――2026年1月施行の新ルールを実務で使いこなすために

はじめに――なぜ今、取適法の研修が必要か

2026年1月1日、下請法の改正法である「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(中小受託取引適正化法、通称:取適法)が施行された。本法は、従来の下請法から適用対象・禁止行為の双方において大幅に見直されており、多くの企業にとって既存の取引慣行や社内規程の根本的な見直しを迫るものである。

当オフィスでは、取適法の逐条解説を全条にわたって当ブログに掲載済みである(こちら)。本記事では、その解説を踏まえ、企業の法務・コンプライアンス担当者や購買・調達担当者が社内研修を企画・実施するための実務的な企画書を提示する。

なお、本記事の参考資料として、公正取引委員会が公表している以下の公式資料を活用されたい。


研修の目的と対象者

研修の目的

本研修の目的は、次の3点である。

第一に、取適法の改正内容を体系的に理解させることである。従来の下請法との相違点を明確にし、自社に適用されるルールを正確に把握させる。

第二に、実務上のリスクを認識させることである。日常業務の中でどのような行為が法違反に該当し得るかを具体的な事例を通じて学ばせる。

第三に、法令遵守の行動習慣を定着させることである。知識の習得にとどまらず、日々の業務で適切に対応できる実践力を養う。

対象者

本研修は、主に以下の部門の担当者を対象とする。

法務・コンプライアンス部門、購買・調達部門、資材・製造部門、経理・財務部門、営業部門(外注取引を伴う場合)、総務・人事部門(研修企画担当)。

特に、取引先への発注業務に携わる実務担当者および管理職層には、必須受講とすることを推奨する。


研修カリキュラムの構成

第1部 取適法の全体像(約30分)

1-1 下請法から取適法へ――法律名称変更の意味

取適法は、単なる「名称変更」ではなく、適用範囲・禁止行為・執行体制のすべてにわたる抜本的な改正である。法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」と改められたことは、規制対象と保護対象の変化を明確に示している。

研修では、改正の背景として、中小企業の賃上げ原資の確保、サプライチェーン全体の持続可能性、物価上昇への対応という政策的文脈を説明する。公正取引委員会が公表する改正法概要(1枚もの)を配布資料として活用すると効果的である。

1-2 適用対象の拡大――従業員基準の導入

取適法における最大の改正点の一つが「従業員基準」の導入である。従来の下請法では、適用対象は資本金の額のみで判断されていた。取適法では、資本金基準に加え、「常時使用する従業員数」による基準が設けられた。

取引類型別の従業員基準は次のとおりである。製造委託、修理委託、プログラム作成に係る情報成果物作成委託、運送・物品の倉庫保管・情報処理に係る役務提供委託、および新設された特定運送委託については、委託事業者の常時使用する従業員数が300人超であり、かつ中小受託事業者の従業員数が300人以下である場合に取適法が適用される。プログラム作成以外の情報成果物作成委託、および運送・物品保管・情報処理以外の役務提供委託については、基準が100人超となる。

「常時使用する従業員」の定義については、公正取引委員会の「中小受託取引適正化法テキスト」(PDF)が詳しい。正社員・契約社員・パート・アルバイト・1か月超の継続雇用の日雇い労働者がすべて含まれる一方、派遣社員(派遣元が使用者)、役員、グループ会社の従業員は原則として含まれない。

従業員数の確認は賃金台帳(労働基準法第108条)に基づき行い、前々月の賃金支払い人数を当月の基準として扱うことも認められている。取引先への確認は書面または電子メール等の記録に残る方法で行い、注文書や見積依頼書にチェックボックスを設けるなど実務的な工夫が求められる。

1-3 特定運送委託の新設

取適法では、新たに「特定運送委託」が対象取引に追加された。自社が販売する商品を購入者に配送する際、運送業務を他の事業者に委託する取引が対象となる。従来、この種の取引は独占禁止法の枠組みで扱われていたが、荷役・荷待ち時間の無償強制などの問題が深刻化したことを受け、取適法の対象に組み込まれた。

自社の営業所間の物品移動は対象外だが、最終的に受託者のもとに物品が届く運送委託は対象となる可能性がある。適用の可否については、運送の目的と物品の最終的な行先を踏まえ、個別に慎重に判断する必要がある。


第2部 新設・強化された禁止行為(約60分)

2-1 価格協議を適切に行わない代金決定の禁止

取適法第5条第2項第4号により、費用の変動等の事情が生じた場合に、中小受託事業者からの協議要請があったにもかかわらず、協議に応じないまま一方的に代金を決定する行為が新たに禁止された。

この規定が求めるのは、単に協議の「場」を設けることではなく、「誠実な協議」の実施である。公正取引委員会の運用基準では、労務費・原材料費・エネルギーコストの変動、納期短縮・発注数量減少等による取引条件の変更、委託事業者からの代金引き下げ要求などが協議が必要な場面として例示されている。

研修では、協議の記録(日時・参加者・内容・決定事項)を議事録として保存することの重要性を強調する。仮に代金引き上げに応じられない場合でも、その理由を明確に説明し、代替案の提示に努めるべきである。

2-2 手形払いの全面禁止

取適法では、製造委託等代金の支払手段として手形の交付が全面的に禁止された。手形払いは、受領から現金化までの期間、中小受託事業者が資金繰りの負担を担うという構造的問題を内包していた。なお、一般社団法人全国銀行協会も約束手形(紙)を2026年度末で廃止する方針を示しており、取適法の規制はこの流れと整合している。

電子記録債権・ファクタリングに関する注意点として、割引手数料・事務手数料を中小受託事業者に負担させる形での電子記録債権の利用や、ファクタリング会社への譲渡に際して手数料を受託事業者が負担する仕組みは、「支払期日までに代金相当額の金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難なもの」として、実質的に禁止される可能性がある。

振込手数料の負担についても注意が必要である。手形払いから振込払いへの変更にあたり、振込手数料を受託事業者に負担させることは取適法第5条第1項第2号の「減額」に該当し、禁止される。公正取引委員会の「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」(参照)においても、手形払いから現金払いへの変更に伴い割引料として代金から減額して支払うことは法違反である旨が明記されている。

2-3 無償保管の禁止

金型、木型、治具、専用工具、原材料、半製品等を中小受託事業者の工場等に保管させ、保管料を支払わない行為は、取適法第5条第2項第2号の「不当な経済上の利益の提供要請」として禁止される。金型等の保管には倉庫スペース・管理コスト・保険料等が発生するため、適正な保管料を定め、契約書に明記することが求められる。


第3部 取引条件の明示と書類管理(約30分)

3-1 取引条件明示の電子化

取適法では、取引条件の明示方法について、一部緩和が行われた。事前の承諾なしに、書面の交付または電磁的方法(電子メール・メッセージサービス等)のいずれかで明示することが認められる。これはフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)との整合性を図った改正でもある。

ただし、電磁的方法で明示する場合も、取適法第4条に定める「4条書面」の記載事項をすべて明記することが必要であり、口頭や一部記載だけでは不十分である。明示した内容を受託事業者が確実に受領・保存でき、かつ内容の改変がないことを確認できる方法を選択しなければならない。

3-2 取引記録の作成・保存義務

取適法第4条に基づく取引記録の作成・保存を怠った場合、50万円以下の罰金が科される可能性がある。研修では、注文書・発注書・電子メール等の証拠性について具体的に説明し、電子保存のルールとアーカイブ管理の実務を確認する。


第4部 建設業者・特殊業種における留意点(約20分)

建設業者については、建設工事の請負契約は建設業法の適用を受けるため取適法の対象外である。しかし、物品の購入、情報成果物の作成委託(設計図書など)、測量・警備業務の委託等については取適法が適用される。建設業法を遵守するだけでは不十分であり、取適法の知識も不可欠である。

取引内容が建設工事の請負に該当するか否かが不明な場合は、公正取引委員会または中小企業庁の相談窓口(取適法相談窓口)を活用されたい。


第5部 罰則・執行体制と企業対応(約20分)

5-1 罰則と執行体制の強化

取適法に違反した場合、公正取引委員会による勧告と事業者名の公表、指導・助言(公正取引委員会・中小企業庁・事業所管省庁)、そして取引記録の作成・保存義務違反に対する50万円以下の罰金という措置が講じられ得る。

取適法では、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限が付与され、公正取引委員会・中小企業庁・各省庁間の相互情報提供規定も新設された。「面的執行」が強化され、業界横断的な取り締まりが実施される体制となっている。

5-2 社内対応チェックリスト

研修の締めくくりとして、以下の社内対応事項を確認させる。

自社が取適法の適用対象となる取引を行っているか確認すること、取引先の従業員数を確認する体制を整備すること、契約書・注文書のひな形を取適法対応の内容に改訂すること、価格交渉の記録を残す仕組みを構築すること、支払方法を見直して手形払いを廃止すること、金型等の保管料について適正な対価を設定すること、の各点を点検させる。


研修の運営方針

形式と時間

標準的な研修時間は半日(約3時間)とする。座学による解説を中心としつつ、ケーススタディやグループワークを組み合わせることで、実務への定着を図る。参加者数に応じて、全社一斉型とグループ別実施型を使い分けるとよい。

教材

公正取引委員会が無償公開している以下の資料を研修教材として積極的に活用されたい。

これらはすべて公正取引委員会の公式サイト(https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html)から入手可能である。

フォローアップ

研修後は、理解度確認のための小テストを実施するとともに、実務上の疑問点を相談できる窓口(法務部門または外部専門家)を設けることが望ましい。また、年1回以上の定期研修を通じてアップデートを行う体制を構築することを推奨する。


おわりに――コンプライアンス研修・コンサルティングのご相談

取適法への対応は、一時的な法令チェックで終わるべきものではない。取引慣行の見直し、社内規程の整備、契約書ひな形の改訂、担当者の継続的な教育――これらを一体として取り組んで初めて、真の意味でのコンプライアンス体制が確立される。

中川総合法務オフィスhttps://compliance21.com/)代表・中川恒信は、850回を超えるコンプライアンス研修・リスクマネジメント研修の実績を持つ、この分野の第一人者である。不祥事を起こした組織のコンプライアンス態勢再構築にも直接携わり、現在も内部通報の外部窓口を複数企業において担当している。マスコミからも不祥事企業の再発防止策について意見を求められることが多く、社会的にも高い信頼を得ている。

取適法のコンプライアンス研修・リスクマネジメント研修・コンサルティングは、1回30万円(消費税別)が原則である。全国どこへでも出張対応が可能であり、貴社の業種・規模・課題に応じたカスタマイズにも柔軟に対応する。

「自社への取適法の適用有無を確認したい」「注文書・契約書のひな形を見直したい」「社内研修の講師を依頼したい」「内部通報制度の整備も含めてコンプライアンス体制を強化したい」――こうしたご要望がある方は、ぜひお気軽にご相談いただきたい。

お問い合わせ

サプライチェーン全体の健全性を守り、持続可能な経営を実現するための第一歩を、ぜひ中川総合法務オフィスとともに踏み出していただきたい。


参考資料:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html

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