はじめに:勧告制度の意義

取適法における公正取引委員会の勧告制度は、中小受託事業者保護を実現するための中核的な執行手段である。第10条と第11条は、この勧告制度の具体的な内容と、独占禁止法との関係を明確にすることで、法執行の実効性と予見可能性の両立を図っている。

本稿では、これらの条文が持つ実務上の重要性と、企業が理解すべきポイントを詳細に解説する。

(勧告)
第十条 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為があると認めるときは、当該行為をした委託事業者(委託事業者が合併により消滅した場合にあつては合併後存続し、又は合併により設立された法人、委託事業者の分割により当該行為に係る事業の全部又は一部の承継があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を承継した法人、委託事業者の当該行為に係る事業の全部又は一部の譲渡があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を譲り受けた事業者。次項及び次条において「違反委託事業者」という。)に対し、速やかにその中小受託事業者の給付を受領し、その製造委託等代金若しくはその減じた額若しくは第六条の規定による遅延利息を支払い、その給付に係る物を再び引き取り、その製造委託等代金の額を引き上げ、若しくはその購入させた物を引き取るべきこと若しくはその不利益な取扱いをやめるべきこと又はその中小受託事業者の利益を保護するための措置をとるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
2 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、違反委託事業者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)
第十一条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条及び第二十条の六の規定は、公正取引委員会が前条の規定による勧告をした場合において、違反委託事業者が当該勧告に従つたときに限り、当該勧告に係る行為については、適用しない。

第10条第1項:勧告権限の基本構造

勧告の発動要件

第10条第1項は、公正取引委員会が「第五条の規定に違反する行為があると認めるとき」に勧告を行うことができると定めている。この「認めるとき」という文言は、公正取引委員会に一定の裁量を認めつつも、客観的な違反事実の存在が前提となることを示している。

公正取引委員会は、調査によって得られた証拠に基づき、第5条各号に定める禁止行為のいずれかに該当する事実があると判断した場合に、勧告権限を行使することになる。この判断過程では、取引の実態、当事者間の交渉経緯、業界慣行なども総合的に考慮される。

勧告の名宛人:承継法人への拡張

条文が特に詳細に規定しているのが、勧告の名宛人である。原則として違反行為を行った委託事業者が対象となるが、以下の3つの場合には承継法人等も勧告の名宛人となる点が重要である。

第一に、委託事業者が合併により消滅した場合である。この場合、合併後存続する法人または合併により設立された法人が勧告の対象となる。合併には吸収合併と新設合併があるが、いずれの形態であっても、違反行為に係る権利義務関係は包括的に承継されるため、是正措置も承継法人が負うべきものとなる。

第二に、委託事業者の分割により当該違反行為に係る事業の全部または一部の承継があった場合である。会社分割は、事業の選択的な承継を可能にする組織再編手法であるが、違反行為に関連する事業を承継した法人は、その違反行為についても是正責任を負うことになる。ここで注目すべきは、「全部又は一部」という文言であり、事業の一部のみを承継した場合でも、その範囲で勧告の対象となり得る点である。

第三に、委託事業者の当該違反行為に係る事業の全部または一部の譲渡があった場合である。事業譲渡は契約による個別の権利義務の移転であるが、違反行為に関連する事業を譲り受けた事業者は、やはり是正措置の対象となる。これは、組織再編を利用した責任回避を防止する趣旨である。

勧告の内容:具体的な是正措置

第10条第1項は、公正取引委員会が勧告できる措置の内容を例示的に列挙している。これらの措置は、第5条各号の違反類型に対応した是正内容となっている。

受領拒否等への対応措置として、「速やかにその中小受託事業者の給付を受領」することが挙げられている。第5条第1号の受領拒否や受領遅延に対応するものであり、委託事業者に対して速やかな給付の受領を求める内容である。

支払遅延等への対応措置として、「その製造委託等代金若しくはその減じた額若しくは第六条の規定による遅延利息を支払い」が規定されている。これは第5条第2号および第3号に対応し、未払代金の支払いだけでなく、不当に減額された額の支払いや、遅延利息の支払いまで含む包括的な金銭的是正を求めるものである。

返品への対応措置として、「その給付に係る物を再び引き取り」が定められている。第5条第4号の不当な返品に対応し、一度受領した給付物を返品した場合に、再度の引取りを求める内容である。

買いたたきへの対応措置として、「その製造委託等代金の額を引き上げ」ることが規定されている。第5条第5号の買いたたきに対応し、不当に低く定められた代金額を適正な水準まで引き上げることを求めるものである。

購入強制等への対応措置として、「その購入させた物を引き取る」ことが定められている。第5条第6号の購入強制や第7号の指定利益提供要請に対応し、不当に購入させた物品やサービスを委託事業者側で引き取ることを求める内容である。

不利益取扱いへの対応措置として、「その不利益な取扱いをやめるべきこと」が規定されている。第5条第8号の報復措置に対応し、継続的な不利益取扱いを直ちに中止させる内容である。

さらに、これらの個別的措置に加えて、「その中小受託事業者の利益を保護するための措置をとるべきこと」という包括的な規定が設けられている。これは、個別の是正措置だけでは十分に中小受託事業者の利益保護が図れない場合に、追加的な措置を求めることを可能にするものである。

最後に「その他必要な措置をとるべきこと」という一般条項が置かれており、公正取引委員会に幅広い裁量を認めている。これにより、個々の事案の特性に応じた柔軟な是正措置が可能となっている。

第10条第2項:違反行為終了後の勧告

事後的勧告の意義

第10条第2項は、第1項とは異なる特殊な勧告権限を定めている。それは「第五条の規定に違反する行為が既になくなつている場合」における勧告である。

通常、違反行為が既に終了している場合には、是正措置を命じる実益は乏しいと考えられる。しかし、第2項は「特に必要があると認めるとき」という要件の下で、違反行為終了後も勧告を行うことができると規定している。

この規定の趣旨は、違反行為が形式的には終了していても、その影響が残存している場合や、同種の違反行為の再発防止が特に重要な場合に、公正取引委員会が適切な措置を求めることができるようにする点にある。

「特に必要があると認めるとき」の判断基準

「特に必要があると認めるとき」という要件は、公正取引委員会に裁量を認めつつも、無制限な勧告権行使を防止する機能を果たしている。

この要件該当性の判断においては、違反行為の悪質性、影響の程度、同種行為の反復可能性、業界への影響などが総合的に考慮されると考えられる。例えば、違反行為が長期間継続していた場合、多数の中小受託事業者に影響を与えていた場合、業界において広く認識される必要がある場合などが想定される。

事後的勧告の内容

第2項で勧告できる措置の内容として、条文は「当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置」を例示している。

周知措置は、違反行為が既に終了していることを、取引先や業界関係者に知らせることを求めるものである。これにより、違反行為の影響を受けた中小受託事業者や、その他の取引関係者に対して、正常な取引関係が回復されたことを明確にする効果がある。

周知の方法としては、取引先への個別通知、業界紙への公告、自社ウェブサイトでの公表など、事案に応じた適切な手段が選択されることになる。

その他の必要な措置としては、社内規程の整備、コンプライアンス研修の実施、監視体制の構築など、再発防止のための組織的対応が含まれ得る。これらは、違反行為が真に排除され、今後の取引において同様の問題が生じないことを確保するための予防的措置である。

第11条:独占禁止法との関係

二重処罰回避の原則

第11条は、取適法と独占禁止法との関係を調整する重要な規定である。両法は、いずれも公正取引委員会が所管する法律であり、取引の公正性確保という共通の目的を有している。

しかし、同一の行為が両法に抵触する場合に、それぞれの法律に基づいて別個の措置が講じられると、事業者に対する過度の負担や、法的安定性の欠如という問題が生じる。第11条は、この問題を解決するための調整規定である。

独占禁止法第20条・第20条の6の不適用

第11条は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)第20条および第20条の6の規定について、一定の条件下での不適用を定めている。

独占禁止法第20条は、不公正な取引方法に対する排除措置命令に関する規定である。また、第20条の6は、排除措置命令の際の意見聴取手続に関する規定である。これらは、公正取引委員会が違反行為を認定し、その排除を命じるための基本的な手続規定である。

第11条の規定により、これらの条文が不適用となるのは、以下の3つの要件をすべて満たす場合である。

第一に、公正取引委員会が第10条の規定による勧告を行ったことである。勧告が実際に行われることが前提となる。

第二に、違反委託事業者が当該勧告に従ったことである。単に勧告が行われただけでは足りず、勧告の名宛人がその内容を実行し、是正措置を完了することが必要である。

第三に、独占禁止法の規定が適用されないのは、「当該勧告に係る行為」についてのみである。つまり、勧告の対象となった行為に限定して不適用となり、それ以外の違反行為については通常どおり独占禁止法が適用される。

調整規定の実務的意義

この調整規定には、重要な実務的意義がある。

まず、事業者にとっての予見可能性が確保される。勧告に従えば独占禁止法に基づく排除措置命令を受けることがないという明確なルールにより、事業者は安心して自主的な是正措置を講じることができる。

次に、公正取引委員会の執行の効率性が高まる。勧告制度により迅速な違反行為の是正が可能となり、正式な排除措置命令手続を経る必要がなくなる。これは、限られた行政資源の効率的な活用にもつながる。

さらに、中小受託事業者の保護が実効的に図られる。勧告に基づく自主的是正は、排除措置命令手続よりも迅速に実施される可能性が高く、被害を受けた中小受託事業者の早期救済につながる。

ただし、注意すべきは、勧告に従わなかった場合には、独占禁止法の適用が妨げられない点である。この場合、公正取引委員会は排除措置命令を発出することができ、場合によっては独占禁止法第7条の2に基づく課徴金納付命令も可能となる。

取適法と独占禁止法の適用関係の全体像

取適法違反行為は、その性質上、独占禁止法上の不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項、同法第19条)にも該当する可能性が高い。特に、優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)に該当するケースが多いと考えられる。

しかし、第11条の調整規定により、取適法による勧告制度が優先的に適用され、勧告に従った場合には独占禁止法の排除措置命令は行われない。これは、特別法である取適法が、一般法である独占禁止法に優先する関係を明確にしたものといえる。

この仕組みにより、中小受託事業者保護という政策目的に特化した取適法の執行が円滑に行われることになる。

勧告制度の実務上の留意点

企業側の対応

委託事業者としては、公正取引委員会から勧告を受けた場合、その内容を真摯に受け止め、速やかに是正措置を講じることが重要である。

勧告に従うことにより、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令を回避できるだけでなく、企業の社会的信用を維持することにもつながる。逆に、勧告を無視または軽視した場合、より厳しい法的措置を受けるリスクが高まる。

また、勧告を受ける前の段階でも、取適法第5条の禁止行為に該当する可能性のある取引慣行については、自主的に見直しを行うことが望ましい。内部監査やコンプライアンス・チェックの仕組みを整備し、問題のある取引慣行を早期に発見・是正する体制を構築することが求められる。

中小受託事業者側の対応

中小受託事業者としては、自社の利益が不当に侵害されていると感じた場合、公正取引委員会に対して情報提供や申告を行うことができる。

公正取引委員会は、こうした情報や申告に基づいて調査を行い、必要に応じて勧告等の措置を講じることになる。中小受託事業者が声を上げることが、取適法の実効性を高める第一歩となる。

ただし、情報提供や申告を行う際には、具体的な事実関係を整理し、可能な限り証拠資料を準備することが重要である。契約書、発注書、納品書、請求書、メールのやり取りなど、取引の実態を示す資料が調査の出発点となる。

承継法人の留意点

合併、分割、事業譲渡などの組織再編を行う企業は、第10条第1項のカッコ書き規定に特に注意を払う必要がある。

組織再編の際には、承継する事業に関連して取適法違反行為が存在しないか、デューデリジェンスの段階で十分に調査することが重要である。違反行為が発見された場合には、組織再編の条件として是正措置の実施を求めるなど、適切な対応を講じるべきである。

また、組織再編後に過去の違反行為が判明した場合でも、承継法人は勧告の対象となり得るため、承継した事業については継続的な監視とコンプライアンス体制の整備が必要となる。

勧告制度と企業コンプライアンス

予防的コンプライアンスの重要性

第10条および第11条の規定から明らかなように、公正取引委員会の勧告制度は、違反行為の是正だけでなく、予防的な機能も果たしている。

企業としては、勧告を受けてから対応するのではなく、勧告を受けることのないよう、日常的な取引においてコンプライアンスを徹底することが重要である。そのためには、取適法の内容を正確に理解し、社内規程や取引マニュアルに反映させ、従業員教育を徹底する必要がある。

特に、購買部門や調達部門の担当者は、中小受託事業者との取引において第5条の禁止行為に該当する行為を行わないよう、具体的な行動基準を理解しておく必要がある。

コンプライアンス体制の構築

取適法遵守のためのコンプライアンス体制としては、以下のような要素が重要となる。

第一に、経営トップのコミットメントである。取引の公正性確保を企業の重要な経営方針として位置づけ、全社的な取組みとして推進する姿勢が必要である。

第二に、明確な社内規程の整備である。取適法の禁止行為を具体的にリスト化し、実務上の判断基準を明確にした規程を策定する必要がある。

第三に、定期的な社内研修の実施である。取適法の内容や最新の法改正情報、公正取引委員会の指導事例などを従業員に周知し、コンプライアンス意識を高める必要がある。

第四に、内部通報制度の整備である。社内で問題のある取引慣行を発見した従業員が、匿名で通報できる仕組みを構築することで、問題の早期発見・是正が可能となる。

第五に、定期的な監査とモニタリングである。内部監査部門や法務部門が、取引の実態をチェックし、問題のある取引慣行がないか定期的に確認する体制を構築する必要がある。

まとめ:勧告制度の本質と企業の対応

取適法第10条および第11条が定める勧告制度は、中小受託事業者保護という法目的を実現するための中核的な執行手段である。

この制度の特徴は、公正取引委員会に幅広い裁量を認めつつ、事業者の予見可能性にも配慮した柔軟な仕組みである点にある。勧告に従えば独占禁止法の適用を受けないという明確なインセンティブにより、自主的な是正を促進している。

企業としては、勧告を受けてから対応するのではなく、日常的な取引において取適法を遵守する体制を構築することが重要である。それにより、中小受託事業者との健全な取引関係を維持し、企業の持続的な成長基盤を確保することができる。

取適法の逐条解説を通じて、製造委託取引における公正性の確保がいかに重要であるか、そして企業がどのような対応を求められているかが明らかになったと考える。次回以降も、引き続き取適法の重要条文について詳細な解説を行っていく予定である。


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