警察官の不祥事と警察コンプライアンス態勢の再構築…令和4年は処分を受けた警察官が平成28年以降で最高

1.警察官の不祥事の推移(警察庁2018/01/15公表)

(1)平成29年中の懲戒処分者数について

全体としては、過去5年間で減少している。

プライべートなところで問題を起こすことが多くなっているのは気になる。

資料によると、盗撮や強制わいせつ、セクハラといった異性関係が83人、窃盗・詐欺・横領など57人、交通事故・違反が40人が目立つ。

■下記のデータは、令和5年2月9日に警察庁が公表したものである

(2)過去のデータと比較

 ①平成27年データ

警察庁が平成28年1月に公表した警察不祥事の状況によると、

平成27年に不祥事で懲戒処分を受けた警察官と警察職員は計293人で、前年より7人少なく、

3年連続の減少で、過去5年間では最少だった。

逮捕された警察官・職員は前年比1人増の72人で、うち2人は殺人容疑だった。

このうち懲戒免職は35人、停職は44人等となっているが、

理由で目立つのは不倫などの「異性関係」やセクハラである。

都道府県ではやはり高知県が目立つ(1千人あたりの処分者数が2・09人で)、滋賀はもっと割合が高いが。

もっとも、山形、福井、香川、愛媛、佐賀はゼロである。

②平成24年データ

◆平成25年1月31日付で警察庁長官 官房人事課より、「平成24年中の懲戒処分者数について」という文書が公表された。
詳しくは、その文書を見てもらえばわかるが、懲戒処分者数の増加と多すぎる逮捕者数にはガックリくる市民も多いのでなかろうか.
平成14年の処分者数よりは100人以上は少ないが、一旦は警察改革の流れの中で減った数がまた増えているのである。
●懲戒処分状況
○ 懲戒処分者数は458人であり、平成23年中の懲戒処分者数367人と比較して91人(24.8%)増加。
○ 懲戒処分の種類のうち、免職は62人(+17人(前年比。以下同じ。))、停職は128人(+45人)、減給は172人(+49人)。
○ 行為責任による処分者のうち、業務上は175人(+69人)、私行上は277人(+36人)。
○ 平成24年中の逮捕者数は93人(+27人)。
●理由
職務放棄・懈怠等34人、被疑者事故等12人、情報管理・取扱不適切8人、職権濫用・収賄供応等14人、犯人隠避等20人、公文書偽造・毀棄、証拠隠滅等61人、物品管理不適切等3の他の勤務規律違反等17人、暴行・傷害等30人、窃盗・詐欺・横領等55人、交通事故・違反54人、異性関係139人、その他の法令違反等5人、監督責任6人である。

③平成22年データ

平成23年1月公表データによると、警官・警察職員の懲戒処分6割増の385人と非常に多かった。

その時に、警察官のうち、中高年者や階級の高い者の増加が目立っていると報道された。

当時の警察官不祥事の中には、「猥褻関係」では児童買春や淫行、盗撮などの特別法違反がおおく、

また、「破廉恥犯」である窃盗や詐欺、横領などがも多くあった。

年齢別で、50歳以上が119人(前年比65人増)で全体の約3分の1を占めていた。

階級別では、警視以上が14人で前年(7人)から倍増し、警部も36人で前年(12人)の3倍だった。

これらの方は民間会社でいえば、取締役部長又は執行役員や少なくとも課長以上の役職を持つ責任者ばかりだろう。

そういう組織の責任者に当たるものが次から次へと不祥事を起こしていて、一般職員に規律を求めても苦しいであろう。

信頼回復のためには、全体としてのコンプライアンス態勢の確立が必要であろう。

特に、幹部の方はじっくりと1日研修でもまれる必要があろう。

公務に身を張って、殉職していった先輩たちに恥ずかしくないようにすべきであろう。

2.信頼回復のためのコンプライアンス態勢再構築

(1)警察改革

警察庁は、嘗て「警察改革」を進めていた。

※「警察改革」平成12年8月

【警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化】

(1) 情報公開の推進
○ 施策を示す訓令、通達の公表
○ 懲戒事案の発表基準の明確化
○ 都道府県警察の情報公開に関する指導

(2) 警察職員の職務執行に対する苦情の適正な処理
○ 文書による苦情申出制度の創設
○ 苦情処理システムの構築

(3) 警察における厳正な監察の実施
○ 警察庁、管区警察局及び都道府県警察における監察体制の整備(警察庁-監察官の増配置、管区警察局-総務監察部の設置、都道府県警察-首席監察官の格上げ等)
○ 警察庁及び管区警察局による都道府県警察に対する監察の強化

(4) 公安委員会の管理機能の充実と活性化
○ 警察の行う監察をチェックする機能の強化(具体的・個別的指示権、監察担当委員、監察調査官等)
○ 補佐体制の確立(国家公安委員補佐官室の新設等)
○ 「管理」概念の明確化
○ 公安委員の任期の制限

(2)「警察改革の精神」の徹底等に向けた総合的な施策検討委員会

警察庁は、平成11年頃の連続不祥事を受けて警察改革に乗り出し、平成12年8月、国家公安委員会及び警察庁が「警察改革要綱」を策定して、不祥事数を減少させてきたが、

平成22年頃から再び増加傾向になったので、

「「警察改革の精神」の徹底等に向けた総合的な施策検討委員会」を設置し、

不祥事(非違事案)の未然(再発)防止対策を強化するための施策等を検討するとともに、

「困り苦しむ国民を助け、不安を抱く人々に安心を与えること」が警察の真髄であることを明確化して柱の一つに据えることとし、

「「警察改革の精神」の徹底のために実現すべき施策」を策定した。

(3)成果が出ているがさらなる徹底を

その一連の努力は非常に高い評価を得ているところであるが、

不祥事の再発防止のためには、コンプライアンスの基本である国民や住民などのステークホルダーの信頼を得るために、

警察刷新会議の提言にある「 職務倫理の保持」といった主観面がまず最重要であることと

不祥事リスクの管理といった客観面から「 監察の強化」や「 業務管理の強化」が重要であると考える。

3.コンプライアンス態勢の再構築のコツ

(1)ハラスメントの増加とその防止

◆コンプライアンスの専門的な立場から見ると、

昨今はパワーハラスメントやセクシャル・ハラスメント等のハラスメントがどこでも多いのであるが、ここでもその傾向があろう。

たとえば、事例でいうと、

好きな女性の戸籍謄本を取得するため捜査書類偽造(滋賀)、

海水浴場で少女と性行為(大阪)、

任官前から痴漢(神奈川、愛媛)、

女子中学生の首絞めわいせつ行為(愛知)、

署のトイレで盗撮(埼玉)、

不倫相手と勤務中密会(長崎)、

少女に警察手帳見せホテルヘ(警視庁)、

女性警官に集団セクハラ(神奈川)などである。

(2)「人を支配する」要素の強い仕事と仏のモラル・ハラスメント防止法

地方公務員では、教員の性的不祥事が多いのであるが、「人を支配する」といった点に共通性がある。

50歳代の不祥事の多さはどこでも同じである。管理職の犯罪は、なにかわびしさを感じる。年功序列の崩壊している民間では特にそうである。

新規採用も、大卒が60~70%を占めるようになり、職場教育の難しさも背景にあるようである。

もう一度、警察改革の初心に戻ることも大切であると同時にコンプライアンス態勢再構築のコンサルティングや効果的なコンプライアンス研修やリスクマネジメント研修にも期待がかかってくるのでなかろうか。

※コンプライアンス態勢再構築については、詳細を本サイトの別稿参照。

この点で、警察組織にも協力していきたい。

また、本サイトにあるように、フランスの労働法及び刑法に明文化された「モラル・ハラスメント」は人支配する点に注目したハラスメントの考え方であろう。精神医学の成果が存分に入っている。

わが国でも、いつまでも厚生労働省は「パワーハラスメント」という国際的に全く通用しない言葉を使い続けるのであろうか。

非常に疑問である。労働法学会の若手からもうんざりの声が届いているのであろうか。

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