第18条〜第20条 条文

(勧告) 第十八条 
厚生労働大臣は、特定業務委託事業者が第十二条、第十四条、第十六条又は前条第三項において準用する第六条第三項の規定に違反していると認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、その違反を是正し、又は防止するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

(命令等) 第十九条 
厚生労働大臣は、前条の規定による勧告(第十四条に係るものを除く。)を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
2 厚生労働大臣は、前項の規定による命令をした場合には、その旨を公表することができる。
3 厚生労働大臣は、前条の規定による勧告(第十四条に係るものに限る。)を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、その旨を公表することができる。

(報告及び検査) 第二十条 
厚生労働大臣は、第十八条(第十四条に係る部分を除く。)及び前条第一項の規定の施行に必要な限度において、特定業務委託事業者、特定受託事業者その他の関係者に対し、業務委託に関し報告をさせ、又はその職員に、これらの者の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 厚生労働大臣は、第十八条(第十四条に係る部分に限る。)及び前条第三項の規定の施行に必要な限度において、特定業務委託事業者に対し、業務委託に関し報告を求めることができる。
3 第十一条第三項及び第四項の規定は、第一項の規定による立入検査について準用する。


1 第18条〜第20条の位置づけ

本法の行政執行は二本立てとなっている。第2章(取引の適正化)については公正取引委員会・中小企業庁が執行を担い(第8条〜第11条)、第3章(就業環境の整備)については厚生労働大臣が執行を担う(第18条〜第20条)。

第18条〜第20条は、この厚生労働大臣による執行の手順を定める規定である。第8条〜第11条と対応関係にあるが、制裁の設計が一部異なる。その相違点の解析こそが本条文群を理解する鍵となる。


2 第18条 勧告―厚生労働大臣による是正勧告の対象と特色

(1)勧告の対象となる違反行為

第18条が勧告の対象とする違反行為は、第12条(募集情報の的確表示)・第14条(ハラスメント対策体制整備)・第16条(解除等の予告)・第17条第3項準用の第6条第3項(報復措置の禁止)である。

第13条(育児介護等への配慮)が勧告対象に含まれていない点に注意が必要である。第13条の「継続的業務委託」における配慮義務は義務規定ではあるが、その違反に対しては指導・助言(第22条)はなされても、勧告・命令・罰則という段階的制裁のルートには乗らない設計となっている。配慮義務は違反の有無が客観的に認定しにくく、状況に応じた個別判断が必要なためと考えられる。

(2)「違反していると認めるとき」という現在進行形

公正取引委員会の第8条が「違反したと認めるとき」(過去完了形)と「違反していると認めるとき」(現在進行形)を条項ごとに使い分けているのに対し、第18条は一律に「違反していると認めるとき」という現在進行形の表現を用いる。これは、就業環境整備義務の違反(体制未整備・予告未実施・報復措置継続等)が継続的な状態として存在することが多い実態を反映したものである。

(3)勧告の内容

第18条の勧告は「その違反を是正し、又は防止するために必要な措置をとるべきことを勧告」するものとされ、是正(既存の違反の解消)と防止(再発防止体制の整備)の双方を包含する。公正取引委員会の第8条勧告が「速やかに〇〇すべきこと」という具体的行為を求めるのに対し、第18条の勧告はやや幅広い是正・防止措置を求める表現となっている。

実際の運用においては、ハラスメント対策体制の整備・就業規則等への特定受託業務従事者の明記・相談窓口の設置・社内周知・報告といった措置が勧告内容として求められることになる。


3 第19条 命令等―ハラスメント違反に対する「公表止まり」という異例の設計

第19条は、第18条の勧告を受けた者が正当な理由なく措置をとらなかった場合の対応を定めるが、ここに本法における最大の設計上の特色がある。

(1)第12条・第16条・報復措置違反:勧告不服従→命令→公表

第19条第1項は、第12条(募集情報の的確表示)・第16条(解除等の予告)・第17条第3項準用の報復措置禁止に係る勧告について、正当な理由なく措置をとらなかった場合に命令を発することができると定める。この命令に違反した場合は第24条第1号により50万円以下の罰金が科せられる。第19条第2項は命令をした場合に公表できると定める。

この流れは公正取引委員会の第8条〜第9条と同様の「勧告→命令→罰金→公表」というプロセスである。

(2)第14条(ハラスメント対策)違反:勧告不服従→公表のみ

第19条第3項は、第14条(ハラスメント対策体制整備)に係る勧告については、正当な理由なく措置をとらなかったときに「公表することができる」と定めるのみで、「命令」へ進む規定が置かれていない。

すなわちハラスメント対策の体制整備義務違反については、勧告→公表という流れであり、命令・罰金という強制手段が設けられていない。これは、ハラスメント対策の体制整備は各企業の状況に応じた多様な対応が想定され、画一的な命令になじみにくいという立法判断によるものとみられる。

ただし、「公表」という制裁は罰金と同等以上の実質的効果を持ちうることはすでに述べた通りである。「ハラスメント対策をしていない会社」として社名が公表されることのレピュテーションリスクは計り知れない。

(3)第19条の全体構造の整理

第19条の構造を整理すると、命令・罰金・公表がセットとなる類型(第12条・第16条・報復措置違反)と、公表のみとなる類型(第14条違反)の二段構えになっている。第13条違反はさらに緩やかで、勧告・命令の対象外であり指導・助言の対象にとどまる。

この三層構造は義務の性格に応じた比例的な制裁設計であり、体制整備義務という「組織的対応」を求める性格の第14条に対してハードな命令・罰則を課すことを避けつつ、公表という社会的圧力で実効性を確保しようとする立法政策の表れである。


4 第20条 報告及び検査―二段階の調査権限

(1)立入検査権(第20条第1項)

第20条第1項は、厚生労働大臣が第18条(第14条に係る部分を除く)及び第19条第1項の施行に必要な限度において、関係者への報告要求と立入検査権を有すると定める。

第14条(ハラスメント対策)に係る部分を除く点が特徴的である。すなわち第12条・第16条・報復措置違反については立入検査権が認められるが、第14条違反については立入検査権はなく、後述の報告要求のみとなる。これは命令・罰金の設計と対応した権限付与となっている。

立入検査の手続については、第11条第3項(職員の身分証提示義務)・第11条第4項(犯罪捜査解釈禁止)が準用される(第20条第3項)。

(2)報告要求(第20条第2項)

第20条第2項は、第14条(ハラスメント対策)・第19条第3項に係る施行に必要な限度で、特定業務委託事業者に対して業務委託に関し報告を求めることができると定める。

立入検査権は付与されていないが、書面・電磁的方法による報告要求は可能であり、ハラスメント対策の体制整備状況を書面で確認することができる設計となっている。

都道府県労働局における令和6年度(施行から5か月間)の実績として、調査を行った事業所数は311件、助言を行った事業所数は142件、指導を行った事業所数は7件となっており、勧告・命令の実施件数はいずれも0件であった。

施行初年度はまず助言・指導による自発的是正を促す段階にあったが、2年目以降は勧告・公表へのステップアップが進むことが予想される。


5 第2章執行(公正取引委員会)と第3章執行(厚生労働大臣)の全対比

本法の二本柱の執行制度を対比すると、以下のような構造が浮かび上がる。

所管機関

第2章(取引の適正化)の主管は公正取引委員会・中小企業庁、第3章(就業環境整備)の主管は厚生労働大臣(都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に権限委任)である。

調査権限

第2章では中小企業庁長官(第11条第1項)・公正取引委員会(第11条第2項)の双方に立入検査権がある。第3章では第12条・第16条・報復措置違反については立入検査権があり(第20条第1項)、第14条違反については報告要求のみ(第20条第2項)である。

勧告

第2章の勧告(第8条)は六類型あり、それぞれの違反行為に応じた具体的な措置(報酬支払い・給付受領・減額分支払い等)を求める。第3章の勧告(第18条)は「是正・防止のために必要な措置」という包括的表現で、体制整備や再発防止を求める。

命令・罰金

第2章では勧告不服従すべてが命令対象となり(第9条第1項)、命令違反は50万円以下の罰金(第24条)・法人両罰規定(第25条)に直結する。第3章では第12条・第16条・報復措置違反のみが命令対象となり(第19条第1項)、第14条違反は命令対象外で公表のみ(第19条第3項)となる。

公表

第2章では命令をした場合に公表「することができる」(第9条第2項)と規定されている。ただし公正取引委員会は勧告の段階からも実務上事業者名を公表している。第3章では命令をした場合に公表できる(第19条第2項)のに加え、第14条違反については勧告不服従の時点で公表できる(第19条第3項)という特則がある。

独占禁止法の手続準用

第2章では命令に際して独占禁止法の手続規定が準用され(第10条)、意見聴取・審判手続等の手続保障が与えられる。第3章にはこれに対応する規定はなく、一般行政手続法が適用される。

申出先

第2章の違反は公正取引委員会・中小企業庁に申し出る(第6条)。第3章の違反は厚生労働大臣(都道府県労働局)に申し出る(第17条)。オンライン申出窓口はどちらの場合も厚生労働省ホームページに集約されている。


6 令和6年度の実際の執行状況からみる特徴

令和6年度(施行から令和7年3月31日まで)の都道府県労働局への相談件数は1,301件であり、相談内容別では第14条(ハラスメント対策体制整備義務)が304件(16.8%)で最多、次いで第16条(中途解除等の事前予告・理由開示義務)が228件(12.6%)であった。

申出受理件数は44件であり、申出内容別では第16条関係が20件(39.2%)で最多、次いで第14条関係が19件(37.3%)であった。

指導等の違反類型別では、ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)に基づく助言が396件(94.5%)と圧倒的多数を占めた。指導事例としては、既存の就業規則にハラスメント防止措置を定めている事業者が多かったが、その対象に特定受託業務従事者(フリーランス)が含まれる旨を定めていなかったという違反が最も多く見られた。

この執行実績から導かれる最も重要な実務上の教訓は明確である。「従業員向けのハラスメント対策規程・相談窓口は整備済み」という企業であっても、その対象にフリーランスが含まれる旨の明記がなければ第14条違反となる。施行初年度に多数の事業者が指導を受けた最大の原因がまさにこの点であった。


7 第22条(指導及び助言)との関係

本シリーズ次回で解説する第22条は、公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣が業務委託事業者に対して指導・助言ができることを定める。第18条(勧告)の前段階として、まず指導・助言によって是正を促し、それが功を奏しない場合に初めて勧告へと進む、という段階的なアプローチが実務上の原則となっている。

令和6年度の執行実績でも、勧告ゼロに対して助言419件・指導21件という数字が示す通り、厚生労働大臣(都道府県労働局)は現在、主として助言・指導段階での是正を中心に執行活動を展開している。


8 建設業・IT業界への実務的インパクト

ハラスメント対策規程の緊急点検

最も多くの事業者が指導を受けた違反の類型が示す教訓は、「フリーランスを含める旨の明記」の欠如である。建設業・IT業界を問わず、社内のハラスメント防止規程・相談窓口の対象にフリーランス(特定受託業務従事者)が明記されていない場合は直ちに改訂が必要である。

なお、既存の規程に「社員・役員・契約社員・派遣社員等を対象とする」という例示列挙があり、フリーランスが含まれていない場合は違反となる。「等」という言葉があっても、フリーランスを含む旨が明確でなければ不十分と評価される可能性が高い。

中途解除予告の管理体制

第16条関係の申出が多いことも見逃せない。継続的に一人親方やフリーランスエンジニアと取引している事業者が、受注量の変動や発注方針の変更を理由に突然の契約打ち切りを行うケースが実際に問題となっている。30日前予告の管理は、契約管理台帳の整備と担当者への研修徹底が不可欠である。


まとめ

第18条〜第20条は、第3章(就業環境整備)違反に対する厚生労働大臣の制裁手続を定める。公正取引委員会の第8条〜第11条と対応しつつも、ハラスメント対策(第14条)違反については命令・罰金ではなく「公表のみ」という異例の設計がなされている点が最大の特色である。これは体制整備義務の性格上、命令になじみにくいためであるが、公表という社会的制裁の実効性はきわめて高い。

令和6年度の施行実績が示す通り、ハラスメント対策規程への「フリーランスを含む旨の明記」という単純な不備が最多の違反類型であった。多くの企業にとって最初の対応優先事項は、この一点の確認と規程改訂である。

次回は第21条(特定受託事業者からの相談対応に係る体制の整備)・第22条(指導及び助言)・第23条(厚生労働大臣の権限の委任)を解説する。国・行政機関が担うフリーランス支援体制の全容を明らかにする予定である。


参考リンク

厚生労働省「令和6年度における特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の施行状況について」 https://www.mhlw.go.jp/content/001545432.pdf
厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法のあらまし【就業環境の整備関係】」 https://www.mhlw.go.jp/content/001470693.pdf
厚生労働省 フリーランスとして業務を行う方等へ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
厚生労働省 申出受付窓口 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/freelance_moushide.html


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「ハラスメント防止規程にフリーランスを含む旨を追記したい」「都道府県労働局から指導を受けたがどう対応すればよいか」「第14条の勧告不服従が公表されるリスクをどう管理するか」「フリーランスとの継続的取引の中途解除管理を仕組み化したい」――第18条〜第20条が定める制裁プロセスのリスクを正確に把握し、早期に社内体制を整備することが最善のコンプライアンス対応である。

中川総合法務オフィスは、全国850回以上のコンプライアンス研修を実施してきた実績を持ち、建設業のコンプライアンス体制整備を長年にわたって支援してきた。上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有し、内部通報の外部窓口を現に担当している。ハラスメント防止規程の整備・研修設計・都道府県労働局対応など、フリーランス法第3章への対応を実践的にサポートする。企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められることも多く、社会的な信頼のある立場でコンプライアンス実務を支援している。

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