第24条〜第26条・附則 条文

(罰則) 第二十四条 
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。 一 第九条第一項又は第十九条第一項の規定による命令に違反したとき。
二 第十一条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。

(両罰規定) 第二十五条 
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。

第二十六条 
第二十条第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

附則 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。 (検討) 2 政府は、この法律の施行後三年を目途として、この法律の規定の施行の状況を勘案し、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。


1 罰則規定の全体像と本法の制裁体系の最終整理

本法の制裁体系はこれまでの解説を通じて段階的に明らかにしてきたが、第24条〜第26条・附則をもって全体像が完成する。ここで改めて本法の制裁の全体構造を整理する。

本法の制裁は大きく三層からなる。
第一層は「行政指導」であり、指導・助言(第22条)がこれにあたる。法的拘束力はないが、是正促進の実質的効果を持つ。
第二層は「行政処分」であり、勧告(第8条・第18条)・命令(第9条・第19条)・公表がこれにあたる。公表は処分ではないが、社会的制裁として機能する。
第三層は「刑事罰」であり、第24条の罰金・第26条の過料がこれにあたる。

この三層構造はフリーランス法の立法政策上の特色であり、行政指導を重視しつつ、最終的には刑事罰を予告することで規律の実効性を担保するものとなっている。


2 第24条 罰則―50万円以下の罰金の二類型

(1)第1号 命令違反

第24条第1号は、公正取引委員会による命令(第9条第1項)または厚生労働大臣による命令(第19条第1項)に違反した場合に、50万円以下の罰金を科す。

「命令に違反したとき」とは、命令が確定した後に当該命令に係る措置をとらなかった場合をいう。命令を受けた後に不服申立てを行っている期間中は、命令の効力が一時停止される場合があり(第10条が準用する独占禁止法の手続規定による)、この間の不服申立てを「命令違反」として罰することはできない。

命令は第14条(ハラスメント対策体制整備)違反には発出されないため(第19条第1項の括弧書き)、第24条の罰金もハラスメント対策違反には適用されない。この点は前回解説した通りである。

(2)第2号 報告拒否・検査妨害

第24条第2号は、報告拒否・虚偽報告・立入検査拒否・妨害・忌避を罰則の対象とする。

対象となる規定は第11条第1項(中小企業庁長官の調査権)・第11条第2項(公正取引委員会の調査権)・第20条第1項(厚生労働大臣の立入検査権)に基づく報告・立入検査である。

第20条第2項(厚生労働大臣のハラスメント関係の報告要求)への報告拒否・虚偽報告については第24条の罰金ではなく、第26条の過料(20万円以下)が適用される。 中小企業庁これもハラスメント対策違反に対するソフトな制裁設計の一貫した帰結である。

(3)50万円という罰金額の評価

50万円という罰金額は、罰金として高額ではない。しかし本法の制裁設計において罰金はあくまで「最終手段」であり、その前段階の勧告・命令の段階での「事業者名の公表」が実質的な制裁の核心を担っていることはこれまでの解説で繰り返し述べてきた通りである。

命令違反には50万円以下の罰金が科せられ、フリーランスや行政機関への申告制度も整備されている。 この罰金は、命令という行政処分への不服従という「行政秩序犯」としての性格を持ち、違反行為そのものへの直接の金銭的制裁としてではなく、命令を遵守させるための強制手段として機能する。


3 第25条 両罰規定―法人への制裁の拡張

第25条は「両罰規定」であり、法人の代表者または法人・人の代理人・使用人その他の従業者が、その法人・人の業務に関し第24条の違反行為をした場合に、行為者を罰するほか、その法人・人に対しても同条の刑(50万円以下の罰金)を科すと定める。

両罰規定の意義は三点ある。
第一に、発注事業者の多くは法人であり、法人に対して直接罰則を科すことで実効的な抑止力となる。
第二に、担当者個人と法人の双方を処罰することで、「現場担当者だけの問題」として法人が責任を回避することを防ぐ。
第三に、法人内部のコンプライアンス体制整備を促す効果がある。

法人が第25条による罰則を免れるためには、従業者の違反行為を防止するために必要な注意を怠らなかったことを証明する必要がある(免責事由)。これはすなわち、コンプライアンス研修の実施・社内規程の整備・発注プロセスの管理といった体制整備が免責の実質的要件となることを意味する。フリーランス法対応の社内体制整備が、単なる義務履行にとどまらず、万一の場合の法人の免責根拠ともなる点に留意が必要である。


4 第26条 過料―ハラスメント報告拒否への20万円

第26条は、第20条第2項(厚生労働大臣のハラスメント対策関係の報告要求)に対して報告をせず、または虚偽の報告をした者に20万円以下の過料を科す。

「過料」は「罰金」と異なり刑罰ではなく行政上の秩序罰である。前科がつかない、両罰規定の適用がない、検察の公訴提起が不要といった点で罰金より軽い制裁である。第14条(ハラスメント対策)に係る報告徴収に対して報告をせず、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料とされている。 中小企業庁

ハラスメント対策については、命令→罰金という強制手段を設けず、報告不服従にも罰金より軽い過料にとどめるという徹頭徹尾一貫したソフトな制裁設計が、第26条においても確認できる。


5 附則第1項 施行期日

附則第1項は、施行期日を「公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定める日」と定めた。

本法は令和5年(2023年)5月12日に公布され、この規定に基づく政令により令和6年(2024年)11月1日が施行日と定められた。公布から約18か月の準備期間が設けられたのは、発注事業者が発注書様式の整備・社内規程の改訂・担当者研修等の対応を行うための猶予を確保する趣旨であった。


6 附則第2項 「3年後の見直し」規定―本法の未完の部分を直視する

(1)見直し規定の内容

附則第2項は、「政府は、この法律の施行後三年を目途として、この法律の規定の施行の状況を勘案し、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」と定める。

施行日が令和6年11月1日であるから、3年後の目途は令和9年(2027年)11月頃となる。

(2)見直しが求められた背景―立法時の「積み残し」課題

この見直し規定が設けられた背景には、本法の立法過程で解決が先送りされた重要な課題が二点ある。

第一は、フリーランスの「職業選択の自由」の保護の問題である。フリーランスの職業選択の自由(憲法22条)を不当に長期に拘束しないようにするためには、フリーランスによる契約解消に対する過度な制約を防止する必要があるが、公序良俗違反の契約の無効(民法90条)、優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号)、本法の禁止行為(第5条)などの現行法上可能な枠組みだけでは、実効的に解決することが困難であると指摘されている。 発注者が継続的に特定のフリーランスを囲い込み、他の発注者との取引を事実上制限するような行為への対応が現行法では不十分との指摘がある。

第二は、仲介プラットフォーム事業者への規制の問題である。衆議院内閣委員会の2023年4月5日の質疑において、政府参考人はフードデリバリーのプラットフォーム事業者を例に挙げ、今後はフリーランス法附則第2項の3年後の見直し規定に基づき、そのままの規制でよいのか検討していくと答弁している。

現行法は「業務委託をする事業者」と「フリーランス」の二者間関係を規律するが、実態として両者を仲介するプラットフォーム事業者(クラウドソーシングサービス・フードデリバリーサービス等)が取引条件に大きな影響力を持ちながら、本法の名宛人には含まれていない。ウーバーイーツの配達員、クラウドワークスのエンジニア等が働く場面での規制の空白が、見直しの主要な検討対象となっている。

(3)見直し規定が発注事業者に意味すること

附則第2項の見直し規定は、発注事業者にとって「現行法への対応で終わりではない」という重要なシグナルを発している。令和9年頃の見直しにより、規制の強化・対象範囲の拡大・新たな義務の追加が行われる可能性がある。

特に注目すべきは、プラットフォームを介してフリーランスに仕事を発注している建設業・IT業界の事業者である。現在は「マッチングサービス経由での発注はプラットフォームが業務委託事業者になる」という解釈の余地もあるが、見直しの結果として実質的発注者への規制強化が行われた場合は対応が必要となる。


7 本法の制裁体系の完全整理表

本法の制裁体系をここで最終的に整理する。

違反行為と制裁の対応関係を見ると次のようになる。

第3条違反(取引条件の未明示)については、公正取引委員会の勧告(第8条第1項)→命令(第9条第1項)→罰金50万円以下(第24条第1号)、および事業者名公表の経路をたどる。

第4条第5項違反(報酬支払遅延)については、勧告(第8条第2項)→命令→罰金50万円以下の経路である。

第5条第1項第1号違反(受領拒否)については、勧告(第8条第3項)→命令→罰金の経路であり、「違反している」という現在進行形の認定による。

第5条第1項第1号以外の違反(報酬減額・返品・買いたたき・購入強制)については、勧告(第8条第4項)→命令→罰金の経路である。

第5条第2項違反(不当な利益提供要請・不当なやり直し)については、勧告(第8条第5項)→命令→罰金の経路である。

第6条第3項・第17条第3項違反(報復措置の禁止)については、勧告(第8条第6項または第18条)→命令→罰金の経路である。

第12条・第16条違反(募集情報の的確表示・中途解除予告)については、厚生労働大臣による勧告(第18条)→命令(第19条第1項)→罰金50万円以下(第24条第1号)→公表の経路をたどる。

第14条違反(ハラスメント対策体制整備)については、厚生労働大臣による勧告(第18条)→公表(第19条第3項)のみであり、命令・罰金の経路はない。報告拒否は過料20万円(第26条)となる。

立入検査拒否・妨害については、公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣(第14条関係を除く)のいずれの立入検査に対しても、罰金50万円以下(第24条第2号)・法人両罰規定(第25条)が適用される。


8 フリーランス法逐条解説シリーズの完結にあたって

本シリーズは第1条(目的)から第26条(過料)・附則に至るまで、フリーランス法全条文を逐条で解説してきた。建設業の一人親方への発注・ITエンジニアへの業務委託という具体的な場面を常に念頭に置きながら、公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁の一次資料に基づいた解説を心がけた。

本法の核心にある問いは「なぜ、この法律が必要だったのか」である。その答えは第1条の目的規定が宣言している通り、「個人」と「組織」の交渉力格差という構造的問題への立法的応答である。書面なしの口頭発注、翌々月末の支払い、突然の報酬値引き、無償の追加作業要求、30日前予告なしの契約打ち切り――これらは単一の企業の悪意から生まれたものではなく、業界全体の「慣習」として積み重なってきたものである。

本法の施行と行政執行の本格化は、これらの慣習が法的に問題となるという社会的共通認識を形成するプロセスの始まりである。令和9年(2027年)頃の見直しを視野に入れながら、発注事業者には継続的なコンプライアンス体制の整備と実務の改善が求められる。

本シリーズが、建設業・IT業界・スポーツ業界をはじめとするフリーランスと関わるすべての発注事業者のコンプライアンス実務の一助となれば幸いである。


参考リンク

公正取引委員会 フリーランス法特設サイト(2025年版) https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/index.html
公正取引委員会 フリーランス法勧告一覧 https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/index.html
厚生労働省 フリーランスとして業務を行う方等へ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
公正取引委員会・厚生労働省「法律の考え方」(解釈ガイドライン) https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf
フリーランス・トラブル110番 https://freelance110.mhlw.go.jp/ 電話:0120-532-110


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本シリーズ全11回を通じて明らかになったのは、フリーランス法への対応は「一度対応すれば終わり」ではなく、附則第2項の見直し規定が示す通り、進化し続ける規制への継続的な対応が求められるということである。現在の義務(第3条〜第20条)への対応を着実に進めつつ、令和9年頃の見直しを見据えた中長期的なコンプライアンス戦略の立案が今まさに求められている。

中川総合法務オフィスは、全国850回以上のコンプライアンス研修を実施してきた実績を持ち、建設業のコンプライアンス体制整備を長年にわたって支援してきた。上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有し、内部通報の外部窓口を現に担当している。企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められることも多い。フリーランス法全条文に精通した専門オフィスとして、法適用の総点検・発注書式整備・ハラスメント防止規程改訂・担当者研修・見直し後の法改正への先行的対応まで、一気通貫でサポートする。

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