内部統制の構築基準と責任の重要判例(日本システム技術事件 最高裁判決 平成21年7月9日)

1.日本システム技術事件の概要

※本件は,上告人の従業員らが営業成績を上げる目的で架空の売上げを計上したため有価証券報告書に不実の記載がされ,その後同事実が公表されて上告人の株価が下落したことについて,公表前に上告人の株式を取得した被上告人が,上告人の代表取締役に従業員らの不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があり,その結果被上告人が損害を被ったなどと主張して,上告人に対し,会社法350条に基づき損害賠償を請求する事案である。

会社法350条:(代表者の行為についての損害賠償責任)株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

(1) 上告人は,ソフトウェアの開発及び販売等を業とする株式会社であり,平成15年2月に東京証券取引所(以下「東証」という。)第2部に上場した。Aは,上告人設立以降現在まで上告人の代表取締役の地位にある。
(2) 被上告人は,平成16年9月13日及び翌14日,証券会社を通じて上告人の株式を取得した者である。
(3) 上告人の事業は,注文に応じてソフトウェアの受託開発等を行うソフトウェア事業と大学向けの事務ソフト等の既製品を開発し販売するパッケージ事業に大別され,パッケージ事業本部にはC事業部が設置されている。
(4) Bは,平成12年4月に上告人のC事業部の部長に就任した。当時,C事業部には,Bが部長を兼務する営業部のほか,注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課(ビジネスマネージメント課)及び事務ソフトの稼働の確認を担当するCR部(カスタマーリレーション部)が設置されていた。また,当時の上告人の職務分掌規定によれば,財務部の分掌業務は,資金の調達と運用・管理,債権債務の管理等とされ,C事業部の分掌業務は,営業活動,営業事務(受注管理事務,債権管理事務,売掛金の管理及び不良債権に対する処理方針の決定を含む。)等とされていた。
(5) 上告人のパッケージ事業は,上告人が,顧客であるD株式会社ほか1社(以下,2社を単に「販売会社」という。)に事務ソフト等の製品を販売し,販売会社がエンドユーザーである大学等に更にこれを販売するというものである。平成12年当時のパッケージ事業における事務手続(以下「本件事務手続」という。)の流れは,以下のとおりであった。
アC事業部の営業担当者が販売会社と交渉し,合意に至ると販売会社が注文書を営業担当者に交付する。営業担当者は,注文書をBM課に送付し,同課は受注処理を行った上,営業担当者を通じて販売会社に検収を依頼する。
イCR部の担当者が,販売会社の担当者及びエンドユーザーである大学の関係者と共に,納品された事務ソフトの検収を行う。
ウBM課は,販売会社から検収書を受領した上,売上処理を行い,上告人の財務部に売上報告をする。財務部は,BM課から受領した注文書,検収書等を確認し,これを売上げとして計上する。
(6) Bは,高い業績を達成し続けて自らの立場を維持するため,平成12年9月以降,C事業部の営業担当者である部下数名(以下「営業社員ら」という。)に対し,後日正規の注文が獲得できる可能性の高い取引案件について,正式な注文がない段階で注文書を偽造するなどして実際に注文があったかのように装い,売上げとして架空計上する扱い(以下「本件不正行為」という。)をするよう指示した。
Bの指示を受けて行われた本件不正行為の手法は,次のとおりであった。
ア営業社員らは,偽造印を用いて販売会社名義の注文書を偽造し,BM課に送付した。
イBM課では,偽造に気付かず受注処理を行って検収依頼書を作成し,営業社員らに交付した。しかし,検収依頼書は販売会社に渡ることはなく,営業社員らによって検収済みとされたように偽造され,BM課に返送された。実際には大学に対して製品は納品されておらず,CR部担当者によるシステムの稼働の確認もされていなかったが,B及び営業社員ら(以下「Bら」という。)は,納品及び稼働確認がされているかのような資料を作成した。
ウBM課では,検収書の偽造に気付かず売上処理を行い,財務部に売上げの報告をした。財務部は,偽造された注文書及び検収書に基づき売上げを計上した。
エ財務部は,毎年9月の中間期末時点で,売掛金残高確認書の用紙を販売会社に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。また,毎年3月の期末時点には,上告人との間で監査契約を締結していた監査法人も,売掛金残高確認書の用紙を販売会社に郵送し,確認の上返送するよう求めていた。ところが,営業社員らは,Bの指示を受けて,販売会社の担当者に対し,上告人等から封書が郵送される可能性があるが,送付ミスであるから引き取りにいくまで開封せずに持っていてほしいなどと申し向け,これを販売会社から回収した上,用紙に金額等を記入し,販売会社の偽造印を押捺するなどして販売会社が売掛金の残高を確認したかのように偽装し,財務部又は監査法人に送付していた。財務部及び監査法人は,偽造された売掛金残高確認書において上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致していたため,架空売上げによる債権を正常債権と認識していた。
(7) Bらは,当初は契約に至る可能性が高い案件のみを本件不正行為の対象としていたが,次第に可能性が低い案件についても手を付けざるを得なくなり,売掛金の滞留残高は増大していった。
(8) 財務部は,回収予定日を過ぎた債権につき,C事業部から売掛金滞留残高報告書を提出させていたが,Bらは,回収遅延の理由として,大学においてシステム全体の稼働が延期されたことや,大学における予算獲得の失敗及び大学は単年度予算主義であるため支払が期末に集中する傾向が強いことなどを挙げていた。財務部は,これらの理由が合理的であると考え,また,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,売掛金残高確認書も受領していると認識していたことから,売掛金債権の存在について特に疑念を抱かず,直接販売会社に照会等をすることはしなかった。また,監査法人も,平成16年3月期までの上告人の財務諸表等につき適正であるとの意見を表明していた。
(9) 上告人は,監査法人から売掛金残高の早期回収に向けた経営努力が必要である旨の指摘を受け,代表取締役であるAが販売会社と売掛金残高について話をしたところ,双方の認識に相違があることが明らかになり,平成16年12月ころ,本件不正行為が発覚した。
(10) 上告人は,平成17年2月3日付けでBを懲戒解雇処分とし,その後刑事告発した。Bは,有印私文書偽造・同行使の罪で起訴され,有罪判決を受けた。
(11) 上告人は,平成17年2月10日,複数年度にわたりBらによる本件不正行為が行われていたこと,それにより同16年9月ころまでの上告人のパッケージ事業の売上高に影響が生ずること,そのためパッケージ事業については多額の損失計上を余儀なくされるが,上告人グループの売上高の約80%を占めるソフトウェア事業については影響はないことなどを公表し,同17年3月期の業績予想を修正した。東証は,上告人から過去の有価証券報告書を訂正する旨の報告を受け,同年2月10日,上場廃止基準(財務諸表に虚偽記載があること)に抵触するおそれがあるとして,上告人の株式を監理ポストに割り当てることとした。これらの事実が新聞報道された後,上告人の株価は大幅に下落した。

2.地裁・高裁の判断(原審裁判所名  東京高等裁判所  平成20年6月19日)

(1) 本件不正行為当時,C事業部は幅広い業務を分掌し,BM課及びCR部が同事業部に直属しているなど,上告人の組織体制及び本件事務手続にはBらが企図すれば容易に本件不正行為を行い得るリスクが内在していたにもかかわらず,上告人の代表取締役であるAは,上記リスクが現実化する可能性を予見せず,組織体制や本件事務手続を改変するなどの対策を講じなかった。また,財務部は,長期間未回収となっている売掛金債権について,販売会社に直接売掛金債権の存在や遅延理由を確認すべきであったのにこれを怠り,本件不正行為の発覚の遅れを招いたもので,このことは,Aが財務部によるリスク管理体制を機能させていなかったことを意味する。したがって,Aには,上告人の代表取締役として適切なリスク管理体制を構築すべき義務を怠った過失がある。
(2) 上告人の代表取締役であるAの上記過失による不法行為は,上告人の職務を行うについてされたものであるから,上告人は,会社法350条に基づき,被上告人に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

3.最高裁の判断

前記事実関係によれば,本件不正行為当時,上告人は,

①職務分掌規定等を定めて事業部門と財務部門を分離し,

②C事業部について,営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当するBM課及びソフトの稼働確認を担当するCR部を設置し,それらのチェックを経て財務部に売上報告がされる体制を整え,

③監査法人との間で監査契約を締結し,当該監査法人及び上告人の財務部が,それぞれ定期的に,販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し,その返送を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたというのであるから,

上告人は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えていたものということができる。

そして,本件不正行為は,C事業部の部長がその部下である営業担当者数名と共謀して,販売会社の偽造印を用いて注文書等を偽造し,BM課の担当者を欺いて財務部に架空の売上報告をさせたというもので,営業社員らが言葉巧みに販売会社の担当者を欺いて,監査法人及び財務部が販売会社あてに郵送した売掛金残高確認書の用紙を未開封のまま回収し,金額を記入して偽造印を押捺した同用紙を監査法人又は財務部に送付し,見掛け上は上告人の売掛金額と販売会社の買掛金額が一致するように巧妙に偽装するという,通常容易に想定し難い方法によるものであったということができる。

また,本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど,上告人の代表取締役であるAにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情も見当たらない。

さらに,前記事実関係によれば,売掛金債権の回収遅延につきBらが挙げていた理由は合理的なもので,販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく,監査法人も上告人の財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから,財務部が,Bらによる巧妙な偽装工作の結果,販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し,直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても,財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。

以上によれば,上告人の代表取締役であるAに,Bらによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。

4.日本システム技術事件最高裁に対する中川総合法務オフィスのコメント

⇒実務上非常に重要な裁判である。内部統制についての平成時代の最重要判決と言っていいだろう。原審のリスク発現結果に対する予想可能性に基づくリスク管理違反構造と違う判断枠組みで、まさに大和銀行事件以来の「善管注意義務に基づく内部統制・リスク管理」内容を明言したと言っていい。令和2年度以降の地方自治法150条「地方公共団体の内部統制」への影響もあろう。

なお、このすぐ後の平成21年10月22日の日経事件のインサイダー取引事件がこれとほぼ同じ論理構造に立つことは多くの識者が指摘している、災害危機管理判決や医療過誤判決でもその論理構造は非常に似通ってきているので、訴訟立証活動も被告が犯行当時に一般的に求められる内部統制水準を満たしていることの立証に成功すれば、特別事情は原告の立証になろう。

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