1.はじめに:豊富な研修実績に基づくコンプライアンス・リスクマネジメントの重要性

当オフィスでは、これまでに全国の企業や地方公共団体を中心に、850回、もう900回近くに及ぶコンプライアンスやリスクマネジメントに関する研修講師を務めてまいりました。様々な組織で研修を実施する中で、特にご要望が多いのが「コンプライアンス研修」と「リスクマネジメント研修」です。特に地方公共団体様からのご依頼が最も多く、次いで企業や各種団体様からも多数のご依頼をいただいております。

2.組織が直面する課題:不祥事防止と再発防止の体制構築

研修のご依頼内容として特に多いのが、「不祥事の未然防止体制の構築」に関するものです。また、残念ながら不祥事が発生してしまった後の「再発防止のための研修」のご依頼も後を絶ちません。
これらの課題に対応するためには、組織全体でコンプライアンスとリスクマネジメントの意識を高め、実効性のある体制を構築・運用していくことが不可欠です。

3.地方公共団体における内部統制の法的根拠とフレームワーク

特に地方公共団体においては、自らコンプライアンス体制やリスクマネジメント体制を構築・運用していくことが求められています。
地方自治法第150条には、長の権限として
「事務の執行と管理」に関する次の規定があり、
…都道府県知事及び…指定都市…の市長は、その担任する事務のうち次に掲げるものの管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを確保するための方針を定め、及びこれに基づき必要な体制を整備しなければならない。
一 財務に関する事務その他総務省令で定める事務
二 前号に掲げるもののほか、その管理及び執行が法令に適合し、かつ、適正に行われることを特に確保する必要がある事務として当該都道府県知事又は指定都市の市長が認めるもの…
これは実質的に、事務の適正な執行を確保するための体制、すなわち「内部統制」の整備を求めていると解釈できます。(※条文上「内部統制」という直接的な文言はありませんが、趣旨は同様です。)

この内部統制の考え方の基礎となるフレームワークとして、国際的には1992年に公表された「COSOレポート」が存在します。これは内部統制の概念や構成要素を示したもので、多くの組織で参考にされてきました。
しかし、社会環境の変化に対応するため、COSOフレームワーク自体も進化しており、2013年には改訂版が公表されています。
さらに、企業のリスクマネジメントに関しては、より広範なリスクに対応する「エンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)」のフレームワークがあり、こちらも2017年に改訂版が公表されています。

これらの国際的なフレームワークは、地方公共団体や企業が自組織に適した内部統制・リスクマネジメント体制を構築する上で、非常に有用な考え方やツールを提供しています。各組織はこれらの知見を参考に、自らの実情に合わせて効果的に活用していく必要があります。

4.地方公共団体におけるコンプライアンスの範囲:法令遵守を超えて

ここで注意が必要なのは、地方公共団体における「コンプライアンス」の範囲です。一般的にコンプライアンスは「法令遵守」と訳されますが、地方公務員の場合、その範囲はより広いと解釈すべきです。

地方公務員法第29条には懲戒処分の事由が定められていますが、その第一号は「法令違反」です。しかし、第二号では「職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合」、第三号では「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」も処分の対象としています。つまり、単なる法令違反だけでなく、職務上の義務違反や怠慢、さらには公務員としてふさわしくない行いも、コンプライアンス上問題となるのです。

したがって、地方公共団体におけるコンプライアンス体制を考える際には、狭義の法令遵守にとどまらず、服務規律や倫理規範、社会常識といったより広い範囲を包含するものとして定義し、取り組むことが求められます。

5.内部通報制度(ヘルプライン)の重要性

コンプライアンス体制を組織内に効果的に根付かせる(ビルトインする)上で、極めて重要な役割を果たすのが「内部通報制度」です。私自身も、複数の組織で内部通報窓口の業務を担当しておりますが、その重要性を日々実感しています。

法令違反やその疑い、あるいは不正行為やハラスメントといった問題が発生した場合、従業員や職員が安心して報告できる窓口があることは、問題の早期発見・早期是正に繋がり、組織の自浄作用を高める上で不可欠です。心理的安全性の高い組織である必要があるのです。

地方公共団体においては、総務省の指針等も踏まえ、人事委員会や公平委員会への苦情申し立て制度などが存在しますが、それとは別に、よりアクセスしやすい内部通報窓口を設置・運用することが望ましいでしょう。

6.現代における主要なコンプライアンス・リスク課題

近年の研修で特に重要性が増しているテーマが以下の3つです。

(1)ハラスメント対策: パワハラ、セクハラはもちろん、近年は顧客等からの過剰な要求や迷惑行為である「カスタマーハラスメント」(医療機関であれば「ペイシェントハラスメント」)への対策が急務となっています。

(2)個人情報保護: SNSの普及やデジタル化の進展により、個人情報の漏洩リスクは格段に高まっています。意図しない形での情報漏洩を防ぐための体制整備と従業員教育が不可欠です。

(3)クレーム対応: 役所や企業に対するクレームは、単に跳ね返すだけでは解決しません。相手の言い分を真摯に聞く「傾聴」の姿勢が、問題解決と信頼回復の鍵となります。建設的な対話を通じて、組織運営の改善に繋げる視点も重要です。

    これらの課題は、どの組織においても発生しうるリスクであり、コンプライアンス・リスクマネジメント体制の中で重点的に取り組むべき事項です。
    私の研修では、これらのテーマについて具体的な事例を豊富に取り上げ、実践的な対応策を解説しています。知識だけでなく、具体的な場面を想定して考えることで、より深い理解と実践力の向上を目指しています。

    7.当オフィスの研修スタイルとご依頼について

    私の研修は、時に厳しい指摘をさせていただくこともあります。そのため、「厳しい話は苦手だ」と感じられる組織様からは、一度きりのご依頼となる場合もございます。
    しかし、幸いなことに、多くの地方公共団体などの皆様からは10年以上にわたり継続的に研修をご依頼いただいております。これは、厳しさの中にも、組織の健全な発展を願う真摯な姿勢をご理解いただけている結果だと考えております。

    もし、当オフィスの研修スタイルにご関心をお持ちいただけましたら、ぜひウェブサイト(https://compliance21.com/)をご覧いただき、内容をご確認ください。研修に関するご相談やご依頼は、メールまたはお電話にて、いつでもお気軽にお問い合わせいただければ幸いです。組織のコンプライアンス・リスクマネジメント体制強化に向けて、全力でサポートさせていただきます。


    【著者情報】

    中川恒信 中川総合法務オフィス 代表 行政書士・コンプライアンス専門家

    企業・地方公共団体等において、コンプライアンス、リスクマネジメント、内部統制、ハラスメント防止、個人情報保護、クレーム対応等に関する研修・コンサルティングを多数実施。実践的な指導に定評がある。

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