独占禁止法という法律の「重さ」を正しく理解する

独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律、昭和22年法律第54号)は、日本の経済秩序の根幹をなす法律である。建設業の入札、ITシステムの公共調達、農業団体の価格取決め、事業者団体の活動制限――日本国内で事業を行うすべての組織が、その射程に入っている。

それにもかかわらず、「談合」「カルテル」という言葉は知っていても、その法的根拠が独占禁止法のどの条文に置かれ、どのような要件を満たすと違反となるのかを正確に理解している実務家は、決して多くない。罰則は懲役5年以下・500万円以下の罰金(法人の場合は5億円以下)という重大なものであるにもかかわらずだ。

私は長年にわたり、全国の企業・自治体で850回を超えるコンプライアンス研修を担当してきた。建設業の幹部から自治体の管理職まで、独占禁止法に関する誤解と無知が深刻なリスクを招いている現場を繰り返し目撃してきた。本稿では、独占禁止法の第1条から第3条を逐条解説し、実務に直結する形で整理する。


第1条(目的)逐条解説

■条文

第1条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする。

■解説:「自由競争の憲法」としての独占禁止法

第1条は独占禁止法の目的規定であり、この法律が何のために存在するかを宣言するものである。三つの点を確認しておきたい。

第一に、禁止行為の列挙。条文は「私的独占」「不当な取引制限」「不公正な取引方法」の三類型を明示する。これが独占禁止法の三本柱であり、それぞれ第2条の定義規定、第3条・第19条の禁止規定に対応している。

第二に、手段としての「公正且つ自由な競争の促進」。独占禁止法は、競争それ自体を保護することが最終目的ではない。競争を促進することによって、「一般消費者の利益を確保」し「国民経済の民主的で健全な発達を促進する」ことが究極の目的である。この点は、コンプライアンス研修において極めて重要な視座を与えてくれる。談合が許されないのは「ルール違反だから」ではなく、「競争を通じて社会に貢献するという事業者の責任を放棄する行為だから」である。

第三に、「雇傭及び国民実所得の水準を高める」という文言。これは昭和22年の制定当時から変わっていない文言であり、独占禁止法がマクロ経済政策的な観点をも持っていることを示す。取引の公正性は、個々の企業倫理の問題であるとともに、雇用と所得という国民生活の基盤に直結する社会的問題でもある。

■実務上のポイント

目的規定は、個別の行為規制の解釈基準となる。「この行為は独占禁止法に違反するか」という判断は、常に「公正且つ自由な競争を実質的に阻害しているか」という目的規定に立ち返って行われる。建設業の入札参加企業が協会の会合で工事区域を「確認し合う」行為が問題となるのも、IT企業が公共調達の見積価格を仲間内で「すり合わせる」行為が問題となるのも、すべてこの目的規定の射程で評価されることを忘れてはならない。


第2条(定義)逐条解説

■条文(主要項目)

第2条 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第3章の規定の適用については、これを事業者とみなす。

2 この法律において「事業者団体」とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体又はその連合体をいい、次に掲げる形態のものを含む。(各号略)

5 この法律において「私的独占」とは、事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

6 この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。

9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為であつて、公正な競争を阻害するおそれがあるもののうち、公正取引委員会が指定するものをいう。(各号略)

■第2条第1項:「事業者」の定義―役員・従業員も射程に入る

「事業者」とは商業・工業・金融業その他の事業を行う者をいい、法人・個人を問わない。重要なのは後段の「みなし規定」である。役員・従業員・代理人が事業者の利益のために行動する場合は、「事業者とみなす」と規定されている。

これは実務上、極めて深刻な意味を持つ。建設会社の営業担当者が競合他社の担当者と「次の入札はうちに取らせてほしい」と話し合えば、その担当者個人も独占禁止法の規制対象となる。会社だけでなく、現場の従業員・担当者・役員が個人として刑事罰の対象になりうるのが、独占禁止法の特徴である。

■第2条第2項:「事業者団体」の定義―建設業協会・IT協会・農協は全て該当する

「事業者団体」とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2以上の事業者の結合体またはその連合体をいう。

この定義は非常に広く、以下のものが含まれる。

  • 都道府県建設業協会・建設業の下部団体(土木工事業組合等)
  • 情報サービス産業協会(JISA)・地域ITベンダー団体
  • 農業協同組合・農業共済組合
  • 医師会・歯科医師会・看護協会
  • 商工会議所・商工会の業種別部会

これらの団体が「会員企業の価格を統一しよう」「新規参入企業を排除しよう」「特定の取引先と取引しないよう促そう」といった行動をとれば、第8条の事業者団体規制違反となる。業界団体の役員・事務局は、この点について特別な注意が必要である。

■第2条第5項:「私的独占」の定義―排除型と支配型の二類型

私的独占の定義には、二つの行為類型が含まれている。

排除型私的独占とは、事業者が不当な低価格販売・供給拒絶・排他的取引などの手段を用いて、競争相手を市場から排除し、または新規参入を妨害して市場を独占しようとする行為である。IT業界における大手ベンダーが特定の競合他社との取引を顧客に禁じる「排他条件付取引」や、採算を度外視した「不当廉売」がこれに該当しうる。

支配型私的独占とは、株式取得・役員派遣などを通じて、競合他社の経営を支配し、その事業活動を制約することで市場を支配しようとする行為である。建設業界でのM&Aや資本提携がこの問題を惹起する場合がある。

いずれも「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」が要件となる点は第6項と同様であり、競争への影響度が判断の核心となる。

■第2条第6項:「不当な取引制限」の定義―談合・カルテルの法的根拠

実務上最も問題となる定義がこの第6項である。「不当な取引制限」、すなわち談合・カルテルがここに定義されている。

構成要件を分解すると以下の通りである。

①主体:「事業者が」→ 法人・個人を問わない。役員・従業員も「事業者とみなす」(第1項)。

②手段:「契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して」→ 書面による合意は不要。口頭・黙示の合意で足りる。「了解した」「分かった」という認識の共有があれば成立しうる。

③行為態様:「対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行すること」→ 価格のみならず、受注予定者の決定(入札談合の本質)も含まれる。

④結果:「公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」→ 競争が形骸化するレベルの影響が必要。

■「何らの名義をもつてするかを問わず」の重大な意味

実務上特に注意すべきは、「何らの名義をもつてするかを問わず」という文言である。これは、行為の外形・名称がどうであれ、実質的に事業活動の相互拘束があれば違反を構成するという意味である。

たとえば、業界団体の「情報交換会」「親睦ゴルフ」「技術勉強会」の場で、参加企業の担当者が来期の価格水準や入札予定について「情報を共有」した結果、各社が同様の価格設定をするに至った場合、「合意書はないから大丈夫」とはならない。実質的な意思の合致・認識の共有があれば、独占禁止法違反が成立しうる。

公正取引委員会は過去に多数の審決・命令において、書面を伴わない口頭・黙示の合意について違反を認定してきた。「言った・言わない」の問題ではなく、行動の整合性・結果の同調性から合意の存在が推認される場合がある点を、現場の営業担当者・幹部は深く認識しなければならない。

■建設業・IT業界における具体的リスク場面

建設業(公共工事入札)の場合:

  • 業界団体の会合で、発注予定案件の受注予定者を「確認」する行為
  • 他社の入札予定価格を事前に知り、それより高い金額で入札する行為(アリバイ入札)
  • 受注を「回す」代わりに次の案件を「譲ってもらう」取決め
  • 自治体OBを通じた落札予定情報の事前入手と価格調整

IT業界(公共調達・システム開発)の場合:

  • システム開発入札で、元請候補が下請候補に見積金額を「合わせるよう」依頼する行為
  • SIer各社が特定顧客向け価格の「最低ライン」を業界横断的に取り決める行為
  • 競合他社の担当者と「あの案件はどこが取る予定?」という情報交換を行う行為

第3条(私的独占・不当な取引制限の禁止)逐条解説

■条文

第3条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

■解説:シンプルな禁止規定の背後にある重大な帰結

第3条はわずか一文の禁止規定である。しかし、この一文が持つ法的帰結は極めて重大である。

第2条で定義された「私的独占」(第5項)と「不当な取引制限」(第6項)を、第3条が一律に禁止する。これにより、公正取引委員会は次の措置を講じることができる。

①排除措置命令(第7条):違反行為の差止め・再発防止措置・周知徹底命令など。違反行為がすでに終了していても、終了から7年以内であれば発令できる。

②課徴金納付命令(第7条の2):不当な取引制限については、違反行為の実行期間(最長10年)中の対象商品・サービスの売上額の10%(小規模事業者は4%)。近年の改正で算定期間が大幅に延長された。

③刑事罰(第89条):5年以下の懲役または500万円以下の罰金。法人に対しては5億円以下の罰金(両罰規定・第95条)。実際に建設業・談合事件では役員個人が逮捕・起訴される事例が繰り返し生じている。

④損害賠償(第25条):無過失責任。排除措置命令等の確定後、被害を受けた事業者(税金を無駄に使わされた自治体等も含む)からの損害賠償請求が可能。

■課徴金減免制度(リニエンシー)―自ら申告すれば免除・軽減される

独占禁止法には、違反行為に関する情報を自ら公正取引委員会に申告した事業者に対し、課徴金を減免する制度(課徴金減免制度、いわゆるリニエンシー制度)が設けられている。

調査開始前の申請順位に応じた減免率は以下の通りである。

  • 1位:全額免除
  • 2位:20%減額
  • 3位〜5位:10%減額
  • 6位以降:5%減額

さらに令和元年改正で「調査協力減算制度」が追加された。公正取引委員会の調査に積極的に協力した事業者には、申請順位による減免とは別途、提出した証拠の価値・協力の程度に応じた追加の減算が認められる。

この制度の存在は、コンプライアンス研修において非常に重要な意味を持つ。「もし過去に問題のある行為があったとしたら、早期に専門家に相談し、自ら申告することで損失を最小化できる」という選択肢があることを、経営者・法務担当者は知っておく必要がある。

■「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の意味

第3条違反の成否を左右する最重要要件が、「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」である。

「一定の取引分野」とは、違反行為によって競争が制限される範囲をいい、商品・サービスの種類・地域・取引の段階などに応じてケースバイケースで画定される。建設工事の入札談合であれば「○○県内の△△工事の入札」というように比較的狭い市場が画定されることが多い。

「競争を実質的に制限する」とは、競争自体が形骸化し、市場支配力が生じた状態をいう。全員が談合していれば当然そうなるが、複数社による談合であっても、競争が実質的に失われれば該当する。

■公正取引委員会による近年の執行事例

第3条違反(不当な取引制限)の実例として、公正取引委員会の公式発表からいくつかを確認する。

国土交通省および高知県が発注する一般土木工事等の入札参加業者らに対し、排除措置命令・課徴金納付命令等が発令された事例(平成24年)がある。山形県が発注する警察官用制服類の入札等に関し、複数社への排除措置命令および課徴金納付命令が発令された事例(令和2年)もある。このように、建設工事のみならず、物品調達・サービス提供の入札においても談合は広く摘発されている。

IT業界でも、公共調達に係るシステム開発・保守業務における価格調整が問題とされた事例があり、建設業だけの問題ではないことを強調しておきたい。


独占禁止法違反が発覚した場合の実務フロー

万一、自社または関連会社において独占禁止法違反の疑いが生じた場合、企業はどう動くべきか。基本的な対応フローを示す。

Step 1:事実確認(内部調査)
営業・購買・調達部門の担当者へのヒアリング、メール・議事録・見積書等の証拠保全を早急に行う。

Step 2:専門家への早期相談
弁護士・コンプライアンス専門家への相談を急ぐ。リニエンシー(課徴金減免)制度の活用可否を検討するためには、時間が勝負となる。

Step 3:公正取引委員会への申告検討
課徴金減免を受けるには、公正取引委員会の調査開始前に申告することが必要。1番申告なら全額免除の可能性がある。

Step 4:社内のコンプライアンス体制再構築
違反の原因分析、再発防止措置の策定・実施、経営層・全職員への周知徹底。公正取引委員会への報告も必要となる。


建設業・IT企業・自治体発注担当者へのメッセージ

独占禁止法の第1条から第3条は、この法律の「入口」にあたる最も基礎的な条文である。しかし、この入口を正しく理解している実務家がいかに少ないか、私は研修の現場で痛感し続けている。

建設業の現場では、「長年の慣行だから」「みんなやっていることだから」という空気が今もなお残っている地域がある。IT企業の調達現場では、「情報交換は普通のことだから」という認識のまま境界線を踏み越えている担当者がいる。自治体の発注担当者は、業者側の談合の被害者であるとともに、適正な競争環境を守る責任を負う側でもある。

カントの倫理学が示すように、「もし全ての事業者が同じことをしたら社会はどうなるか」を問い直すことが、コンプライアンスの本質である。競争は、それ自体が目的ではない。競争を通じて、より良い品質・より合理的な価格・より豊かな社会が実現されるという信念が、独占禁止法の底流にある。

次回は、事業者団体規制を定める第8条の逐条解説を予定している。建設業協会・IT団体・農協などの組合・協会の役員・事務局担当者には特に必読の内容となる。


中川総合法務オフィスのコンプライアンス支援サービス

中川総合法務オフィスでは、代表・中川恒信が、これまで850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当してきた豊富な実績に基づき、独占禁止法・取引適正化法(取適法)対応の研修・コンサルティングを提供している。

建設業・IT企業・農業団体・地方公共団体など、多様な業種・組織に対する研修実績を持ち、単なる法令解説にとどまらない、組織の実態に即した実践的な研修が強みである。

「独占禁止法コンプライアンス研修」「入札・調達における競争法リスク管理」「事業者団体コンプライアンス研修」などのご依頼については、下記よりお問い合わせいただきたい。

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