞお一人で抱え込まず、私たち「相続おもいやり相談室」へお気軽にご連絡ください。
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