地方公務員が飲酒運転事故すれば必ず懲戒免職になる法的根拠はこれだ

1.地方公務員の飲酒運転事故と懲戒免職の可否

(1) 一律懲戒免職でいいのか

◆この論点は、とても激しく訴訟で争われた。未だに引きずっている地方公共団体もある。

民間会社でもほぼそのまま地方公務員法を就業規則に置き換えてあてはまる。しかし、最高裁判決の基準では、飲酒運転が会社等の信用を害すると言って具体的危険が必要であろう。

最高裁まで争われた後述の20代職員による飲酒運転の影響は非常に大きいであろう。

マスコミの報道もセンセーショナルで、問答無用に「飲酒事故は公務員がすれば悪そのものである」となっていようか。必ずと言っていいほどニュース報道される。下記動画は、令和3年の神奈川県H市役所職員のものである。飲酒物損で市長による懲戒免職・退職金ゼロを裁判所は是認している。

2.公務員が飲酒運転をした場合の刑罰等

(1)まずは、道路交通法違反(道路交通法第65条参照)

 ①これに詳しい警察庁・警視庁のサイト参照

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/torishimari/inshu_info/index.html

・「酒酔い運転」は、アルコール濃度の検知値には関係なく、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」である場合がこれに該当する。
・「酒気帯び運転」は、血中アルコール濃度(又はそれに相当するとされる呼気中アルコール濃度)が、一定量に達しているかという、形式的な基準で判断される。

基準 ・呼気中アルコール濃度0.15mg/l 以上 0.25mg/l 未満 ⇒ 基礎点数13点 免許停止 期間90日

・呼気中アルコール濃度0.25mg/l以上 ⇒ 基礎点数25点 ⇒ 免許取消し 欠格期間2年

 ②周辺も含めて厳罰化

2007年9月19日の道路交通法改正施行により、酒酔い運転の罰則が「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、酒気帯び運転の罰則が、「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」へと厳罰化された。
刑法第二十五条により、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」にしか執行猶予がつかないので前者は厳しい。

また、車両を提供した者も (運転者が)酒酔い運転をした場合に5年以下の懲役又は100万円以下の罰金、(運転者が)酒気帯び運転をした場合に3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、

酒類を提供した者又は同乗した者も、(運転者が)酒酔い運転をした場合に3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、(運転者が)酒気帯び運転をした場合に2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

(2)自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成26年5月から)

①立法の背景

上記の略して「自動車運転処罰法」は、従来は過失運転致死傷罪で軽い法定刑で済んでいたが、下記の世論に押されて危険運転致死傷として、アルコールの影響により、正常な運転が困難な状態で運転して、人を死傷させた者に対して最長懲役20年を課す処罰法となったが、さらに、自動車事故で罪のないものが幼い子を含めて多発していることから、世論にも押されて、独立の新法として成立した。

危険運転致死傷が重罰化された切っ掛けとなったのは、東名高速飲酒運転事故(1999年11月28日に発生した、飲酒運転のトラックが普通乗用車に衝突して起きた交通事故)で、幼い姉妹が亡くなったことをマスコミ等が大きく取り上げ、それに大きく影響された。

さらに、京都の亀岡市で遊び疲れと睡眠不足による居眠り運転で軽自動車を運転していた無免許の少年が公立小学校へ登校中の児童と引率の保護者の列に突っ込み、計10人がはねられて3人が死亡、7人が重軽傷を負った。これが、自動車運転処罰法の成立する大きなきっかけの一つとなった。

②法内容

第2条(刑法の危険運転致死傷罪を新法に移し、さらに1類型を新設
・アルコール又は薬物の影響により、正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
・進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
・進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
・人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・赤信号等を殊更無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
・新設された1類型
通行禁止道路を進行し、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為

罰則 致死:1年以上の懲役(最高で20年) 致傷:15年以下の懲役

第3条(危険運転致死傷として新設
・アルコール又は薬物若しくは運転に支障を及ぼすおそれがある病気の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれのある状態で自動車を運転し、よって正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた場合

罰則 致死:15年以下の懲役 致傷:12年以下の懲役

第4条(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪として新設
・アルコール又は薬物の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれのある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、人を死傷させ、その時のアルコール又は薬物の影響の発覚を免れる行為をした場合

罰則 12年以下の懲役

第6条(無免許による刑の加重を新設
自動車の運転により、人を死傷させた者が無免許であったときは刑が加重

無免許による加重の罰則
15年以下の懲役→6月以上20年以下の懲役
12年以下の懲役→15年以下の懲役
7年以下の懲役等→10年以下の懲役

第5条(過失運転致死傷・従来の自動車運転過失致死傷と同じ
自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合

罰則 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

※なお、民事罰としての民法による損害賠償責任は当然ある。保険ですべてがカバーできるとは限らない。

3.地方公務員法違反による懲戒処分

(1)信用失墜行為

飲酒運転は信用失墜行為であり地方公務員法29条により懲戒処分の対象になる。

(信用失墜行為の禁止)
第三十三条  職員は、その職の信用を傷つけ、又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

(2)懲戒免職か停職か

 ①福岡市役所の事例の影響

これについては免職とすることが多いのが現状である。

それは、福岡海の中道大橋飲酒運転事故で、2006年(平成18年)8月25日に福岡市東区の海の中道大橋で、市内在住の会社員の乗用車が、飲酒運転をしていた当時福岡市職員の男性の乗用車に追突され博多湾に転落し、会社員の車に同乗していた3児が死亡した事故も大きく影響をしているであろう。

これについては、二審の福岡高等裁判所は危険運転致死傷罪を認定し、道路交通法違反と併合して懲役20年の判決を下し、上告するも、最高裁は2011年10月31日、上告を棄却する決定をした。

 ②加西市の停職変更判決事例

しかし、飲酒運転すれば即解雇では人権保障の観点からは問題である。生活は失われる解雇や免職は停職との違いが大きすぎる。

安全という法益の尊重も大事であるが、より具体的な人身への侵害や財産への侵害の有無は重要である。

そこで、2007年5月に飲酒運転を行っていたことが判明して懲戒免職処分となった兵庫県加西市の職員は、処分の無効を求める訴えを起こした。
2009年4月、この訴訟の二審(大阪高等裁判所)は「業務と無関係な運転で、運転していた距離も短く、交通事故も起こしておらず、アルコール検知量は道路交通法違反の最低水準であり、免職処分は過酷で裁量権を逸脱している」とした上で、免職を取り消す判決を言い渡した。
さらに、同年9月に最高裁判所は、同市の上告を棄却し、免職取り消しが確定した。
これを受け同市は、飲酒運転での職員の懲戒処分を、原則懲戒免職から停職以上へと緩和した。

 ③高知県職員の事例

しかし、高知県職員の物損事件では免職されてそれが2012年2月28日の最高裁で確定した。
このような事例を考慮に入れながらも、多くの住民は厳罰化を望み、裁判所は行政当局の意向も踏まえながら、具体事案での正義の実現に苦慮していくことであろう。

しかし、もっとも問われるのは、地方公共団体の長や職員の「公務員倫理」への取組でなかろうか。

※地方公務員法の規定

(懲戒)
第二十九条  職員が次の各号の一に該当する場合においては、これに対し懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一  この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三  全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

4.地方公共団体のコンプライアンス研修が不可欠

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