■通達は行政組織内部の「内部規範」であるから、公権力行使でないのが基本であるが、例外もある。次の国家試験でその勘所を確認されたい。
通達に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1 通達は、法律の根拠なく発令・改廃することができるが、それに際しては、官報による公示や関係機関の事務所における備付けその他適当な方法により国民に対して公にしなければならない。
2 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないが、特段の理由もなく通達に反する処分については、平等原則に違反するものとして、相手方たる国民との関係においても違法とされる余地がある。
3 通達は、国民の法的地位に影響を与えるものではないから、その発令・改廃行為は行政事件訴訟法3条1項の「公権力の行使」および国家賠償法1条1項の「公権力の行使」にはあたらない。
4 通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当該通達で示された法令解釈に拘束される。
5 通達は、上級行政機関が下級行政機関に対して発するものであり、上司たる公務員が部下である公務員に発する職務命令と別のものであるから、通達に反する行為を行ったことと当該行為を行った公務員の職務上の義務違反との間には、直接の関係はない。
■正解 2
⇒通達とは,上級行政機関が下級行政機関の権限行使等に関して発する書面の形式による命令であり,下級行政機関はこれに従わなければならず,これに反する場合は懲戒権が行使される。
通達は,上級行政機関から下級機関に対して発せられる行政内部の規範であるから,法律の根拠なく発することができるが,法律のように国民を拘束する効力は有しない。
したがって,通達に合致する行政措置が必ず適法であるとすることはできず,また,通達に反する行政措置は常に違法となるわけではない。
1.× 間違いです。公示は不要である。国民や住民にたいして向けられた規範でないからである。
2.○ その通りです。通達に基づく処分であっても、通達に違反する処分であっても、それが国民との関わりの場面で平等原則違反になって違法性を帯びることはあろう。
3.× 間違いです。法の文言が同じでも法の目的や趣旨に応じて解釈が異なることはあろう。行政事件訴訟法の公権力の解釈は行政行為としての処分行為と解されるが、国家賠償法上の公権力の行使は国民の救済という観点から広く解されるのであり、いわゆる行政指導が「公権力の行使」に当たるとされた事例も存在する(静岡地判昭58・2・4)。
4.× 間違いです。このような解釈法上の考えはない。裁判所は、自己の法解釈で判断する。
5.× 間違いです。通達は上部から下部への命令そのものである。
★参照条文
国家賠償法
第1条〔公務員の不法行為と賠償責任、求償権〕
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
行政事件訴訟法
第3条(抗告訴訟)
この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
★参照判例
国家賠償法1条にいう「公権力の行使」という要件には、国または公共団体がその権限に基づく統治作用としての優越的意思の発動として行う権力作用のみならず、国または公共団体の非権力的作用(ただし、国または公共団体の純然たる私経済作用と、二条に規定する公の営造物の設置管理作用を除く)もまた、包含されるものと解するのが相当である。(東京高判昭52・4・27高民集30-2-78)