遺産の「使い込み」が遺産分割の対象に!不公平な相続を防ぐ新ルール
これまで、相続人の一人が被相続人の生前に遺産を不当に「使い込み」をしていた場合、その使い込み分を遺産分割の対象とすることが民法上明確ではありませんでした。そのため、家庭裁判所の調停では使い込み分が考慮されず、別途、地方裁判所で不当利得返還請求訴訟などを提起する必要があり、相続人にとって大きな負担となっていました。
今回の改正では、次のように、新しく民法第906条の2が追加され、遺産の使い込み分も遺産分割の対象として考慮できるようになりました。これにより、家庭裁判所の遺産分割手続の中で使い込み分も清算できるようになり、より公平な遺産分割が期待できます。
(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
配偶者居住権の新設:住み慣れた家で安心して暮らすための権利
今回の改正の目玉の一つが配偶者居住権の新設です。これは、夫婦で暮らしていた住居について、相続後も引き続き住み続けられる権利を保障するものです。
具体的には、「短期配偶者居住権」と「長期配偶者居住権」があります。短期配偶者居住権は、遺産分割が確定するまでの間、その家に住むことができる権利です。一方、長期配偶者居住権は、遺産分割の話し合いによって取得し、終身または一定期間、その家に住み続けることができる権利となります。
従来の民法には存在しなかった新しい考え方であり、実務上の取り扱いについては、今後さらに明確化されていくことでしょう。これにより、残された配偶者が住む場所に困ることがなくなり、安心して生活を再建できるよう配慮されています。
婚姻期間20年以上の夫婦間の贈与の特例
これまでも配偶者への配慮の規定はありましたが、今回の改正では、婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与について、遺産分割の対象から除外されることになりました。
これは、長年連れ添った夫婦の一方が他方に居住用不動産を贈与した場合、その財産を遺産に含めずに済むという、非常に大きな変更点です。贈与された側は、相続時にその不動産を改めて遺産分割の対象とする必要がなくなるため、より安定した生活を送ることができます。
預貯金の仮払い制度:葬儀費用などに充当可能に
相続発生後、故人の預貯金が凍結され、葬儀費用など緊急で必要なお金を引き出せないという問題がありました。今回の改正では、預貯金の仮払い制度が新設されました。
これにより、一定額を上限として(1金融機関につき上限150万円)、遺産分割が確定する前でも故人の預貯金から必要な資金を引き出すことが可能になりました。これにより、相続人は葬儀費用や当面の生活費などに充てることができ、金銭的な負担を軽減することができます。
遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へ:トラブルを軽減
従来の遺留分減殺請求は、遺留分を侵害された場合に、遺贈や贈与された「物」そのものの返還を求めるものでした。そのため、不動産などが対象となる場合には、共有状態の解消を巡ってトラブルになるケースが多くありました。
今回の改正では、遺留分侵害額請求に名称が変更され、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めることができるようになりました。これにより、不動産などの共有状態を避けることができ、よりシンプルかつ円滑な解決が期待できます。金銭による解決を原則とすることで、相続人間での不要な争いを減らすことが狙いですです。
特別寄与の制度:長年の介護や貢献が報われる
被相続人に対し、長年介護や療養看護、事業への貢献など、特別の寄与をしたにもかかわらず、その貢献が報われてこなかったケースが多くありました。特に、相続人ではない「長男の嫁」などがこれに該当することが多かったのが実情です。
従来の寄与分制度は相続人に限定され、実務上も認められるのが難しい側面がありましたが、今回の改正では、相続人ではない親族でも、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をした場合に、相続人に対して金銭の支払いを請求できる制度が創設されました。これにより、長年の貢献が法的に認められ、報われる道が開かれました。注意してほしいのは、あくまでも「親族」に限定されることです。
中川総合法務オフィスからのご案内
今回の相続法改正は、相続を取り巻く環境を大きく変えるものです。特に、遺産の「使い込み」や配偶者居住権など、実務に大きな影響を与える項目も含まれています。
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