企業統治のソフトロー「コーポレートガバナンス・コード」改訂版「5つの基本原則」変更項目

1.コーポレートガバナンス・コードの改訂理由

株式会社日本取引所グループ(Japan Exchange Group, Inc.)が、2018/06/01に「改訂コーポレートガバナンス・コード」を公表した。

改訂理由は、「…金融庁及び当取引所が事務局をつとめる『スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議』において、企業と投資家との対話を通じ、コーポレートガバナンス改革をより実質的なものへと深化させていくため、コードの改訂が提言された…」ことである。

また、ESGに関する対話が進む中、…コードの第3章「考え方」において、「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化するためである。

2.コーポレートガバナンス・コード「5つの基本原則」の確認

(1)【株主の権利・平等性の確保】

上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。
また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

⇒上場会社には、株主を含む多様なステークホルダーが存在しており、こうしたステークホルダーとの適切な協働を欠いては、その持続的な成長を実現することは困難である。その際、資本提供者は重要な要であり、株主はコーポレートガバナンスの規律における主要な起点でもある。上場会社には、株主が有する様々な権利が実質的に確保されるよう、その円滑な行使に配慮することにより、株主との適切な協働を確保し、持続的な成長に向けた取組みに邁進することが求められる。
また、上場会社は、自らの株主を、その有する株式の内容及び数に応じて平等に取り扱う会社法上の義務を負っているところ、この点を実質的にも確保していることについて広く株主から信認を得ることは、資本提供者からの支持の基盤を強化することにも資するものである。

(2)【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】

上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

⇒上場会社には、株主以外にも重要なステークホルダーが数多く存在する。これらのステークホルダーには、従業員をはじめとする社内の関係者や、顧客・取引先・債権者等の社外の関係者、更には、地域社会のように会社の存続・活動の基盤をなす主体が含まれる。上場会社は、自らの持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を達成するためには、これらのステークホルダーとの適切な協働が不可欠であることを十分に認識すべきである。また、近時のグローバルな社会・環境問題等に対する関心の高まりを踏まえれば、いわゆるESG(環境、社会、統治)問題への積極的・能動的な対応をこれらに含めることも考えられる。
上場会社が、こうした認識を踏まえて適切な対応を行うことは、社会・経済全体に利益を及ぼすとともに、その結果として、会社自身にも更に利益がもたらされる、という好循環の実現に資するものである。

(3)【適切な情報開示と透明性の確保】

上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

⇒上場会社には、様々な情報を開示することが求められている。これらの情報が法令に基づき適時適切に開示されることは、投資家保護や資本市場の信頼性確保の観点から不可欠の要請であり、取締役会・監査役・監査役会・外部会計監査人は、この点に関し財務情報に係る内部統制体制の適切な整備をはじめとする重要な責務を負っている。
また、上場会社は、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明等を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。
法令に基づく開示であれそれ以外の場合であれ、適切な情報の開示・提供は、上場会社の外側にいて情報の非対称性の下におかれている株主等のステークホルダーと認識を共有し、その理解を得るための有力な手段となり得るものであり、『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を踏まえた建設的な対話にも資するものである。

(4)【取締役会等の責務】

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

①企業戦略等の大きな方向性を示すこと
②経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
③ 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

⇒上場会社は、通常、会社法(平成26 年改正後)が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。前者(監査役会設置会社)は、取締役会と監査役・監査役会に統治機能を担わせる我が国独自の制度である。その制度では、監査役は、取締役・経営陣等の職務執行の監査を行うこととされており、法律に基づく調査権限が付与されている。また、独立性と高度な情報収集能力の双方を確保すべく、監査役(株主総会で選任)の半数以上は社外監査役とし、かつ常勤の監査役を置くこととされている。後者の2つは、取締役会に委員会を設置して一定の役割を担わせることにより監督機能の強化を目指すものであるという点において、諸外国にも類例が見られる制度である。上記の3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。
また、本コードを策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが、上場会社の意思決定のうちには、外部環境の変化その他の事情により、結果として会社に損害を生じさせることとなるものが無いとは言い切れない。その場合、経営陣・取締役が損害賠償責任を負うか否かの判断に際しては、一般的に、その意思決定の時点における意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の一つとなるものと考えられるが、本コードには、ここでいう意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれており、本コードは、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つこととなるものと期待している。

(5)【株主との対話】

上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。
経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

⇒「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」の策定を受け、機関投資家には、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うことが求められている。上場会社にとっても、株主と平素から対話を行い、具体的な経営戦略や経営計画などに対する理解を得るとともに懸念があれば適切に対応を講じることは、経営の正統性の基盤を強化し、持続的な成長に向けた取組みに邁進する上で極めて有益である。
また、一般に、上場会社の経営陣・取締役は、従業員・取引先・金融機関とは日常的に接触し、その意見に触れる機会には恵まれているが、これらはいずれも賃金債権、貸付債権等の債権者であり、株主と接する機会は限られている。経営陣幹部・取締役が、株主との対話を通じてその声に耳を傾けることは、資本提供者の目線からの経営分析や意見を吸収し、持続的な成長に向けた健全な企業家精神を喚起する機会を得る、ということも意味する。

3.コーポレートガバナンス・コードの策定の経緯と適用

(1)コーポレートガバナンス・コードの制定の前提社会状況

平成26 年2月に「『責任ある機関投資家』の諸原則:スチュワードシップ・コードが策定・公表され、実施に移されている。また、社外取締役を選任しない場合における説明義務に関する規定なども盛り込んだ会社法改正案が国会に提出され、平成26 年6月に可決・成立した。

■「責任ある機関投資家」の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》(平成29年5月29日改訂版)

https://www.fsa.go.jp/news/29/singi/20170529/01.pdf

■ 会社法の改正:社外取締役を選任しない場合における説明義務

第三二七条の二(社外取締役を置いていない場合の理由の開示)
事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。

⇒さらに令和3年6月までに、義務となる。令和元年(2019年)12月成立改正会社法

「金融商品取引法の適用会社である監査役設置会社(公開会社かつ大会社)には、社外取締役の選任が義務付けられた(改正会社法327条の2)。この規定に違反して社外取締役を選任しなかったときは、取締役等は、過料に処される(改正会社法976条19の2号)。

また、「資本の効率的活用や投資者を意識した経営観点など、グローバルな投資基準に求められる諸要件を満たした、『投資者にとって投資魅力の高い会社』で構成される新しい株価指数」である「JPX 日経インデックス400」が設定され、平成26 年1月6日より算出が開始されている。

⇒現在の400銘柄 https://www.jpx.co.jp/markets/indices/jpx-nikkei400/00-01.html

これらは外圧若しくはグローバル社会の影響といってもよく、コードの策定に当たっては「OECD コーポレート・ガバナンス原則」を踏まえている。

(2)コーポレートガバナンス・コードの目的

このコーポレートガバナンス・コードでは、「コーポレートガバナンス」は、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。

会社は、株主から経営を付託された者としての責任(受託者責任)をはじめ、様々なステークホルダーに対する責務を負っていることを認識して運営されることが重要であるが、会社の意思決定の透明性・公正性を担保しつつ、これを前提とした会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、いわば「攻めのガバナンス」の実現を目指す。会社におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった側面を過度に強調するのではなく、むしろ健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることに主眼を置いている。会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより、経営陣をこうした制約から解放し、健全な企業家精神を発揮しつつ経営手腕を振るえるような環境を整えることを狙いとしている。

この最後の趣旨は、令和2年4月1日施行の地方自治法150条の地方公共団体における内部統制の制定趣旨にも謳われている。

スチュワードシップ・コードに基づく中長期的な株主(機関投資家)と会社との間の建設的な「目的を持った対話」によって、マネジメント充実を図ることが可能である。

(3)「プリンシプルベース・アプローチ」及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」

このコーポレートガバナンス・コードは、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、会社が各々の置かれた状況に応じて、実効的なコーポレートガバナンスを実現することができるよう、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用している。

また、このコーポレートガバナンス・コードは、法令とは異なり法的拘束力を有する規範ではなく、その実施に当たっては、いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用している。各原則(基本原則・原則・補充原則)の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定している。

(4)コーポレートガバナンス・コードの適用

我が国取引所に上場する会社を適用対象とするものである。その際、本則市場(市場第一部及び市場第二部)以外の市場に上場する会社に対する本コードの適用に当たっては、例えば体制整備や開示などに係る項目の適用について、こうした会社の規模・特性等を踏まえた一定の考慮が必要となる可能性があり得る。

上場会社の多くは監査役会設置会社であることを踏まえ、監査役会設置会社を想定した幾つかの原則(監査役または監査役会について記述した原則)が置かれているが、こうした原則については、監査役会設置会社以外の上場会社は、自らの機関設計に応じて所要の読替えを行った上で適用を行うことが想定される。

平成27 年6月1日から適用する。

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