企業を取り巻く法規制は日々変化しており、最新情報を踏まえたコンプライアンス体制の構築は喫緊の課題です。本記事では、3日間の研修プログラムを通じて企業が確実に身につけるべき必須項目を網羅し、組織全体のコンプライアンス能力向上を目指します。


1. 企業法務とコンプライアンスの今日的な関係性

今日、企業法務は単なる法律問題の処理に留まらず、企業の持続可能な発展を支えるコンプライアンスの中核を担う存在となっています。変化の激しい現代において、コンプライアンス上の疑義が生じた際には、企業の法務部門が迅速かつ的確な対応を即座に行える体制が不可欠です。

例えば、自治体である大阪の堺市が各部門に法務責任者(担当者)を常置しているように、企業においても各部署にコンプライアンス・法務に関する専門人材を配置し、組織全体で法務リテラシーを高める制度設計が求められます。

一般社員に至るまでコンプライアンス意識が強く求められる現代において、以下に提示する研修プランは、企業全体の能力向上に貢献するでしょう。特に、管理職、中堅幹部、一般社員など「階層別・対象別」に重点の置き方やリーダーシップ等の項目を追加した研修は、より効果的です。

2. 企業内での「企業法務とコンプライアンスの研修」お勧めプラン

(1) コンプライアンス研修の概略

① 研修の狙いの置き方
  • 会社経営と法務の重要ポイントの習得: 会社経営に不可欠な法務の要点を理解します。
  • 会社法の基本と実務: 会社法の基本とその実務上の重要ポイントを深く掘り下げて習得します。
  • 内部統制の理解: 特に、会社法の内部統制に関する法規制の枠組みを法務省令を含めて包括的に理解します。
    • 最新動向: 2021年3月施行の改正会社法では、株主総会資料の電子提供制度、株主提案権の濫用的な行使の制限、取締役の報酬規律の整備、会社補償・D&O保険に関する規律の整備、社外取締役の設置義務化などが盛り込まれました。これらは内部統制のあり方にも大きな影響を与えます。
  • 多岐にわたる法規制への対応: 会社法のみならず、J-SOX法と称される金融商品取引法をはじめとした多数の関連法規(例:フリーランス新法、重要経済安保情報保護法、産業競争力強化法等)に触れ、自己の業務および組織全体の業務との関連性を考察します。
    • J-SOX法(金融商品取引法)の改正: 2024年4月にはJ-SOX法が改訂され、内部統制の目的が「財務報告の信頼性」から、非財務情報を含む「報告の信頼性」へと拡大されました。ITを利用した内部統制の評価の重要性が増し、企業には不正リスクを評価した上での評価範囲の決定が求められています。
  • ソフトローの活用: 監督官庁等からの「ガイドライン・監督指針・検査(監査)事項等」も「ソフトロー」としてコンプライアンスの内容を補完するため、積極的に参考にします。
  • 業界内自主規制の重視: 上場企業であれば証券取引所のコーポレート・ガバナンス・コード、スチュワードシップ・コード等の業界内自主規制を必ず参考にします。
  • モニタリング事項の参照: 内部監査機構、公認会計士団体等のモニタリング事項もコンプライアンス推進において重要な参考情報です。
  • COSOフレームワークとERM: COSOフレームワークやERM(Enterprise Risk Management)についても、可能な範囲で触れ、リスク管理の包括的な視点を養います。
  • リスクマネジメントと職業倫理との統合: コンプライアンスはリスクマネジメントと職業倫理と一体であるため、これら三者をバランスよく織り込んだ研修内容とします。専門性が高いため、単なるテキスト読み上げの講師ではなく、実践的知見を持つ専門家による講義が不可欠です。
② 修得目標
  • 会社経営に関する法規制の枠組み、特に内部統制について深く理解し、実務に活かせる状態を目指します。
③ 標準研修日数および1クラスの人数
  • 日数: 3日間(連続3日または五月雨式で3日)
  • 人数: 25名/クラス(指名や議論が活発に行える適度な人数)
④ 事前課題
  • 研修当日には小型六法の持参を必須とし、事前に民法や会社法の条文に軽く目を通すことを推奨します。
  • 企業コンプライアンスの基礎事項に関するチェック問題と複数の事例を事前課題として設定します。
⑤ 教材名と講師
  • 教材: 「現代社会における企業法務とコンプライアンスの勘どころ」等をベースに、パワーポイントによる図解と事例集、上記の事前課題とその解答等を完備します。
  • 講師: 内部であれば法務部長(取締役)もしくはコンプライアンス統括責任者や担当部長(取締役)、外部であればコンプライアンスの専門家で豊富な実績のある者に依頼します。研修会社に丸投げし、テキストを読み上げるだけの講師による研修は時間と費用の無駄であり、絶対に避けるべきです。講師の実績を重視します。

(2) コーポレート・ガバナンスと法(コンプライアンス研修1日目)

  1. コーポレート・ガバメント
    • (1) コンプライアンス
    • (2) エシックス
    • (3) インテグリティ
    • 企業は営利のみを追求するのではなく、市場ルールの根底にある思想と倫理を学び、社会における企業の役割を理解します。
  2. コーポレート・ガバナンスと法
    • (1) 企業活動のコンプライアンスを基礎づける最重要な法律
    • (2) 法に加えて必要なビジネスエシックスの内容
    • (3) 不祥事発生時の決め手となるインテグリティ
    • コンプライアンスを義務付ける会社法、会社法施行規則、金融商品取引法、公益通報者保護法、男女雇用機会均等法、および中央官庁の多数のガイドラインや監督指針等の内容を網羅的に学びます。
      • 公益通報者保護法の改正: 2022年4月施行の改正により、通報者の範囲拡大、通報対象事実の拡大、通報要件の緩和に加え、内部通報体制の整備が義務化されました。これにより、企業はより実効的な内部通報制度の構築と運用が求められています。
  3. 企業取引に関する法規制
    • (1) 私法の一般法である民法の取引規制
      • 民法の基本法規制
      • 物権法と債権法
      • 民法の抜本改正(債権法): 2020年4月に施行された民法(債権関係)改正は、契約に関する基本原則や保証、債権譲渡など、多岐にわたる分野に影響を与え、企業取引における法的リスク評価に不可欠な知識です。
      • 私法の一般法である民法が取引に関する法規制をどのように定めているのか、そして特別法である商法や会社法がそれをどのように修正しているのかを、キーワードと共に深く探求します。
    • (2) 特別法である商法(会社法)による取引規制

(3) 企業の経済活動と法(コンプライアンス研修2日目)

  1. 公正な競争市場の形成にかかわる法
    • (1) 独占禁止法
    • (2) 不正競争防止法
    • 自由主義経済下での公正競争を守る独占禁止法は、その存在が従来にも増してクローズアップされています。その概要と、研修企業の影響分野におけるポイントを学びます。また、不正競争防止法は営業主体の誤認防止等の点で独占禁止法にも劣らない重要性があり、従来の企業の営業秘密に関する法規制と相まって正確な理解が不可欠です。
  2. 消費者保護の特別法
    • 消費者契約法、特定商取引法の規制
    • 消費者保護に関する現代的法規制を概観し、表示に関する規制である景品表示法等も学びます。
      • 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法): 消費者がより良い商品を自主的・合理的に選択できる環境を保護することを目的としており、虚偽・誇大な表示や過大な景品提供を規制します。
    • 食品関連産業においては、食品衛生法やJAS法の他に、表示統一法である「食品表示法」も参照します。
  3. 企業と損害賠償法理
    • (1) 私法の一般法である民法の法理
    • (2) 特別法の商法(会社法)による修正法理
    • 私法の一般法が取引関係における債務不履行責任や第三者に関する不法行為責任における損害賠償をいかに定めているか、そして特別法である商法や会社法がどのように修正しているかをキーワードと共に探ります。
    • (3) 特別法による損害賠償法理の修正
    • 失火責任法等の特別法が民法の原則をいかに修正しているかを学びます。
  4. 労働に関する法規制
    • (1) 憲法と労働法
    • (2) 労務に関するコンプライアンス
      • 労働に関する法規制を憲法規定から労働法全般にわたり概観します。日本の労働現場では、働き方改革関連法案、残業規制、ハラスメント防止、非正規労働者差別など、多くの課題が山積しています。
      • ハラスメント防止対策の義務化: 2022年4月からは、すべての企業においてパワーハラスメント防止措置が義務化されており、事業主の方針明確化、相談体制整備、事後対応、プライバシー保護などが求められています。また、就活生へのハラスメント防止策についても法改正の動きが進んでいます。
      • 働くことが人生における自己実現であることを踏まえ、抜本的な労働ルール改定が求められています。
    • (3) インサイダー取引規制
      • インサイダー取引は古くから日本人の嫌う「役得」であり、強い倫理的批判を受けます。金融商品取引法に基づく規制を理解することは、企業の信用維持に不可欠です。
  5. 紛争解決
    • (1) 調停や訴訟制度
    • (2) ADR(裁判外紛争解決手続)
    • 企業活動に伴う紛争解決方法を概観します。民事調停法や民事訴訟法、非訟事件訴訟法等も概観し、最適な解決策を選択できる知識を養います。
  6. 企業活動と国際取引
    • (1) 契約法理と国際私法
    • (2) 国際的紛争解決
    • 国際取引の基本的法規制を概観し、国際的な仲裁制度や裁判管轄権についても確認します。

(4) 企業と情報化社会の法等(コンプライアンス研修3日目)

  1. 情報化社会における法規制
    • (1) 個人情報保護法
    • (2) 不正アクセス禁止法
    • (3) 電子メール規制法
    • (4) 電子認証法
    • 著しい科学の進歩によってIT化社会が進み、インターネットの普及とデジタル化社会の中で行われている法規制を概観します。
      • 個人情報保護法の改正: 2022年4月に施行された改正個人情報保護法では、個人情報の取り扱いに関する本人の権利が拡充され、不適正な利用の禁止、そして情報漏えい時の個人情報保護委員会への報告及び本人への通知が義務化されました。企業は、個人情報の棚卸し、プライバシーポリシーの明確化、そして万が一の漏えい発生時の迅速かつ適切な対応フローの整備が求められます。その重要性にかんがみ、特に詳しく学びます。
  2. 環境と法
    • 環境基本法や廃棄物処理法等
    • 環境に関する法規制を概観し、企業の社会的責任と環境コンプライアンスの重要性を理解します。
  3. 企業と犯罪
    • (1) 刑法の関連規制
    • (2) 特別法の商法(会社法)の法規制
    • 犯罪に関する刑法と刑事訴訟法の基本的理解を深めます。商法違反の判例も概観し、企業犯罪のリスクと予防策を学びます。
  4. 企業と知的財産法
    • (1) 著作権法
    • (2) 商標法その他の産業財産権
    • 著作権法違反の損害賠償額が高額化し、法定刑が厳罰化している理由、そして産業財産権(特許法、実用新案法、意匠法など)にはいかなるものがあり、その法規制がどうなっているのかを学びます。知的財産は企業の重要な資産であり、その保護は企業の競争力維持に不可欠です。

3. コンプライアンス研修で行う演習・ワーク

研修では、座学に加えて実践的な演習とワークを取り入れ、受講者が主体的に学び、実務に活かせる能力を養います。

  1. コーポレート・ガバナンスと法の演習: コンプライアンスに関する基本的事項(民法、会社法等中心)を、ケーススタディを通じて深く理解します。
  2. 企業活動と法の演習: 企業活動と法務の基本的事項(独占禁止法・不正競争防止法や労働法等)を、具体的な事例を基に考察し、問題解決能力を養います。
  3. 情報化社会と法の演習: 情報化社会と法務の基本的事項(個人情報保護法、刑法、著作権法や商標法等)を、最新の動向を踏まえた演習で実践的に学びます。


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これまでに850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当し、数々の不祥事組織におけるコンプライアンス態勢再構築の経験を持つ中川恒信は、その豊富な経験と深い洞察力に基づき、実効性のあるソリューションを提供します。また、現に内部通報の外部窓口を担当し、マスコミからも不祥事企業の再発防止に関する意見をしばしば求められるなど、その専門性は広く認められています。

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