——スポーツ庁ガバナンスコード対応・不祥事根絶への処方箋—— 中川総合法務オフィス 代表 中川恒信が研修講師を務めます。

はじめに――バレーボールと法律と、私の歩んだ道

 私はかつてバレーボール選手だった。中学時代に全国大会に主将として出場し、高校では全日本高校選抜の座を勝ち取った。東京教育大学への推薦入学という進路もあったが、人生に深く悩み抜いた末、「社会のために法律の力で尽くしたい」という志に方向転換した。東京の原宿のパレフランスで貴金属を売りながら夜間に受験勉強をするという波乱の受験生活を経て、法律の世界へ足を踏み入れた。

 その後は、法律実務家として企業・自治体等でコンプライアンス研修・リスクマネジメント研修・職業倫理研修を担当してきた。北海道から沖縄まで全国で担当した研修・講演の回数は、2026年現在で850回を超える。アスリートとして全身で感じたスポーツの喜び、悲しみ、苦しみ、そして法律家として積み上げてきた知見——その二つが交差する地点に、「スポーツコンプライアンス」という専門領域がある。


第1章 スポーツコンプライアンスへの高まる需要——なぜ今なのか

 スポーツコンプライアンスへの社会的要請が一気に高まったのは、2016年から2017年にかけてのことだ。柔道・レスリング・体操・バドミントン等の競技団体で指導者による暴力・ハラスメント問題が相次いで表面化し、会計不正や組織内の権力濫用も明るみに出た。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を控えていたことも背景にあり、スポーツ庁が設置されて「スポーツ・インテグリティ(公正性・誠実性)」の確保が国家的課題として認識されるようになった。

しかし、東京大会が終わった後も、スポーツ界の不祥事は止まらない。報道される事案を見ると、不祥事の類型は次の六つに整理できる。

  1. ハラスメント(パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント等)
  2. 暴力行為・体罰
  3. 資金・会計の不正処理
  4. ドーピング違反
  5. 八百長・不正行為・競技規則違反
  6. 組織ガバナンスの欠如(選手選考の不透明性・専制的な組織運営等)

 これらは相互に連関している。組織ガバナンスが機能していない団体では、トップが「物言えぬ空気」を作り出し、個別の不祥事が見て見ぬふりをされて常態化する。哲学者ハンナ・アーレントが「悪の凡庸さ(the banality of evil)」と呼んだ現象——誰も特別に悪意を持っているわけではないのに組織全体が不正に加担していく構造——は、スポーツ組織でも同様に起きる。コンプライアンスが機能するためには、制度の整備とともに、人間の心理・行動原理への深い理解が必要だ。


第2章 スポーツ庁ガバナンスコードの最新動向——13原則と適合性審査

 スポーツ庁は、2019年6月に「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」を策定し、2023年9月29日に初の改定を行った(参考:スポーツ庁公式ページ)。このガバナンスコードは、スポーツ団体が適切な組織運営を行うための原則・規範であり、中央競技団体(NF:National Federation)に対しては13の原則の遵守状況について年1回の自己説明・公表が義務付けられているほか、統括団体(公益財団法人日本スポーツ協会等)による適合性審査を4年に1度受審しなければならない。

令和6年度(2024年度)からは適合性審査の第2巡目が始まり、小規模競技団体への配慮措置も設けられた。ガバナンスコードの13原則は大きく以下の柱で構成されている。

  1. 法令等の遵守と適正な組織運営
  2. 基本方針の策定・公表
  3. 適切な情報開示
  4. 役員体制の整備(外部役員・女性役員等)
  5. 役員の適格性確保(暴力行為等の禁止)
  6. 会計・財務の健全性確保
  7. スポーツ・インテグリティの保護(ドーピング・八百長防止等)
  8. コンプライアンス意識の徹底・教育
  9. 選手強化・育成に関する適切な支援
  10. ハラスメント・暴力根絶
  11. 内部通報・相談体制の整備
  12. 危機管理・不祥事対応体制の構築
  13. 地方競技団体へのサポート

また、一般スポーツ団体(都道府県体育協会・総合型地域スポーツクラブ等)向けには6原則で構成されるガバナンスコードが別途策定されており、2023年11月30日に改定が行われている。いずれのコードも、助成金の配分がガバナンスのレベルと連動する仕組みとなっており、コンプライアンス軽視は財政的損失にも直結する。


第3章 アスリートの経験から見た指導者ハラスメントの本質

 率直に言おう。私が全日本高校選抜選手として練習していた時代には、今であれば明らかにパワーハラスメントと認定される指導が日常的に行われていた。体罰・怒声・精神的圧迫は「勝つための手段」として正当化され、選手もその文化を内面化していた。コーチを数年経験した後に法律家の道へ進んだ私だからこそ、この現実を「他人事」としてではなく、「経験者」として語ることができる。

 現在は法律環境、コンプライアンス環境が根本的に変わった。2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)は、職場におけるパワーハラスメントの防止措置を事業主に義務付けた。スポーツ組織においても、指導者と選手の関係は「指揮命令関係」と評価される場合があり、同法の射程に入りうる。それだけではない。セクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法)、マタニティハラスメント、さらには保護者・スポンサーによるカスタマーハラスメントへの対応まで、スポーツ組織が直面するハラスメントの類型は多岐にわたる。

 重要なのは、新時代の指導者に求められるのは「厳しさの排除」ではなく「厳しさの更新」だということだ。選手の自律性を尊重し、心理的安全性を確保しながら高いパフォーマンスを引き出す——これは最先端のスポーツ科学(スポーツ心理学、行動科学)が明らかにした事実でもある。近代オリンピックの父・クーベルタン男爵が説いた「オリンピズム」の精神は「肉体と意思と精神の資質を高め合わせ、均衡のとれた全人間の育成」にある。暴力や恐怖による管理は、その精神の対極に位置する。


第4章 スポーツ組織別の課題——NF・大学・高校野球・プロリーグ

スポーツコンプライアンスの問題は、一つの層だけで発生するわけではない。中央競技団体(NF)から都道府県団体、大学運動部、高校の部活動、そしてプロ化されたリーグ組織まで、それぞれの層に固有の課題がある。

大学運動部においては、監督・コーチが雇用関係にある一方で選手は学生という構造が、権力の非対称性をより深刻にする。学生が不当な指導を受けても「退部=競技生命の終了」という恐怖から声を上げられない。このような構造こそが内部通報制度の整備を急務にする。

高校野球は我が国独自の文化的背景を持つ。甲子園を頂点とする強烈な物語性が、それ以外の種目との「特別扱い」を生んできた。高校バレーボールの選手として、「なぜ野球部だけが」という疑問を当時から持ち続けてきた。ただしこれは野球部への批判ではなく、スポーツ文化全体の公平性と透明性を問う視点だ。

プロリーグについては、バスケットボールのBリーグ、バレーボールの一部プロ化(SVリーグ等)など、新しい枠組みが誕生している。プロ化は資金の大型化・メディア露出増大を意味するが、それに見合ったガバナンス体制の整備が追いついていない組織も少なくない。不祥事が発生した場合、リーグ全体のブランドイメージへの打撃は甚大だ。


第5章 内部通報制度の構築と運用——「相談しやすい組織」が自浄力を生む

私は現在、複数の組織から内部通報の外部窓口を受任している。公益通報者保護法(2022年6月改正施行)は、常時使用労働者が300人を超える事業者に対し内部通報体制の整備を義務付けた。スポーツ団体においても、組織の規模にかかわらず、内部通報(公益通報)体制の整備はガバナンスコードの要請でもある。

実務経験から言えることがある。「相談しやすい環境さえ整えれば、相談は来る」。問題は制度の存在ではなく、制度への信頼と心理的安全性だ。外部の専門家が窓口を担うことで、「社内の誰かに知られるかもしれない」という不安が解消され、通報のハードルが下がる。私が窓口を担った案件でも、外部窓口だからこそ相談できたというケースが複数ある。


第6章 スポーツとは何か——勝負の倫理と人間の成長

コンプライアンスの議論をしていると、「勝つことへの意欲」と「ルールの遵守」が対立するかのような誤解が生まれることがある。しかし、これは偽の二項対立だ。

スポーツの語源はラテン語の「deportare(非日常へ連れ出す)」にある。スポーツが人間に与える価値は、勝敗の結果だけにあるのではない。自己の限界に挑む過程、仲間との連帯、敗北から立ち上がる経験——これらすべてが人間を成長させる。古代ギリシャのアレテー(ἀρετή、卓越性・徳)の概念が示すように、真の卓越性は身体能力だけでなく、精神的な高潔さ(インテグリティ)を包含する。

スポーツコンプライアンスとは、勝利至上主義への批判ではなく、スポーツが持つ本来の価値を守るための仕組みだ。私はスポーツの喜びも悲しみも苦しみも全身で知っている者として、その確信を持って伝えることができる。


第7章 スポーツコンプライアンス研修の内容と進め方

中川総合法務オフィスのスポーツコンプライアンス研修は、以下の内容を組織の実情に合わせてカスタマイズして提供する。

  • スポーツ庁ガバナンスコード(中央競技団体向け・一般スポーツ団体向け)の解説と自己点検の方法
  • 不祥事の6類型と近年の具体的事例の分析(NF・大学・高校・プロリーグ別)
  • ハラスメント防止(パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスタマーハラスメント)と法令対応
  • 内部通報制度の構築・外部窓口の設置・運用ノウハウ
  • 危機管理・不祥事発覚時の初動対応・記者会見対応
  • 会計・資金管理の適正化と情報開示
  • 新時代の指導者論——心理的安全性とパフォーマンスの両立
  • 組織風土の診断と改善のアプローチ

研修は集合形式(全国出張対応)・オンライン形式のいずれにも対応している。首長・社長等の組織トップを対象とした経営者研修から、指導者・役員・職員向けの階層別研修まで、組織の課題と予算に応じて柔軟に設計する。マスコミ報道されたから知っている方も多いであろうが、私は知事や市長の指導経験もある。


おわりに——研修依頼・コンサルティングのご案内

中川総合法務オフィス代表の中川恒信は、単なる「コンプライアンスの専門家」ではない。全日本高校選抜バレーボール選手として強化合宿・全国ブロック大会を戦い抜いた経験、法律実務家として積み上げた850回超の研修・講演実績、そして不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築支援の経験——これらが一人の人間の中に共存しているのは、おそらく唯一無二といってよい。

不祥事が発生した企業・スポーツ団体の再発防止策についてはマスコミからコメントを求められることも多く、実践的かつ社会的視点に立った提言を行っている。外部の内部通報窓口を現に受任しており、「制度づくり」と「運用」の両面を熟知している。

研修の標準費用は1回30万円(税別・交通費実費)を基準としているが、組織の規模・予算・研修の目的に応じて柔軟にご相談に応じる。

スポーツ組織の健全な発展のために、ぜひ一度ご相談いただきたい。組織に蓄積した「指導」という名の暴力の記憶、透明性のない会計処理、「物言えぬ空気」——これらを変えることは、実はスポーツ本来の喜びを取り戻すことでもある。


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【参考資料】

  • スポーツ庁「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」2023年9月29日改定版(スポーツ庁公式ページ
  • スポーツ庁「スポーツ団体ガバナンスコード<一般スポーツ団体向け>」2023年11月30日改定版
  • 労働施策総合推進法(パワーハラスメント防止措置義務化、2020年6月施行)
  • 公益通報者保護法(2022年6月

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