はじめに

近年、ChatGPTをはじめとする生成AI(人工知能)の急速な発展は、私たちの働き方や社会構造に大きな変革をもたらそうとしています。生成AIによって「なくなる仕事」「なくならない仕事」についての議論が活発に行われていますが、これは単なる技術の進歩に留まらず、私たち自身の能力や人間性のあり方を問い直す契機とも言えるでしょう。

中川総合法務オフィスの代表として、法律や経営といった社会科学分野はもちろん、哲学・思想などの人文科学、さらには自然科学に至るまで、多岐にわたる分野への深い知見と豊富な人生経験に基づき、この「生成AIと仕事の未来」というテーマを掘り下げてみたいと思います。生成AIがもたらす変化の本質と、私たちがこれから何を身につけるべきかについて考察するものです。

1. 生成AIによって代替・淘汰される可能性のある仕事

1.1. 法律分野における変化

法律分野に目を向けると、特に定型的な業務は生成AIの影響を大きく受けると考えられます。例えば、簡単な契約書の作成(ドラフト)、修正、そして最終的な法的観点からのチェックといった業務です。渉外的な契約における準拠法や紛争解決条項の検討など、一定の複雑さを伴う部分についても、生成AIはかなりの精度で対応可能になるでしょう。

もちろん、生成AIの出力が100%完璧である保証はありません。その本質的な構造上、常に誤りを含む可能性は残ります。しかし、現状でも90%程度の精度は期待でき、今後さらに向上していくと考えられます。

1.2. 「ディレッタント」では通用しない時代の到来

ここで重要になるのが、「生成AIが作成したものが本当に正しいかを見極める能力」です。単に知識を持っているだけ、あるいは「行政書士」や「〇〇士」といった肩書きを持っているだけでは、不十分になる可能性があります。深い理解に基づかない中途半端な知識、いわば「ディレッタント(好事家)」的な関与では、AIの出力を適切に評価・修正することはできません。

真の専門性、すなわち物事の本質を見抜く深い洞察力を持たない専門家は、残念ながら淘汰されていく可能性が高いと言えるでしょう。これは法律分野に限りません。

1.3. 知識労働者全般への影響

他の産業分野においても、生成AIが代替できる知識集約型の仕事は数多く存在します。いわゆる「知識労働者」と呼ばれる人々、特に定型的な情報処理や分析、文章作成などを行う業務は、その多くがAIに置き換わっていく可能性があります。

これは学術の世界でも同様です。若手の研究者であっても、既存の知識の整理や統合といった作業はAIが得意とするところであり、独自性や深い洞察力を伴わない研究活動は評価されにくくなるでしょう。すでにアメリカや中国では、生成AIの活用が日本よりも進んでおり、社会実装が加速しています。かつて知識集約的な仕事に従事していた労働者が、建設現場などの肉体労働に移行する事例も報告されています。

2. 生成AI時代に価値が高まる仕事・能力

2.1. AIを管理・活用し、その出力を判断する能力

生成AIが普及する社会でまず求められるのは、「AIを管理・活用する能力」です。AIが出力した結果を鵜呑みにするのではなく、その内容を精査し、誤りがあれば修正し、より良いものへと導く能力が不可欠になります。端的に言えば、「生成AIの仕事をチェックできる、より高度な能力」を持つ人材が求められるのです。

生成AIは、代表 中川の言葉で言えば「言葉の確率計算機」です。膨大なデータから学習し、最も確率の高い言葉の連なりを生成しますが、それはあくまで確率論的な結果であり、100%の正しさを保証するものではありません。Chatgptの登場以降に登場してきた、GoogleのGemini、Perplexity、Claude、中国のDeepSeek、あるいはNECなどが開発を進める国産AIなど、複数のAIを活用して結果の確度を高めることは可能ですが、最終的な判断は人間の知性に委ねられます。

2.2. 高度な専門性と「本物」の知見

オペレーター業務が自動音声応答に置き換わるように、ホワイトカラーの定型業務の多くはAIに代替されるでしょう。しかし、より複雑で高度な判断が求められる場面では、依然として人間の専門家が必要です。

例えば、医療の現場で医師が診断を下し治療方針を決定する場合や、法廷で証拠能力が問われる場合、あるいは複雑な経営判断を伴うコンサルティングにおいて、AIは有用なツールとなり得ますが、最終的な意思決定とその責任は人間が負うべきものです。AIの提案を鵜呑みにして判断を誤った場合、その責任をAIに転嫁することはできません。

むしろ、AIによって基本的な情報収集や分析が容易になることで、相談者は以前よりも高いレベルの知識を持って専門家を訪れるようになります。中川総合法務オフィスが毎週日曜日会場を借りやっている京都の法律相談の現場でも、YouTubeやインターネットで事前によく調べてから来る方が増えています。このような状況下では、専門家には、AIでは提供できない、より深く、より正確で、本質的な知見を提供することが求められます。まさに、部族における「長老」のように、深い知識と経験に裏打ちされた「本物のプロフェッショナル」の価値が高まる時代と言えるでしょう。

2.3. 肉体労働と体験型エンターテイメント

知識労働がAIに代替される一方で、物理的な作業を伴う「肉体労働」は、少なくとも現時点ではAIによる完全な代替が難しい分野です。建設、介護、運輸など、現実空間で身体を使って行う仕事は、当面の間、人間の担い手が不可欠です。ただし、これも将来的にはロボティクスの進化によって変化する可能性はありますし、年齢による身体能力の限界も考慮する必要があります。

また、エンターテイメント分野では、AIによる動画生成能力が向上し、ディスプレイ上で楽しむコンテンツはAIが生成したものに代替される部分も出てくるでしょう。しかし、野球場で生の試合を観戦する興奮、スケートリンクで選手の滑りを間近で見る感動、相撲の土俵際で力士のぶつかる音を聞く臨場感など、「実際の体験」を伴うエンターテイメントは、AIでは代替できない独自の価値を持ち続けると考えられます。

2.4. 最終的に問われる「人間性」

そして、生成AI時代において最も重要性が増すのが、皮肉なことに「人間性」そのものであることを私中川は強調したいと思う。AIがどれだけ高度な分析や提案を行えるようになっても、機械にはない人間ならではの温かみ、優しさ、思いやり、共感といった要素は、ますます価値を持つようになるでしょう。

コンサルティングやカウンセリング、教育、あるいは占いの分野などにおいても、単に情報や知識を提供するだけでなく、相談者の心に寄り添い、信頼関係を築けるような、人間的な魅力や個性が重要になります。四柱推命や姓名判断のような知識体系はAIでも扱えますが、対面でカードを操りながら相談者の話を聞く占い師の「キャラクター」や「人間味」に惹かれる人は、むしろ増えるかもしれません。

3. まとめ:生成AIとの共存、そして未来への展望

生成AIの登場は、多くの知識労働者にとって脅威であると同時に、自らの能力と価値を見つめ直し、向上させるための機会でもあります。定型的な業務はAIに任せ、人間はより高度な判断、創造的な思考、そして人間的なコミュニケーションに注力していく必要があります。

これからは生成AIを使いこなすリテラシーが必須となる一方で、それだけでは十分ではありません。AIの出力を批判的に吟味できる深い専門知識、分野横断的な知見、そして何よりも、他者への共感や思いやりといった「人間性」が、これからの時代を生き抜く上で不可欠な要素となるでしょう。

かつてのIT革命が情報格差を生んだように、生成AIの活用能力は新たな格差を生む可能性があります。しかし、その変化の本質を見極め、AIを「補助的なツール」として賢く活用し、自らの専門性と人間性を磨き続けることで、私たちはこの変革の時代を乗り越え、より豊かな未来を築くことができるはずです。中川総合法務オフィスは、法律・経営の専門家として、そして社会の変化を見つめる啓蒙家として、皆様と共に未来を考えてまいります。

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