企業の顔である窓口や電話対応の現場で、顧客からの理不尽な要求や暴言、さらには暴力に直面した経験はありませんか? 近年、このような顧客からの迷惑行為は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」として社会問題化しており、企業は従業員を守るための具体的な対策を講じる必要に迫られています。
【速報】2025年通常国会でカスハラ対策の法改正が議論へ
さらに、企業が従業員に対するカスタマーハラスメントを防止するための措置を義務付ける法改正が、2025年の通常国会で議論されています。これは、従業員が安心して業務に取り組める環境を整備するための大きな一歩となるでしょう。
今回は、不当要求や悪質なクレームに適切に対応し、従業員が安心して業務に取り組める環境を整備するための具体的な方法に加え、現在議論されている法改正の見込みについても解説します。ぜひ、貴社の対策にご活用ください。
1.不当要求・難クレームに立ち向かうための心構え
不当な要求や悪質なクレームに対応する際、従業員が精神的に疲弊してしまうケースは少なくありません。まずは、そのような状況に立ち向かうための心構えをしっかりと身につけましょう。
(1) 毅然とした態度:悪に屈しない
不当な要求に対しては、恐れずに、しかし相手を侮ることなく、毅然とした態度で対応することが重要です。「私はコンプライアンス組織の一員である」という強い自覚を持ち、悪質な要求には決して屈しないという強い意志を持ちましょう。
(2) 信念と気迫:弱みを見せない
暴力や粗暴な言動による脅しに決して屈してはいけません。相手に弱みを見せることは、さらなる不当要求を招く可能性があります。毅然とした態度を貫き、相手に「この企業は不当な要求には応じない」というメッセージを明確に伝えましょう。
(3) 冷静沈着な応対:挑発に乗らない
不当要求を行う顧客は、時に挑発的な言葉を使って従業員の感情を揺さぶろうとします。そのような挑発に乗らず、常に冷静沈着な対応を心がけましょう。言葉尻を捉えられたり、揚げ足を取られたりしないよう、慎重な言葉遣いを意識することが大切です。クレーマーの常套手段に惑わされないように注意しましょう。
2.具体的な対応方法:組織で従業員を守る
個々の心構えだけでなく、組織として具体的な対応方法を整備しておくことが不可欠です。
(1) 初期対応:冷静に見極める
受付や窓口での初期対応は非常に重要です。来訪者の氏名、人数、用件などをしっかりと確認し、相手の要求が正当な苦情なのか、それとも不当な要求であるのかを見極めましょう。
応対場所は、周囲から状況が見えるカウンターや部屋を選び、必要に応じてドアを開放しておきましょう。これは、従業員の安全を確保し、不当な行為を抑止する効果があります。
また、お茶などの提供は原則として不要です。花瓶や灰皿など、顧客が手にとって危害を加える可能性のある物は置かないようにしましょう。
受付や窓口には、「暴力追放ポスター」や「不当要求行為防止責任者講習受講修了書」などを掲示することも有効です。これは、企業が不当な要求に対して断固たる姿勢で臨むことを示すとともに、顧客に対する抑止力となります。
(2) 複数で対応:孤立させない
不当な要求を行う顧客に対しては、可能な限り複数で対応することを原則としましょう。最低でも3人での対応が望ましいです。
対応にあたっては、事前に役割分担を決めておくことが重要です。例えば、顧客と直接話をする「応対係」、会話の内容を記録する「記録係」、そして緊急時に警察などに連絡する「緊急時の通報係」といった役割分担が考えられます。
(3) 所属長は最終手段:安易な妥協は禁物
部長や課長など、決定権を持つ者が初期対応にあたることは避けるべきです。決定権を持つ者が対応すると、顧客は即座の回答を求めてくる可能性が高く、その場で安易な妥協をしてしまうリスクがあります。
従業員は、顧客に対して名刺を渡す必要はありません。ネームプレートなどで名前を示す程度に留めましょう。応対係は、「私(わたくし)が責任を持って対応させていただきます」とはっきりと伝え、自分が担当者であることを明確にしましょう。
3.不当な口利き行為への対応:毅然とした拒否
顧客からの不当な要求だけでなく、社員や関係者からの不当な口利き行為にも注意が必要です。
(1) 公職者からの要求:不正は見逃さない
公職にある者からの、公益を目的としない不正な口利きや暴力行為、威圧的な言動などによる職員への不当な要求は、断じて許されるものではありません。
何の用事もないのに頻繁に会社を訪れる人物は、何らかの不当な要求をしようとしている可能性が高いと考えられます。警戒が必要です。
不正な口利きは、業務の正常な遂行を妨げるだけでなく、不正行為を誘発する原因となることもあります。
また、「今夜空いていますか」といった不適切な誘いには決して応じてはなりません。公私混同は厳に慎むべきです。
(2) 記録と公開:証拠を残す
不当な口利きや要求があった場合には、その内容を詳細に記録することが非常に重要です。可能であれば、会話を録音することも有効な手段となります。記録された内容は、後日、誰がいつどのような要求をしたのかを証明する有力な証拠となります。
訴訟などに発展した場合、これらの記録は、不当な要求や圧力による脅迫や強要を立証するための重要な証拠となり得ます。
(3) 対応マニュアル:組織的な対策を
近年、「切れやすい」と言われる方も増えており、暴力や脅しなどの手段を用いて不当な要求を行うケースも少なくありません。このような状況に対応するため、組織として、従業員の身体的・精神的な安全を確保するための「不当要求対応マニュアル」を作成することが望ましいです。マニュアルには、具体的な対応手順や判断基準を明記し、従業員が適切に対応できるよう支援する必要があります。
4.【議論中】カスタマーハラスメント対策の法改正(2025年通常国会)
2025年の通常国会で議論されているカスタマーハラスメント対策の法改正では、主に以下の内容が見込まれています。
(1) 企業の措置義務の明確化
現在、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)において、職場におけるパワーハラスメント対策が義務付けられていますが、今回の法改正では、顧客からのハラスメント(カスハラ)についても、企業が従業員を守るための必要な措置を講じることが義務付けられる見込みです。具体的には、以下のような措置が想定されます。
- 相談体制の整備: 従業員がカスハラ被害に遭った際に相談できる窓口を設置すること。
- 対応マニュアルの作成: カスハラ発生時の具体的な対応手順を定めること。
- 研修の実施: 従業員向けに、カスハラの定義や対応方法に関する研修を実施すること。
- 被害者への配慮: 被害を受けた従業員のメンタルヘルスケアや配置転換などの措置を講じること。
- 組織としての対応: カスハラを行った顧客に対する毅然とした対応(警告、関係遮断など)を行うこと。
(2) 指針の策定
厚生労働省などが、企業が講じるべき具体的な措置の内容や、カスハラの判断基準などを示す指針を策定する可能性があります。これにより、企業はより具体的に対策を進めやすくなると考えられます。
(3) 法的責任の明確化
悪質なカスハラ行為に対して、企業が法的責任を負う可能性も議論されるかもしれません。これにより、企業はより一層、カスハラ対策に真剣に取り組む必要が出てくるでしょう。
【見込み】法改正の今後の動向
2025年の通常国会での議論の進捗によっては、上記の内容が修正されたり、新たな要素が追加されたりする可能性もあります。今後の国会審議の動向に注目していく必要があります。企業としては、法改正の内容を踏まえ、従業員が安心して働ける環境づくりを積極的に進めていくことが求められます。
まとめ:組織全体でカスハラ対策を【法改正に注目】
カスタマーハラスメントや不当要求は、従業員の尊厳を傷つけ、企業の健全な運営を妨げる許されない行為です。今回ご紹介した心構えや具体的な対応方法に加え、今後議論される法改正の内容をしっかりと把握し、組織全体で対策を講じることがより一層重要になります。
日頃から従業員への研修や情報共有を徹底し、不当な要求に対して組織として毅然とした態度で対応できる体制を構築していきましょう。従業員が安心して働ける環境づくりこそが、企業の持続的な成長に繋がるはずです。
【最新情報にアンテナを張ろう】
カスハラ対策に関する法改正の動向は、今後も注視していく必要があります。最新の情報が入りましたら、随時このブログでもお伝えしていきます。